「外国人児童生徒の日本語―学習言語の伸びをどう測るか−」
中島和子
トロント大学名誉教授
1.
マイノリティー言語児童生徒の言語能力の測定について
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統計的処理・標準化が非常に困難—物差しをいくつか組み合わせて使う必要がある
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大事なポートフォリオ評価(alternative assessmentの一つ)
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言語能力の測定の目的は?
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実態把握のため/プレイスメンント(熟達度の総括的評価)
A
障害の有無、未発達言語領域、学習困難領域を明らかにする(診断的評価)
B
伸びを跡づけるため/教えた効果を測って実践につなげるため(到達度の相対的評価・絶対的評価)
C
プログラムの有効性を分析・評価し、改善に資するため(形成的評価)
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海外ではどうしているかー米国の例:トーマスとコーリエの大規模調査
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これまでの欧米の諸研究で分かっている大きな青写真
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第二言語(L2)と滞在年数、第一言語(L1)と入国年齢に有意の相関関係がある
A
L1とL2の読解力には、中度から高度の相関関係がある
B
第二言語のプレシャーで、5歳までに第一言語が消える傾向がある
C
生まれてから5年間の言語発達(どちらの言語でもよい)が学齢期の学力の伸びと密接な関係がある
D
支援は11歳までにする方が効率がよい
2.
義務教育では遅すぎるー幼児から始まる外国人児童生徒教育
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幼児期にどんな言語能力が伸びるかー入学時に必要とされる言語能力とは?
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幼児のための発達度測定ツールのいろいろ:
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レディネステストの例—Early Development Instrument(EDI)
(http://www.offorcentre.com/readiness/project.html)
A
リテラシーの芽生えを見るテストの例—Concept of Print Test(Clay, M. 1993)
例:「はなのみち」—トロント補習校生徒調査で使用
B
モノリンガルと比較するための「幼児・児童読書・読解力テスト」(金子書房、昭和48年) 例: New International School(NewIS)のバイリンガル児に使用
C
豊橋市教育委員会のブラジル系外国人就学前児童のための語彙テスト
(築樋2006, 2008)
D
NewIS
日本人教師グループが開発中のDRA (Developmental Reading Assessment, 読書力テスト)日本語版(JDRA)(Beaver,
J. 2006)
3.
学齢期の子どものための言語測定ツール
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学齢期にどんな言語能力が伸びるのか
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一世児の場合は母語との関係が大事。指導上L1を足がかりとして使用することによって、母語の価値付けになり(valorization)、自尊精神の高揚につながる
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母語のリテラシーがほとんどゼロに近い二世児以降の場合は、どうすればいいか。家庭での会話の質が関係する?(桜井ほか?)
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テストで分かることは氷山の一角
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読書力テストで何が分かるかーJDRAの場合(中島2006)
A
会話テストで何が分かるかーOBC会話力テスト(カナダ日本語教育振興会2000)の場合
B
4技能バンドスケール(川上2003)で何が分かるか
C
作文テスト(生田2006)で何が分かるか
4.
学習言語とは何か
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カミンズの最近の理論
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言語能力の3領域: 会話力、読字力、教科学習言語力
A
2言語(ALP)共有説
B
問題点: L1サポートがないマイノリティー言語児童の場合は、L1未発達か転移の欠如か見分けがつかない
C
マイノリティーの場合はL1先行、マジョリティーの場合はL2先行
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語彙力と教科学習言語力との関係(4000語のコンピュータプログラム, Sales & Graves 2007)
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成人の日本語教育は15,000語どまり(5万語必要)、あとは学習者個人の努力
A
学齢期の外国人児童生徒(高校生)は4万語(英語の場合)がどうしても必要
B
すらすら読むには5〜6,000語(英語)必要
C
1
年3000語、1日8語 (4年生で12,000語必要)
D
小学校1−3年の間に起こる連想語彙の質的変化(「犬」→「ほえる」から「犬」→「動物」)が遅れる?(Verhallenn & Schoonen, 1998)(9歳児と11歳児、40名)
5.
どのぐらいで追い付くかーこれまでの研究のまとめ
引用文献
生田裕子(2006)「ブラジル人中学生の『書く力』の発達—第一言語と第二言語の作文の観察からー」『日本語教育』128号 70-79.
カナダ日本語教育振興会(2000)『子どもの会話力の見方と評価—バイリンガル会話テスト(OBC)の開発—』カナダ日本語教育振興会
川上郁雄(2003)「年少者日本語教育における「日本語能力測定」に関する観点と方法」『早稲田大学日本語教育研究』第2号 1-16.
小松純子(2003)「帰国児童と一般児童の日本語会話力評価−0BCテストを用いてー」『日本語教育と異文化理解』第2号 27-33.
櫻井千穂(2008)「外国人児童の学びを促す在籍学級のあり方−母語力と日本語力の伸長を目指して−」『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会』第4号
1-26.
築樋博子(2006)「外国人集住都市における幼児期の言語環境と支援の種類」第7回母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会資料集
33-36.
築樋博子(2008)「豊橋市の外国人児童生徒教育の取り組みから」報告書『フォーラム:在住外国人児童生徒のための教材開発から見える課題とその解決にむけて』
p.21
中島和子(2006)「学校教育の中でバイリンガル読書力を育てるーNew International School におけるDRA-J読書力テストの開発を通してー」母語・継承語・バイリンガル教育研究会紀要第2号1-31.
Beaver, M.J. (2006) DRA2: Developmental Reading Assessment.
Teachers Guide K-3. Celebration Press.
Clay, M. (1993) An Observation Survey of Early Literacy
Achievement. Portmouth, NH: Heinemann.
Coelho, E. (2004) Adding
English: A guide to teaching in multilingual classroom. Toronto:Pippin.
Collier,V.(1989) How long? A
synthesis of research on academic achievement in a second language. TESOL
Quarterly. 23:3:509-531.
Graves, M.F. (2007) Teaching
50,000 Words and Erasing a 30,000 Million Word Deficit. IRA Annual Conference,
Toronto. www.graves_vocabulary.ppt
Thomas, W. & Collier, V.
(2002) A national study of school effectiveness for language minority students’
long-term academic achievement. www.crede.ucsc.edu/research/Llaa/1.1-final.html
Verhallen, M. &
Schoonen, R. (1998) Lexical knowledge in L1 and L2 of third and fifth graders. Applied Linguistics. Vol. 19. No. 4.
452-470.