5.議論 以上の実験結果より考え出される仮説として、 聞き取りやすい声は「流暢な」、「表情豊かな」、「自信のある」、「大きい」、 「元気のある」、「きっぱりした」、「優しい」、「高い」といった全体的にポジティブな特徴を持つ。 聞き取りにくい声は「たどたどしい」、「単調な」、「落ち着きのない」、「小さい」、 「元気のない」、「低い」と、ネガティブなイメージを持つ特徴が見られる。 しかし、これらをポジティブ・ネガティブという二つに大きく分類してしまうのは不適切と考えられる。 例えば、「低い」声であっても、「表情豊か」で「自信のある」特徴があれば聞き取りやすい。 「優し」くて、「小さ」くて、「元気のない」声は聞き取りにくい。 一つの声には複数の特徴があるが、「表情豊か」や「きっぱりした」といった、 発話において聞き手に音の変化を感じさせることの出来る特徴の目立つ、 メリハリのある声が聞き取りやすいのではないだろうか。 グラフ分析においては、それが何故であるのか、というところまでは踏み込めなかったが、 ・個々のグラフに数値を分類できる差が出たこと、 ・デシベル値の最高値と最低値に一定の幅を持つ声、スペクトログラムの色の濃さ、 周波数のまとまり、ヘルツの変動の明確なものに聞き取りやすさを感じる という結果から、これを聞き取りやすさの要素であるという判断をした。 6.結論 上記より、聞き取りやすい声とは、 @変化が顕著な声 Aデシベル値の最高値と最低値に一定の幅を持つ声 Bグラフに特徴が明確に出る声とした。 この研究は『聞き取りやすさ』の要素を主観的、客観的方法で分類しようと試みるものであったが、 『聞き取りやすさ』が主観的にしか図れない概念である以上、実験者の持つ『聞き取りやすさ』のバイアスを 完全に排除することは不可能であり、実験に客観性を持たせることが困難だった。 解析ソフトを用いた調査においても、数値だけではそれが聞き取りやすいのかそうでないのか判断することは出来ず、 結局メンバーの主観が混ざる結果となった。 時間・機材の制限があり、厳密な調査を行うことは困難であったが、それでも一定の結果が出たことは興味深い。 先行研究の更なる調査と、不適要素を排除した実験を行えばさらに詳しい結果が出ると思われる。