電子レンジと食材とあたた
まりやすさ
Group 5
Kosuke Nishiyama, Tomoya Mochizuki, Yoshiki Motobu, Akiko Utsumi,Yuta
Ida
Aa Nomura, Chihiro Tsuji, Yuri Yamada, Nao Tada
GE 物理学の世界(A) 岡村秀樹教授
1. 序論
電子レンジは、私たちが現代で日常生活を送るうえ欠かすことのできない家庭用電化製品のひとつである。電子レンジは冷めた食品を温めるということにとどま
らず、電子レンジ対応のさまざまな調理器具によって、食材を焼いたり煮たりといった、通常のガス調理に劣らないさまざな調理を行うことができる。そうした
電子レンジの使用のなかで、食材や食品によって、その温まり易さ(あるいは温まりにくさ)に違いがあることは、多くの人々が経験していることである。ま
た、食品がまんべんなく温まらず、一部が冷えたままだったりすることも非常に多い。とりわけ、冷めてしまったカレーを電子レンジで温めたとき、同じ時間温
めたときの他の食材に比べて温まりにくいということがよくある。このことから、電子レンジの加熱では、食材や食品によって温まり易いものと、温まりにくい
ものがあるのではないかと思われる。そのような温たまり易さ・温まりにくさは、食品・食材のどのような性質に影響されるのだろうか。
この点に関
して、電子レンジの生産・販売を行っているパナソニックに問い合わせたところ、次のような回答が返ってきた。「カレーはドロドロな(粘着性がある)ため、
水やジュースなどのサラサラな(粘着性のない)ものに比べると、熱の伝導が比較的起こりにくい。そのため、温まりにくくなってしまう。また、カレーにはま
ず、ルーとご飯、そしてルーには人参・ジャガイモ・お肉などのさまざな具材が入っているため、温まりにくいと考えられる。」(パナソニックお客様サポー
ト・山本)
また、一般的には、電子レンジが発するマイクロ波の周波数が水の固有振動数に一致し、水分子を振動させて加熱しているというような話
がなされているようである。しかし、霜田(2006)によれば、これは3つの点で間違っている。ひとつは、電子レンジで発せられるマイクロ波の周波数は
2.45GHzであり、水の固有振動数とは一致しないこと。もうひとつは、「水の固有振動数」といっても、水には共鳴を起こす振動数のピークが複数あると
いうことだ。最後に、電子レンジはマイクロ波によって水を「共鳴(あるいは振動)」させて加熱しているわけではないということである。
一方で、環境省の環境保健部環境保健安全課が平成26年4月に発行した「身の回りの電磁界」によれば、
「100kHz
を超える電磁界(中間周波の一部及び高周波)に生物がばく露されると、電磁界のエネルギーが吸収され、生体組織を構成する分子のうち極性(プラスとマイナ
ス)を持つもの(水分子やたんぱく質など)が振動し、温度が上昇します。これは「熱作用」と呼ばれます。電子レンジが食品を加熱するのは、この原理を応用
しています。」(p.15)
とあり、水分子の振動による加熱を否定している霜月(2006)とは相矛盾する。
2. 実験
序論で述べたように、電子レンジ加熱で温まりにくい(また温まりやすい)食材・食品の性質を探るため、実験をおこなった。「電子レンジ加熱における食材・食
品の温まりやすさを左右する性質はなにかを明らかにする」という目的を達成するために行った、各実験(1~4)の(各実験の)目的、仮説、方法及び手順、
結果を報告する。
●実験1
◯目的
電子レンジにおける加熱での水と油の温度上昇の違いがあるかどうかを確かめる。
◯仮説
電子レンジのメーカー取扱説明書によれば、電子レンジから発せられるマイクロ波は、食品に含まれる水分子をもっとも良く振動させるように設計されていると
ある。したがって、水とその他の液体(今回の実験では油)を比べた場合、水のほうが油に比べて温まりやすいはずである。
◯方法および手順
同体積の水と油を、同時間加熱し、加熱する前と後での温度差を比較する。まず、ビーカーに入れた50mlの水と油をそれぞれ用意し、加熱前の温度と、加熱
20秒後および加熱40秒後それぞれの温度をサーモグラフィーで測定する。
◯結果
Table 1.1
水(50ml) |
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
20秒 |
20.6℃ |
55.8℃ |
+35℃ |
40秒 |
19.4℃ |
85.2℃ |
+66℃ |
Table1.2
油(50ml) |
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
20秒 |
22.5℃ |
67.4℃ |
+45℃ |
40秒 |
24.0℃ |
85.2℃ |
+61℃ |
◯考察
Table
1.1および1.2で示したように、20秒の加熱における水と油の温度上昇はそれぞれ+35℃/+45℃、40秒の加熱では+66℃/+61℃であり、水
と油において大きな差はみられなかった。これは仮説に反する。
●実験2
◯目的
実験1によって、電子レンジを温めるためには水である必要はなく、油といった液体であっても同様に電子レンジによって温まることが確認できた。そこで、乾
燥したものは温まるのかどうか実験を試みた。
◯仮説
電子レンジは水分または液体を媒体として温まっているので、乾燥した物質は温まらない。
◯方法
水分(液体)を含むものとして食塩、水に浸した麸、油に浸した麸を用意し、また水分を含まないものとして焼き塩、砂糖、麸を用意し、それぞれ10秒加熱し
たときの温度上昇の様子を観察する。
◯結果
Table 2.1
|
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
塩(5g) |
25℃ |
116℃ |
+91℃ |
焼き塩(5g) |
23℃ |
32℃ |
+9℃ |
砂糖(5g) |
23℃ |
30℃ |
+7℃ |
Table 2.2
|
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
麸 |
22.5℃ |
135.8℃ |
+113.3℃ |
麸 + 水(12g) |
19℃ |
82℃ |
+63℃ |
麸 + 油 |
24.4℃ |
73℃ |
+48.6℃ |
Image 2.1
加熱後の麸
|
Image 2.2
加熱後の麸の温度分布
|
◯考察
Table
2.1および2.2が示すように、塩と麩で水分があるときの温度上昇の様子が変化した。ただし、そもそも塩に含まれている水分量と水に浸した水分量が異
なっていることを考慮するする必要がある。また、麩に関しては、炭化するほど高い温度上昇をみせたが、麩全体が炭化したわけではなかった。この点に関し
て、電子レンジの取扱説明書によれば、乾燥物を電子レンジで温めると、発火の恐れ、高い温度変化が生じることが書かれている(RE-S
207 SHARP 2014.9発売)。別のところでは、名古屋市消費生活センターが今回の麸の炭化と同様の現象を人参を使用して確認している。
「電
子レンジで加熱すると、電子レンジのマイクロ波により細かく刻んだ人参に電気が発生します。人参同士の接触部分が少なかったり接触の圧力が弱かったりする
と、電気がスムーズに伝わらずに局部的に電気が高まって、スパークや発煙が起きます。これは「放電」に伴う現象で、今回の人参だけに生じるものではありま
せん。」(http://www.seikatsu.city.nagoya.jp/test/h17/08.htm)
●実験3
◯目的
電子レンジが温まり方に変化が起きる理由に物質の熱の伝わりやすさは、液体と固体で異なるか調べてみた。そこで、同じ構成要素である氷と水をマイクロ波に
あてることで、固体と液体における温度変化の違いを探った。
◯仮説
電子レンジは物質の振動によって温めているため、氷のほうが温まりにくいと思われる。
◯方法および手順
物
質によって熱量の変化が異なるため、電子レンジの影響を見るためには、物質の温まりやすさ(比熱)を考慮する必要がある。水と氷のそれぞれの比熱をもとに
して計算をすると、水と氷の比熱の割合は1:2 である。今、与える熱量を一定とすることから、次のような計算式が与えられる。
2.09kJ/(kg・K)・(水の質量)=(一定の熱量)
4.19kJ/(kg・K)・(氷の質量)=(一定の熱量)
したがって、水の質量は氷の質量の2倍になればよい。そこで、水と氷の質量を2:1の割合で電子レンジに入れて温度変化を探った。
◯結果
Table 3.1
|
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
水(76g) |
18.6℃ |
54℃ |
+35.4℃ |
氷(38g) |
-6.5℃ |
-4.9℃ |
+1.6℃ |
Image 3.1
水の加熱後の温度分布
|
Image 3.2
氷の加熱後の温度分布
|
◯考察
Table
3.1および3.2に示したように、水
(76g)では、温度が一様に大きく変化したことが確認できた。一方、氷(38g)では、水に比べて大きな温度上昇は確認できなかった。また、氷に関して
は、一部溶けて水になった部分の温度が2.3℃だった。このことから、H2Oは固体状態(氷)よりも液体状態(水)のほうが温まりやすいことがわかる。
●実験4
◯目的
電子レンジが温まる際に水分子の移動がが影響しているのではないか検証する。そこで、水分子が移動しにくい状況としてスポンジを入れた水と普通の水とで温
度変化を比較してみた。
○仮説
水の対流が起きにくくなっているほうが温まりにくい。
○方法および手順
対
流が起きやすい状況を作り出すために、スポンジを入れたビーカーを用意
する。そこで、スポンジが電子レンジに温まるときの温度変化を考慮するために、(1)水とスポンジを別々に温めた後に、水の方にスポンジをいれたときの水
の温度、および(2)水の中にスポンジをいれて温めたときの水の温度を比較する。加熱時間はそれぞれ20秒とした。
◯結果
Table 4.1
|
加熱前 |
加熱後 |
加熱前と後の温度差 |
スポンジと水が別々 |
17℃ |
43~46℃ |
+26~29℃ |
スポンジと水が一緒 |
19℃ |
53~78℃ |
+34~59℃ |
Image 4.1
スポンジと水が別々の場合の温度分布
|
Image 4.1
スポンジと水が一緒の場合の温度分布
|
◯考察
Table4.1および4.2にみられるように、仮説に反して、スポンジを含み対流を起きにくくした方が温まってしまったが、このことから、やはり対流が
温度上昇に関係していると言えると考える。また、表面の温度をはかるサーモグラフィーを計測に用いたこともこの結果の要因になったのではないかと考える。
上の写真が示すように、始めからスポンジを入れた方のビーカーでは温度上昇がスポンジと水を別々で温めた方よりも大きいとはいえ、温度上昇の激しい部分は
一部だけであってかなりムラがあることがわかる。つまり、スポンジを入れた方はビーカー内全体としては対流が起きにくいが、ビーカー内の、スポンジが占め
ている部分以外の小さな体積の水が対流を起こし、そして体積が小さい分、対流による温度上昇も大きくなったのではと考える。またサーモーグラフィーは上に
述べたように物体の表面の温度を測るため、スポンジと水面間の小さな体積内で対流を起こし大きな温度上昇を見せた一部を示したのではないかと考えられる。
また、水とスポンジ別々に温め、後にスポンジを水の中に入れた方が温度上昇があまり見られなかったのは、スポンジより温度の高い水と、水より温度の低いス
ポンジ間で熱平衡を起こそうとしたため、スポンジを水に入れてから温度を測るまでの時間が短くとも、水の温度が多少低下し、このような結果になったのでは
ないかと考えられる。
3. 結論
電子レンジで食材を温める際に考慮すべき点が2種類あり、電子レンジによる熱の放射と、電子レンジによって温まった熱の伝導である。
電子レンジは放射によって物質を振動させて温めており、必ずしも物質の内部に存在する水分を温めているわけではない。これは、水分子がまったく存在しな
い、油、砂糖、焼き塩等の実験からわかる。しかし、すべてが一様に温まるわけではなく、物質によって温まり方が変化している。たとえば、焼き塩や砂糖は温
まりにくく、油や水と同程度に温まり、お麩は水よりも温まりやすい。
しかし、電子レンジのマイクロ波は物質全体に放射されているわけではない。そのため、物質を温めるためには物質の熱の対流や伝導が影響している。熱を伝導
する媒体が存在しない場合、放射が一部分でとどまり放電を起こしてお麩が黒こげになるように一つの場所に熱がとどまる。そのため、水のように振動しやすい
物質が、全体を温めるために必要である。このような媒体となる物質は、氷より水の方が温まりやすいため、液体のほうが望ましいのではないかと思われる。な
お、ここで熱が伝わるのは、振動のしやすさであって、比熱によるものではない。
ただし、振動の媒体の量が多い場合、それ自体が電子レンジが温める際に使用され、必ずしも物質全体が温まりやすくなるとは限らない。
4. 参考文献
・SHARP 『RE-S 207の取扱説明書』 2014.9発売
・SHARP『RELA1の取扱説明書』 2002.9発売
・環境省 環境保健部 環境安全課 『身のまわりの電磁界について』
(http://www.env.go.jp/chemi/electric/material/minomawari.pdf)
・霜田光一「電子レンジで水が加熱される機構の分子論」物理教育54(4)303-305.2006年
・名古屋市消費生活センター『苦情・相談テスト 人参を温めるとスパークした。』 2005年度
(2014/11/20 閲覧)