国際基督教大学

物理の世界(A)-科学的な考え方-

岡村秀樹教授

2014年11月20日

Group6 メンバー

171144 伊藤悠

171127 石井樹理

171542 渡邉彩友

171044 藤平果奈

161391斉藤志穂

141191 鹿山ゆかり


テーマ:人間は他の人の声を聴いたときに、何によって性別を判断しているのか。

     周波数か、それとも声の抑揚か。


アウトライン

1.概要・背景

2.先行研究

3.実験の概要

4.実験及びその結果

5.議論

6.結論



1.概要・背景

人間は他の人の声を聴いた時に何によって性別を判断しているのだろうか。

周波数なのか、抑揚なのか、サンプルを録音し、それを被験者に聞かせて調べる。



2.先行研究

声の男女の違いに関しては、様々な研究がなされている。


・ヨハン・スンドベリは、「歌声の科学」の中で、一般的に男女の声に周波数の違いは見受けられるが、必ずしも男性が低く女性が高いわけではないとしている。声の周波数は、声の女性らしさ/男性らしさに影響を与えないという。(104ページ)

・富士通研究所によると、音声合成男性・女性らしさというのは会話全体に表れるものであるという。

・ 李晃伸は、 「音・声の認識技術とその応用」 において、人間は声帯を震わして声をだし、またその振動によって音の高さを決めていると述べている。そして声道はその出 された音に様々な調節を加えているそうである。音声解析で用いる、スペクトルの読み方の知識についても記述があった。


  ヨハン・スンドベリは声の周波数が声の女性らしさ/男性らしさに影響を与えないと述べている。もし周波数がそれに影響を与えないのであれば、声の女性らし さや男性らしさをわざと作ってみても、それを聞いた人は男女の判別を正しく言い当てることができるのか疑問に思った。声の女性らしさや男性らしさは耳から くる情報だけでなく、その人自身の経験やイメージによるものも男女の判別に影響を与えているのではないだろうか。


3.実験の方法

  1. 実験の方法

①声の低い・普通・高い男性と女性全部で6パターンの声のサンプルを取る。

②声のサンプルは以下の3種類。サンプルをこのようにした理由も併記する。

 ア)「あー」と5秒間言ってもらう⇒それぞれ周波数を測るため。

 イ)土佐日記の冒頭部分(「男もすなる日記といふものを...」の一節)を音読してもらう⇒土佐日記は文章のみ、これは文章の音読のみで男女を判断しにくいため。

 ウ)人狼の台詞(「夜が明けました。顔を上げてください。」)を被験者の男女に一回目は男らしく、二回目は女らしく言ってもらう。⇒抑揚の実験に使うため。

 エ)ゆるきゃら「ふなっしー」の台詞を真似て言ってもらう⇒中性的なキャラクター(男性か女性か判断しにくい)の声は必要に迫られたらどちらを選ぶのかを検証するため。

*真似てもらう声: https://www.youtube.com/watch?v=u3iK1PGVzkY (10秒からの「ふなっしーだなっしー」)



  1. 準備

 出来る限り多くの音声サンプルを集めた。


  1. 使用器具

・iPhone(録音のため)

・audacity(周波数計測のため)

・各自のPC(諸作業のため)


4.実験及びその結果

  1. 実験1回目

<実験内容>

まず、土佐日記の一節「男もすなる日記といふものを女も読んでみむとてするなり」を、声の高い/低い/普通の男女に読んでもらい録音し、そのサンプルを被験者に聞かせ、男女の性別を当ててもらう実験を行った。


サンプルは①低い声の女性(1)、②低い声の女性(2)※、③普通の声の女性、④低い声の男性、⑤低い声の男性の5つを集めた。なお普通の声の男性と高い声の女性は集められなかった。

※声の低い女性(2)のほうが、同(1)より声が低く聞こえた。

備考:被験者は、実験メンバーの家族や友人が主であった。

<実験結果及び考察>

被験者7人中2人が②を男性だと思い、7人全員が⑤を女性だと判別した。

⇒このことにより、顔や姿が見えない状況では、人間はその聞こえてくる声の性別をいつも正しく認知できているわけではないことが分かった。

<この実験から得られた課題>

・周波数を実際に機器を用いて計測する必要がある。

・サンプルを全て集める必要がある。

・サンプルに入る雑音が多かったとの指摘を受けたため、音声をとる環境も考える。

  1. 実験2回目

<実験内容>

2回目の中間発表では、実際に前回得られた音声サンプル(5人のサンプルによる土佐日記の一節)の周波数を解析してみた。


<実験結果及び考察>

土佐日記の一節 普通の声の女性

同 低い声の女性(1)

同 低い声の女性(2)


同 低い声の男性


同 高い声の男性

使用機器:audacity

・後述するように、周波数は母音を発音してもらう方がうまく計測できるため、今回の実験で得られた周波数データはあまり有意なものではなかった。

・しかしながら、高い声の男性のデータを他のデータと比較した際に、低いHzが少なかったことは印象的なデータだった。

・同時にそれぞれのデータのピーク時を見てみると、必ずしも声の高い男性のピーク時が最もHzが高いというわけでもなかったことも、この周波数計測を通じてわかった。


<この実験から得られた課題>

・他の学生や先生から、周波数の計測にはその人の地声/出せる範囲で高い声/出せる範囲で低い声で「あー」と言ってもらい、それを計測したほうがうまくデータが取れるとのアドバイスをいただいた。次回はそのことに留意しながら実験を行う必要がある。


  c.実験3回目

<実験内容>

周波数計測:声の低い・普通・高い男性と女性全部で6パターンの声のサンプルを取る

サンプルは、実験者の友人に頼み録音をした。声の高い男性に関してはグループメンバーがサンプルとして録音をした。


<この実験において留意したこと>

・周波数計測は、母音を長めに発音してもらうとうまく計測できるというアドバイスをもらったため、次回はまずそのことを留意し、サンプル提供者に地声/出せる範囲で高い声/出せる範囲で低い声で「あー」と5秒間ほど言ってもらうようにした。

・また同じく前回の実験の際に、サンプルに雑音があって聞きづらいというフィードバックをもらったため、できるだけ人のいない静かな教室で録音した。


<実験結果>

             高い声の女性 350Hz~1800Hz (ピーク350Hz??? でも低音域はかなり少ない)   

                               

                       


          普通の声の女性 200Hz~1500Hz (ピーク1000Hz)

                         


          


            低い声の女性180Hz~1500Hz (ピーク900Hz)

                             


         

     

            高い声の男性210Hz~1500Hz (ピーク1100Hz)

                             

         


           低い声の男性190Hz~1100Hz (ピーク580Hz)


         

              使用機器:audacity

                  ※なお、普通の声の男性の周波数はなし。(周波数をデータに起こす際に生じた手違いのため。)

        

・単純にピーク時を比較すると、高い声の男性のものが最も高いHzを示すことが分かった。

・しかし、高い声の女性はその他のサンプルよりも高いHzを出すことができるのにもかかわらず、ピーク時が350Hzとなってしまい、この点は疑問が残った。

・また、高い声の女性では低いHzは見られなかったが、同様に低い声の男性でも低いHzが見られなかったことも疑問が残る点だった。(ピーク時に関しては低い声の男性はかなり低いにかかわらず)


  1. 実験4

実験A:サンプルとして用意した、録音した土佐日記の一節を被験者に聞いてもらう。

聴いてもらう声の種類は、以下の通り。

①低い声の女性②普通の声の女性③高い声の女性④低い声の男性⑤高い声の男性⑥普通の声の男性


<仮説>

周波数が高いとその話し手を女性だと判断する。そして、低いと男性だと判断するのではないか。


<実験結果及び考察>

7人中1人は声の低い女性を男性と、3人が声の高い男性を女性と判別した 。


こ の実験から、仮説とは異なり多くの被験者が性別を正しく判別していた。そのため、性別の判断は周波数よりもなにか別の要因が考えられる可能性があるかもし れないことが考えられる。しかしながら、声の高い男性に関してはその判断が分かれていたため、周波数も性別を判断する際にその結果を左右する大きな要因の 1つであるとも考えられるかもしれない。


実験B:録音した人狼の声を被験者に聞いてもらう

声の種類は以下の通り。

①低い声の女性a男らしく、②普通の声の女性b女らしく、③高い声の女性、男らしくb女っらしく④、低い声の男性a男らしくb男らしく、⑤高い声の男性a男らしくb女らしく、⑥普通の声の男性、a男らしくb女らしく


<仮説>

周波数の実験(実験1)ではほとんどの被験者が男女を正しく判別した。そのため、性別の判断は周波数よりも抑揚で判断しているのではないだろうか。したがって、抑揚が男性らしければ男性、女性らしければ女性と判断する。


<実験結果及び考察>

(不正解)

被験者1-“高い声の男性b”を女性、”低い声の女性a”を男性

被験者2-“高い声の男性b”を女性、”低い声の女性a”を男性

被験者3-“普通の声の女性a”を男性、”高い声の男性b”を女性、”低い声の女性a”を男性

被験者4-“低い声の女性a”を女性、”低い声の女性a”を男性

被験者5-”低い声の女性a”を男性

被験者6-”低い声の女性a”を男性


“低い声の女性a男性っぽく”を女性と7人中1人が不正解、“高い声の男性b女らしく”を女性と7人中3人が不正解、“普通の声の女性b女らしく”を男性と7人中1人が不正解、”低い声の女性a”を男性

を 男性と7人中6人が不正解。正解から、低い声の女性が男らしく話すと男性だと判断し、声の高い男性が女らしく話すと女性だと判断するという傾向があること がわかった。したがって、人は声が低くても女性と判断したにもかかわらず、男らしい話し方になると男性であると判断することから、声で性別を判断するとき には抑揚や話し方で判断している可能性がある。



実験C:実験1の①〜⑥のふなっしーの声「ふなっしーだなっしー」を聞いてもらい、性別を判断してもらう


<仮説>

周波数と抑揚の実験をしたが、中性的な声が発せられているのを聞いたときに、今回は声を発しているものがふなっしー(テレビなどで見て多くの人がイメージを持っている)であれば、男性と判断する。


<実験結果及び考察>

7人全員が低い声の女性を男性、声の高い男性を女性、声が普通の男性を女性と判別。


こ の結果から、多くの人が「ふなっしー」がどのような容姿をしているかをテレビなどで見たことがあり、そのイメージを男性と判断しているため、声がふなっ しーに似ているほどその声を発しているのは男性であると判断しているのだと推測する。したがって、声を判断する要素は耳からの情報だけでなく、個々の経験 に基づいて定義される男女の判断基準が大きく影響していると考えられる。



実験結果をまとめると...

被験者7人



土佐日記

ふなっしー

人狼を女性っぽく

人狼を男性っぽく

    高い声の女性

全員正解

全員正解

全員正解

全員正解

    普通の声の女性

全員正解

全員正解

1人が男性と判別

他正解

×(※)

    低い声の女性

1人が男性と判別

他は正解

全員が男性と判別

×(※)

6人が男性と判別

1人が正解

    高い声の男性

3人が女性と判別4人が正解

3人が女性と判別4人が正解

3人が女性と判別4人が正解

全員正解

    普通の声の男性

全員正解

1人が女性と判別

他は正解

全員正解

全員正解

    低い声の男性

全員正解

全員正解

全員正解

全員正解


※サンプルが取れなかったために、なし。

全体的にみて、低い声の女性と高い声の男性は誤答される確率が、他のサンプルと比べ圧倒的に多かった。




5.議論

  声の高い男性を女性と判別した人が7人中3人いたため、人間は周波数によっても性別を判断しているのかもしれない。しかし、それ以上に多くの被験者がサン プルの性別を正しく判別で来ていたということから、人間は周波数以外になにか、声の性別を判断する要因があるのだと考えられた。そこで実験4-Bを行っ た。その結果、実験4-Bでは7人中6人が低い声の女性の男性らしい声を男性と判別したことによって、声が低くて男性らしい話し方であると、顔や容姿を観 なくてもその話している人を男性であると判断するということが分かった。また実験Aと同じく、7人中3人が高い声の男性の女性らしい声を女性と判別した。 そのため、これも上と同様に、声が高く女性らしい話し方であると、話している人を女性であると判断する傾向があるかもしれないことがわかった。一方で、正 解する人もいたため、一概にはそのように言えないであろう。それは、個々で女性の声の基準と男性の声の基準が異なるからだと考えられる。

  実験4-Cでは、被験者の中に「ふなっしー=男性」と思っている人が多く、サンプルを男性と判別する人が多かった。このことから、その人が持っているイ メージから、人間は聞こえてくる声の性別を判断していると考えられる。またふなっしーをの声を真似した側も、ふなっしーに対する個人的な偏見(=男性か も)が入り交じりこのような結果になったとみられる。ふなっしーのセリフは抑陽があるため、声の高い、普通の男性らが裏声を使ったことで、周波数の高さで 女性と判断することもあった。



6.結論

 実験結果より、人間は聞こえてくる声の性別を判別をする際に、その声の高さだけでなく、その声の抑揚も判断基準の1つにしているだろうと考えられる。またその聞く人自身のイメージや基準も、男女の判別をする大きな要因になっている。