国際基督教大学 2015年度 物理の世界
岡村先生
2016年2月19日

自由研究 Group 8

「池に石を投げると音の違いで深さが分かる」は本当か?


161494, 161421, 181204, 181523,
181734, 191745, 191736, 191205

I. 序論

 本研究は「石を池に投げ入れた時の音の違いで、池の深さが推測できる」という言い伝えを、科学的に検証することを目的とする。言い伝えでは石を池に投げ 入れた際、池が浅ければ「ぽちゃん」、池が深ければ「ぼちゃん」と聞こえるとされている。関連する先行研究として、水の落下時の音を解析することを目的と して、洗面器に水滴を落下させる実験を行い、振動波形を分析したもの1や、水中の気泡が音を発するメカニ ズムを解明したもの2 3がある。しか し、前述の先行研究は物体を水に投入した際の音の発生理由を解明しているものの、どのような要素が音の質を決定しているのかを明らかにしていない。本研究 は、物体を水に投下させる際、水深によって着水音が変化するかどうか、またもし変化するとすればそれはどうしてなのかを明らかにすることを主な目的とす る。水深以外で着水音に変化を及ぼすと考えられる、投下する物体の重さや投下する高さといった条件も併せて検証する。つまり、物体の質や投入の条件を統制 することにより、何が着水音の質を決定づけているのかを明らかにする。

II. 方法

 本研究では、カメラの性能を確認する実験、予備実験、実験1、実験2、実験3の5種類の実験を行った。それぞれの実験で使用した機材、実験の方法は 以下の通りである。予備実験、カメラの性能を確認する実験に関しては、本実験の前提となるため本項においてその結果を報告する。

1.使用した機材一覧

<投入する物体>


<装置>

<記録装置>

<音声・動画解析ソフト>


2.カメラの性能を確認する実験

<使用した機材>


<目的>

 使用しているカメラで録画する際、記録している段階で映像と音にズレが生じるかを検証する。また生じる場合のズレの大きさを計測する。

<方法>

 ゴルフボールを任意の高さから石版に落下させ、カメラで音と映像をそれぞれ記録。iMovieで映像と音とのズレの間隔を測った。

(図1)
図1

<結果>

 音ズレが観測された。最初の最大波形は、ゴルフボールの石版への着地音である。このことから、カメラに音が届くまでに0.5秒の誤差があることが確認で きた。

3.予備実験

<使用した機材>


<目的>

 「ぽっちゃん」や「ぼっちゃん」という音の出る要因を見つけること。

<方法>

 ビー玉を、バケツに何度か投下した。投下する高さ、水深は、メジャーで測り一定にした。


<結果>

 バケツが狭すぎたり、底に当たる音や環境音の方が大きかったりしたために、着水音等の調査したいデータが得られなかった。


4.実験1

<使用した機材>


<目的>

 様々な条件で物体を水に投下した際、着水音が変化する理由を明らかにする。

<方法>

 投下する物体の種類・投下する高さ・水深の3種類の条件を統制する。
 固定台に置いた2種類の物体(ゴルフボール、ビー玉)をクリップでつまみ、水を張った水槽に落下させ、着水音の変化を記録する。
 実験1-1では、投下する高さは90cmで一定にし、水深を10cmと20cmに変化させる。実験1-2では、投下する高さを30cm、60cm、 90cmに変化させ、水深は20cmで一定にする。

物 体の種類 投 下する高さ
水 深
実 験1-1 ゴルフボール / ビー玉 90cm 10cm / 20cm
実 験1-2 ゴルフボール / ビー玉 30cm / 60cm / 90cm 20cm


5.実験2

<使用した機材>


<目的>

 実験1の結果を踏まえ、様々な条件で物体を水に投下した際、音が変化する理由を明らかにする。

<方法>

 投下する物体・投下する高度・水深の3種類の条件を統制した上で、物体を水に投下した際の音を録音し、またその様子を録画する。
 投下する物体の表面積および体積を固定するため、ガシャポンの景品が入っているケースを利用する。ケースの穴を内側と外側からガムテープで目張りし、内 部に石と水を詰める。緑のガシャポンは59g、青のガシャポンは99gの重量がある。
 投下する物体が水槽の底に当たる音を消し、着水音をクリアに測定するため、水槽の底に消音用のスポンジを敷いた。
 上記2種類のガシャポンを以下の条件で落下させる。なお、ガシャポンを大型洗濯バサミで掴むことで、落下させる際の回転やブレなどを軽減させた。
 なお、音声・動画解析ソフトの性能上、時間によって変化する音量を分析することはできるものの、音の高低を計測することはできなかった。そのため、実験 2以降では、音の質を音量という側面のみから計測、分析する。

物 体の重さ 投 下する高さ 水 深
実 験2-1 緑59g / 青99g 90cm 10cm
実 験2-2 緑59g / 青99g 90cm 20cm
実 験2-3 緑59g / 青99g 60cm 10cm
実 験2-4 緑59g / 青99g 60cm 20vm

6.実験3

<使用した機材>


<目的>

 容器の形状や水の体積が、音の変化に与える影響を確認する。

<方法>

 投下する物体をゴルフボールのみに限定する。落下点は60cmで固定した。大小2種類のペットボトルを加工して作った水槽を作った。大きいペットボトル はC.C.Lemonの容器を、小さいペットボトルはCrystal Geyserの容器を利用した。ゴルフボールがペットボ トルの底に当たる音を消し、着水音をクリアに測定するため、消音用のスポンジを底に敷いた。

物 体の種類 投 下する高さ
水 深 ペッ トボトル水 槽のサイズ
実 験3-1 ゴルフボール 60cm 7cm 大 / 小
実 験3-2 ゴルフボール 60cm 10cm 大 / 小

III. 結果

 実験1、実験2、実験3の結果は以下の通りである。

1.第1実験

 音の音程から主観的に判断し、「ぽちゃん」と表現できる音を「低」、「ぴちょん」と表現できる音を「高」と表記した。併記されている「大 / 小」は音量を示している。

実験1-1
ゴ ルフボール ビー 玉
水 深10p 低・小 高・小
水 深20p 低・大 高・大

実験1-2
ゴ ルフボール ビー 玉
高 さ30cm 比較的高・小 高・極小
高 さ60p 低・中 高・小
高 さ90p 低・大 高・中

2.実験2

 実験2-1, -2, -3, -4を各4回ずつ行い、その録音をした結果は、以下の通りである。

実験2-1
(図2: 波形1)
図2

(図3: 波形2)
図3

 最初に水深10cmで投下する高さ90cmから59gのガシャポンを落とした。その記録が波形1である。特に大きな波が3回発生していることが確認でき る。このような波形は、水深、投下する高さ、物体の重さの条件を変えても同様に観測できた。
  波形2は、ガシャポンの重量を99gに変化させた実験の記録である。59gの軽いガシャポンでの実験時よりやや大きな波長が観測された。これは運動方程式 (F=M×a, 力=重量x加速度)から、99gのガチャポンは59gより重いため、水により大きな力を与えているためであるといえる。これは水の動きの激しさと関係して おり、ビデオや写真の中で確認できる。

(図4-1: 59gで水しぶきが頂点に達した時の写真)
図4-1

(図4-2: 99gで水しぶきが頂点に達した時の写真)
図4-2

実験2-2
(図5: 波形3)
図5

(図6: 波形4)
図6

  次に、水深20cm、投下する高さ90cm、投下する物体の重さ59gに条件を変更した。その結果、音の長さと大きさにばらつきが生じた(波形3)。さら に、投下する物体の重さを59gから99gに変えて実験したが、不規則な結果が出た。波形には、2回から3回特に大きな波が読み取れる。
 波形1、2に比べ、波形3、4では一貫してより大きな波形が観測された。

  水深20pという条件を作り出すためには、水槽の淵まで水を入れる必要があった。そのため、水深20cmの条件下では、ガシャポンが水に入る際に動かされ た 水の大部分が水槽の外へ押し出された。これに対し、水深10cmではガシャポンが水に入ると、動かされた水が水槽の壁にぶつかり水槽の中心または上部に向 かう動きが生じる。
 波形1、2に対し波形3、4の波形が長く、後ろ側にも大きな波が観測されたのは、上記のように水槽から水がこぼれ、その音をマイクが拾ったことが原因と みられる。これらの音は、本研究の研究対象である着水音とは関係がないため、雑音として扱う。

(図7-1: 59gで水槽の水がこぼれた時の写真)
図7-1

(図7-2: 99gで同じ時に撮った写真)
図7-2

 どちらも水が水槽の淵からこぼれている様子がわかる。99gではより大量の水が水槽の外に出ている。

実験2-3
(図8: 波形5)
図8

(図9: 波形6)
図9

 さらに水深10cm、投下する高さ60cmという条件で59gと99gのガシャポンをそれぞれ落下させた。その結果観測された波形5、6を見ると、特に 大きな波が3回生じたことが確認できる。波形5、6は波形1、2と近似している。
 ただし、落下点が90pから60pへと低くなったため、音は全体的に小さくなったことが波形から窺がえる。

実験2-4
(図10: 波形7)
図10

(図11: 波形8)
図11

  最後に水深20cm、落下点60cmという条件で先ほどまでと同じく2種類のガシャポンをそれぞれ落下させた。音の大きさにはばらつきがあるが、音の長さ は一定であった。他の結果と比較してみると、実験2-4で観測された波長7、8の大きさは水深20cm、落下点90cmという条件で観測した実験2-2の 波形3、4と比較的似ている。
 実験2-2と実験2-4は、共に水深20cmであるため水槽の淵まで水が入っている。このため、実験2-2で説明した現象が同じように起こり、雑音が出 たと考えられる。そのため、実験2-1で見られた波形上の凹凸が見られないと思われる。

3.実験3

  この実験では、ゴルフボールを投下した際に生じた大量の水飛沫がペットボトルの壁を飛び越え地面に着いてしまった。そのため、物体の着水音より水しぶきが 着地するときの音の方が大きく、ペットボトルの体積と形状による着水音の変化を検証することができなかった。

実験3-1
(図12-1: ペットボトル大)
図12-1

(図12-2: ペットボトル小)
図12-2

実験3-2
(図12-3: ペットボトル大)
図12-3

(図12-4: ペットボトル小)
図12-4

IV. 議論

1.当初の仮説、及びその検証

  本実験の主要な目的は、水面に物体が落ちる際の音の大きさ(着水音)に水深が影響するかどうか、また影響するのであればなぜかを明らかにすることであっ た。それに加え、着水音に影響を与えるであろう条件も併せて検証することにした。まず実験の計画段階にて、着水音の大きさに影響を与える要因として
  1. 物体の重さ
  2. 物体を落とす高さ
  3. 水深
があるのではないか、という仮説を立てた。
  その際、1. 物体の重さと2. 物体を落とす高さは、運動方程式に従えば着水時の下向きの力に影響するため、着水音の大きさに影響するのではないかと予測した。一方で、「石を池に投げ入 れた時の音の違いで、池の深さが推測できる」という言い伝えによれば水深が着水音に影響を与えると考えられるものの、実際には水深は物体の下向きの力に何 ら影響を与えないため、着水音とは関係がないのではないかと予想した。

 しかし実験2では、この予測とは異なる結果が得られた。1. 物体の重さに関して、実験2-1にて55gのカプセルを落とした時の波形1と、99gのカプセルを落とした時の波形2を比較したが、ここでは大きな 差は見られなかった。よって、物体の重さは重要な要因ではないと言える。ただし、今回使用した計測機器の性能の限界があったため、物体の重量の差をより大 きくし、より高い精度で測定した場合、有意な差が観測される可能性がある。
 また実験2-1と2-3の結果、2-2と2-4の結果をそれぞれ比較すると、多少の誤差はあるものの、波形、音声ともに決定的な違いは見られなかった。 したがって、2. 物体を落とす高さも着水音を左右するまでの要素であるとは考えられない。しかし、1. 物体の重さに関してと同様、今回使用した計測機器の性能の限界があったため、投下する高さをより大きく変化させ、より高い精度で測定した場合、有意な差が 観測される可能性がある。
 3. 水深に関しては、水深の影響は実験2-1と2-2の結果を比較することで考察できる。波形1、2に対して、3、4はどちらも波形に大きな違いが見られる。 よって、水深が深くな るほど物体が着水した際の波形の振れ幅は大きくなる=着水音が大きくなることが示された。このことは実験2-3と2-4の結果の比較においても同様であ る。 よって、着水音の大小を決める要素は3.水深であると考えられる。

2.水深が着水音の大きさに影響を与える理由

 当初仮説として立てた3点の条件の内、実際に着水音の大きさに関係しているのは水深であることが分かった。以下、なぜ水深が着水音の大きさに影響を与え ているのかを検証する。

  なお、実験映像と音の波形を照らし合わせたことで、物体を水に投下した時に観測された一連の着水音の内、最も大きな音が観測されたのは、物体が水面に到達 した瞬間ではなく、物体の落下によって起こる水飛沫、及び水面に生じるくぼみが水面に回帰する瞬間だということも分かった。こ れは実験映像と音の波形を比較すると分かる。
 前述の通り、音は映像より0.5秒ほど遅れて計測されることが、カメラの性能を確認する実験から 明らかになった。そのため、実験2の映像と、それより0.5秒分早い時点での音の波形を合わせて観察した。すると、映像の中で水飛沫が上 がり同時に水面にくぼみができた後、それらが水面に回帰する以前に、比較的小さな音の波形が存在する。これは、0.5秒分の映像と音の時間差を考慮する と、着水音であると考えられる。ゆえに、その小さな波形の後に観測される、一番大きい音の波形は、物体の落下によって起こる水飛沫、及び水面に生じるくぼ みが水面に回帰する際に生じることが確認できた。ここから、物体の着水音ではなく、物体の落下によって起こる水飛沫、及び水面に生じるくぼみが水面に回帰 する際の音が音の大小に強く影響していることが分かる。

A. 仮説

 よって、物体の落下によって起こる水飛沫、及び水面に生じるくぼみに着目して、水深が着水音の大きさに影響を与える理由についての以下の仮説を立てた。
  1. 物体が水中に沈む時に押しのけられ生じた波が水槽の壁に当たり、音の大小に影響している。
  2. 水深によって音の反響が変わる。
  3. 水深ではなく、水槽の水の体積が音の大小を左右している(この場合、水深が浅くても底面積が大きく体積が一定であれば音の大きさ は変わらないことにな る)。
  4. 物体が水中に沈む時に押しのけられた水飛沫は、水深が浅い時は再び水槽内に着水するが、水深が深い時は(水槽ぎりぎりまで水を入 れているため)水槽の外に 出てしまう。この違いによって音の大きさが変わる。
  5. 水深ではなく、底が近すぎるため物体の落下の仕方が変わってしまう。水深が10cmの時は、物体が底にぶつかって跳ね返ってしま う。底にぶつからない程度 の深度を確保して比較すれば違う結果が得られるかもしれない。

B. 仮説1〜4の検証

 1〜4の仮説の検証結果は、以下の通りである。
  1. 実際に動画を見てみると、生じた波がが水槽の壁に到達していないため、否定された。
  2. もし反響していたとすれば、音は水中では空気中以上に早く進み、少ない水量の時により大きく音が増長したはずである。しかし、実 際には水量の多い水位が高い時ほど音量が大きかったためこの仮説も否定された。
  3. 実 験3では同一の素材を使用して底面積が異なる2種類のペットボトルを使用した。そのため、実験3の続きで2種類のペットボトルの底面積に対応して推進を変 化させ、体積を一定にした上で、着水音を測定する予定だったが、実験3が失敗したためできなかった。よって、検証できなかった。
  4. 動画をスロー再生すると、容器からあふれた水が地面につく前に、最も大きな音量が計測されている。そのため、あふれ出た水のせい で音量が小さくなっている 可能性はあるものの、大きくなる様に作用しているとは考えられない。そのためこの仮説も棄却できる。

C. 仮説5の検証

 物体の落下した際の水の動き方を映像で確認したものを、簡単な図で表すと下のようになる。

(図13)
図13

  物体が着水、沈下する際、本節冒頭で述べた通り、動画をスローで観察すると2つの水の動きにより音が生じることが分かる。つまり、物体の落下によって起こ る水飛沫と水面に生じるくぼみが水面に回帰する際に(これらはほぼ同時発生である)大きな音が発生するのである。よって、着水音の音量は、これらの水飛沫 やくぼみの大きさ、つまりは動く水の体積に比例して決まると言える。
 図14-1と14-2は、実験2において、水飛沫、及びくぼみの大きさ(=動く水の体積)が最大になった瞬間をとらえた画像である。なお、投下したガ シャポンの重さは違うもののIV. - 1. より物体の重さは音量に有意な影響を与えないことが判明している。また、動画1は、実験2の内、重さ59g, 高さ60cmで水深10cmの場合と水深 20cmの場合を抽出したものである。

(図14-1: 高さ60cmから水深20cmに59gのガシャポンを落とした画像)
図14-1

(図14-2: 高さ60cmから水深10cmに99gのガシャポンを落とした画像)
図14-2

(動画1: 重さ59g, 高さ60cm, 水深10cm / 20cm)
movie1.mp4

  これらの画像から、水深が10cmであれ20cmであれ、水面上部に上がる水飛沫の大きさは大きくは変わらないことが分かる。一方で、くぼみに関していえ ば、水深20cmでは、くぼみのそこがすぼまっているものの、水深10cmでは、くぼみがすぼまる前に物体が水槽の底を打ってしまっており、くぼみの底が 水平に削られた形になっている。ゆえに、水深が浅い(=10cm)の時のほうが、動く水の量が少ないと言える。これを分かりやすく図示したものが、図15 である。
contributed to the awareness building campaigns and the fundraising activities of the WFP in Japan.
(図15: 映像を簡単な図にしたもの)
図15

動いた水の量の相対的大小関係と水深
水 深 水 飛沫の量 く ぼみの大きさ 動 いた水の総量
20cm 同じ
10cm 同じ

  以上より、物体が着水時に作り出す水飛沫とくぼみ(その和は、動いた水の量)により着水音が生じることが分かり、また、水深が深いとより多くの量の水が動 くことが分かった。より多くの水が動けば、より大きな着水音が生じることは自明である。従って、水深が深いと、物体が着水時により多くの量の水を動かすこ とから、より大きな着水音を生じさせると言えるため、仮説5は支持される。

 ただし、仮説5の検証から、本研究の限界も明らかになった。本研究では、物体が着水した際に生じるくぼみが底面にぶつからない、十分な水深を確保した上 で水深を変える実験を行うことができなかった。例えば水深50cm、水深100cmで同様の実験を行い、 それぞれの水深で着水音の差が生じなければ、仮説5はより強固に支持される。

V. 結論

 本研究は「石を池に投げ入れた時の音の違いで、池の深さが推測できる」という言い伝えを科学的に検証した。
 本研究は、予備実験等の結果を踏ま え、水深に加え、水に投下する物体の重さ、物体を投下する高さの3条件を統制し、着水音の大きさに影響を与える条件を特定することを試みた。その結果、仮 説に反し、物体の重さや投下する高さは着水音の大きさに影響を与えない一方、水深が着水音の大きさに強く影響することが明らかとなった。
 次に、 なぜ水深が着水音の大きさに強く影響するかを分析した。主たる着水音は、物体が水面に接することよりも、物体の落下によって起こる水飛沫、及び水面に生じ るくぼみが水面に回帰することにより生じることが明らかになった。さらに、水深と水飛沫の量には関係が見いだせないものの、水深とくぼみの大きさには比例 的な関係があった。なぜなら、物体が水中に没入する際に生じるすり鉢状のくぼみは、水深20cmでは下部に行くにしたがってすぼまっている。一方で、水深 10cmでは水深が浅すぎるため、そのくぼみがすぼまる以前に物体が水槽の底を打ったからである。よって、水深が深いとより多くの量の水(=水飛沫の量+ くぼみの大きさ)が動くため、大きな着水音が生じることが分かった。
 本研究の結果を「石を池に投げ入れた時の音の違いで、池の深さが推測でき る」という言い伝えに当てはめ検証する。池に石を投げ入れるとき、生じるすり鉢状のくぼみがその底部において十分にすぼまることができない程度の水深であるか、 十分にすぼまる程度の水深であるかは、その着水音から推測することができると言える。しかし、水面のくぼみが十分にすぼまる閾値以上の水深の差を推測する ことができないと言える。
 本研究の結果は、追加実験の必要性を示唆する。着水時に生じるくぼみがすぼまるのに十分な水深20cm以上の水深を設定できる水槽で同様の実験を行い、 着水音が変わらないことを確認する必要がある。

  参考文献

1 http://ir.iwate-u.ac.jp/dspace/bitstream/10140/1438/1/erar-v46n1p77-99.pdf
2 http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?d=23-1-t03.pdf&dir=72
3 http://www.shizecon.net/sakuhin/47jhs_1.html#Top