Soccer goal net

サッカーゴールの網目
六角形のゴールの網目はゴールシーンをダイナミックにするのか
ICU(国際基督教大学) 物理学の基礎と概念 グループ12

指導教員:岡村秀樹



序論(背景)


サッカーのゴールネットは、昔は四角だったが、最近は六角形のものに変わってきた。





メーカーの説明などによると、六角形のゴールは「ダイナミック」なゴールシーンを演出しているらしい。

ダイナミック、というのは何を意味しているのかということを考えると、

          ボールがネットに突き刺さる、

          ゴールシーンが長引く

          ボールがからめとられる

ということのようだ。


岐阜大学工学部の藤井教授らによるシミュレーションCGを以下に引用する。

六角形のゴールネットは、「ゴール時にネットが大きく美しく変形」する。





研究の目的

・六角形のゴールは正方形のネットに比べて本当に「ダイナミック」な動きをするのか。

・もし本当なら、その「ダイナミックさ」は何によってもたらされるのか。


これらを調べるために、ネットのモデルにボールを落とし、その沈み方、揺れの伝わり方を見る。

藤井教授らは、計算機シミュレーションを用いたが、ここでは、実際にネットを作って高速度カメラで撮影して実験的に調べる。



実験1(ネットの作成)





2種類のたこ糸の伸びの比較


  同じ種類のタコ糸でネットを作ることができなかったため、2種類のたこ糸の比較を行った。

  今回の実験に関連するのはたこ糸の伸びについてなので、2種類のたこ糸の伸びやすさについてのみ比較を行う。

比較方法・30cmの長さのたこ糸の一端を固定し、もう一端に重りをつけて伸びを比較する。




どちらの種類の糸もほぼ同じ長さの伸びを示した。

よって伸びの比較にはほとんど問題はない。

  3kgの時と2kgの時の長さの変化がないため、この間に糸の伸びの限界があると考えられる。



(ネットの完成品)




実験2(ボールを落として高速度カメラで撮影)

ハイスピードカメラを用いる。

ボールはネット上30cmの高さから落下させる。


実験A.正方形と六角形のネットで、ボールがどのくらい沈むのかを比較

実験B.正方形と六角形のネットをぴんと張ったときにネットの変形の仕方を比較

  ネットの固定が市販セロテープなどにより不完全であることについては後ほど議論で述べる。


落下の様子




結果

横から見た場合(実験A)

            正方形                        六角形







斜め上から見た場合(実験B)

            正方形                        六角形






実験2の結果のまとめ

正方形

A・・・5.5cmくらい沈む

B・・・ボールが落ちた点の縦・横の糸は引っ張られるが、ほかは引っ張られていないように見える。

六角形

A・・・6.5cmくらい沈む

B・・・ボールが落ちた点から全体に糸が引っ張られているように見える。




実験3(引っ張って比較)

網目の様子をよりはっきりと見るために、次のような実験を行った。


実験C・網目の形によってネットの引っ張られ方がどう違うのか、各ネットの斜めから同じ力で引っ張って比較する。

実験D・ボールが落ちた時のようにネットの中央にある力がかかったときに、各ネットの縦・横・ななめ方向にどのくらいの力がかかっているのか比較する。



実験結果(C)


            正方形                        六角形









議論

議論(実験A)

ネットの上からボールを落とすと正方形より六角形のほうがボールの沈み込み方が深かった。ボールが奥まで沈むということはネットにあたった時のボールの減速が小さいということになる。

六角形の方はネットがボールの形に添うようにへこんだ。つまり六角形の方は糸全体に波が伝わる前にボールが落ちた場所の周辺だけで糸が伸びている。


議論(実験B)

斜め上から見ると六角形のネットにボールが落ちた時に波がさまざまな方向に広がるのに対し、正方形は縦と横に限定されているように見える。力は糸に沿って伝播するため直線の糸だけで構成される正方形は縦横にしか力が伝わらず、途中で糸が分かれている六角形は、いろいろな方向へ力が伝わる。


正方形の場合           六角形の場合



議論(実験C)

六角形ネットは明らかに六角形の構造が歪んでいる。

=糸が伸びるというよりも構造が変わることで伸びている。

実験Aの部分的な伸びはこの構造の変化による。

一方、正方形のネットは正方形を保ったままで伸びている。

=糸が伸びているにすぎない。




議論(実験Cの続き)

  糸の伸びだけに頼っている正方形は糸が限界まで伸びているのではないか。実験Aの時の様に5.5cm沈んだ場合はどうか。

  5.5cmへこんだ時の糸の伸びは2cmになっている。最初のたこ糸の実験より、限界は1.3cmのはずなので、余計に伸びていることになり、少なくとも0.7cmほど固定した部分が動いている。(問題点)

  これを除いても正方形はかなり限界までにきている考えられる。


議論(実験D)

  同じ力をかけると、六角形は縦・横・ななめはほぼ均一に引っ張られる。正方形は縦・横は引っ張られるが、ななめはほとんど引っ張られていない。

  実験Bの結果と同様に六角形の方がいろいろな方向に力が伝わると考えられる。


結論

  六角形構造のネットは正方形のネットに比べて

1.伸びるときに構造の変化があるために伸びやすい。糸が伸びるのではなく六角形の一つ一つが変形する。

  一方で正方形は糸が限界まで伸びきっているためあまり伸びないと考えられる。

2.糸が交わったり、分かれたりするため、さまざまな方向に力が等しく伝わる。

  縦横2方向だけでなく、ななめにも力が伝わることで、ネット全体が動く。

3.ボールがゴールに入った後のネット内での速度が速い。これはネットが大きく変形できるからと考えられる。


  六角形のネットは、ボールに沿い、ボールを包み込むように衝撃を吸収する。

  以上から六角形はゴールの時にネットが大きくスピーディに揺れ揺れ、よりダイナミックなゴールを演出できる。


  ただし、実際のゴールネットのように十分にネットがたるんでいる状態では、

  実験でピンと張ったときほど、沈み込み方に大きな差は出ないかもしれない。


参考文献

1) 岐阜大学工学部藤井研究室 http://www.gifu-u.ac.jp/~eng/ja/square/2004syou/exciting/exciting.htm