DHMO告発の実態

 

 

Introduction

 

DHMOとは、Dihydrogen Monoxide(一酸化二水素)の略語であり、水(H2O)をわざわざ難解に呼称したものである。

1997年、Nathan Zohnerという名の中学生がこの単語を用いながら水のネガティブな性質だけを極端な表現で羅列し、「DHMO(水)はとても危険な化学物質。使用規制をすべきだ。」と主張し、50人中43人の同意を得るという事態が起こった。(この結果は人がいかにだまされやすいかの証明をするためのもので、実際に水の使用を規制する目的によるものではない。)この時に用いられた危険性の説明とは、「DHMOは酸性雨の主成分である」や「癌細胞から多量に検出される」などの、それが水だと分かっていれば当たり前だと考えられるような内容であった。

 

 

1)自分が署名を求められたとした

   

   街角で一人の少年に署名を求められるという状況を想定した場合、自分がサインするとは思わない。しかしながらその理由は、この主張自体の信愚性の問題ではなく、中学生が一人でそういった活動をしていること自体に懐疑心をもつからである。

   では、「環境保護団体」と名乗る、いかにも“アカデミック”な雰囲気を漂わせる団体に同じように署名を求められたとしたらどうだろうか。残念ながら、署名しただろうと言うほかに手はない。なぜなら、無数にある危険性の説明から判断する限り、それは明らかに有害物質であり、私たち人間の生活を破壊しかねないという印象を受けるからだ。その危険性の度合いは、これまでに聞いたことのある様々な危険物質のリスクをすべて持ち合わせているのではないかと思うほど高く感じられ、逆にメリットは何一つ感じられない。喜んで、使用規制またはその化学物質の抹消に賛成するだろう。ただし、なぜそんなにも危険で、なおかつ多分野に渡る危険性を孕んだ化学物質について、これまで一度も耳にしたことがなかったのかと考えるはずだ。しかしながらそこで、恥ずかしいことに、署名する前にその物質について調べてみようという気にはならないと思う。このことがもしも多くの人々に当てはまるとすると、おそらくそれは現在存在している多くの環境問題の原因のひとつだろう。

 

2)DHMOとは一体何か

 

   DHMOとは前述した通り、Dihydrogen Monoxide(一酸化二水素)の略語であり、水(H2O)をわざわざ難解に呼称したものである。

   その目的は、人々がいかに感情的な表現に流され、だまされやすいかを証明することにある。1997年当初のレポートでも9割近い人々がだまされている。そこで私は、2006年を迎えた現在の、人々のだまされやすさを確認するために、少ないながらサンプルを集めてみた。サンプル20人の特徴は、20歳代前半の男女10人ずつである。(職業、所属の指定はない。)これらの人々に「DHMOの特徴(http://www.imasy.or.jp/~yotti/fool/dhmo.html)」を伝え、これを規制するべきだと思うか否かを問いとした。結果は次の通りである。

 

 

規制するべき

規制しなくていい(=水)

合計

男性

9

1

10

女性

7

3

10

 

   このことから、初めてのDHMO告発から10年近く経った今でも結果の割合、つまりだまされる人の割合はほぼ変わっていないことがわかる。私がサンプルを20歳代前半の人々に絞った理由に、今後の地球環境を守るも壊すも、とにかく彼らの行動が大きく関係していくだろうという考えがあり、そのためこの結果にはかなり厳しい現実を見せられることとなった。

   たくさんの環境問題の裏に、このDHMOのように、強くアンフェアな誘導性を持つ報道、記事、署名運動が存在しているだろう。その目的は商業的であることもあるのだろうが、実際に環境は商業のために存在するのではない。かけがえのない地球環境は限りあるものであり、よって私たち地球市民は、このような商業的なプロパガンダにのせられないよう努力をしなくてはいけないはずだ。特に現在、21世紀には多くの危機的な問題が露出し始めているため、その必要性はさらに肥大化しているとみられる。DHMOは、こういった緊急の必要性、感情的な表現に流されずに現実を見つめる必要性を訴えるものである。

 

 

3)謎が打ち明けられて感じること

 

「人は正義を行っていると確信しているときに、最も邪悪な行動を平然と行うことができる(http://www.komazawa-u.ac.jp/~kazov/Nis/etc/DHMO.html)」という警句が最もDHMOのメッセージを伝えているのではないかと思う。このことは、DHMOのように強いプロパガンダ性をもった方法を用いて同意を得ようとする個人、団体にもちろん当てはまるが、ここで同意をする人のことも忘れてはならないと思う。環境保護という名の形だけの「正義」のために簡単な気持ちでプロパガンダにのせられ、同意をする人々こそ「邪悪な行動」を行っている。自分を含めこういった人々が存在するからこそ、DHMOのような邪悪な手段が現れるのだ。

最後に、水とDHMOについて言及したい。DHMOとして紹介されている危険性は間違いなく水の性質の一部であり、私たちはそのことを再確認しなくてはならないだろう。このDHMOが実は水のことだったわかって「よかった」と安心するようではいけないのである。水は私たちに命を与えてくれ、私たちを包んでくれる、不思議で優しい物質であると同時に、DHMOに象徴される危険性を孕んだ物質なのだ。私たち生物の知識と自覚によって、水、DHMOとうまく付き合っていかなくてはならない。

 

 

参考文献

 

Barbara and David P. Mikkelson. “Dihydrogen Monoxide.” Urban Legends Reference Pages. 

2005, 12, 31 27, Feb, 2006 < http://www.snopes.com/science/dhmo.asp>

“DHMO.” Wikipedia. 27, Feb, 2006 <http://ja.wikipedia.org/wiki/DHMO>

 “一酸化二水素汚染の恐怖.“ med-legend.com. –医学都市伝説-. 27, Feb, 2006

          < http://www.med-legend.com/column/urbanleg2.html#dhe_scare>

佐藤義之. “最悪の有毒物質?.” (2000, 4, 1) 27, Feb, 2006

< http://www.imasy.or.jp/~yotti/fool/dhmo.html>

西村和夫. “DHMOに反対しよう.“ (2005, 4, 1) 27, Feb, 2006

< http://www.komazawa-u.ac.jp/~kazov/Nis/etc/DHMO.html>