課題　１

須永 浩子

No Water, No Future～「水の世紀」を生きる

　

「21世紀＝水の世紀」の課題

人体の約７0％は水である。水は太古の昔から私たち地球上の生物の身体と生活を支えてきた。水は最も身近な物質であり、悠久の時にも耐えた、まさに「生命の源」である。ゆえに、地球の水資源の需要・供給を中心とする水問題の深刻さは、石油との比ではない。21世紀が水の世紀を言われる所以である。地球上の生命を司る水を巡って、まさに生死が問われており、環境問題としては当然のこと、同時に社会的、倫理的、政治的、経済的問題にまで発展している、21世紀の主要課題である。そして今後も問題は拡大する傾向にある。現在、具体的には以下のような問題が起きている；

１． 12億人が安全な水を確保出来ない（水の需要と供給）[1]

２． 途上国に於ける病気の80％は汚れた水が原因（水の環境汚染/衛生管理）

３． 世界人口の50％に対して下水道などの衛生設備が未整備（生活用水としてのインフラ不備）

さらに、将来、増え続ける世界人口に伴って、2025年には約50億人が水不足に直面し、国単位では48カ国が水不足になる見込みである。現代は、インターネットの発展に伴い、世界中の国々との瞬時のコミュニケーションが可能にあり、今後は現在以上にお互いが密接に関係していくであろう。このことからも、最早、自国の利益だけ追求している時代ではないことは明白であり、グローバルな視座を持って、水問題を解決すべき必要と必然は、今後ますます高まるであろう。「21世紀は水の世紀」といわれるが、水問題への理解と解決なくして、今後、将来の世代までの持続可能な社会を目指すことは不可能である。水問題の現状認識を通して、少しでもよりよい解決を目指すことが私たち２１世紀に生きる地球市民としての義務であることを、今一度認識すべきであろう。先に述べた、主に3つの問題点に焦点を当て、グローバルな立場から私たちが、「いま、ここで」で何が出来るかを探ってみたいと思う。

「水問題」�@～水の需要･供給問題を通して

まず最初に、水の需要・供給問題を確認してみよう。需要・供給というとまず、水不足地域への水（特に飲料水/生活用水）があげられる。現在でも、アジア・アフリカの31カ国で水不足に苦しんでいる。開発途上国の平均的な人が1日に洗濯・飲み水・掃除・料理に使う水の量は、先進国でトイレを1回流すのと同じ量といわれる。水不足は、当然農作物にも深刻な被害を及ぼす。生活用水も満足に得られない地域では、水を灌漑に使うことも出来ず、農業用水の不足や干ばつなどから作物が取れず、食料不足に悩む国々も多い。将来的に見ても、先進国の人口が横這いなのに対して、途上国の人口は爆発的に増加することが予想されるため、これらの地域ではますます水の供給問題が深刻になると考えられている。

　

最近では、「地球シュミレーター」（海洋研究開発機構横浜研究所）というスーパーコンピューターによる、地球温暖化の影響予測も高速演算可能になったというニュースもあり、こういったスパコンによる気候変動や水蒸気の動きの予測が、災害や農作物の被害を減少させてくれることを願いたい。

また、国家間の紛争はその国々を流れる河川にも影響を及ぼし、水の安全供給にも深刻な問題を引き起こしている。一例をあげると、チグリス・ユーフラテス川のトルコ側の国土開発計画としてのダム建設は、深刻な水位低下問題や、逆に高地部の水位上昇によって世界的遺産でもある遺跡の破壊を招いた[2]だけではなく、隣国のシリア・イラクとの間で水問題が起きている。

さらに、2002年水フォーラムにおけるモード・バーロー、パブロ・ソロン両氏のスピーチにも代表されるように、水の民営化に絡む諸問題が近年大きな問題になっている。「ブルー・ゴールド～独占される水資源」の著者、モード・バーロー氏の主張する、「企業は利益追求を目的とする存在であり、貧しい人々に水を供給するという公共サービスを肩代わりする動機がない」ことは、命に関わる水がビジネス対象になっているがゆえに、倫理的、社会的に非常に問題視されている。水ビジネスは、世界の水資源に対する需要供給格差拡大の可能性と危険性を秘めている。

「水問題」�A～水の汚染を通して

環境汚染・水質汚染は現在でも進行中である。人間の活動は知らず知らずのうちに危険な汚染物質を地下水に流し込んでいる。ひとたび地下水に浸入した汚染物質は長く残留する。川の水が平均わずか16日で入れ替わるのに対し、地下水の平均滞留時間は1400年。河川と違ってこれらの帯水槽は非常に広大であるばかりでなく、膨大な量の水を貯えているので、浄化は不可能である。たとえば、土壌に比べて帯水槽は溶存酵素・微生物・有機物をあまり含まず、化学物質が分解されにくいからである。さらに水の汚染が原因で病気にかかり、死んでいく子どもたちが世界には8秒に1人の割合で、アフガニスタンやバングラデッシュなど途上国における病気の原因の8割は、川の水質汚染が原因だといわれている。一方、先進国は尿素を配合した化学肥料を大量に使い穀物の収穫を大幅に増大したのと引き換えに、土壌と地下水を汚染し、そのため安全に飲める水がどんどん減っている。豊葦原瑞穂の国といわれるこの日本でさえ、安全な水が不足している。さらには、水道水は今や浄水器なしでは飲めないような状態になっている。かつて「湯水のように」と形容された日本語もなつかしい過去のものとなった。私たちは、ペットボトルの水を普通に買う時代に生きている。

前述の水の供給問題とも関連するが、汚染被害拡大防止のために世界規模の政策が必要な例としては、国際河川に関する問題があげられる。国際河川とは国をまたがる河川のことである。現在「国際河川」は263もある。[3]そして、世界の陸地面積の約45パーセントが、こうした国際河川の流域にあり、国境を越えて流れる国際河川は、上流域と下流域の国の間で多くの問題を引き起こす。例えば上流でダムが建設され、水質が汚染されれば、下流域の水量や水質にもすぐに影響する。しかし、国が違えば当然、法規制も汚染許容基準も違ってくるので、下流域の一ヶ所だけ浄化したところで、根本的な解決には至らないのである。このような問題を解決するための国際的な取り組みとして、国連は1977年に初めて水会議を開催した。その後、アイルランドでの国際会議や地球環境問題を話し合う地球サミットを経て、1996年に、国際的なNGO組織として「世界水会議(WWC)」が発足した。WWCは3年に1回、世界各国の水専門家を集めて水問題について話し合うフォーラムを開催することを定め、1997年にモロッコのマラケシュで60ヶ国の参加による第1回の世界水フォーラムが開かれた。その後、第２回目は2000年3月にオランダのハーグで、第3回目は一昨年の2003年3月、日本の京都でそれぞれ開催された。2000年の第２回水フォーラムでは、21世紀の水問題を改善するための方針を示した「世界水ビジョン」が発表された。[4]このような水に関するグローバルな情報を、広く伝播し、世界の人々の共通認識を築くことも、水問題解決には必須であろう。

「水問題」�B～生活用水としてのインフラの不備を通じて

今でも世界の50％の衛生設備が未整備であり、開発途上国では、病気の80パーセントが、汚れた水が原因といわれている。これらの国々には、むき出しの井戸や泉、川や池の水を日常的に飲んでいる人々が多く、不衛生な川の水を炊事に使っている地域もある。衛生的なトイレを使えない人は、世界で24億人もいるといわれ、水の供給や衛生施設が不十分なために起こる病気が原因で、毎年220万人以上の人々が亡くなっている。そうした人のほとんどが、開発途上国に集中している。衛生設備の整備に向けて、一日も早く自治体始め各公共団体、民間団体が協力して活動をし続けることを切望する。個人で出来ることは何だろうと考えたとき、3年前の2002年の夏、スリランカに井戸を掘ったことがあったのを思い出した。そこで、最後に、NGOとして、スリランカに井戸を作った経験をお話してこのレポートを締めくくりたいと思う。当時は、井戸ひとつくらいで世界が変わるわけでもなし、という意見も多かったが、もしかしたら、そんなつまらない小さな民間の努力でも何人かの人間の命が助かっているのかもしれない、と今回のレポートを通じて感じた。世界規模で活動することも確かに意義のあることだ。同時に身の回りのささいなことに気を配ることも素晴らしいことだと思う。ただ、「今やれること」を、どんな小さいことでも実行すること、やり続けることが最も必要なことなのかもしれないと再確認した。

「水問題」<番外編>～スリランカに井戸を掘る

スリランカでは井戸が不足している。そのため、女性や子供達が毎朝、遠くの井戸へ水を汲みに行くという重労働を負わされており、井戸ひとつあれば、500人の村人がその苦役から解放される。そこで、スリランカの井戸建設プロジェクトが2002年に始まった。「スリランカ友の会」の関西支部長、田中克己氏に窓口になっていただき、スリランカ政府との様々な橋渡しをしていただき、話をまとめていただいた。井戸は、2002年6月に着工し、７月に完成。井戸完成祝いの式典には、国会議員なども来て500人近くが集まり盛大に祝われた。この企画は、私が2002年から1年間、京都に指圧の研修のために通っていた指圧研究会の、NGOとしての活動の一環であった。当時、その指圧の会(本部：京都)は世界各地に支部があり、毎年国際的プロジェクトを企画していたようであった。ヨーロッパ支部長がイスラエル人であることもあり、それまでは専らイスラエルとパレスチナの友好や紛争被害ケアが主だったが、たまたまその年は、現在はイギリスで支部長となったサラ・ウィリアムというイギリス人女性が、職場（京都の「ＮＯＶＡ」）の友人と２人でスリランカの井戸掘りを企画した。その友人はその後、イギリスに帰国。現在は、ロンドン大学で地域開発・教育を専攻しており、今後のNGO活動に活かしたいとのこと。

私自身は、現地には行けなかったが、指圧の会のビデオ編集と翻訳をお手伝いした。上の写真はそのときに使用したオープニング映像の一部である。そのビデオのなかで、この活動の中心となったサラ・ウィリアムは次のように述べている；

世界中にあまりに多くの苦しみがあるので、少しでも状況をよくするために私達ができることは殆どないかのようにしばしば感じられます。しかしながら、どんなにささやかな活動であっても、何もしないより確実によいことです。新鮮な水を得るための井戸掘りは、スリランカの村人が水を求めて非常に長い距離を旅することを終わらせました。最初の井戸は、25万円かけて2002年6月に完成の予定です。基金の残りの50万円はスリランカの銀行預金に預けてあります。当地は利子が14％と非常に高く、その間に生じた利子は、子供の教育援助事業に寄付されます。私たちの収入のほんのわずかを提供することが、心と身体をより豊かにすることでしょう。私たちは不平不満を作り出す富には投資すべきではありません。

「今、生きている場所で何が出来るか」ということは、常に考えていきたいと思う。これは水問題に限らずではあるが、今回の水問題を通じて一番学んだことである。

引用・参考文献

第2回世界水フォーラム　 http://www.worldwaterforum.org/jpn/wwf02.html

首相官邸キッズルーム　 http://www.kantei.go.jp/jp/kids/magazine/0303/6_4.html　

AMネット「水の自由化・商品化を考える」 http://www1m.mesh.ne.jp/~apec-ngo/water/water-pr.htm

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[1]　WHO（世界保健機関）によると2000年時点で、都市では1億7000万人、都市以外では約9億2000万もの人々が、安全な水の供給を受けることができない状態にあります。

[2] CNN Evening News：2002年（月日不明）によると、電力と灌漑が必要なトルコ政府による水力発電施設の運転が、ユーフラテス川の水位上昇を招き、古代ローマ帝国の遺跡であるモザイクの町を水没させた。

[3]　 (｢首相官邸キッズルーム｣2005年2月8日参照) http://www.kantei.go.jp/jp/kids/magazine/0303/6_4.html

[4] 　ハーグ閣僚級会議宣言では、水のセキュリティを実現する上で、以下の７点が提示された；
�@　基本的なニーズへの対応（安全かつ十分な供給／衛生設備の充実）　　　　

�A 食糧供給の確保（食料生産における効率的な水資源の配分）

�B 生態系の保護　（水マネージメントを通じての生態系保全）

�C 水資源の共有　（国内、国際河川にかんする平和裏の協力と可能な限りの相乗性）

�D 危機管理　（水関連災害に対する安全性の確保）

�E 水の価値の確立（経済的・環境的・文化的な価値を反映した形での水マネージメント）

�F 賢明な水の統治（水マネージメントに関する公衆の関与と公平な統治）