あなたの誤解を解きましょう 
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● 生活の中で身近な水である水道水は、汚染されていて、無味無臭無色透明であることは少なく、浄水場の高度な浄化装置だけでなく、貯水タンクや上水道管の改善も緊急課題。

● 物理・化学的に注目すべき点が多い特殊な物質で、生物にとっては必要不可欠。

● 水を使った日本語の表現から、水が日本文化において身近な存在であることがわかるが、時代と共に表現が変化もしくは消滅していく可能性がある。

 

1.はじめに

水は、本当にあなたが思うように、無味、無臭で、無色透明、物理・化学的に特に注目すべき特徴も無く、また地球上にあふれている最もありふれた物質なのでしょうか。私は違うと思います。それでは、[水道水としての水]と[物理・化学的にみた水]、[ことばの中の水]、の三点に絞って、お話しようと思います。

 

2.水道水としての水

「水」の定義によってその性質も異なるでしょうが、おそらく、あなたの最も身近なところにある「水」である、水道水について考えてみましょう。水道水をそのまま飲んだことはありますか?最近では、ミネラルウォーターや家庭用浄水器が一般家庭にもかなり普及してきていますが、水道水自体は無味、無臭、無色透明であることはあまり無いように思います。

次に本格的なアイスティーのいれ方を紹介します。

@ カップに茶葉を入れる。分量はカップ1杯に対して約9g(ティースプーン山盛り3杯)。くみたての水を沸かし、カップに熱湯を注ぐ。

A 受け皿でカップに蓋をして蒸らす。時間はストリートティーと同様に。

B ポットにカップに入れて湯と同量の水を注ぐ。この水は沸かさないので、カルキ臭のないペットボトルの水か、浄水器を通した水道水がよい。ティーストレーナーを通して、カップの紅茶をポットに注ぎ、しずく状になるまでしっかりポットに落としきる。

C 沸騰させた水道水、もしくはミネラルウォーターか浄水器を使った水でできた氷(冷蔵庫の臭いがついている場合は洗って!)をグラスいっぱいに詰め、紅茶を注ぐ。

     『洋食の基本』生活便利シリーズ19(レタスクラブ)より

下線部のように、現代の水を使っておいしい紅茶をいれるには、様々な工夫と手間が必要です。実際に私は、浄水器を通さなかった水道水を使ってこのレシピでアイスティーを作ってみましたが、おいしいとは決して言えないようなアイスティーが出来上がりました。無味無臭無色透明な水道水は今の時代はほとんど、特に都会では有り得ないと思います。アオコや赤潮などによって水源が汚染されている場合も多いでしょう。しかし、マンションの屋上にある貯水タンクの中がカビだらけであったり、上水道管が劣化して錆びていたりするのも大きな原因の一つだと思います。高度な浄化装置を浄水場で使用するだけではなく、水が消費者の手元に届く最後の過程である、貯水タンクや上水道管の改善も緊急の課題であるといえます。

 

3.物理・化学的にみた水

水は本当に物理・化学的に特に注目すべきでない物質なのでしょうか。むしろその正反対で、水には他の物質とは違った様々なユニークな性質があると思います。その中の三点に注目してみましょう。

A. 表面張力が大きい

水は表面張力が大きく、このことによって、血液を毛細血管を通じて体中に行き渡らせることが出来ます。またこれが、植物が重力に逆らっててっぺんまで水を持ち上げてくる毛細管現象の理由なのです。

B. 全てのものを溶かし込む力

物質を溶かし込む力が非常に大きく、水は、その力によっていろいろな物質を溶かし込んでいます。例えば、海水にはNaCl,MgCl2,MgSO4などの物質が溶け込んでいるおかげで、生物が海で誕生したのです。水には全ての物質を溶かすという恐ろしい一面がある一方で、この性質がなければ、我々生物は誕生できなかったでしょう。

C. 蒸発熱の大きさ

蒸発するときに奪っていく熱量が大きく、この性質のため、私たちは真夏でも、汗をかくことにより熱を体内から逃がすことができます。また、海で海水が蒸発するときにたくさんの熱を逃がすことで海の、そして地球全体の温度を適温に保っているのです。

 

このように、水の特殊な性質がなければ、私たちの存在自体が危うくなってしまいます。水は物理・化学的におそらく最も注目すべき物質のひとつで、それと同時に我々生物にとって非常に大切なものなのです。

 

4.ことばの中の水

次に、水は本当に地球上のどこにでもある最もありふれた物質なのでしょうか?アフガニスタンでは、5キロ先の井戸ならまだ近いほうで、10キロ先の井戸まで徒歩で水を汲みに行くこと当たり前だといいます。それほど水不足が深刻なのです。現在地球上では、80カ国が水不足で苦しんでいます。また発展途上国では上水路に回される前に下水処理を施されている水は全体の2%に過ぎないといいます(国連報告書)。

 

しかし、古くから日本では水は豊富なものとされてきました。とても身近な存在なのです。日本語には水を使った表現がたくさんあります。

 

―が合わない

新しい土地の風土になじめない。……水はその土地によって変わり、水を飲むことは一番大切な生活そのものの行為だから。「―に慣れる」という表現も同じ理由からきた。

―と油

正反対の性格・性質をもつもののたとえ。……水と油は中々混じりあわないから。

―に流・す

過去のいきさつをいっさいなかったことにしてとがめない。水に流したものは流れに乗ってどんどん流れて行き元の場所に逆流して戻ってくることはないから。

―を打ったよう

同席した大勢の人が静まり返っているさま。……ほこりっぽい地面などに水を打ったとき空気がしんとなる。

〜定義は『大辞林』より

この他にも、「水を得た魚のよう」、「水掛け論」、「水をさす」など様々な表現があり、いかに水が日本人にとって身近なものであるかがわかると思います。しかし、「お金を湯水のように使う」ということばのような、水が豊富で身近だということを前提にした表現は、直訳するとおそらく水不足で悩まされている国々では理解されないでしょう。それと同様に、日本でも時代の変遷と共に、こういったことばは実際の生活からかけ離れた表現になる可能性があります。二十世紀は土地の奪い合う世紀でした。21世紀は、水を奪い合う世紀になるといいます。そんな状況の下で、水を使った表現は変化していくはずです。

 

5.まとめ

まず、生活の中で身近な水である水道水は、汚染されていて、無味無臭無色透明であることは少なく、浄水場の高度な浄化装置だけでなく、貯水タンクや上水道管の改善も緊急課題であります。次に、水は物理・化学的に注目すべき点が多い特殊な物質で、その特殊な性質によって私たちは生かされているのです。また、水を使った日本語の表現から、水が日本文化において身近な存在であることがわかりますが、水を世界的に奪い合う21世紀では水に関する表現が変化もしくは消滅していく可能性があります。これまで見てきたように、「水は無味、無臭で、無色透明、物理・化学的に特に注目すべき特徴も無く、また地球上にあふれている最もありふれた物質である」というあなたの考えは誤解であることが、お分かりいただけたでしょうか。

 

参考文献

・大辞林 三省堂 2001

・ 『洋食の基本』生活便利シリーズ19(レタスクラブ)

・ 国連報告書 吉野輝雄先生HP http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/waterresourse.html


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