私達に身近な水―飲み水について―

 

1. はじめに

 私達は普段水について特に考えたりはしない。水とは水道をひねれば出てくるものであり、また雨として空から降ってくるものである。海や川に行けば当たり前の様に存在している。人間にとって一番身近な液体だと言って良いであろう。しかしひとたび水について考えてみると、私達は何を知っていると言えるだろうか。また、水は本当に無限に存在するものなのだろうか。最近では水質汚染などの水に関する問題が世界的に深刻化してきているが、それは私達の日常生活にどのような影響を与えているのだろうか。

 水は人間にとって欠かす事の出来ない物質だが、そのもっとも重要な役割の一つとして、飲み水としての水が挙げられるであろう。人間は水を摂取しなければ生きてはいけない。人間の体の約60%は水分であり、一日に体外に排出される水分は2、5リットルにも及ぶ。人間はその排出分を定期的に補給して行かなければ身体に異常をきたしてしまうのである。しかし、最近この飲み水が変化してきているように思われる。以前は水道水を直接飲む事が当たり前であったが、いまでは都市部で水道水をそのまま飲む事は少々ためらわれる。多くの家庭ではミネラルウォーターを購入するか浄水機と取りつけて浄水してから飲み水としている。この変化は一体どうして起こったのか。このレポートではまず水のおいしさというものを定義してから、私達の飲み水の変化について考察していきたい。

 

2. 水のおいしさ

 水は一般的に無味無臭であると言われている。しかし本当にそうだろうか。もしそうならば、なぜ私達は水道水ではなくわざわざミネラルウォーターを買って飲むのだろうか。実は、水にもおいしい、まずいという違いがあるのだ。

 無味無臭な水というのは純水という一切の不純物を含まない水である。これは実験などで使用される水で、日常生活で私達の周りにある水ではない。つまり水に含まれている様々な成分が水のおいしさを決定しているのだ。水のおいしさの基準は、味・香り・温度である。味は水の中のミネラル分と酸素・二酸化炭素の量で決まる。香りは水の鮮度で決まる。水は時間がたつほど香りを失っていく。さらに殺菌のための塩素や、ダムや湖などに発生する藻も水の香りを奪う。また水のおいしい温度とは、人間の体温プラス・マイナス25度と言われている。これらの条件を満たす水が、おいしい水なのである。

 さて、昔の日本では水道水は普通に飲む事の出来る水とされていたが、最近では皆ミネラルクォーターを買ったり、浄水機をつけて水道水を浄化してから飲んだりしている。水道水も飲めない水、というわけではない。しかし最近の水道水はおいしくないというのが一般的な意見であり、だからこそ人々は高いお金を払ってまで“おいしい水”を求めるのである。ではなぜ水道水はそんなにおいしく無くなってしまったのか。その原因の一つとしてあげられるのが、水道水の臭いだろう。最近の水道水は、ドブ臭さやカビ臭さがある。それらは水道水の水源となるダムや河川に異常発生したコケやアオコと呼ばれる藍藻類による。これらは本来水をきれいにする植物なのだが、家庭排水などによって水中に植物の栄養となるリンや窒素が増加し、それによってアオコなどが増殖して生物の全体的なバランスが崩れてしまう。その以上に増殖したアオコが作り出すジオスミンやメチルイソボルネオールなどといった物質が臭いの原因となっているらしい。また別の原因として、水道管そのものから発生する赤サビによるサビ臭さも挙げられている。このように人間の出す排水や、人間の作った設備などが水のおいしさをなくしてしまっているのである。

 

3. ミネラルウォーター

 水道水に代わって私達の主な飲み水として出てきたのがミネラルウォーターである。一昔前ならば飲み水に金を払うなどということは考えられなかったであろうが、今や食料品店には何種類ものミネラルウォーターが並んでいる。しかし一見皆同じように見えるミネラルウォーターにも、実はいくつかの違いがあるのだ。まず日本とヨーロッパのミネラルウォーターの違いを比較してみよう。日本ではミネラルウォーターの市販には殺菌、除菌が義務付けられているため、多くのミネラルウォーターは殺菌のための加熱処理が施されている。加熱処理とは85度以上の高温で30分以上行われ、そのため水の中に含まれていた酸素や二酸化炭素はほとんど抜けてしまうのである。ここで先ほどの水のおいしさの条件を思い出してみて欲しいのだが、水がおいしくあるためには酸素や二酸化炭素を含んでいる事が条件としてあった。つまり国産のミネラルウォーターはおいしい水の条件を満たしていない、という事になるのだ。このような国産のミネラルウォーターに比べ、ヨーロッパのミネラルウォーターはあらゆる殺菌処理が禁止されている。菌の中には人間の健康を促進するような善玉菌も含まれているため、ヨーロッパではそれらの菌が含まれたままミネラルウォーターとして販売されているのである。さらに日本とヨーロッパのミネラルウォーターの違いとしてミネラルの含有量が挙げられる。水は硬度という基準を持っているのだが、それは水中のマグネシウムとカルシウムの量、つまりミネラル分の量で決められる。国産ミネラルウォーターの場合、硬度は30から40で、実は水道水と同じ位のミネラルしか含んでないのである。それに比べてヨーロッパのミネラルウォーターは硬度200から400、いかにミネラルを多く含んでいるかが分かるだろう。水道水が飲めない、という状況は日本もヨーロッパも同じであるが、飲み水としてのミネラルウォーターに対する両者の考え方というものはだいぶ異なる様である。

 次に、ミネラルウォーターとしてひとくくりにされているものの中にも実は種類があるという事を見ていきたい。ミネラルウォーターは主に3種類に分ける事が出来る。まず第一にナチュラルウォーターという水がある。これは特定の水源から採取した地下水をろ過・沈殿・加熱処理したものである。ミネラル分が含まれているかどうかは問われない。次にナチュラルミネラルウォーターというものがあるが、これは前のナチュラルウォーターの中で、自然な状態でミネラル分が溶け込んだものである。最後にその他のミネラルウォーターがあげられる。これには複数の源泉の水を混ぜ合わせた物や、人工的にミネラル分を添加して成分調整したものなどが含まれる。この様に単にミネラルウォーターといってもその実情は製品によってかなり異なるのだ。“ミネラル”という名称に惑わされてはいけない。その中には水道水とほとんど同じような成分しか含まれていない水もあるのだ。

 

4. 最後に

 以上、私達の身近に存在する水の代表例として飲み水を挙げその実情について考察してきた。昔から変わらず飲み水としての役割を果たしてくれているように見えるが、実はその様相は大きく変化してきているのだ。そしてその変化は人間による汚染や科学技術によるものであることが多い。自分たちの行動が水の性質に大きな影響を与えている、ということを私達はもっと意識しなければならないのではないか。自分たちで水を汚しておきながら、その水が飲めないと言って浄水機をつけたり、他の水を買ったりしているのが今の私達である。これは合理的なサイクルとは言えないだろう。

この悪循環を断ち切るためには、まず私達の日々の生活を見なおし、水に対する考えを変えなければならない。水は限りある、しかも非常に汚染されやすい液体なのである。

 


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