〜あなたの中の水〜

 

 

皆さんは水とどのような関わり合いをもっていますか。皆さんと水の関係はどのようなものでしょうか。多くの人は、「水は私たちの生活になくてはならないもの」と答えるでしょう。確かにそのとおりです。炊事、洗濯、入浴、排泄など水は私たちの生活にとってなくてはならないものです。今日は、私たちと水との関係を改めて考えて見るために、こんな問題を用意してみました。

問題: 次の体の組織の中で水に深いかかわりのある組織を選びなさい。

@ 血液
A 肝臓
B 細胞
C 脳
D 網膜

正解は、全てです。これらのどの組織も水がなければ機能できないのです。@の血液の場合は、水と同じ液体ですからなんとなく想像はつくかもしれません。それでは肝臓や網膜と水とはどのような関わり合いがあるのでしょうか。実はこれらの組織と水の関係を解く鍵は、水の不思議な性質にあるのです。

 

 それではまず水と血液の関係から見ていきましょう。血液の成分のうち90%が水でできています。水には、いろいろな物を溶かす力が他の物質に比べてはるかに大きいという変わった特徴があるのです。この不思議な特徴のおかげで血液中の水が栄養分やホルモンなど体に必要な物質を溶かしこんで細胞の隅々までスムーズに運んでいるのです。更に、代謝産物や老廃物を運び去るのも水の仕事です。いわば血液は体の中の運送屋のようなもので、そのトラックを運転しているのが水たちというわけです。もしも水の溶解力が他の物質と同じ位小さかったら、体の中の道路は大渋滞を起こして人間の体は大変な不自由にみまわれていたでしょう。その他にも、比熱が大きいという性質が人間の体温と深い関係を持っています。比熱が大きいというのは、温まりにくく冷めにくいという性質のことをいうのですが、そのおかげで血液の中やその他の組織に含まれている水が熱を体に蓄える働きをするので、人間は寒い場所でも暑い場所でも同じ体温を保っていられるのです。また、寒さが厳しいときなどは霜焼けになることがありますが、霜焼けがそれ以上ひどくならないのは熱伝導率が高い水のおかげです。水は熱を伝える力が強いので、蓄えている熱を必要に応じて血液に伝えてからだの表面に伝えることができるのです。もしも水にこれらの性質がなかったら、人間が北極圏や南極圏に住むことなど到底不可能だったでしょう。

 

 次に肝臓と水の関係について考えてみましょう。お酒ばかり飲んでいると肝臓を悪くする、などと言いますが、肝臓は体の中に入ってきた食べ物や飲み物をろ過して毒素を分解したり、体中を働きまわる水の浄化をしたりする働きを持っています。肝臓は4分に1回のペースで体内の水の浄化をしているといいますから、こちらも大変な働き者です。肝臓はいわばドライバーの乗るトラックの清掃係でしょうか。肝臓は一度傷つけてしまうと二度と元に戻りませんから、肝臓に負担を掛けるお酒や甘いものの過剰摂取やストレス過多な生活は避けたいものですね。

 

 細胞はどうでしょうか。細胞もまた水を多く含んでいます。細胞はたんぱく質や核質、糖質、脂質や様々なイオンなどから成っていますが、これらを結び付けているのが水なのです。いわば糊のようなものです。この、水で結びついた細胞は体中で20兆も存在しています。人間の体の60%が水であるというデータはかなり多くの人が知っているものと思いますが、水をたくさん含んだ細胞が20兆もあれば、なんだか納得がいきますね。BやCで挙げた脳や網膜もそういった細胞からできている組織の一例です。脳は80%が、網膜はなんと92%が水でできています。ですから、人間は水に写して物をみたり、水を通して考えたり感じたりしているのです。こう考えてみると、あなたと水の関係がもっとずっと身近な問題に思えてきませんか。

 

 これまで例に挙げた性質以外にも、人間の体に大きな影響を与えている水の特徴はいろいろあります。たとえば、水の気化熱が大きいことでどんなに激しい運動をしても体が沸騰してしまったりすることはありません。気化熱というのは水を蒸発させるときに必要なエネルギーのことですが、水は蒸発しにくい液体なので皮膚表面で1ミリリットルの水を蒸発させるには580カロリーもの熱を奪うことができるのです。したがって激しい運動をしているときは汗をかくことによって体の中の熱を放出できて、巧みに体温調節することができているわけです。

 

 人間の体の約60%は水からできています。人は一日に約2リットルの水を食べ物や飲み物、呼吸などから体に取り込み、静かに横たわっているだけでもほぼ同じ量の水を排泄しています。1%の水が不足すると猛烈な渇きを覚え、一日水を取らないと体内の約2,5%の水が失われて脱水熱を出し、幻覚症状を引き起こし、やがて60キロの成人男性であれば3〜4日のうちに死に至ります。一日最低500ミリリットルでも尿が出ないだけで人は生命の危機にさらされます。水は私たち人類にとって、なくてはならない命の源です。更に言うならば、水がなかったら人間は人間として存在していなかったでしょう。水が他の物質とはまるで違った奇跡のような性質を持っていたことで人類が誕生し、現在の私たちを作り出しました。水と人間の関係は、まるで私たちの力をはるかに超えた何者かが、あらかじめ計算づくで作り出した奇跡のような関係です。そして人類が存在する限り、水と人間はパートナーであり続けるはずです。

 

 さて、あなたにとって水とは何でしょうか。人類にとって水とは何でしょうか。そして私たちは今後水とどのようにかかわっていけば良いのでしょうか。地球上を絶えず巡っている13億8600万立方キロメートルという莫大な量の水は地球が誕生した当初から変わらず循環しつづけています。私たちはその水のほんの一部を体に取り込んで循環させ、機能させ、再び地球の大きな循環に戻しています。その大きな循環系の一員としてやるべきこと、やってはいけないことがあるはずです。私の授業が皆さんの認識のお手伝いに少しでもなったならば幸いです。

 

参考文献

 


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