水による癒し

051620 横畑 早苗

 

 今日は、水について少しお話をしてみようと思います。皆さん、きっと水について深く考えたことなんてあまりないでしょう。きっと、「味が無いし、においも無い。蛇口をひねれば出てくる透明の、どこにでもあるものだ。」といった風にとらえているんでしょうね。でも、実は水はそんなに単純で目立たないものじゃないのです。皆さんは、その目立たない物質に知らないうちに癒されたり、和まされたりしているんです。水は、目立たないからこそ皆さんの生活にとって、とても重要な位置をしめているんですよ。そこで今日は、「癒し」と言う点で水について見ていこうと思います。

 まず、一番身近なところで、水による癒しとはなんでしょうか?私がまず一番に思い浮かんだのは「音」でした。皆さん、例えば海や川に行くとしますよね。そこで、波の音や川のせせらぎを聞いたとき、何を感じますか?波の音を聞いて、「うるさい音だなぁ」とか耳を塞ぎたくなったりする人がいるでしょうか。おそらく、そんな人はいないに等しいと思います。波の音や川のせせらぎを聞くと、反対に心が落ち着いたり安らいだりしますよね。街角の噴水や滝の音などでも同じです。それはなぜなのでしょうか?まず、一つの理由として私たち人間の遠い祖先は海から誕生したと言う事が言われています。そして、今でも人間は胎児の時、母親の胎内で羊水という小さな海で過ごすということ、私たちの身体の半分以上が水で出来ていると言う事。これらのことから、人間は水に対して、何か懐かしい気持ちを抱くと言われているのです。

 また、近年注目されているものに、「1/fゆらぎ」という人間の心をリラックスさせる効果のある波形があるのですが、皆さんご存知ですか?最近、家電製品店に行くとこの1/fゆらぎを使用して癒しを取り入れた製品が多く出されていますよ。音には固有の周波数があって、「ゆらぎ」と「周波数」の二つの波形がほぼ反比例するものが「1/fゆらぎ」と言われるものなのですが、この1/fゆらぎの典型的な音の例がさざ波や川のせせらぎの音なのです。人間の身体は、私たちが意識しないうちにこの1/fゆらぎに癒しを感じているのですね。川や海の音のことを取り上げましたが、その他に皆さん何か水音で和まされる場所が思いつきますか?実は、特に日本人は昔から水音に親しみ、そこに風流を見出してきたのです。そうですね。日本庭園を思い浮かべてください。あの、日本庭園にある「ししおどし」というのが良い例です。「ししおどし」が何か皆さん知っていますよね?支点で支えた竹筒の片方に流水が貯まるとその重みで竹筒が下がり、水が流れ出ると反転し、もう片方の端が石を叩いてコーンという高い音がする、あれです。あれはもともと、田畑を荒らす鳥などを脅す目的で作られた、生活に密着したものなのですが、あの音に日本人は風流を感じたのですね。

 もう一つ、ししおどしほどは知られていませんが、日本庭園によくある音の演出法を紹介しておきましょう。「水琴窟」という名前を聞いたことがある人いますか?これは、江戸時代あたりから作られるようになったもので、この工事は大変困難で日本庭園の最高技法であるとされているのです。詳しく、この水琴窟について説明すると、これは地面の中に瓶を伏せて埋め、瓶底に開けた穴から水滴を落として反響させる仕組みです。昔の庭師が、江戸時代、書院の縁先手水鉢の排水装置として使われていた洞水門からよい水滴音がする事に気づき、ひそやかな遊び心で庭師の間に広まっていき、やがて水琴窟と呼ばれるようになったようですよ。この水琴窟は、瓶の種類によって音が違うのですが、素焼きの瓶が、地目が粗いために空気や水を通し水滴がつきやすく良い水滴が多くできるので、最も水琴窟に適した瓶といわれています。さて、一体どんな音が水琴窟からするのかが、皆さん興味がありますよね。水琴窟からはまず、手水鉢で手を洗うと初めに賑やかな流水音がし、だんだんとその水音が早い水滴音に変わり、やがてはゆったりとした水滴音にかわるのです。現在では、この水琴窟に注目が集まり、癒しの道具としてホテルやマンションのロビーなどに置かれているところもあるんです。さて、ここまで、人間の身体が無意識のうちに反応して感じている癒しと、古くから日本にある実際に耳で感じる水音による癒しを見てきましたが、皆さん、最近CDショップにいきましたか?水音による癒しは、もはや川や海に出かけたり、わざわざ日本庭園まで行かなくても、自分の部屋で水音を聞けるようになっているんですよ。多くの作曲家が水の音に注目して、水音をヒーリング音楽としてCD発売しているんです。ぜひ、身近なところから感じて、水音に耳を傾けて欲しいですね。きっと、癒しを再認識するはずですよ。

 では、次に今度は水による癒しを視覚的に捉えてみましょう。先ほども例として出しましたが、日本庭園が「見る水による癒し」の良い例なのです。日本人は昔から、本当によく水を生活の中に取り入れてきたんですね。日本庭園を皆さん、思い浮かべて下さい。何を思い浮かべましたか?はい、日本庭園には大抵、大小の木々、時に小さな小川、滝、池、そして、石や砂があると思います。この石や砂、というのも無造作におかれているわけではないのですよ。水そのものを使わず、石や砂で山水の趣を表現してあるのです。その様なものを「枯山水」と呼びます。このように、日本庭園には水、つまり自然と親しむための趣向が凝らされており、庭自体が自然の景観をそのまま縮小したような空間なのです。日本人はこのように、日常の中に水を取り入れて、安らぎや癒し、和みを得てきたんですね。個人的な意見ですが、例えばバラの咲き乱れる英国式庭園のような、外国式の庭園に行ったときに感じる感動よりも、日本庭園で何故か心の中に広がる、静かな気持ちの方が、私自身に和みや癒しを与えてくれるんですよね。それは、やはり自分の生まれ育った国の良く知った文化だからかもしれませんが、水をはじめ、自然の景観を取り入れた庭園の造りによる所は大きいと思います。皆さんはどうでしょうか?身の回りの水を取り入れた景色のことや、水による視覚的な和みの場所を考えてみてくださいね。

 それでは最後に、近年よく言われている「マイナスイオン」について触れておきたいと思います。最近ではマイナスイオンを取り入れた空気清浄機などが多く発売されていますから、一度は耳にしたことがあるでしょう。では、マイナスイオンとはなんでしょうか?少し説明しておきましょう。マイナスイオンとは空気中の分子の微粒子がマイナスの電気を帯びたもので、呼吸や皮膚から体内に取り込まれ、細胞内にあるプラスの電気を帯びたプラスイオンと中和して、からだのバランスを正常に保つ働きをもつものです。人は、プラスイオンが空気中に多い時、頭痛や肩こり、ひどくなると情緒不安定や神経衰弱になることがあり、それを解消してくれる働きを持っているのがマイナスイオンなのです。

 さて、マイナスイオン自体の説明はこれくらいにして、なぜここでマイナスイオンなのかというと、マイナスイオンが多い場所というのが水の分子が互いにぶつかり合う場所なのです。つまり、水が人々の不快な心を解消してくれるというわけです。水のある場所、といったときにわざわざ渓谷や滝、噴水などの場所を思い浮かべなくても、生活の中に実は沢山あるんですよ。少しあげてみましょうか。例えば、シャワーですね。水の分子がぶつかりあう水しぶきは効果があります。次に銭湯。銭湯は天井が高くて空間が広いために、マイナスイオンが停滞する時間が長いのです。そして、少し驚くかもしれませんが、水洗トイレもマイナスイオンが発生する場所なんですよ。トイレを流した時に、水が流れるでしょう。その時の細かい水滴によって、マイナスイオンが発生しているのです。どうですか?意外にマイナスイオンは身近でしょう。生活の中で水のある場所を考え、積極的にマイナスイオンを取り込めば、快適な暮らしができるでしょう。

 さて、そろそろ、終わりの時間が近づいてきましたね。今日は、身近なところでの「水による癒し」をテーマにお話をしてきましたが、皆さん、少しは水に対するイメージが変わったでしょうか?水は、目立たないようで実は私たちの生活に密着していて、しかも私たちにしらずしらずのうちに癒しや和みを与えてくれているのです。水の化学記号や化学反応が分からなくても、水のある場所で水の事を考えること、それは大変重要なことです。考えているとやがて、自分にとって水とは飲み水としてだけでなく、健康的にも精神的にも生きるために大変重要なものであることがわかってくるでしょう。そうやって、今まで考えなかった「水」という物質について考える事で、世界にも目が向いてもっと大きな視点で物事をとらえることができるようになるはずです。水が日常生活と深く結びついている日本にいるから起こる「水はたいした特徴もない何処にでもある物質だ」という考え方が変わり、水の貴重さに気づき、現在水に関わる問題で苦しんでいる人たちのことを考えるきっかけになればいいと願っています。では、今日はこの辺で終わりにしましょう。

 

 

<参考文献>

・ Living Magazine 2001年4月の特集「マイナスイオンは空気のビタミン!」
http://www.tateyama.co.jp/living/tokusyu/backnum/2001/0104.html  
・ 関西ウォーター「暮らしに潤いを 水の演出」
http://www.kansai.gr.jp/culture/water/scenes/scenes.htm
・ OTTO「AQUAのちから 水の神秘」
http://www.otto.co.jp/aqua/aqua.html
・ 水琴窟ネット「水琴窟とは?」
http://www.suikinkutsu.net/suikinkutsu.html


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