「お茶を淹れる」という行為から水の個性を解き明かす

051080 服部 隆文

 

はじめに

水というのは一番普通で自然なものだと多くの人は考えているでしょう。しかし、化学的にみて水ほど個性的な分子は他にありません。今回はその個性を「お茶を淹れる」という具体的事例を元に検証してみたいと思います。

 

1、 水を沸かす

 お茶は軟水のほうが美味しい、といわれていますがこの軟水とはカルシウムイオンやマグネシウムイオンの少ない水のことです。一般の水も淡水とはいえかなりの無機塩類を含んでいますが煮沸することである程度まで軟水にすることができます。

ご存知の通り水の沸点は100℃です。しかし、この時点で水は既にその個性を発揮しています。実は水は理論上、沸点が−70℃であり常温では気体として存在しているはずの物質です。これは水分子が水素結合によって強く結びついていることによってはじめて可能なことで、同族のH2SやH2Seなどには見られない独自のものです。

 

2、 湯を注ぐ、茶を出す

湯を注げば当然、茶の成分が溶け出してくるのですがこの溶かす能力に関して水は自然界で一番の能力を持っているといえます。基本的になんであれ水には溶けるのです。コンピューターの回路を洗浄するとき使用するのは「超純水」といわれる限りなく純粋に近いH2Oです。これは水の溶かす能力を活かしゴミなどの不純物を水に溶かして洗浄しているのです。

そしてこのとき急須やポットに蓋をしておくのを忘れてはいけません。なぜなら水は気化するときに奪う熱の量がエタノールの約500倍という大きな値であるため表面から蒸発してエネルギーが失われるのを防ぐ必要があるのです。

 

3、 茶葉を濾す

お茶は最後の一滴まで注げ、とよく言いますがこの一滴が注ぎ口のところで水滴となりなかなかさらさらと落ちてはきません。ぽたぽたという感じで落ちてきます。これこそが常温では水が水銀に次いで強いといわれる表面張力です。水はクロロホルム、酢酸などの液体と比べても3倍近くという大きな表面張力を持っています。

また、最後まで注いだあとでも茶葉を絞ればまだまだ水分は出てきます。これは毛細管現象と呼ばれるもので水が細い隙間を登ろうとする性質です。茶葉のもとである葉はこの水の機能を利用して水を隅々まで行き渡らせ光合成をしていたのですから同じことがここでも起きたわけです。

 

4、 茶を冷やす

先ほど述べた気化熱を利用してふーふーと吹いて冷やすのが一般的ですが、今回はアイスティーにしようと思うので氷をいくつか入れました。氷はダイヤモンドに似た構造を持っていてしっかりと結合しているため他の液体の固化したものに比べて融解するのに非常に高いエネルギーを必要とします。したがってすぐに温度を下げることができました。

残った氷は水に浮いていますが、これも水にしかないともいえる個性の一つ。固体の状態で液体の状態より体積が増えるという不思議な現象です。自然界でもこの性質のおかげで凍りついた池の中でも生物が生きていけるのです。

 

5、 シロップとミルクを入れる

既に茶の水溶液が出来上がっているわけですが水にはまだまだ様々なものが溶け込むことができます。シロップをいれミルクをいれてかき回せばより味わい深く複雑な水溶液ができます。これは原始地球で生命が海から生まれたときのたんぱく質と核酸などが溶け込んだ海を彷彿とさせます。

 

6、 飲む

いよいよアイスミルクティーを飲みます。私たちの体は半分以上が水分でできていて血液や体液も水溶液であるため、水に溶かした飲み物は非常に吸収されやすい形といえます。

 

終わりに

今回は「お茶を淹れる」という行為を対象に水の性質を見ました。水がどれだけ特殊な分子であるかがある程度わかったと思います。実はこうしたありふれていて気づきにくい水、そしてその性質があるからこそ太陽系で地球だけに生物が誕生できたということ、またその水に今何が起こっているのかということに興味を持った高校生の皆さんには自分達で調べ考えてみてほしいのです。

 

 

参考:

http://www.con-pro.net/readings/water/(「水の話」小林映章)

http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/NS3ClassInfo.html(吉野先生webサイト)

 

 


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