061553 田中まゆ
碧は都内の学校に通う高校2年生。今日は理科の授業で“水”について学んだのですが……
碧 「何で今更、先生は“水”について授業なんかするんだろう?水なんて別に珍しくも無いのに…」
と、独り言を呟きながら帰宅しました。
碧 「ただいま。ちょっと疲れたから、夕御飯まで寝るね。」
そして碧は自分の部屋へと向かい、ベッドに横になりました。
ピノン 「碧ちゃん!碧ちゃん!」
碧 「ん…あなた、誰?!」
ピノン 「僕はピノン。水の精さ。」
碧 「??? 水の、精?」
ピノン 「そう。君に“水”についてもっと知ってもらいたくて来たんだ。」
碧 「水について? だって水なんて、どこにでもある、何の特徴もないものじゃ ない。」
ピノン 「じゃあ、地球上にどの位水があるか知ってる?」
碧 「えっ。地球上の7割は水って言うけど…」
ピノン 「このデータをみてごらん。」
そういうとピノンは碧に語り始めました。
ピノン 「地球上にある水の総量は1384×1000000G。このうち97.5%が塩水、2.5%が淡水なんだ。」
碧 「へぇ。淡水って少ないのね。」
ピノン 「うん。しかも淡水の70%は極地の氷で、残りの29%は地下水なんだ。」
碧 「水って豊かなものだと思っていたけど、私たち人間が使うことのできる“資源としての水”は限りあるものなのね。」
ピノン 「そう。だからもっともっと水を大切に使ってね。水はみんなのものだから。じゃあ次は海へ移動するよ。」
碧 「うわぁ…海だ。久しぶりだな。」
ピノン 「海の水はしょっぱいよね。何でしょっぱいか分かる?」
碧 「そりゃあ、塩が溶けているからでしょ?」
ピノン 「その通り。海水1リットル当たり、塩化ナトリウム(NaCl)23.45g、塩 化マグネシウム(NaMg2)4.98g、硫化ナトリウム(Na2SO4)3.92g、塩化カルシウム(CaCl2)1.10g、塩化カリウム(KCl)0.66g、そしてこの他50種類以上の微量元素が含まれているんだ」
碧 「そんなに色々な物質が溶けているなんて知らなかったな。」
ピノン 「ここに、水の驚くべき秘密が隠されているんだ。実は水には、あらゆるものを溶かし、取り込む性質があるんだ。降った雨が川を流れ、海にたどりつく間にこんなにたくさんの物質を溶かしこむんだ。ガラスのコップだって溶かしてしまうんだよ。」
碧 「コップも?!信じられない!」
ピノン 「そして海といえば“海洋深層水”。太陽の光が届かない水深200メートル以下の海水のことで、細菌などをほとんど含まず、リン酸塩など無機栄養塩類を豊富に含んでいるんだ。カルシウムやミネラルなどもバランスよく含まれていて、魚介類の養殖や飲料水の生産など水産・食品分野を中心に活用されているんだ。」
碧 「名前は聞いたことあったけど…スゴイね、海洋深層水って。」
ピノン 「実は、物質を溶かしこむ性質は碧ちゃんたち人間が生きていくためにも不可欠なんだよ。」
碧 「どうして?」
ピノン 「人間は食事をするよね。胃や腸で消化された栄養分は水に溶け、血液の流れに乗って体中に運ばれる。同様に、いらなくなった老廃物は水に溶けて体外へと排出される。人が生きていくために、水は重要な役割を果たしているんだ。」
碧 「人と水とは、切っても切れない関係なのね。人体の70%は水だしね。そういえば今日見たビデオの中でも“人間は歩く水溜り”って表されていたな。」
ピノン 「でも今、人間は水をめぐって深刻な状況にあるんだ……」
碧 「スゴイ!私、空を飛んでる!」
ピノン 「下を…見てごらん。」
碧 「川や海がゴミでいっぱい…」
ピノン 「そうなんだ…僕たち水は、君たち人間の手によって汚されているんだ。悲しいことにね。」
碧 「私、家の周りに川や池が無かったから、こんなことが起きてるなんて気がつかなかった。」
ピノン 「水は、安らぎや喜び、楽しみを与えるものでもある。でも、もし、このまま汚されつづけたら…」
碧 「そんなのダメだよ。私、綺麗な水を取り戻したい。ううん、水だけじゃない。美しい自然をいつまでも残していきたい。」
ピノン 「でもね、水の問題は日本だけじゃない。世界各地に広がっているんだ。」
碧 「世界中に…」
ピノン 「主なものは、水をめぐっての紛争・水汚濁・水不足・汲み上げ過剰による地下水位の低下・洪水の増加なんだけど、これらの被害を被っているのは発展途上国の人々なんだよ。」
碧 「私たちはどうすればいいのかな…」
ピノン 「世界的に広がる大きな貧富の格差を無くすこと、じゃないかな。途上国では下水道等の衛生設備が充分でないんだ。だから、碧ちゃんたち先進国の協力が必要なんだ。それと、後進国のボトムアップをはかることも大切だと思う。」
碧 「自国の利益だけを追い求めてはいけないね。もっと世界に目を向けないと。」
ピノン 「うん。それに、地球上でそのまま飲める綺麗な水のほぼ全ては、日本や欧米などの先進国にあるんだよ。」
碧 「それなのにミネラルウォーターを買ったり浄水器を使ってるなんて、何かおかしいね。」
ピノン 「そうだね。水に恵まれていることを、そして恵まれているにも関わらず何故ミネラルウォーターや浄水器を利用しなければならないのかということを再認識する必要があるよね。じゃあ次は港に行ってみようか。」
碧 「各国から輸入された農作物・畜産物・工業製品でいっぱい。」
ピノン 「碧ちゃん、“仮想水”って言葉聞いたことあるかな?」
碧 「仮想、水?」
ピノン 「そう、仮想水。食料・工業製品などを通じて世界中から間接的に輸入している水の量のことを指すんだけど、実は日本は仮想水輸入量が世界一なんだ。その数値は年間744億トン、国民一人当たりに換算すると年間600トンにも達するんだ。」
碧 「そんなに多量の水を?」
ピノン 「日本は水に恵まれていると言われつつも、日常生活は世界の水資源に支えられているんだ。」
碧 「初めて知ったよ。ビックリ…」
ピノン 「具体的に農業・畜産業でどのくらい水が必要かというと、とうもろこしでは可食部の重量当たり1000倍、大豆では2400倍、また豚肉では精肉比に対する重量比で6000倍、牛肉では何と22000‐25000倍もの水が使われていることになるんだ。」
碧 「そんなに水を消費してるの?!じゃあ、輸入量を減らせばいいんじゃない?」
ピノン 「それが一番望ましい…けれど、国によって情勢や政策は異なるから、それを実現するのはかなり難しい。」
碧 「そんな…」
ピノン 「でも身近なことでできることがある。不必要な食消費を減らして、残飯の量を少なくする。これが仮想水の問題に僅かだけれど結びつくんだ。」
碧 「それなら取り組みやすいね。今日からでも実行する。」
ピノン 「ただ、心に留めておいてほしいのは、ただ無駄を無くすだけではダメだということ。仮想水のみならず、日常生活での水の絶対量というものを考える必要がある。世界の水の恩恵を受けている日本が、グローバルな水問題を解決するためにリーダーシップを取っていかなければならないと思う。それじゃ、そろそろ戻ろうか。」
碧 「ふぅ…何か喉が渇いちゃった。」
ピノン 「ハイ、どうぞ。」
碧 「ぷはぁ…おいしい。」
ピノン 「コップを見てみて。水に氷が浮いているでしょ。」
碧 「それがどうかしたの?」
ピノン 「実はこれも水の特異性の1つなんだ。水は4℃で密度が最大となり、それを境に密度が小さくなる。だから固体である氷が液体である水に浮くんだ。他の物質では固体は必ず沈んでしまうんだ。スゴイでしょ?」
碧 「氷が水に浮くのって当たり前じゃなかったんだぁ。水って不思議なものなんだね。水に対する見方が変わった気がする。」
ピノン 「それは良かった。それじゃあ僕はそろそろもとの世界に帰るよ。」
碧 「水について色々と教えてくれてありがとう。私、これからは水とより良い関係を築いていく様に心掛ける。一滴の水から化学的・物理的なことだけじゃなく、人とのつながりや世界のことまで考えられることが分かって本当に良かった。」
ピノン 「水は循環物質だということを忘れないで。汚せば必ず自分のもとに返ってくる。日本の水と世界の水を守ることは密接に結びついているのだから……」
そう言い残してピノンは消えて行きました。
碧 「う〜ん…よく寝た。あれ?今まで誰かと話していたような…」
碧の母 「碧、そろそろ御飯よ。」
碧 「ハーイ。ねえねえ、お母さん、今日水についての授業があったんだけど、水って実は不思議な物質なんだよ。例えばね…」
かくいう私も、授業で新たな水の側面を見る度に、授業後に友人に話したり、帰宅してから家族と語ったものです。水―近い存在であるがゆえに知らないことがたくさんあり、自分の中の“水観”というものが変わった気がします。
<参考資料>
「みんなでエコ社会」 東京新聞 朝刊 2003.1.19
「世界と水―水問題編」 http://wwwf3kyo.com/world/index.html
「世界と水―水紛争編」 http://wwwf3kyo.com/world/index2.html
「水の不思議」 http://city.kobe.jp/cityoffice/51/kids/wonder/index_1.htm
「海水はなぜしょっぱいの?」 http://j-muse.jp/tanken/vol1/sio/
「海洋深層水ってなに?」 http://www.ms.jp/what_html