水の化学的特性と地球環境維持における重要性

 

「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」という考えは端的に言って誤っている。では、その誤りはどこにあると言えるのだろうか。それは「水には注目すべき点は何もないという」思い込みである。このレポートは彼にそのような認識がなぜ誤っているといえるのかを説明し、その後(彼はきっと水というものを軽んじているであろうから)水の重要性を彼に啓蒙することを目的とする。

なるほど確かに、彼が考えているように水は「無味、無臭、無色透明」であるかもしれない。しかし、いったいなぜそれが「物理・化学的に特に注目すべき特徴もない」となってしまうのであろうか。一体、この地球上に水のほかに「無味、無臭、無色透明」な物質などあるのだろうか。少なくとも私はそのようなものを水意外に知らない。この一点をとっても水の特殊性がうかがわれるであろう。水には他にも多くの「物理・化学的」な特徴がある。例えば、水は地球上で唯一その固体(氷)が液体(水)に浮く物質である。どういうことか。水以外の物質は温度の低下に伴ってその密度を増していく、要するに重くなっていくのである。水も摂氏4度までは他の物質と同じく冷却によってその密度を増していく。しかし、温度が摂氏4度よりも低くなるととたんにその密度は減り始める。これにより水は氷に浮くわけだが、この様な性質を持つ物質は水だけである。また水はその分子同士の強い結合により強い表面張力を持つ。これはコップにいっぱいの水を入れてもふちで盛り上がってこぼれないといったことの原因となっている性質である。分子同士の強い結合は毛細管現象の原因にもなっている。他にも水は多くの珍しい性質を持っている。ではなぜ彼はこの様な性質の数々にもかかわらず水を「物理的・化学的にも特に注目すべき特徴もない」と考えてしまったのだろうか。それはおそらく彼の「(水は) この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」というにんしきにある。

どういうことか。確かに水はこの日本のどこにでも存在する。おそらく、そのことにより彼にとって水はあまりにもありふれたものとなってしまっているのだろう。しかし、考えてみればどこにでも存在する物質というのは水くらいのものである。それゆえに現在使われている単位でも水を基準に取ったものが多くある。そしてそれだけでなく、おそらく彼はその事実に気づいていないであろうが水は彼の生活の成り立ちに置いてそして人類のまた地球ありかたにおいて非常に重要な役割を果たしている。以下では水の持つ役割について地球規模の視点のもとに考察する。

 

自然界には河川、湖沼、地下水、氷河など様々な形で水、真水が存在している。地表に落下した降水は斜面を流下して集まり河川を形成し、そして河川から海へ流れ込む。その過程のなかで、時に水は地下に浸透してゆっくりと流れ、湧泉として姿を地上に現し、その後河川へ流れ込んだりもする。その後、海面からあるいは地表面から蒸発し、大気中に戻り、また降水として地表面に落下する。量的にみると、地球上に存在する水のうちのほとんどは海水であり(96.5%)、続いて雪氷、地下水、湖沼、土壌、大気中、河川の順に多く存在している。

 

人間の体の中で血液の流れが重要であるように、地球上の水の流れは人間活動にとって重要な意味を持っている。地表付近で水はその姿を液体から水蒸気に変えて、熱を運ぶ。また、山に降るほとんど蒸留水に近いきれいな雨は、山の斜面を流れ、あるいは地下に浸透して、いろいろなミネラルを溶かし込み、川を流下して海に入る。時には激しい雨が降り、濁流、洪水となって砂や、大きな岩をも運ぶ。その過程で、我々の人間活動が出す不要物、廃棄物を海まで運び出してくれる。水は流下する途中で、あるいは海に出てから、大気中に蒸発する。そして大気の流れとともに移動し、凝結、降水となってふたたび山に雨となって降ってくる。この流れがあるからこそ、我々の生活が成り立つわけであり、汚れたものを海洋に排出することができる。この循環は地球表面が常に変化し続けていることを意味し、その動き、循環の中で我々人類の生存が可能になっているのである。

 

廃棄物は、海洋で、あるいは地表面から海へ流れ出る前に、「分解されるもの」は分解されることになる。しかし「分解できないもの」あるいは「分解が間に合わないもの」は海洋中あるいは地表面に蓄積されることになる。有害物質が分解できないであれば、それは蓄積されることになり、病(環境破壊)となる。水循環系を破壊することは、われわれ人類にとって、まさに命取りとなりかねない愚挙であるといえよう。

 

ここでこの循環のメカニズムについてもう少し詳しく説明する。水の循環の原動力は何か。いうまでもなく蒸発現象に不可欠な熱エネルギーの供給である。その太陽エネルギーは地表面の形態を反映し、赤道付近では真上から日射を受け、極に近い地方では地平線に近い角度から日射を受ける。そのため赤道地方では単位面積あたりの地表面が受ける熱エネルギーが多く、極地方では少ないことになる。その結果生じる温度差を解消する方向に熱の流れが生じる。それが海洋大循環であり、大気大循環である。大気大循環に伴って熱帯雨林地域や砂漠(中緯度高圧帯)が形成されることになる。温度の地域差が生じ、それを解消させる方向に流れが生じる。その水循環の過程で水現象の地域性が生じることになる。大気循環、水循環の原動力となるエンジンに相当するものは「太陽」ということになる。

 

水は0℃以下に温度が低下すると固体(氷)になり、100℃を超えると気体(水蒸気)となる。その相が変化する時に、融解熱、蒸発熱が必要となる。そのことが、地表付近の温度変化をやわらげる、クッションのような効果を発揮する。また相が変化するときにその体積が変化する。液体から気体に変化するときには約22倍に、また液体から固体に変化するときにも若干の変化が起こる。前者は火山の水蒸気爆発など、後者は凍結融解による風化現象の促進効果などにその影響が表れる。

 

水循環の場は大気中と地表面、それも比較的浅い地下が中心と考えてよい。大気との関係では水の分布が気候や気象に大きな影響を与え、また熱の分布、移動が水の分布にも大きな影響を与えている。また地表面との関係でいえば、地表の形態は水によって浸食、あるいは堆積現象が引き起こされ、それによって多くの地形が形成されている。さらに表層の地質は、もたらされた水が地下に浸透する場合と、浸透しない場合とでは河川への水の出方が変わってくるし、逆に、水の出にくいところには河川、水系は発達しにくい。さらに地下に浸透した水は火山地域においては熱の供給を受け水蒸気爆発を引き起こすことにもなる。また、地下水の存在量の変化が火山活動に影響を与えるという考え方もある。

 

 今まで見てきたことからわかるように水の存在は他の諸々の地学現象と相互に作用を及ぼしあう関係にあるといえ、地球惑星科学の中でも重要な位置にあるいえる。しかし、その重要性は地球惑星科学の領域内にとどまらない。水は我々の体を構成する物質の中でも最も量的に多いものの一つであり、かつその水は絶えず入れ替わっている。したがって我々は環境から常に水を新たに口にしなければならない。人は水なしでは一日たりとて生きてゆけないのである。

 

以上見てきたように彼の認識に反して、水は非常に珍しい性質を持つ。また、水は人間の生活や地球環境の維持にはなくてはならないものである。確かに今現在日本には豊富な水があり、節水などめったに起こらない。しかし、そのような環境のもとで水に対する興味等を失いその重要性を見誤ることは避けなくてはならないだろう。

 

 

参考資料

立正大学地球環境科学部水文学研究室

http://risgw3.ris.ac.jp/~ysuzuki/index.html

 


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