◎ 高校生に水を語る 

 

 

あ、ちょっと、ゆうこ!またあんたは水流しっぱなしにしてるのね?!

そうやって歯を磨いている時もそう、洗い物している時もそう、シャワーの時もそう。水の大切さってのを、分かっちゃいないんじゃない?

え?「水は無味無臭、無色透明だし、物理・化学的にも注目するにあたらない」?しかも「地球上にどこにでもあるありふれた物質」だって??

高1にもなって妹がそんなこと言ってるなんて、お姉ちゃん悲しいわ・・。

よし!こうなったら今日は私があんたの「水の常識」を覆してみせるわ!

 

◎ 水は無味無臭か?

ちょっとその水道水一杯飲んでみようよ。ゴクゴク。じゃあエビアンも一杯。どう?何か違わない?「エビアンの方が美味しい」って?多分、それは私たちがイタリアでミネラルウォーターに慣れてきたからかもね。でも、そうやって「美味しい」ってことはゆうこの言う様に「無味」ではないってことじゃない?

 お、反論しない。珍しいわね。だけど!!実はこれは水に味があるってわけじゃないんだな!この「味」は、実はミネラルの味なの。まぁ、その名の通り、「ミネラルウォーター」って言う位だから、ミネラル分を蒸留水なんかよりも多く含んでいる、または添加して調整してあるのよ。だから、実はゆうこが最初に言った「水は無味」っていうのは間違っているわけじゃないのよ。

 じゃあ臭いはどうだろう?よく、私たちがイタリアにいる頃、「水がカルキ臭い」とか聞いたわよね?これも、結局は水の臭いではなくて、カルキ成分の臭いだったのね。だから「水は無臭」っていうのも、実は当たりでした!

 

◎ 水の特殊性、異常性 

純粋な水と溶解力

「なんだ、じゃあやっぱり特徴ないんじゃん」?そう思う?!実際、私たちの生活を取り巻く水の中で「無味無臭で無色透明」な水なんてある?水道水にしろ、ミネラルウォーターにしろ、川の水にしろ、カルキやらミネラル分やら入っていたり、濁っていたりするわけじゃない。無味無臭で無色透明な、純粋な水がどうしてなかなかないんだと思う?

 

 これにはね、水の特徴でもある大きな「力」が関係しているの。

 「溶解力」、そう何かを溶かす力。水には他の液体よりも多種類の、多量の物質を溶かせる力があるの。身近にはないけれど、人工的につくった、異物が最小限しか含まれていない純粋な水のことを「超純水」っていうんだけれど、なんとそれをガラスのビーカーに入れると、どんどん純度が下がっていくの。つまりね、超純水がビーカーのガラスを溶かし込んでいるんだって!ガラスだよ、ガラス。私もこれにはビビったわ。そう考えると、水道水とミネラルウォーターが味も臭いも違う理由が分かるし、どちらもいわば「水溶液」なんだね。何も口に含むものだけじゃなくって、私たちの体にもこういう「水溶液」が流れているんだよ。そう、血液!酸素や老廃物を溶かしたり排出したりして体中を循環して、この微量に溶けたいろんな物質が私たちの体の調子にいろいろ影響及ぼすわけよ。

 

 表面張力

他にどんな力があるかって?あと大きいのは「表面張力」だね。あ!ちょっと待ってて・・・(ワイングラスと紙を持ってくる)・・・。

 ♪ちゃらららららら〜〜〜〜コホン、え〜、ではこれからあなたに不思議なマジックをお見せしましょう!この水が入ったワイングラスにこの薄っぺらいただの紙でふたをします。そうして、逆さにして紙を押さえていた手を離すと・・・!ほら!紙が落ちなーい。あ、あんまり驚いてない・・(凹)。えー、でもよく考えてー、不思議じゃない?!まぁ、これに水の表面張力ってのが関係しているんだけどね。まぁそんな不思議に思わないかもしれないけれど、このワイングラスを水で満たしていくよ?ほら、ぎりぎりのぎりぎりまで・・・。ね、グラスの淵を越えても、水がぱんぱんに膨らんだみたいになってとどまっているでしょ?化学でやったかもしれないけれど、物質には分子間力ってのがあるわけね。分子間力、液体の場合その液体の凝集力が大きな液体ほど、こうやって大きな球になれるの。水は全ての物質の中で、水銀に次いで2番目に表面張力が大きいんだってよ!この表面張力の力で、毛管っていう細い管による水の移動も可能らしい。ほら、すっごい高い木のてっぺんまで水が通って、栄養やら酸素やら運んでいることを考えると、その凄さがわからない?

 

 密度

他にも水特有の特徴はたくさんあるんだよ。普通の物質と大きく違うのは、液体から固体になると密度が小さくなるってこと!氷が水に浮くのなんて、当たり前だって思っているかもしれないけれど、これだって凄い特殊なことなんだよ?北極の氷山が浮いているのは、結局この特徴のおかげなんだからね。

 

 比熱

あと、比熱が非常に大きいっていうのも挙げられるね。これはつまり、水が温まりにくく、冷めにくいってこと。んー、じゃあここでクイズ。地球上の最高温度と最低温度はどれくらいか知っている?お、雑学王、張り切りだしたな。まぁ、いい線突いてるけど、正解は最高が87℃(@テヘラン)で最低が−80℃(@南極)。じゃあ、海水の最高温度と最低温度はどれくらいだと思う?-30〜50℃?何が根拠か知らないけど、ブッブー。正解は最高が36度(@ペルシャ湾)で最低が−2℃!!ね、熱しにくく冷めにくいでしょ?このおかげで世界中の海は凍らずに済んでるんだよ!

 

そうだね、あと蒸発熱が大きいこと、融解熱も大きいこと、簡単な分子構造の割りに沸点が高いこととかが、水の大きな特徴、異常性だったりするのよね。

 

◎ 水はありふれたもの?

 ね?これで水がどんなに特殊で、異常な物質かわかったでしょ?!もう「特徴ない」なんて言わせないよ。

 え?なに?「でもどんなに異常でも、そこらじゅうにあるから結局は異常でもなく、ありふれた物質ではあるじゃん」だって?

・ ・・甘い。甘い!!

確かに日本だと、蛇口をひねれば勢いよく水もお湯も出てくるし、「湯水のように」なんていう贅沢な言い回しもある。だけど、世界中を見渡すと水を取り巻く環境は危機的な状況に瀕しているんだよ。世界の5人に一人(12億人)は安全な水を確保できずにいるし、その上水質の悪化もあり、世界の半数近くは不衛生な状況下に暮らしているんだって。それにこれから世界的な人口増加、途上国の発展による生活水準の向上で、ますます水の価値は上がってくるだろうといわれている。

その上、地球上には限られた水資源しかない。あんたはあれだけ大きな海みたいなダムがあるから水は再現なくあるものだと思っているかもしれないけど、実際世界中の水、1384x1000000立方Hの内、比較的使いやすい河川・湖沼の淡水はたったの0.01%しかないんだよ?!この0.01%を巡って21世紀には水紛争が多発するって専門家の間で考えられたりもしている。実際ナイル川やガザ地区でもう水を巡る紛争は起こっている。そんなこと知っていた?水のように生活に密着したものを巡る争いは、より対立を深めてしまう可能性を持っていそうだから、かなり懸念される問題だよね。

この世界中の水の不平等な分配と限られた水資源を考えると、ちょっとおいおい水を無駄に使うことははばかられるよね・・・。

じゃあ、私たちは具体的に何ができると思う?

そう、さっきのゆうこみたいに歯磨きの間水を流しっぱなしにしないこと、こまめに蛇口をとめること、お風呂の残り湯を洗濯につかうこと・・・水って身近な存在だけに、私たちが気をつけなきゃいけないことも身近にあるんだよね。ねぇ、例えばさ、学校のトイレで音消しの為に二度水を流してたりしない?あ、やっぱりそう?私もさ、今まで結構やってきたんだけれどあれって一回流すたびに10~15Pもの水を使うんだって。ペットボトルで考えてみ?20~30本の500mlペットボトル無駄にしてるんだよ?それ知ってから二度流せなくなったわ。

水って地球が生まれたときからあったものなんだって。地球誕生って言ったら46億年前だよ!地球誕生を1月1日とすると、人類誕生はナント12月31日の午後10:03!こう考えると、想像を絶する長い時間、水は地球に存在してきたんだよ。それも雨となり、河となり、海となり、水蒸気となって、雲となり、そしてまた雨となる、その大循環をずっと繰り返してきた。それに比べて人間は水と比べたらほんっとにまだ生まれたての赤ん坊みたいなもので、この水の大循環のサイクルに組みこまれている一動物でしかないのに、誕生して2時間弱でこの大サイクルを狂わすような罪を犯してしまっている。水質汚染にしろ、干ばつにしろ、地球温暖化にしろ、人間のしてきたことが引き金になっていることは疑いようがないのだから。

まず私たちが確認しなきゃいけないのは、人間は水の大サイクル、または生態系の中の一つの要素に過ぎないということ。そして発展と称して、46億年生きてきた自然を破壊してきたという自覚。この自覚を持って、これからの地球を考えたら、自ずと自分達がしなければいけないことに気付くよね?

 

これで大体、今までの水の常識、考え直せた?お姉ちゃん、意外と物知りでしょ?!見直した??え、どうせ誰かの受け売りでしょ?・・・って・・えっと・・まぁ、確かに私も偉そうなこといって大学入って、初めて水についてこんなに知ったし考えたんだけど、あんたみたいに高校の内から考えときたかったな、と思ってさ。これから私たちの世代で何とかしたいじゃない?だから、とりあえず今日から節水節水しよう!

 

<終わり>

 

参考資料;

世界の水問題 http://www.idi.or.jp/vision/wwv-02.htm

世界水フォーラム http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/wwf3/index.html

身体にいい水、美味しい水 http://www.mew.co.jp/kurasi/sumai/mizu2.html

そして吉野先生のたくさんの授業プリント、講義、ビデオより

 


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