水との共生

   ―関心・知識・態度・参加―

 

                          041392  関 麻衣

 

汾の惑星

 宇宙から見る地球は蒼い。なぜなら、この惑星では水が液体として存在することが出来るからです。太陽からの距離と地球の質量がその偶然を生み出しました。また、生命は原始の海つまり、水から発生しました。すなわち、私達を含め地球上の生物は45億年前の偶然を前提に存在していると言うことになります。水は地球上のあらゆる生物を支えると同時に,大気・海洋・地上の自然…、生物を取り巻く地球環境全体のバランスをとり続けています。水循環を、順を追って眺めながら,暫し地球の営みに思いを馳せてみて下さい。

 

 ―水循環のしくみと自然の浄化作用― 

@ 地上へ降雨・降雪
A 土壌浸透(バクテリアが浄化・ミネラル添加)・森林が保水(渇水緩和・洪水防止)    
B 川・地下水として下流へ
C 海に到達
D 蒸発し、雲を形成・大気中を移動       
E 再び雨として地上へ(大気のごみやCo2を含むものの、淡水に浄化されている) 

 

 地球上の生物は、特に人間はこの水循環のさまざまなポイントで、水の恩恵を受けています。(地球上に降る雨は年間100兆トン。そのうち人間が利用できるのは20%まで。)雨が降らなければ植物は光合成を行うための水を得られず育ちません。食物連鎖を考えると,植物が生えなければ肉食動物も生きては行けないことが分かります。農作物も成長せず食料はなくなります。人間以外の生命を人間の食料とのみ捉えているように聞こえかねませんが、人間の視点に立った場合の例をここではあえてあげているのであって、自然を人間が支配しているという視点を支持しているわけではありません。人間はあくまで自然の一部だということは大前提として話を進めたいと思います。

 次に、川が干上がった場合はどうでしょう。水辺の生態系が崩れ、周囲の自然も失われます。湖も池も川と同様です。それらに地下水を加えて,人間の日常生活に必要な水の調達源として捉えた場合、深刻な事態を予想することはそう困難ではないかと思われます。飲料・洗濯・水洗便所・洗面・風呂・掃除…日本人の生活を基準にして水利用の用途を並べてみましたが,飲料用水がなくなってしまっては世界中どこで生活をしていようとも、生命維持自体ままなりません。体内の水分の2%を失うと渇きを覚え,5%ではめまい、さらに12%で死に至ります。体の70%が水分である私達にとって水がないと言うことは重大な危機となりうるのです。

 最後に,海です。海がなくなってしまったら…。そんなことはありえないと思うかもしれませんが,海が汚染され,本来の海の機能が失われることを想像してみてください。いくら海が広くて大きいといえども、その浄化作用にも限界があります。海洋生物の絶滅は避けられないこととなるでしょう。珊瑚がCo2を炭酸カルシウムにすることも出来なくなり、温暖化が加速するかもしれません。しかし、本当に海がなくなったとしたら…私達は月と同じ寒暖の差に適応しなければならないということになります。昼110度、夜−180度。細胞も酵素もそのような温度では機能し得ません。

 

 水がなくなることをimageするとその働きに気づくことが出来ます。人間を中心に見ていくだけでも水が多くの恵みを私達に与えていることを感じ、その重要性を知ることが出来たのではないでしょうか。次は、その水の働きをいかに私達人間が妨害し,汚染しているかということを中心に水を巡る問題を取り上げます。

 

深刻化する水問題

 ―人間活動と水循環 

・ 森林伐採:保水作用を失うことで洪水が起こりやすくなります。表面流出の割合も,森林より裸地では約2倍高く、浸透作用が損なわれることから,地下水が枯渇します。川が急流になることとあわせて、水利用が困難になるでしょう。

 ダムを建設することで解決を試みることが多くありますが,自然を完全に調節することは困難です。ダムの決壊を恐れて放水過剰を起し、下流に水害が生じる、あるいは過少放水によって河口近くの塩分濃度があがってしまうなど、建設自体に伴う環境破壊のリスクとダムのもたらす恩恵とのバランスは必ずしもとれていると言い切れません。

  森林資源を過剰消費したために砂漠化に至った地域はかつて文明が栄えた場所であったことが多にしてあります。開発が水資源の枯渇を引き起こすことは歴史を振り返れば明らかなのですから、その悲劇を食い止める努力を続けなければなりません。現在でも塩害に悩む砂漠地帯では緑化の試みが続けられており,森林資源の保水能力に期待が集まっていることが見て取れます。

・ 農薬使用・工場からの廃棄:公害という形で発覚することの多いこれらの水質汚染は海に流れ込むことで巡り巡って人体に多大な害を与えることがあります。プランクトン→魚介類→人間という食物連鎖の中で,毒素が生物濃縮されるからです。

  水質汚染は人間に限らず、水に関連する生態系に直接的な害を与え、時に特定の生物種を滅に追いやることもあります。

・ 都市化:コンクリートやアスファルトに地面が覆われることにより、土壌の浄化作    用や浸透作用がさまたげられます。前者は有機物を含め,ごみがそのまま河川に流れ込み、汚染を引き起こします。後者は、地下水の枯渇を招き,水循環を大きく妨げることとなります。

 

  以上で物質文明の発展は水循環を断ち切ることで成り立ってきたと言うのも強ちうそではないことが見て取れたことと思います。自然のバランスをくずすことは、他の生物種の生態を脅かすのみならず,間接的であるにしろ,巡り巡って人間に害が及ぶことになるのです。

 

―国家・民族対立の火種

・ 中東では水資源の獲得を巡って国家間の溝が深まっています。

インドとバングラデッシュはガンジス川を巡って協定を結んでいる(The Worldユs Water)そうですが,天然資源を巡る国家間の対立は、概して深刻なものとなりがちです。水資源に特定されるものではありませんがルワンダでのツチ族とフツ族の内戦も人口と資源のバランスがとれず,土地の奪い合いが元となってあれほどの対立を起こしたと言われています。(Graphication)

水資源に関しても、生命維持に深く関わり,経済活動にも大きく寄与している資源としての価値を考えれば、戦争や内戦の一因となりうるのは避けられないでしょう。

・ Developed vs. Developing Countries

京都地球温暖化防止会議でも明らかであったように、発展途上国と先進国間での環境問題に対する意見の対立は水資源の今後に大きく関わってくるでしょう。水資源の枯渇や洪水について、森林資源の伐採との関連をもとに、先進国の責任を問う声。発展途上国の大気汚染に関する監視の甘さによって酸性雨問題が国境を越えてくることを危惧する声。いずれにしても、開発や経済発展が資源消費を伴うのは避けられないことであり、過去にそれを行ったか、今から行うかという差において責任を押し付け合っている間は水資源を含め地球環境の保全への取り組みは草の根的活動で進めるしかないでしょう。  

  水資源の枯渇及び汚染は自然と人間の関係だけでなく、人間同士の関係をも左右します。Crisisだからこそ協力して問題の解決にあたる姿勢を各国間さらには私達一人一人が持つべき時にさしかかっていると思われます。そのためには水の利用を見なおすことに加え,行動につながる個人の意識の向上をはかることが必要となります。

 

。水との付き合い方

  現代人の水との付き合い方を見直し、自然と人間活動のバランスがとれていた過去に注目することから今後の水資源保全の方向性を探ってみたいと思います。また、自分と水との接点に思いを巡らせることで、自分を取り巻く個人的環境としての水資源の重要性を感じてみてください。

 

―利用から活用へ

・ 使い分け・再利用:一度利用するだけで海に捨てるのではなく用途に合わせて中水を活用する、また利用できる水(雨水・地下水)を活用する努力をすることが必要です。墨田区では、雨水利用が盛んに行われており,初期雨水をカットすること、及び収集容器に有機物が混じらないように注意することで,防炎用水・トイレの水洗用水などの生活用水をまかなうことが出来ることを実証しています。価格も三万円台から10万円以内で収まる雨水貯水装置が販売されています。

雨水利用も中水利用も、昔から、特に日本では自然に行われていたことです。水道が便利であるからといって過去の知恵が無効になることはありません。古い方法でも知恵を絞って自然に負荷の少ない生活を送ることが賢い生き方といえるのではないでしょうか。

  冒頭では、地球規模の視点から水の重要性を主張してきましたが、より個人的な視点    から水の保全の必要性を感じ取ることも大切です。動機付けは十人十色であって良いはずです。なにより関心を持つことがすべての始まりだからです。水が汚染、又は枯渇することであなたは何を失うのでしょう?ぜひimageしてみてください。そうすれば自ずと水資源の保全の方法を考えたくなることでしょう。

 

 ―水資源の確保にむけて

・ 水循環の復活:自然環境全体の保全・復活は結果的に、水循環の復活に結びつきます。水源及び河畔の緑化を進めることが水資源の枯渇を防ぎ、洪水を防ぐ等、防災上の利点にもなり得るからです。また、地下水系が汚染されないように監視することも必要です。アメリカではEPAという団体が合衆国中の水源の水質をモニタリングしています。自分が飲む水の水質に疑問を持つことから水との付き合い方を考え始めるというのもひとつの道です。

・ 政治・経済分野からの取り組み:日本では経済連が循環型社会をテーマに環境問題に取り組んでいるとのことです。市場経済と環境問題の関係はコストと自然への負荷とのはざまで今後も課題となりつづけるでしょう。(月刊keidanren)しかし、限られた資源として,sustainable consumptionの追究が望まれます。

政治の分野とは、国家間の水資源の保全に対するとり組みついてであり、環境保全に関する各国間の協定、発展途上国への環境保全技術の提供など国境を越えた協力のあり方は今後も模索されていく必要があります。

  私は、大好物のお豆腐が汚れた水で作られること、また、山裾を流れる川の済んだ色が見られなくなることを想像することで、水質汚染を防ぐ個人の活動に興味をひかれました。生命維持のための水分確保もままならない人が居るのに、不謹慎かもしれません。しかし、どれだけ行動するかということに重点を置くことがこれからの私達には重要ではないでしょうか。      

  地球的規模の問題に関心を払えないからといって、始めの第1歩を踏み出すことを恐れてはならないと思います。思い出の詰まった河川・海を汚したくないという思いを大切にしてください。同時に、目には見えなくても、私達一人一人が環境を汚している湖とを忘れてはならないと思います。汚したのが私達なら、元に戻す責任も私達にあります。直接、川や海の浄化に努力するのも良いでしょう。同時に、生活の中で水質汚染を防ぎ,節水することも最終的には川や海の保全につながるのです。

 

―地球を救う小さな1歩

・ 水をためて使う(歯磨き・洗顔・洗濯・洗車など)

・ 水の再利用(お米のとぎ汁は庭へ、土壌へ。お風呂の水は洗濯に)

・ 無駄に水を流さない

・ 生ごみ・油を下水に流さない(生活排水が水質汚染の大部分を占めています)

・ 石鹸の活用(お湯で洗えば食器はきれいになります。髪も石鹸シャンプーがお勧めです。)

・ 身近な自然の水を楽しむ(川・海・湖。私にとっては加茂川と琵琶湖でした。山登りをすることで、水源近くの水の流れを直接知ることも出来ます。)

・ 行政の開発計画に関心を持ってみる。

・ 企業の取水・排水の仕組みをチェックしてみる。

 

 最後の2項目は少々勇気が要りますが,地域でNGOを設立して定期的に監視することも出来るでしょう。生涯教育の一環として地域で勉強会が開かれていることも多くあります。環境にやさしい製品を探してみることは思いのほか楽しいものです。日本経済新聞の夕刊にもエコライフを勧める記事が連載されています。身近なところから出来るだけ自然にやさしいライフスタイルをcreateしてみてはどうでしょう。工夫することの面白さと大切さは、次の世代の人々にも伝えたいものです。私達の世代でその流れを絶ちきってしまっては行けないと思います。今回は詳細には触れませんが,環境教育について国家間の進度の差を調べてみても興味深いことでしょう。トリビシ宣言という環境教育の指針が日本の教育現場で活用されている例もみうけられます。

  今後も地球的規模・個人的視点の双方向から水との関わりについて考えながら、日々の生活の中で自然によって生かされている自分をしり、水との共生を叶えられるよう、小さな努力を重ねていきたいと思います。

 

参考文献   

「水と人間の共生」 大崎 正治 人間選書 1986年発行
「水とつきあう」  半谷 高久・加藤 辿編 化学同人 1983年発行
「水の世界」    B.Φ.デリプゴリツ著 堀江豊訳 ブルーバックス 昭和50年発行
エコフロンティア 1998年創刊号 京都大学生態学研究センター
関心・知識・態度・参加 ベオグラード憲章 1975 国際環境教育会議採択文
 
Water Crisis http://www.unv.edu/env/1999-ESD-Annual-Report.doc
The Worldユs Water http://www.worldwater.org/thebook2000.htm
Graphication 1998 No.96 ミ日本人の環境意識- 富士ゼロックス発行
墨田区 雨水利用 http://www.rain-water.org/invi.html
EPA http://www.epa.gov/OWOW/
月刊keidanren 2000年4月号 経済団体連合会発行
地球を救う小さな1歩 地球を救う127の方法・日本版1990 アースデイ神奈川連絡会
生涯教育    
 http://www.longlife.pref.shiga.jp/virtualtown/gakusyukan/environ/decla/
環境教育     http://qqq.sing.co.jp/kenkyu/knky03c.htm
図―1       水循環と水質変化
図―2       理想的な水循環の基本 半谷 高久


▲レポート一覧に戻る

▲元(講義資料)へ戻る