06/21/00

水 〜水への敬意(多角的な視点をとおして)〜

               H041407  志村岳彦 

 

 私は実に多くのことを講義から学んだ。ここでは、高校生と私の対話形式(授業中のおしゃべり)をとり、水への関心をさらに深める契機としたい。とにかく思い付くままに書いていきたい。そうすることにより、水に対する素直な感動が表現できるはずだ。ちなみに私は大阪人なので、時折大阪弁が出ることを御容赦願いたい。 
 以下、高校生をH、私をS(←志村のS)と表記する。
 尚、この物語はフィクションである。

 

ある日のこと、ICU高校生が吉野先生の授業を見学に来た。

 

授業開始前:

H:この先生、「水」に関する授業をされるそうだけど、そんなシンプルなものについて延々と語るなんて馬鹿げてるな−。ここはひとつ、内職でもして時間をつぶそう...。

S:こらこら、そんなことしたらもったいないでー。せっかくの貴重な講義やのに。

H:そう言うあなたは誰ですか?

S:おれは以前この授業を取って、「水」に対する考えが深まった者や。この授業を受ける前はおれも君みたいな考えを持つ者の一人やった。今の君の気持ちはよくわかる。

H:本当ですか?なんか信用できないな−。初対面なのに馴れ馴れしいし。

S:とにかく、君の批判的思考力をフル稼動させてこの講義を聴いてごらん。得るものは大きいと思うで。

H:(うっとうしい人だなー)ハイハイ、そうします。

S:じゃあ、まず君の水に対する第一印象を聞いておこう。

H:「水=シンプルな物質」。そんな印象しかありませんよ。

S:それが一番大事なことなんや。もっと詳しく聞かせてもらえる?

H:えーっ。そうですねー。水の特徴は「無味、無臭、無色透明で、物理・化学的には特に注目すべき性質もない」ということでしょうか。結局、水なんて地球上のどこにでもある最もありふれた物質なんですよ!

S:そこが「水」の面白いところやねん。君は今、死に物狂いで受験勉強をしてると思うけど、ほんまにその「最もありふれた物質」である「水」のことをよくわかってんのか?

H:と言うと?

S:受験で扱われる「水」は特に範囲が限定されてんねん。つまり、君たちは、「化学」という特定の科目で暗記や計算に追われてるということや。

H:そんなこと言われても、理系クラスに所属する僕としては、「水」と聞けば「自然科学」、なかでも「化学」を連想しますよ。

S:まだまだ甘いな。今日の講義は君にとって非常に興味深いものになると思う。自然科学はもちろん、社会科学、人文科学をも内包する「水」の性格について考えられるええ機会や。

H:それにしてもよくしゃべりますね。

S:すまん。だけど、伝えたいことの多さはわかってもらえるやろ?ちなみにおれは理系崩れのヒューマニや。だから、理系の良さも文系の良さもよく理解できるねん。あっ、授業始まるで。静かにしーや。

 

授業中:

H:実験を見せてもらったり、VTRを見たりと、なかなか面白い授業じゃないですか。

S:そうやろ、そうやろ。だけどこの授業の良さは、「人間と水との関係」を重視してるところにあると思うで。

H:例えば?

S:今日の授業では触れられないようやけど、野川にまつわる話題は興味深かった。野川を自然科学的見地からとらえるのも楽しかったけど、地域住民の環境保全運動といった社会科学的見地からアプローチするのも良い経験になった。物事をただひとつの方向から見つめるのは良くないということが身にしみてわかったなー。

H:ふーん、そうなんですか。でも、まだ「水はありふれた物質」という印象をぬぐえませんよ。

S:そんな君には「水の科学史」を辿ることをお薦めする。そうすることで、人間が如何に「水」に関心をよせてきたかということがわかるはずや。

H:「水の科学史」?

S:そうや。君にクイズを出そう。「万物の根源は水である」と唱えたのはだーれだ?

H:確か「ターレス」ですよね?世界史か倫理の時間に習った記憶があります。

S:すごい、すごい!よく覚えてるなー。感心するわ。だけど、あんまり深いことは習ってへんやろ?

H:えっ!?

S:つまり、「ターレス」という単語ばかりが気になって、遠い昔の「水」のとらえられ方については無関心やったやろ?

H:そう言われてみればそうですね。

S:水がなければ、生き物はどうなると思う?

H:間違いなく死にますね。

S:そのとおり。それが原始時代の人々にとっての基本認識やった。その後かなりの年月を経て、世界四大文明が発生することになるけど、ここで問題です。この四大文明に共通して言えることは?

H:うーん。そんなこと考えてみたこともないなー。ヒントくださいよ。

S:中国、インド、エジプト、メソポタミア。

H:ヒントになってませんよ!!

S:周りの環境を考えればええねん。

H:あっ、そうか。川ですね。しかも大河です。

S:ピンポーン!正解です。人間の生活には「水」が欠かされへんということがようわかるやろ?はるか昔から人間生活に根付いてきた「水」が、今、人間自身の手で汚されてんねん。つまり、日々の人間活動の結果が「環境汚染」という形でクローズアップされてることを意識せーへんとあかんなー。

H:なるほど、そういう「環境汚染」のとらえ方もあるんですね。

S:興味深いと思わへん?永年にわたり澄んでいた「水」が、今世紀の急激な科学技術進展により汚されてしまった。せっかく時間をかけて築き上げてきた「人間と水との関係」が、このことで崩されてしまうのはなんとも残念や。

H:やっぱり、科学技術は悪者なのか。そういうことを言われると、理系の人間として肩身が狭いなー。

S:いやいや、科学技術を一方的に責めたらあかんと思う。「環境汚染」を解決する方法として、科学技術が占める役割は大きいで。大切なのは、市民レベルの意識を高めることやね。

H:どういうことですか?

S:つまり、「水を敬え」ということや。さっき君が言ったように、「水」がなければ人間生活は成り立たへん。このことをどれほどの人間が意識してると思う?きっと、ごくわずかやで。「水」に対して少しでも敬意を払うことができれば、徐々に「環境汚染」はなくなると思うで。

H:その意見は甘くありませんか?

S:確かに甘いかもね。だけど、ひとりひとりの意識が高まれば、大きなムーブメントを起こせるはずやで。

H:なるほど。

S:「水」は事実上、単純な物質や。でも、その分、「水」を取り巻く状況は複雑極まりない。「自然科学、社会科学、人文科学」という多角的な視点から「水」を見つめることが大切やね。

H:うーん。感動しました。今後「水」に対する関心を強めていきたいと思います。本当にありがとうございました。

S:いやー、おれの言いたいことが伝わって良かったよ。なかなか話せる奴やなー。放課後一杯どう?水でも...。

 

授業後:

 二人の「水」に関する討論は果てしなく続いたそうだ。


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