2000年度 春学期 

サルでもできる環境保護の方法

                        匿名希望

 

 はじめまして。これは、「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」と考えている高校生のあなたに宛てた、私からの短い手紙です。

 

 突然ですが、世界中には水にかかわる様々な問題があるのを知っていますか?酸性雨や水質汚染は聞いたことがあるでしょう。世界には水不足が原因で「水戦争」が懸念されている地域もあるそうです。吉野先生のホームページに、学生による水問題のレポートがたくさん用意されているのでそちらを参照してください。いま、地球上の水が危機的状況にあることが分かってもらえると思います。

 

 さて、水の危機的状況を知ったあなたの反応はどうですか。酸性雨や水質汚染、水戦争なんて言われて、「それは大変だ!なんとかしなくちゃ!!」と思いますか?正直言って、この手紙を書いている私にはあまり実感が湧きません。雨に濡れて頭が禿げた経験もないし、蛇口をひねればきれいな水がじゃんじゃん溢れてくる。少なくとも、私の生活圏内では水に関する問題の存在に気が付かないでも日常生活に支障がないのです。これを読んでいるあなたも、水に関して切迫した危機感をそれほど強く感じていない(もしくは感じられない)というのが本音ではないでしょうか。

 

 今、私の手元には「地球を救う127の方法」というプリントがあります。「雨水を利用しましょう」、「排水処理場に行ってみましょう」、「安易な水源開発を食い止めましょう」といった、「私たちにできる環境保護の方法」が127項目にわたって紹介されているものです。しかし、環境に配慮した生活を送ることが大事なのは頭では理解できても、雨水をためておいてボウフラが大量発生してもいやだし、忙しくてわざわざ排水処理場に行く時間もないし、安易な水源開発を食い止めようにも、具体的に何をどうすればいいのかよく分からないよー、と思いませんか?実はこれは私の感想なのですが。笑

 

 確かに水(を始めとする環境全般)を守ることは大切ですが、私はあなたに「無理はしなくていいよ」と言いたいのです。はじめから大きな目標を立てると持続しません。我慢してまで生活を変える必要もありません。「ボウフラが湧いたらいやだなー」と思いながら雨水をためたって続かないでしょう。あなたにとって(環境によくないとされている)朝シャン(死語?)が3度のご飯より大事なら、無理してやめるのはストレスがたまって体によくありません。環境保護は「できる時にできる事をできる分だけ」やればいいのです。例えば使うシャンプーの量を1g減らしてみるとか、シャワーをいつもより30秒早く切り上げるとか、そのくらいなら自分にもできそうな気がしませんか?

 

 「それなら簡単にできるけど、そんな些細なことで守れる水の量なんてタカが知れてるよ」とあなたは思うかもしれません。確かに、こんなことで守れる水の量はごくわずかかもしれません。しかし、たとえ量は少なくても、「自分の何気ない行動が確実に環境保護に貢献している。環境保護は簡単にできるのだ。」ということに注意してください。簡単にできると思うなら、「できる時にできる事をできる分だけ」でいいから実行してください。非常に簡単なことでさえ、世界中の人間が1回ずつやれば約5,850,000,000倍のインパクトを持つのです。世界中の人が毎日1回ずつやれば、1年間で約2,135,250,000,000倍(!)にも達します。なんだかすごい数字だと思いませんか。

 

 「世界の状況に目を向ける」ことも環境保護のためには大事なことです。とはいっても、「水質汚染」や「水戦争」はあなたの身近には感じられないかもしれません。グローバルな問題にばかり注目していると、問題があまりにも大きいために、自分が無力に思えてきてよくありません。まずは自分の興味のあることからスタートしてみましょう。あなたは刺身や鮨は好きですか?2000年6月3日の朝日新聞の記事は、魚介類が環境ホルモンに汚染されている(?)というショッキングなネタを提供しています。「もしかしたら昨日食べた刺身が環境ホルモンに汚染されていて、明日になったら自分の体にブツブツができてるかも!」と考えると、問題がぐっと身近になった気がしませんか?ちなみに、これは例え話であって、魚介類を食べたからってブツブツができるかどうか私は知りません(笑)。興味があったら自分で調べて見てください。インターネットを使えば、ありとあらゆる情報が瞬時に手に入ります。

 

 最後に。もし近い将来あなたがICUに入ったら、一般教養科目は吉野先生の「自然の化学的基礎」を取ることをお勧めします。この授業は、毎回「水」に関する様々な話題を手を変え品を変え提供してくれます。「水」というトピックだけで1学期間の授業が成り立ってしまうという「水」の奥の深さも驚きですが、私がこの授業を取って何より感銘を受けたのは、世の中には「水」に自分の人生を懸けている人がいる(吉野先生のことですが)ということでした。

 

 これで私の手紙はおしまいです。ここまで読んでくれたあなたは、それだけですでに環境保護への大きな一歩を踏み出したといえます。さて、次にすべきことは何だったでしょうか?そう、できる時にできる事をできる分だけでいいから、環境のために簡単なことを何か実行すればよいのでした。私のメッセージがあなたに届くことを願います。最後まで読んでくれてありがとうございました。


▲レポート一覧に戻る

▲元(講義資料)へ戻る