NSIII
「水は特徴もなくありふれた物質」なのは当然である
041498 鶴留尚子
今まで水のことを深く考えたことがある人は、どれくらいいるだろうか。少なくとも私はほとんどない。考えたとしても、どの水がおいしいとか、そのくらいだろう。海や川や雨も水だが、それは各々海や川や雨として認識し、水という言葉は真っ先には浮かんでこない。水は身の回りあらゆる所にあり、色々なことに使われ、身体の中にもたくさんある。あらゆるところに存在しているが、しかしそれが、物理・化学的に特に注目すべき特徴がないということにはならない。水の化学的特異性は様々あり、それは人間などの生命に深く関わっている。
他の物質に比べて水が特異である点は、数多くある。水分子は一個の酸素原子と二個の水素原子が結合しているが、その角度は104,5度である。固体(氷)になると分子同士がつながるが、隙間が大きくなり、密度は小さくなる。このため氷は水に浮く。液体より固体の密度が大きい通常の物質とは逆である。そうでなければ冬、湖水は完全に氷結してしまい、生物が生きられない。水は比熱(1グラムの物質の温度を1度上げるのに必要な熱量)が非常に大きく、温まりにくく冷めにくい液体である。地球の一日にの温度があまり変わらないのはこの性質のおかげである。地球の7割は水(海)で覆われている。そのため、日の当たっている昼間も急激に温度が上がることなく、日の当たらない夜でも急に下がることはない。太陽からの距離が地球とほぼ同じである月には水がない。なので昼は110度、夜はマイナス180度にもなる。人間の体温が一定でいられるのも、水のこの性質による。
溶解力が大きいこともあげられる。水は他の液体よりも多種類、多量の物質を溶かす。そのために、人間の血液にも様々な物質が溶け、体内を運搬できる。海には92種類の全ての元素が溶けている。そして原始生命誕生の場となった。水をコップにいっぱいに入れ、こぼれそうでこぼれない状態がある。これは水の表面張力(液体の凝集力)が大きいためである。この力が、毛細血管のすみずみにまで血液を行き渡らせている。また、引力に逆らい、高い木のてっぺんにまで水に溶けた酸素、栄養をはこんでいる。
他にも、熱伝導率が大きいことで、生体内での発熱反応をすばやく周囲に伝える働きや、蒸発熱が大きいために、気温が上がっても、汗をかきその蒸発で熱がうばわれ体温があがらない働きなどある。
地球上ではありふれた物質であるかもしれないが、地球の外に目を向けると、水の存在は特異である。地球より太陽に近い惑星では、ガス状態、遠い惑星では氷になってしまう。距離だけではなく、大きさも関係している。地球より小さい月は重力が6分の1しかなく、水分子をとどめておくことができない。これでも水が特に注目すべき特徴もなく、ありふれた物質といえるだろうか。
しかし水が、無味無臭無色透明で注目されないのは、当然なのかもしれない。生命は水から生まれ、人間の体内の70パーセントは水である。人は水分をとらないと一週間と生きられない。人間は水に頼って生きている。毎日必ず様々な形で水と関わる。飲んだり料理を作ったり手を洗ったりという日常生活で直接触れるもの。家庭で使われる製品、プラスチックや自動車、新聞紙などを製造するために使われている水も大量である。雨も水であるし、水蒸気もそこらじゅうに漂っている。もしにおいなり味なりがあったとして、それが全ての人に心地よいものになるかはわからない。無味無臭無色透明であるからあまり意識せずに使える。水が無味無臭無色透明なのではなく、人間が水を無味無臭無色透明と感じるように発達してきたのではないか。地球上には水があふれ、人間はこれほど依存し、人間存在の基幹ともなる物質である。そんなあまりにも身近なものが存在感を発揮していたらわずらわしくてしょうがない。だから、水をなるべく自分と一体化するために、水を感じないようなしくみになったのだろう。そう考えると、水を「無味無臭無色透明で、注目すべき特徴もなく、ありふれた物質だ」と思ってしまうのは当然かもしれない。普通自分に一番身近なものを特異だとは考えないし、それを基準にしてしまうから、深く追求したりしない。
地球には水が約13,5億立方キロメートル存在している。これは水ができた太古から変わらず、ずっと循環がくり返されている。大半は海洋水であり、実際に使うことができるのは、このうちの0,01パーセントほどである。しかし現在世界では人口が急増しているうえに、汚染が進み、使える水は減少している。二十一世紀には水をめぐって紛争が起こるともいわれている。
そんななか、日本では1人1日当たり2530リットルの水を使用している。アメリカの6320リットルよりは少ないが、先進国でもドイツは1870リットル、イギリスは700リットルである。
水には様々な側面がある。
他の物質に比べると変わった点が多く、特異であること。無味無臭無色透明で、人間生活のあらゆる部分に関わっていること。身近ともありふれたとも言える物質であること。生命を生み、支えていること。
ここでは水に関していくつかのことを紹介した。これにより水に対し何らかの気持ちの変化や、興味や、そして行動が起こったとしたら、この話は意味を持つ。