NS III 自然の化学的基礎 2000年6月21日
命の水: 水、環境、気候と生命、種の密接な関係
031417 四宮 崇晴
いくら水を粗末にする者でも、「ならば水と縁を切って、水なしで生きろ。」と言われれば、しばらくするとたちまちのどが渇いてギブアップするだろう。それを実行できる者など誰一人としていない。また、水と縁を切っていると思い込んでいるときにも、人間なら誰しも常に水と深く関わっていて、関わっていない時間などありえないと言える。
ビッグバンによって宇宙が生まれ、太陽が生まれて地球が誕生し、初めて生命が誕生したのは水の中だったということはよく知られていることである。そのような生命体が進化して生まれた生物の一つである人間も、水なしでは生きられないということ、水は生命の宿る場所であるということは、容易に感じられるはずである。
ここで少し驚くかもしれないデータを挙げよう。人間の身体の60-70%は水でできている。ここからすでに、水を汚すことはすなわち自らを汚し、蝕むことであるということが分かるだろう。また、直接飲む水に限らずとも、水を汚せば食を通しても人間の体を汚す。人間の口にするものは全て、人間と同じく、水によって生きる生物だからである。目の前にあって今飲もうとしている水だけでなく、地球環境全体の水をきれいにしないと根本的解決にはならないということが分かるだろう。水を考えることは、生命を考えることだといえる。
水は生存に不可欠であり、深く関わっているが、それだけでなく、人間の生活にも密接に関連している。私たちの日常生活そのものや、生活を便利にしてくれる製品は、基本的に水の大量消費の上に成り立っている。水がなくなるということは、人間の生存の以前に、人間の生活がダメージを受けるということなのだ。このことは、数年前の渇水を思い出せば想像がつくだろう。水と縁を切るというなら、まずこの生活から縁を切ってもらわなければならない。
毎日の気象や人間を取り巻く気候、環境も水の作用そのものである。熱しにくく冷めにくい性質を持つ水が、川から海に流れ、蒸発したものが雨となって地上に降り注ぎ、これが自然の水の浄化作用になっているという水の循環はよく知られていることだろう。天気とは、この水の循環の一部であり、水の気まぐれな動きが織り成すものなのである。
水の循環を考える上で、地球上の水量が常に太古から一定であること、また地球上の水の97%は飲めない海水であり、自然が持つ、雨となって陸に降り注ぐ真水の供給能力には明らかに限界があるということに注目して欲しい。それにもかかわらず現在、人間は、この限りある水資源をさらに減少させるような行為を行っている。水質汚染もその一例である。
他の例では森林伐採が挙げられる。森と水は関係が薄いように感じられるかも知れない。しかし、多くの人間が利用する川の水を上流で蓄えているのは、人工ダムである以上に、またそれ以前に森なのである。森は雨の多いと気に水を蓄え、雨の少ないと気に水を安定供給する役割を、ダム以上に担っているのである。森が失われると、雨の多いときには川が氾濫し、雨が降らないと川の水量が激減し、環境が著しく損なわれることになる。
さらに、現在の地球環境は、海の水の地球的な大循環によって支えられているということが分かっている。海洋深層水の大循環がそれである。これは、北大西洋に始まり、喜望峰、オーストラリア南を経て日本付近まで深層を流れ、日本付近からは浅層に出て東南アジア、喜望峰、アフリカ西、ヨーロッパ西を通って北大西洋に戻る海水の大循環であり、一周2000年かかる。
北大西洋では、南から来る温かい北大西洋海流(この循環の最終段階)と北極から来る冷たい海水がぶつかり、質量の差で北極からの冷水が温水の下に潜り込む。これがこの水の大循環の原動力になっている。潜り込んだ水は太陽エネルギーの届かない深層を流れるため、日本付近で浅層に出るまで温度が冷たく保たれる。そして、浅層に出たのち、熱し易く冷めにくい水の性質により、本来なら暑すぎる東南アジアやアフリカを適度に冷やし、海流自体も徐々に温まりながらヨーロッパへと流れ、北大西洋海流となり、今度は本来なら寒すぎるはずのヨーロッパを温め、ヨーロッパ北部に至ってまた水の大循環の原動力となる。現在の地球の気候はまさにこの水の大循環によって保たれているのであり、その主人公は私たちが飲み、また私たちの一部である水と同じ、水なのである。
しかし、最近この水の大循環に異変が起きている。人間の活動による地球温暖化のため、北大西洋に北極から流れてくる水が以前ほど冷たくなくなっており、北大西洋での水の潜り込みが止まりつつあるのだ。1周2000年かかるため私たちの世代に直接問題は生じないとはいえ、人類という種にとってこれは大問題である。これは水の大循環の、すなわち現在の穏やかな気候の崩壊に直結するからだ。もしこの状態が続いてやがて水の大循環が停止すれば、熱帯地方が局地的に極度に温暖化して砂漠となり、一方ヨーロッパ地方が極度に寒冷化して氷河期のような状態になるかも知れない。将来人間が住めるエクメーネは急速に減少するだろう。人間が起こした環境の悪化が水に影響を及ぼし、それがまた環境に跳ね返り、さらにそれが人間という種に跳ね返ってくるいい例である。
このように考えると、水を考えることは生命を考えることであり、同時に生活や環境、種の生存を考えることでもあるということが分かる。そこで、水と生活を考えるとき、私たちは水を大切に使い、なるべく汚さないように気をつけ、環境保護にも努めることが重要になってくるだろう。水は気象や環境と相互に作用しながら、人間も含めた生命を育んでくれる。逆に、水を大量に消費し、水質汚染が進み、また環境を破壊し続けている現代の社会のあり方には問題が多いということに多くの人が気づく必要があるだろう。生命を育む水や環境を粗末にすれば、それらが相互に作用し合って生命を育むのを止め始めるのは明らかである。
環境もそうだけれど、特に水は結局私たちの一部であり、何よりも大切な生命のよりどころであり、生命のゆりかごなのだ。そうした自明のことを忘れたかのように進んでいる現代の人間世界の中であなた達(高校生)は生まれ育ったし、今もその中で生きているわけだが、水について私が話したことを通して、また、出来れば自分で調べて、その世界のあり方に疑問を投げかけて欲しい。そして、水に対する態度を日常生活の中で、まず自分から実行してもらいたい。さらに、そうした態度を、直接的であれ間接的であれ、友達や周りの人に伝えていくことが大切なのではないだろうか。
水の重要性
- 人間も含め、生物はみな水に依存して生きている。
- ご存知の通り、生命は水の中で誕生した。
- 人間の体の7割は水。
- 人間の糧も生物だから、全て水がないと得られない。
- 現代の人間活動にも水は不可欠。
- 生活
- 工業
- 環境、気象は水が作っている。
- 水は熱しにくく冷めにくい。
- 天気は水の動きによって決まる。
- ご存知、水の循環
- 水の循環の、清水供給能力には限界がある。
- 森は川にとってダムの役割である。
- 環境の変化は水の循環にじかに影響し、水の循環は環境にじかに影響する。
- 海洋深層水の循環が現在の地球環境を保っている。
- 起点は北大西洋。北極海からの冷水が温かい北大西洋海流の下にもぐりこむ力が動力になっている。
- 日本まで温度冷たく保ちながら深層を流れる。
- 日本から熱帯地方を経て北大西洋まで海面を流れ、一週2000年の一循環を形成する。
- このとき、この冷たい海流は暑い熱帯地方を冷やしながら温度を上げる。
- 温かくなった海流は寒いヨーロッパ地方を暖める。
- 海洋深層水の循環は止まりつつある。
- 地球温暖化により、北極海からの水が以前ほど冷たくない。
- 北大西洋で水のもぐりこみが減少したり、停滞したりしている。
- 地球の温暖化に伴う海洋深層水の循環の停止は地球の温度の均等配分を著しく損なう。
- 北部の局地的寒冷化
- 南部の局地的な極度の温暖化
- 住める場所[エクメーネ]を減らす方法
- 水を使い過ぎる
- 水を汚す
- 水の自然浄化作用。
- 水は究極の触媒。
- きれいな水を得ることの難しさ。
- 環境破壊
- 森林破壊→天然ダムの喪失
- 環境破壊→異常気象=水の循環の異常。
- 更なる環境の悪化を招く。