自然の化学的基礎 レポート

水がいかに人類にとって大事な物か>

 

98/11/18

ID 011291 中原 隆伸

 

 水は、決して皆さんが思っているような、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない物質ではありません。それどころか、水はきわめて珍しい物理・化学的特徴を持っており、そのきわめて珍しい性質が、実は我々人類、及び地球環境が存在する上で非常に役に立っているのです。また水は、決して地球上のどこにでもあるもっともありふれた物質などではありません。水は確かにこの地球上に大量に存在しますが、かといって決して「どこにでもある」存在ではないのです。今日は、水が持っている変わった化学的・物理的性質がいかに人類、及び地球環境の存在にとって大切な役割を果たしているかと言うこと、そしてその水が、今いろいろな原因から汚染されてきていること、の二点に絞ってお話ししたい、と思っています。

 

1 “水”と言う存在の不思議[水の物理・化学的性質]

 水は、非常に変わった性質をいろいろ持っている。例えば、その比熱の大きさである。比熱とは、「ある物質1gの温度をセ氏1度だけ高めるのに要する熱量。気体をのぞいた全物質の中で水の比熱が最高。」(広辞苑 第四版)と広辞苑に載っているように温度が上昇しやすいか否かの目安である。これが大きい、と言うことはどういうことかというと、“水は暖まりにくく、冷めにくい”ということである。他の物質とどのくらい違うかというと、水が1cal/gの比熱に対して、砂は0.23cal/g、つまり水の方が砂よりも5倍も暖まりにくく冷めにくい(砂の方が暖まりやすく冷めやすい)ということである。このことは、海の気温が陸の気温よりも変化が少ない、という原因になっている。この性質を持つ水が大量に存在しているという事実が地球で生物が誕生できた理由の一つである。なぜなら、地球上の表面積の3分の2を占める海において、その比熱の大きさのため、気温の変化が起こりにくく(熱しやすく冷めにくい)、結果として地球の大気温を生物にとって都合のよい温度に保っているのである。そのため、例えば海の影響を受けない上、近くに海や川もない砂漠などは、生物が存在していないのである。

 地球環境の面からだけでなく、人体にとっても水の比熱の大きさは非常に役立っている。人間の体内の約70%は水であるが、その約70%のおかげで、我々は夏の猛暑でも、冬の摂氏0度以下になるときでも体温を保っていられるのである。

 溶解能の大きさ、すなわち物質を溶かし込む能力が大きい、といった性質も見逃せない特徴である。水は、その溶解能の大きさのためいろいろな物質を溶かし込んでいる。例えば、海水にはNaCl,MgCl2,MgSO4などの物質が溶け込んでいるがこの性質が、生物が海で誕生した理由なのだ。約40億年前、生物が誕生した頃、海は“栄養塩”と呼ばれる、河から運ばれてきたいろいろな塩分が溜まっていた。この海水が膜を作り、それが始源生物、つまり最初の生物になっていったのだ。また、例えば人類の血液も水の溶解能の大きさのため、いろいろな栄養源(鉄分、塩分、カルシウムなど)を含んでいられるのである。

 水は表面張力も大きい。このことが、血液を毛細血管を通じて体中に行き渡らせることの出来る理由であるし、植物に重力に逆らっててっぺんまで水を持ち上げてくることの出来る理由なのだ。種子植物などの高等植物は、その葉で一日500gもの水を蒸散している。また、植物内の道官の中は、非常に強い水分子同士が引き合う力(凝集力という)のおかげで水で満たされている。このため、蒸散した空気がでていったあとの道管の中はすぐ土壌中からでていった分の水を吸収する。土壌中の水はいろいろな栄養分(無機塩類や有機物)を含んでいるから、植物全体に栄養が行き渡る、と言うわけである。

 そのほかにも、いろいろな性質で水は人類、及び地球環境を保つのに役立っている。水の蒸発熱の大きさ(つまり、蒸発するときに奪っていく熱量の多さ)のため、水の比熱の大きさからくる温度の上昇を防ぐ機能に加えて、我々は夏の暑いときでも汗をかくことにより熱を体内から逃がしているし、海は海水が蒸発するときに大量の熱を逃がすことによって海の、また地球全体の温度を生物にとって適温に保っているのである。先程紹介した蒸散も、同様に夏の暑い日でも植物の温度を一定に保つ上で大きな役割を果たしている。水の熱伝導率性の高さ(水が、熱を伝えるスピードが速いということ)は、体内での発熱反応を瞬時に体中に伝えることを可能にし、水の融解熱の大きさ(水を凍らせるのにも、氷を溶かすのにも、大きな熱量が必要だということ)は体内の細胞が気温が氷点下になっても凍り付かないように我々を守ってくれる。

 また、水は、大気中、陸地、海面を常に循環している。このことにより、陸地にも水が行き渡り、いろいろな不純物が混じった水を蒸発(化学の実験でいう“蒸留”)によってきれいな水に浄化している。また、太古には空気中で出来た有機物が、大気中から雨になって陸地に落ち、それから川となって海に流れ込んで、生命が誕生することの出来る状態になったのである。さらに、人類は、その水の大循環の一地点−−−陸から海へ、つまり川のこと−−−において、いろいろな方法で水をずっと昔から利用してきた。生活用水、工業用水、水力発電など細かくあげれば数限りないほどの用途において、水は人類の役にたってきたし、これからも役にたち続けるだろう。

 このように、水はいろいろな特殊な性質を持ち、その特殊な性質がどれか一つでもかけていたら、人類の存在はあり得ないだろう。また、今現在の地球環境はあり得ない。人類にいろいろな恩恵を与えて、人類に生存を可能にしている地球環境無くしては、人類もその存在はあり得ないのである。この2重に我々に好影響をもたらしている水が、実は近頃汚染されてきているのである。

 

 

2 水が汚染されてきている![水に関する環境破壊]

 水がいかに人類にとって、その存在を維持するためにも、また人類が住める環境を維持するためにも大切なものか、ということは、皆さん少しは理解できたのではないだろうか。この大切な水が、環境破壊のためどんどん汚染されてきている。

 典型的な例は、酸性雨であろう。酸性雨は、工場から出される硫黄・窒素酸化物が空気中に放出されることが原因である。これらの酸化物は、大気中で雲と混ざり合い、複雑な化学反応を繰り返す。そして最終的には、硫酸イオン、硝酸イオンになって降ってくる。これが、酸性雨の定義である。どれだけ酸性雨の酸性が強いかを調べるための尺度として、pH(ピーエッチ)と言う尺度が用いられていることは皆さんご存じかもしれない。ふつうの雨のpHは、大気中の二酸化炭素が雨にとけ込んでいるため中性のpH7に比べて5,6とやや酸性である。環境庁の調査によると、川崎市の平成7年度の降水の平均pHは4,8とふつうの雨よりかなり酸性の雨が降っているようである。しかも、この傾向は、ここ3年間変わっていない。酸性雨は、決してヨーロッパや北米だけの話ではないのである。

 酸性雨がもたらす被害として、おもに湖への影響、森林への影響が顕在化している。もっとも汚染が進んでいるヨーロッパや北米のうち、ノルウェーでは1,300平方キロの地域で魚がいなくなっている。またカナダでは、4,000の湖が死の湖となった、という<地球環境キーワード事典:環境庁地球環境部編集より抜粋>。森林にも、かつてドイツの有名な“黒い森”にも大被害がでていた。もっとも、ヨーロッパや北米では近頃工場から出る排出量を規制する動きがでてきたため、雨に含まれる酸性の濃度は低くなってきたようである。今からむしろ問題になっていくのは、まだ工業国下への移行の期間であり、お金のかかる環境対策などやっていては世界経済の流れから取り残されてしまう発展途上国であろう。例えば中国は、自国内に豊富な石炭・石油(“化石燃料”と総称される)を持つ上、あれだけ多くの人口を抱えている。13億人が生活するためのエネルギーを確保するために行う火力発電や、13億人の食べていける食料を補うための輸入が膨大な額になるため、輸出目的で生産される工業製品の工場において、これからますます大量の排気ガスが排出されることだろう。そしてその影響を受けるのは中国のみではなく、我々日本も影響を受ける。酸性雨は、我々日本人にとっても、深刻な汚染問題なのである。

 酸性雨のみならず、海洋汚染も我々の生活に大きく影響を与える。海にある水の量は、1,349,929×10の23乗立方メートルと言う膨大な量で、大抵の量ならば、生活排水を流してもそれは海の中の微生物らによって分解されていたわけである。産業革命が始まり人口が爆発的に増えたうえ、自然浄化が難しい物質がでてくると、人類はことわざ通り何もかも「水に流す」わけにはいかなくなる。流れてくる汚染物質の量が多すぎて、自然浄化作用の限界を超えてしまった−−−これが現在、世界中のあちこちの海で海洋汚染が起こっている原因である。具体的な地球環境・及び人類に対する悪影響としては、赤潮、青潮(貧酸素水塊)、水俣病などの公害、タンカーなどの事故による石油の流失、海面に漂うプラスチックを餌と間違えて食べる生物などへの悪影響が心配される。

 そのほかにも、水道水を塩素で殺菌するときに使われるトリハロメタンと言う物質や、核実験・原子力発電所の事故が原因になる放射性物質、工場から出る毒物(水俣病を引き起こしたような)、田や畑で使われる農薬、除草剤などが川に流失して川、並びに海の生物に悪影響を与えるなども問題になっている。これらの与える悪影響は、決して川・海の生物だけではなく、食物連鎖(微生物を小さい魚が食べ、その魚をより大きい魚が食べ、それを人間が食べる)の過程で蓄積され、濃縮された農薬・毒物が人体に影響を及ぼす(いわゆる“生物濃縮”である)と言う形で、人体にも影響を及ぼしている。

 

では、これらの問題をどうすれば解決できると思いますか?皆さん、自分で考えてみてほしいのですが、とりあえず私自身の考え方としては、まずみんなにこの深刻な事実を知ってもらって、それからみんなで(出来るだけ大きな規模で:もちろん理想は全世界の人と、です)お互いの立場を尊重しつつ、話し合っていこう、ということです。この“お互いの立場を尊重しつつ”と言うところが大切で、一方通行に規制を設けたり、基準を作ったりしても絶対うまくいかないと思うし、うまくいったとしてもそれは他の人に犠牲を強いて得た結果である以上、満足できる物ではない、と私は思うのです。国際会議などをみても、例えばこの間の“京都会議”(第3回「気候変動に関する国際連合枠組み条約」締約国会議:COP3とよばれている)において、二酸化炭素などの温室効果ガス(温室効果:大気中の中にある種類のガスが存在すると、そのガスが地面から放出される熱を吸収してしまうため、大気中から熱が逃げていかない分、今までよりも暑くなる。これが温室効果で、これを引き起こすのが温室効果ガスである)の排出量を先進国で一致して減らそう、という議題について話し合いました。結果は、この程度では全く温暖化を止められない、という数値しか設定できなかったのですが、かといって無理矢理ヨーロッパ諸国が求めていた15%の排出量削減などは無理であり、すべての国が妥協した結果なのだから仕方がないのではないか、そう思いました。もっとも、これはあくまで私の個人的見解であることをつけくわえておきます。

 参考文献  地球環境キーワード事典 環境庁地球環境部 編集

       水の生物学 中村 運 著

       水の惑星 島 誠 著

 


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