031112 堀内 るみ
こんにちは。今回は、高校生の皆さんに“水”というテーマでお話をすることになりました。“水”という物質は、海、川、雨といった様々な形で私たちを取り巻いています。そこで、その非常に身近な物質である“水”の不思議さについて今回はお話したいと思います。
“水”は地球が誕生した約45億年前から、今日まで循環を続けています。つまり、地球誕生時から今日まで、地球上に存在する“水”の総体量は変わっていないのです。ということは、今私たちを取り巻いている“水”は、恐竜が飲んでいた水かもしれないし、原始人が顔を洗っていた水(原始人がそういう習慣を持っていたかは、知りませんが)かもしれないということになりますね。こう言っただけでも、“水”が結構面白そうなトピックであると思っていただけるのではないでしょうか。
では、まず、“水”の不思議さが隠れている身近な出来事を挙げ、その理由を考えることで、“水”がどんなに不思議な物質であるのかということを紹介したいと思います。
これは、“水”の沸点と圧力の問題です。
私たちは普段、約1気圧(760mmHg)のもとで生活しています。
この1気圧のもとでは、水の沸点は100℃なのです。しかし、富士山の山小屋では、気圧が低いということは、皆さんご存知ですよね。この低い気圧のために、水の沸点が下がってしまい、ご飯がおいしく炊けなかったのです。では、富士山の山小屋ではご飯が食べられないの?と思った方いらっしゃいませんか。普通の炊飯器では無理ですね。でも、圧力鍋を使えば、大丈夫。圧力鍋は、その名の通り圧力に強い鍋なのです。鍋の中の圧力を上げることができるので、当然沸点を上げることができます。だから、富士山の山小屋でもご飯をおいしく食べることができるのですね。
これは、水の形に関係があります。水分子が、ミッキーマウスのような形をしているということは皆さんも今までに理科の授業で習ったことがありますよね。では、どうしてあの形になるか知っている方はいらっしゃいますか。水分子はご存知の通り一つの酸素原子と二つの水素原子からなっています。その酸素原子の最外殻電子の数は、6個で、そのうち、2個が不対電子として結合に関与します。この二つの不対電子と水素原子が持っている不対電子一つずつから、共有結合と呼ばれる結合が出来るのですが、このときに電子対反発則という法則があって、電子対は互いに反発し、その反発を少しでも和らげるように空間的に配置されることになっています。さらに、不対電子対(孤立電子対)の反発力の方が、共有結合の電子対の反発力よりも強いので、酸素原子は本来ならば、四面体の2頂点を取り除いた角度(109度前後)になるところが、この反発力のために少し狭まって、104.5度になるのです。さて、ではこの形がどう防水スプレーに関係するのか考えてみましょう。水分子は、今述べたように、ミッキーマウスのような形をしているために、電気的に若干の偏りがあるのです。分子全体では、中性なのですが、酸素原子は若干マイナス、水素原子は若干プラスといったように部分的に電荷を帯びています。このような分子を、極性分子と呼びます。そして私達の身の周りには、極性分子と無極性分子とが存在するのです。この、極性分子と無極性分子は非常に仲が悪く、反発します。皆さんもドレッシングを使う時に、油が浮いてしまうので良く振ってから使いますよね。あれは、ドレッシングの中に、極性分子である水分と、無極性分子である油分が入っているために、これらが分離してしまうから振らなくてはならないのです。この原理を使えば、防水スプレーの説明は出来たも同然!雨は水(極性分子)ですから、無極性分子を防水スプレーに用いればいいわけです。
これも、水の形によるものです。水は、前に述べたように、104.5度の折れ線型をしているので、液体よりも固体のほうの密度が小さいという非常に珍しい性質を示します。このため、水を凍らせると、体積が大きくなり、結果としてグラスが割れてしまったのです。この性質は、実は、とても重要なものなのです。もし、水が他の物質と同じように固体の密度のほうが、液体の密度よりも大きかったら、冬には湖や海は完全に氷結してしまい、海の生物たちは皆、氷漬けになってしまいます。流氷なんてありえませんよね。この水の不思議な性質が、生命を支えているのです。では、どのくらい氷の密度は、水の密度よりも小さいのでしょうか。水の密度は、1.00g/_、氷の密度は0.92g/_です。つまり、氷の体積のうち1/11ほどが水面から顔を出すことになります。氷山の一角という言葉がありますが、あれは、1/11くらいということになりそうですね。ここでもう一つ、水が自然でどんなにすごいことをしているかご紹介しましょう。凍結している湖の氷の下には、水が存在すると言いましたが、ではその温度はいったいどのくらいだと思いますか。全部0度?いいえ、実は、湖底付近は4℃の水なのです。というのは、水の密度は、4℃のときがピークになるからなのです。つまり、「4℃の水が一番重い」というわけです。この性質が、湖の水をかき混ぜる役割を果たしているのです。春には、水面近くの水が温められ、湖底付近の温度も4℃なので、上と下の温かい水と真中の冷たい水が混ざっていきます。夏になると、水面付近が一番温かくなります。秋には、水面付近の温度が下がってきて、上と下の冷たい水と真中の比較的温かい水が混ざり、冬には、水面付近の水は氷結して,湖底付近に温かい4℃の水がたまります。こうして、湖の水は、1年間を通して、ゆっくりと循環しているのです。
こんな経験、皆さんお持ちでしょう。私もついついやってしまうのですよね。これは、気化熱が問題になります。水は、蒸発する際に540_/gという多量の熱を必要とします。このため、濡れた髪の毛をそのままにしておくと、その水分が蒸発する際に多量の熱が奪われ、結果として風邪をひいてしまいかねないのです。これは、必ずしも悪いわけではなく、たとえば、カンガルーは夏に体温を下げるために体を舐めるそうです。
さて、これまでに述べた5つの具体例から“水”が皆さんの予想以上に不思議な物質であることが少しはお分かりいただけたのではないかと思います。
では次に、“水”の自然における姿をお話したいと思います。
第一に、“水”は燃焼反応の生成物、すなわち燃えカスとして捉えることができます。水素原子を含む化合物を燃やしたとき(酸化したとき)に生成物として“水”ができるのです。たとえば、石油などに含まれるメタン(CH_)を燃焼すると、二酸化炭素と“水”が生成します。“水”は、これ以上酸化されない最も安定な状態であるので、酸化反応の終着点として捉えてもよいでしょう。しかし、もし、“水”が単に終着点であったならば、私たちの周りは“水”だらけになってしまうと思いませんか。そこで威力を発揮するのが、光合成です。皆さんも今までに「植物は光を使って、二酸化炭素から酸素をつくります」といったことを聞いたことはありますよね。今言ったのは、私が小学校時代に捉えていた光合成なのですが、実は間違っている、というか、大切な要素がいくつか足りないのです。まず、光合成を行うのは、葉緑素を持っている植物だけで、必ずしもすべての植物が行うわけではありません。次に、二酸化炭素と“水”を用いるということ。さらに、生成物として酸素と有機物ができるということ。二酸化炭素は“水”と同様に徹底的に酸化された、いわば燃えカスと言えます。つまり光合成は、燃えカスと燃えカスを使って、酸素と有機物という、燃える原材料とでも言いましょうか、そんな非常に価値のある(と言ってしまうと語弊がありますが)物質を作り出す、ものすごい反応なわけです。
第二に、“水”は、生命維持に欠くことができません。“水”が生命を産みだしたという話は耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これはまさに、その通りなのです。というのは、原始大気の再現実験から説明することができます。地球誕生時の原始大気を再現して、そこに、当時盛んに行われたと思われる、放電を繰り返すと、一週間で、有機物が生成するのです。こうして生成された簡単な有機物は、やがて、糖類、アミノ酸といった、より複雑な有機物となり、コアセルベートと呼ばれる原始細胞が生まれます。DNAという自己複製機能をそなえた、特殊な有機物が生まれ、生物は爆発的な進化をとげていくのです。“水”から生まれた生物は、やがて“水”を体内に抱いて、陸へと旅立ちます。そして、約200万年前に人間が出現するのです。人間の体の約60_70%は“水”であると言うことができます。これだけ大量の“水”を含んでいるために、私たちは、毎日2_3リットルの水分を必要とします。“水”から生まれた私たち生物は、“水”なしで生きていくことはできないのです。
それでは最後に、この“水”が現在どのような状況にあるのかをお話したいと思います。
はじめにお話したように、地球上に存在する“水”の総量は、一定でそれが、循環をしています。総量は、約13.8億_で、そのうち361兆トンが海から、62兆トンが陸から毎年蒸発していきます。蒸発した“水”は324兆トンが海へ、100兆トンが陸へ雨や雪となって降ります。こうして、“水”は45億年の間、大循環を繰り返してきました。その大循環を今、破壊しているのが私たち人間なのです。汚染物質の垂れ流し、上水の無駄遣い、“水”の貯蔵庫である森林の伐採、これらは皆,“水”によって育まれている生物の一つに過ぎない人間の行っていることです。そしてこの行いが、“水”の大循環を蝕んでいるのが現状です。“水”の中に溶け込んだ有害物質までもが、循環のサイクルに入り込んでしまい、人間を含めた他の生物を脅かしています。太陽系の惑星の中で、唯一“水”をそして、生命を持つことのできる地球。それは、太陽からの距離、自転・公転速度、重力といった様々な要素が重なってはじめてかなうことです。そんな奇跡の惑星である地球を私たち人間の身勝手から破滅に導いてはなりません。近代化学の発展からわずか200年でこんなにも地球を、“水”を冒してしまったという事実は否めません。しかし、だからといって悲観的になってしまうのではなく、これから、いかに地球をよみがえらせるために努力をしていくかが大切なのだ、というのが私の意見です。そのために、私は皆さんに期待したいと思います。何も、「科学者になって地球を救え!」というわけではありません。今大切なのは、一人一人の“水”の危機・地球の危機に対する認識と、問題意識、そして、身近な自分にできることから改善しようという心がけ、そういったものが今何よりも必要なのです。地球を救う、というと大それているかもしれませんが、“水”の大循環からも分かるように、地球は一つなのです。“水”は決して、国ごとに循環したりはしません。だからこそ、国ごとに努力するよりも、地球規模で改善していくことが重要なのです。
長くなってしまいましたが、この辺でまとめに入らせていただきます。はじめに、身近な具体例を挙げてご紹介したように、“水”は私たちの身近にあって、非常にいろいろな珍しい性質を持った不思議な物質であるということ。次に、自然においてもその不思議さは見逃すことのできないものであるということ。地球上のすべての生命は、“水”から生まれ、“水”によって支えられているということ。にもかかわらず、我々人間がその“水”を汚し、地球を破滅へといざなっているということ。こんなお話を今日はざっとですが、させていただきました。皆さんが今日の私の話を聞いて、「“水”って結構面白い物質だったんだな」、「自分の身のまわりでできる、水問題の改善策って何だろう」、そんなことを思ってくだされば幸いです。
神はわたしたちの避けどころ、わたしたちの砦。 苦難のとき、必ずそこにいまして助けてくださる。 わたしたちは決して恐れない 地が姿を変え 山々が揺らいで海の中に移るとも 海の水が騒ぎ、沸き返り その高ぶるさまに山々が震えるとも。 大河とその流れは、神の都に喜びを与える いと高き神のいます聖所に。 神はその中にいまし、都は揺らぐことがない。 夜明けとともに、神は助けをお与えになる。 すべての民は騒ぎ、国々は揺らぐ。 神が御声を出されると、地は溶け去る。 万軍の主はわたしたちと共にいます。 ヤコブの神はわたしたちの砦の塔。 主の成し遂げられることを仰ぎ見よう。 主はこの地を圧倒される。 地の果てまで、戦いを断ち 弓を砕き槍を折り、盾を焼き払われる。 「力を捨てよ、知れ わたしは神。 国々にあがめられ、この地であがめられる。」 万軍の主はわたしたちと共にいます。 ヤコブの神はわたしたちの砦の塔。 (詩篇 46.)