二見元気
期末試験として課せられたレポートの題材として、ここでは「選択課題3:DVD」についてレポートする。私が選んだのは『地球大異変1&2』である。以下にそれぞれの内容を概説した上で、提起されている問題点について所感を述べたい。
まず第1巻では横浜に設置された「地球環境シュミレータ」が予測した今後100年間の地球の気候の傾向を軸に話が展開された。5000個以上のスーパーコンピュータを集合させたこの施設は世界で地球の気候に関して最先端をいく研究を行っている。それによると2096年にカトリーナと同じ規模の熱帯性低気圧が四国に上陸し、大きな被害を出すことが予想されている。カトリーナとはアメリカ南部を襲った大型のハリケーンであり、中心の気圧は902ヘクトパスカル、最大風速は毎秒82mに達するものであった。このハリケーンにより、1400人以上が死亡し、15兆円以上の損害が生じた。カトリーナの発生前には北太平洋の海水温が異常に高まっているのが確認されており、それには地球温暖化が影響していることが明らかになっている。また、北アメリカだけでなく、2004年には今まで熱帯性低気圧が発生したことのないとされる南米沖でも熱帯性低気圧が発生した。建物4万棟が被害を受けたこの低気圧は、驚くべきことに先に紹介した地球環境シュミレータによって見事なまでに予測されていた。話を地球の未来に戻すと、現在の成長を続けると100年後には二酸化炭素の濃度は960ppmにまで上昇すると言われている。京都議定書の目標が達成された場合は860ppm、それよりさらに効率的な経済成長を続けたとしても700ppmまで上昇すると予測されている。この場合、最悪のケースでは日本の平均気温は4.2度上昇し、1月の東京で紅葉を鑑賞したり、5月には海開きが行われるなど、1年のうちの半年が夏になると予測されている。すでに2003年のパリでは記録的な熱波が記録されており、フランスだけで1万5千人、欧州全体で3万人が死亡した。こうした熱波の危険性は100年後にはさらに広い地域に広がっていると予測されている。世界各地における熱波の危険性はニューヨークで43倍、東京で11倍も高くなることが予想されており、アメリカの一部の地域ではすでに熱波に対する地域的な取り組みが行われている。
また、問題は熱波だけでなく温暖化による梅雨前線の停滞による南での雨量増加と北部の雨量減少が予想されている。これにより、日本では西日本、アジア全体では中国南部での雨量の大幅な増加と日本では東北部、アジア全体では中国北部、朝鮮半島での雨量の減少が予想されている。こうした変化は大陸北部での砂漠化をすでに引き起こしており、DVDではモンゴルのかつては緑豊かだった地域が砂漠化している様子が映し出された。また雨が降った際の豪雨も懸念されており、100年後の九州では豪雨の量は現在より70%も増えると予測されている。そんな中で咲きに述べたようにカトリーナレベルの台風が日本に上陸することがコンピュータによって予測された。同じ規模のものが現在上陸した場合の被害を想定すると、風速毎秒80mの風と豪雨によって被害地域の全住宅の1割から2割が半壊、もしくは全壊するとの見方である。また停電や浸水によって大きな規模の混乱が予想されている。同じような予測は日本だけでなく、アメリカはニューヨークにおいても行われていた。そこではカテゴリー4に属する大規模なハリケーンがニューヨークの中心部を襲った場合の被害が想定されており、それによると海面が9m上昇し、風速毎秒60mの風と豪雨によってビルの窓が割れ、地下が水没するとの見方であった。被害総額は大きすぎて算定不能であり、早急な防災対策が求められている。
次に第二巻の内容に触れたい。ここでは熱帯特有の伝染病が温暖化によって北上しており、その危険にさらされる地域、人が増える見込みや渇水による環境の変化、北極の氷の融解による環境難民の増加などが予測されていた。まず、伝染病については熱帯地域にのみ生息するネッタイシマカと呼ばれる蚊によって媒介されるデング熱という伝染病が、その蚊の生息できる範囲が温暖化によって広がっており、それに伴って伝染病の危険にさらされる地域が広がっているという状況が示された。今まではデング熱に感染する可能性のある最も北の地域は台湾南部であったが、地球温暖化による冬の平均気温上昇によってその地域は北上しており、このままでは日本でも沖縄と九州が危険地域になるという。現在全世界で毎年2万5千人の死者を出しているこの伝染病の危険にさらされる人口は現在の25億人から、2080年には52億人へと増えるとの予測が立てられている。また、世界的な渇水はたとえばアマゾン川を干上がらせる状況までをも生んでいることが明らかになった。このままでは2100年にはアマゾンの熱帯雨林の3分の2が砂漠化し、失われる面積はアラビア半島を上回ることになるという。消滅する熱帯雨林はそれだけで全世界が排出している二酸化炭素の実に8年分のそれを排出すると見込まれており、温暖化によって消滅する熱帯雨林が、消滅することによりさらに温暖化を進める、という悪循環がみえてくる。
また、水不足は温度の上昇とあわせて農業に大きな影響を与えることが懸念されている。たとえば2090年には青森ではりんごの栽培が不可能になり、代わりにみかんが栽培されるようになるという。そこではりんごの生産地は北上し、北海道になるとも言われている。また、北海道での米の収穫量は13%増量するが、日本全体では10%減少するとも言われている。日本だけでなく世界中でこうした農業への影響が見込まれており、飢餓に苦しむ人の人口が莫大な数に達すると予測されている。最後に環境難民の問題が提起されていた。たとえばアラスカのシシュマレフ島では10年間で海岸線が60mも侵食された。永久凍土が溶け出し、波に削られて島が侵食されている現在の状況の中、住民は2009年までに全員が島から他の地域に移住することを決意した。しかし、イヌピアックと呼ばれる先住民族である彼らは伝統的な狩猟生活を送っており、移住先の住民との価値の衝突やトラブルが予想される。アラスカだけでなく、アメリカ合衆国でも1000万人、ベトナムでも3300万人が海岸線の後退によって住むところを失うと予測されている。こうした人々は全世界で2億6千万人にも上るといわれおり、南太平洋の島国では国ごと海に沈んでしまう国も存在する。こうした現状に対し、国連は二酸化炭素の排出量を現在の50%まで削減できれば危惧されている事態は回避できるとしたが、京都議定書の通りに先進国全体で5%を削減したとしても地球全体での排出量は増えるとされている。
以上、簡単にではあるがDVDの内容を各巻に分けて概説した。最後に提起されていた問題に対して所感を述べたい。私がもっとも関心を持ったのは第二巻の後半において触れられていた環境難民の問題である。私が昨年留学していたニュージーランドはすでに近隣諸国から環境難民を受け入れている国として有名であった。そこではもともと太平洋の島国からの移民が歴史的にみても多いにもかかわらず、新たな移民に対する偏見や差別が垣間見えた。彼らに比べてもさらにイヌピアックの人々などは伝統的な生活を保持していることを考えると、文化的衝突を避けることは非常に難しいのではないかと考えた。またそれ以外の問題でも、あまりに事態が深刻であることが浮き彫りにされており、私たち個人に何ができるかを考えるとなかなか答えがみつからないように感じた。そこで私が想起したのは、川の環境問題について調べた際に、汚染の原因となっていた排水を削減しようとした際、企業の経営する経営する工場などから排出されていた排水はその大部分が削減されたということである。これは企業努力によるものであろうが、一方で個々人はその集団としてまとめた対策をとることが難しいためか一般家庭から流れ出る家庭排水の総量は減少の割合が低かった。このことは企業努力による環境改善の可能性を示している一方で、個人が意識を変えて努力しなければ事態はなかなか改善されないということをも意味しているように思えた。二酸化炭素の排出にしても、企業が最先端技術を駆使して代替エネルギーの開発を進めるなどする努力の一方で、我々個々人が小さな努力をすることが問題解決の糸口になるのではないかと意識させられた。