「極限への旅 -Going to Extremes -」
尾国由実

                  

<概 説>

イギリス人中年男性、ニック・ミドルトンが、「地球上で最もOOな地域を訪れ、そこに暮らす人々の生活を体験する。」という目的のもと、世界一の高温、低温、多雨、乾燥地域へと旅立ち、そこに生きる人々の衣食住や生活文化を経験する。

 

世界一の暑さを体験〜エチオピア〜

地球上最も暑い地域としてニックが向かったのはエチオピアの「ダロール(Dallol)」。現地住民のアパール人と共に、30度〜50度を記録し灼熱の太陽が照りつける高温地域を歩き続ける。ようやく辿り着いた目的地「ダロール」は、地球内部の原始的エネルギーが沸きあがって来る様な、荒れ果てた奇妙な場所であった。まるで人間が長期留まる事を許されていないかの様だ。

世界一の暑さの理由 

 ・アフリカ大地溝帯に属し、アラビア半島から乾いた風(熱風「火の風」)が吹くため雲が形成されず、太陽からの光を遮るものがない。

 

人の特徴:長身、長細い手足                 

  脂肪がなく、筋肉で引き締まった体

  黒肌、黒髪(パンチパーマ)

 ・水分をあまり必要とせず、体内の熱を外へ出しやすい体内構造

共に暮らす動物:ラクダ(人間と同様に首・足が長細く、引き締まっている。)

食生活:パン(野菜や肉はなし。)

娯楽文化:アメリカンフットボールに類似したスポーツ(4時間ひたすら走り回る。← 凄まじい体力)

 

 

世界で一番寒い場所〜シベリア〜

チェルスキー山脈とベルホヤンスク山脈の谷間に位置し、常に零下30〜50度を記録する「オイシャコン」。ニックは鼻水やメガネを凍らせながら、その地で今なお伝統的なトナカイの放牧を営んで生活するエベン人の暮らしを体験する。最後に彼は、厳しい寒さの中を生き抜くためには「強い肉体と精神力が必要」である事を実感する。

 

世界一の寒さの理由

 ・おわんの底の様な山脈の狭間にあるため、寒気が下降して来て溜まる。

 ・大陸部の中心に位置しており、冷えやすい。また、比熱が大きく温まりやすい海からの影響を受けにくい。

 ・寒気を追い払う風がない。

 ・太陽からの熱、暖気を留める雲がない。 

 

人の特徴:白い肌、ピンク色の頬

服装:毛皮の帽子、手袋、コート、長靴

食生活:馬肉(高タンパク、高カロリー)

娯楽文化:筋力スタミナ勝負の腕引っ張り競争

共に暮らす動物:家畜(分厚い毛皮と小さな体で寒さに強い種類)

生業:トナカイの放牧 

 

世界で一番雨が多い場所〜インド〜

インド、カルカッタの北東に位置し、一日で1.5mもの降水量(ニックの出身地、オックスフォードの降水量の2年分以上)を記録する「マウンシラム」。常に霧が立ち込め、むせ返る様な湿気と滝の様に流れる雨の中での生活は、いかに精神を麻痺させるものであるかをニックは実感する。彼はまた、多湿な地域に多く生息するコブラやヒル、蚊などと、現地の人々がいかに共存しているかを目の当たりする。

 

世界一多雨な理由 

 ・ 夏、陸地が温められて空気が上昇する。

 ・ →インド洋から水分を多く含んだ空気が流れ込む。

 ・ →湿気を含んだ風が丘陵にぶつかって上昇する。 

 ・ →多量の雨を降らす。

 

人の特徴:細身、小柄な体

     黒肌、黒髪

     大きな瞳

共に暮らす動物:ゾウ、毒蛇(コブラ)、ヒル、蚊

食生活:燻製にして保存された肉(多湿地域では腐敗が早い。)

カーシ酒(多雨で病んだ心を癒す。)

住居の工夫:暴風雨から家を守るため、茅葺き屋根を固定。

      雨どいを家中まで引き、水を有効利用。

生業:農業

娯楽文化:ハドゥハドゥ(鬼ごっこ+レスリング)

賭けダーツ(精神力が試される)

 

世界一乾燥した場所〜チリ〜

 400万年前から砂漠であったといわれるチリのアタカヤ砂漠。その近くに、年平均降水量0.8mmで最も火星の状態に似ていると言われる「アリカ」がある。人々はどうしてその様な究極の乾燥地域に定住する事となったのだろうか。その答えは、栄養分が多く、豊かな生命を育む「海」の存在であった。水は、直接人間の命を維持させているだけでなく、水中に生息する動物を食糧として与えてくれる、という意味でも人の命を生かしているのだ。   

 また、乾燥し、塩分の多い土壌は保存状態に極めて優れており、今なお古代のミイラが多数発掘される。水のない地域では「自然のサイクル」が遅くなり、まるで時が止まっているかのような現象が起きるのだ。旅の最後に、ニックは政府の公式降水雨量記録から、世界一乾燥した場所は「アリカ」ではなく「キヤグア」であった事を発見する。

 

世界一乾燥している理由

 ・赤道付近で雨を降らした後に、乾いた雲が流れる南回帰線に近い。

 ・雨雲がアンデス山脈を乗り越えてこない。

 ・南極の水を運んでくる冷たいフンボルト海流からは雲が形成されない。

 

人の特徴:頑丈な体

  赤褐色、白い肌

 ・少ない空気から多くの酸素を取り入れる事が出来る体内構造(高地では酸素が薄いため。)

共に暮らす動物:ラマ(家畜)

娯楽文化:サッカー

儀式:ラマを生贄として捧げ、雨の恵みに感謝を示すしきたり

 

<考察>

 「極限への旅」という大変興味深いドキュメンタリーから、4つの極限地域の自然環境と、人々の生活文化を考察して一番に感じた事は、「人間の持つ自然環境への適応能力の凄まじさ」である。人の特徴、という欄でそれぞれ分析した様に、人はそれぞれの気候状態に応じて皮膚や髪、瞳の色から体格、筋力、そして体温調節機能といった体内構造までを柔軟に変化させている。さらに、その様な人間の自然への適応能力は、人々の生活文化にも端的に表れていた。例えば、シベリアでは寒さを凌ぐために衣服を工夫して全身を帽子や手袋で覆い、食事の際にはスタミナを付けるために馬肉を頻繁に食し、娯楽としては筋力やスタミナを試すスポーツを発達させていた。

 そしてまた、この4つの極限地帯の暮らしぶりを見て感じた事は、「全ての生命の中心にはいつでも水がある。」という事である。例えば、世界一暑いエチオピアでは、人々は土中から沸きあがってくるわずかな水を求めて片道20kmもの道のりを毎日歩く。最も乾燥した地域、チリでは、雨という名の「水」の恵みに感謝を示すために家畜であるラマを殺し、生贄として捧げる。どの様な地域においても、人間、そして全ての生命体は水を必要とし、水によってその命を生かされているのだ。日本では蛇口をひねれば簡単に水が手に入る地域が多いが、このドキュメンタリーを見ることで、生命にとって根源的な「水の掛け替えのなさ」を世界規模で実感する事が出来た。

 最後に、イギリスでの快適な暮らしを抜け出し、数々の命の危険を切り抜けながら私たち視聴者に極限地域での生活ぶりを伝えてくれた、ニック・ミドルトンの行動力と奮闘振りを称えたい。

 


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