宇宙視点からの水

高本麻美

 

「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。

しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ。」と考えている高校生に水について語るとしたら…。

 

 高校生ならば、地球が「水の惑星」と呼ばれているのは知っているだろうか。水を液体の水に限定すると、宇宙で水が存在しているのは地球だけであるかもしれない。

 そこで、ここでは宇宙視点から水を紹介したい。

 ではまず、地球を宇宙から観察してみる。図@を見てもらいたい。

 

〈図@〉アポロ17号、ハリソン・シュミットが撮影した地球(weblioより引用)

 

 この図はアポロ17号、ハリソン・シュミットが1972年12月7日に撮影した地球である。この図の青い部分は水である。地球の70パーセント以上は水に覆われているので、宇宙から見た地球はまるで大きな水でできた毬のように見える。水があって当たり前とは思っていないだろうか。思っているに違いない。なぜならば、水を「無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」と言い切ってしまうのだから。

 そもそも、この地球上の水はどこからやって来たのだろうか。佐藤文隆氏の解説によると、太陽系天体の生成は、小物体が衝突によって付着して大きくなることである。つまり、隕石・微惑星・小惑星・惑星などはすべて付着で大きくなっていく途中経過なのである。初期の方では、数え切れないほどの小惑星の衝突・落下(つまり付着)が頻繁に起こっており、落下の重力エネルギーで地表が溶解した。マグマオーシャンともいわれる時期がそこにはあった。

 しかし、落ちるものが落ちれば、落下の頻度は減少してしまう。落下物に付いていた化合物の水素や酸素は、ガス化して地表上に噴出し、空中で酸化して水へと変化する。

 水発生時の酸化反応はエネルギーが発生する一種の爆発で、その燃えカスが水蒸気である。水蒸気は上昇して雲となり、冷却されて雨となり、空気の冷却材として液体の水になり、海が現れた。

 星間物質にも水分子は存在するが、このように地球の水の起源は、自家製なのである。

 星間物質にも水の分子が存在すると言ったが、このことに興味がある人はいるだろうか。では一応、その人のためにも水分子は宇宙ではどんな形をしているのかを説明しておきたい。

 H2Oという水の分子は星間ガスの中にある。とくに星の形成がそこで起こる領域である、分子雲という密度の高い星間雲のところからの電波によって観測されている。ただし、「密度が高い」といっても、空気の密度に比べれば一億分のさらに一億分の一ほどの薄い密度のことである。星間空間の平均密度と比べれば、密度が高い、という意味で密度がもっと高くないと、水滴の水にはなれない。

 それでは、星間の水分子はバラバラな分子としてふわふわ浮いているかというと、必ずしもそうとは言い切れない。星間物質の他の元素、例えば炭素・珪素などは多くの原子が連なった微粒子になって存在している。「宇宙塵」・「宇宙ダスト」などと呼ばれる状態にあるのだ。単体の原子や分子の気体として存在しているわけではありません。そして、水分子も、このような宇宙塵に付着していると考えられている。

 そして、冒頭にも言ったが地球の最大の特徴は、太陽系の惑星や衛星の中で唯一、液体の水が表面に存在している点である。NEWTON別冊には興味深いことが書かれていた。それは、地球は大気を安定して保持できるだけの大きさがあり、また太陽から適度にはなれていた。そして前地球の水の起源で述べたようなプロセスを経て、海が出現した。その海は大気中の二酸化炭素を溶かし込み、大気中の二酸化炭素は0.03パーセントと、適度な温室効果をもたらす量となっている。

 金星は太陽に近すぎるために温度が高く、水は水蒸気の状態であった。そのため二酸化炭素が大気に残ったままとなる。二酸化炭素による温室効果が暴走し、金星は灼熱地獄と化してしまったと考えられている。

 火星では、火星の半径は地球の半分程度しかないため重力が小さく、大気は宇宙空間に逃げ出しやすい。このため地表を暖かく保つ程度の温室効果が生じない。火山活動などで噴出するガスが温室効果をもたらし、一時的に液体の水が存在できた可能性もある。しかし太陽から遠い火星では、二酸化炭素自体が固体となってしまい、温暖な気候を現在まで維持できなかったと考えられる。

 水星は大気を維持するにはあまりにも小さすぎ、30数億年前にはすでに大気を失ってしまった。

 以上のことから、地球が水の惑星になり得たのはこんな原因からだとわかる。

 さて、そろそろ水の惑星・地球にどのようにして生命は生まれたのかを説明したい。河島信樹氏によると、地球上で生命がいつどのようにして生まれてきたかについては、まだ解明されていない未知の事柄が多く残っている。しかし、どの説にも共通する大筋はすべての生物にとって基本的な物質はタンパク質と核酸であることから、生命が誕生する前段階に、無機物→簡単な有機物→複雑な有機物という非生物的な化学進化を経て、今から30数億年前に海の中で地球最初の生命が誕生したに違いないという点である。海が生命誕生には欠かせないものであった。つまり、水があったおかげで生命は誕生できた。そして、地球だけが生命の存在を確認されている唯一の惑星なのだ。水が生命誕生に果たした役割はとても大きい。

 いかがであろうか。宇宙からの視点で水について語ってきたが、「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」とはもう言い切れないだろう。水はこんなにも重要なものなのだ。この水の重要性を確認したところで今後は水を大切に扱ってもらえたら幸いである。〈了〉

 

<参考>

河島信樹監修『SPACE ATLAS 宇宙のすべてがわかる本』PHP研究所 1995

佐藤文隆『火星の夕焼けはなぜ青い』岩波書店 1999

竹内均編『NEWATON別冊 改訂版 太陽系大図鑑 最新データが明かす 惑星の素顔と生命の可能性』ニュートンプレス 2002

プラット, R 『水=生命をはぐくむもの』紀伊国屋書店 1975

weblio「地球」〈http://www.weblio.jp/content/%E5%9C%B0%E7%90%83〉

 


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