DHMOとは?

匿名希望

 

・このようにしてあなたが署名を求められた場合、あなたは直ちに応じますか(応じたと思いますか)?

 少なくとも、直ちには応じなかったであろう。なぜならば、DHMOが何であるか、その定義のはっきりとした明記がないかためである。DHMOが何 であるか見抜くより前に、与えられた情報がDHMOの危険性に限られているということを懐疑する。

 

・DHMOとは一体何でしょう?

 ネイソン・ゾナーの挙げたDHMOの危険性のうち、「DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主成分であり、温室効果にも大きな効果を持つ物質である」 というもの、特に「酸性雨の主成分」という部分に着目した。酸性雨は、普通と雨とは含まれる成分が異なってはいるものの、結局は雨の一種である。そのた め、主成分は雨と同じであると考えてよいだろう。雨の主成分は当然、水である。そこで、DHMOを水(H2O)であると予想した上で他の記述を一つずつ検 証してみる。

 まず、先ほどの「DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主成分であり、温室効果にも大きな効果を持つ物質である」という記述の「DHMOは水酸の一 種」という部分と「温室効果にも大きな効果を持つ物質」という部分を検証する。「水酸」という言葉がいったい何を指すのかは謎であるが、水酸化物のことを 言っていると考える。水は水素イオン(H)と水酸化物イオン(OH)に電離するため水酸化物であることは明らかである。よって、「水酸」に水が含まれると 考えてもよいだろう。また、「温室効果にも大きな効果を持つ物質」という部分を検証してみると、DHMOが水である可能性が更に強まる。温室効果をもたら す気体の総称である温室効果ガスには、水蒸気、つまりはH2Oが含まれる(和歌山地方気象台)ためである。

 次に、他の危険性を(課題プリントの中で)挙げられている順に検証していく。全てをエッセイ形式で書いていくと分かりづらいため、ここから先は形 式を変えて記述する。

 

1.「DHMOは無色、無味、無臭であるが、毎年無数の人々を死に至らしめている。」

・水は無色、無味、無臭である(金田一京助)。

・洪水による被害、多量摂取による血液濃度低下など、水が人を死に至らしめる事件は多々起きている。

3.「化学反応において、酸とアルカリを中和した際などに生じる副産物にも大量に含まれている。」

・酸性物質は水溶液中で水素イオン(H)を発する。また、アルカリ性物質は水溶液中で水酸化物イオン(OH)を発するため、両者を中和した際の化学反応で は必ず「H+OH→H2O」と、水が副産物として生成される。

4.「DHMOの分解には大量のエネルギーが必要で、分解後には高濃度の水素ガスが発生する。」

・5%の水酸化ナトリウム水溶液(ただの水だと分解しにくい)300gの電気分解には、6〜10Vの電圧が必要(前川哲也)。

・水の電気分解反応を式で表すと

 2H2O→2H2+O2

 であるため、水素ガスが発生することがわかる。

5.「液体のDHMOを呼吸器系に吸引すると急性の呼吸不全を引き起こすことがある。」

・液体は呼吸器にとって異物であるため、それを呼吸器系に吸引した場合、種類を問わず急性呼吸不全を引き起こす可能性がある。

6.「経口摂取で発汗、多尿、腹部膨満感、嘔気、嘔吐、電解質異常、悪心、下痢、腹痛、頭痛を来たすことがある。」

・水を多量(もしくは不適切な)摂取は、発汗、多尿、腹部膨満感、嘔気、嘔吐、電解質異常、悪心、下痢、腹痛、頭痛を引き起こす可能性があるのは明らかで ある。どのようなものにも適量というものがある。

7.大量に摂取すると痙攣、意識障害等の中毒症状を引き起こし、最悪の場合死に至る。」

・低ナトリウム血症とは血清中のナトリウム濃度が正常の下限(135 mEq/L)を下回って低下した病状であり、その一種である希釈性低ナトリウム血症 は水の過剰摂取によって起こる(“低ナトリウム血症”)。そして、低ナトリウム血症は痙攣、意識障害等の症状を引き起こす(前に同じ)。

8.「重度の熱傷の原因であり、固体の状態のDHMOが長時間人体に触れていると体組織障害を起こす。」

・水(H2O)が熱されて熱湯になっていた場合、熱傷の原因になり得る。

・H2Oは冷やされると氷(固体状態)になる。氷を長時間人体に触れさせると、凍傷の原因となる。凍傷は体組織障害の一種である(“凍傷”)。

9.「気体状態でも危険な性質を持ち、人体に触れると糜爛性の障害を受けることがある。爆発的な性質を持つことから、発電にも用いられる。」

・H2Oの気体状態は水蒸気である。水蒸気は摂氏100℃にも達するため、それが皮膚に触れると糜爛性の障害を受けることもある。糜爛とは、皮膚の一定の 深さの組織の欠損、つまり潰瘍のうち、欠損が浅く、粘膜筋板を越えない、もしくは真皮に及んでいないものを指す(“潰瘍”)。

10.「不妊男性の精液や、死亡した胎児の羊水、癌細胞から多量に検出される。」

・人体の構成成分の約70%は水(H2O)である故、人間の細胞に含まれる精液、羊水、癌細胞は水を含んでいると考えられる。また、特に、羊水の98パー セント以上は水分である(医療法人社団 清新会 東府中病院)。

11.「バイオテクノロジー分野においても、動物実験や遺伝子操作などの過程で用いられている。」

・水は日常的に使用されている物質であるため、動物実験や遺伝子操作などの過程で用いられていることは明らかである。被験動物に与える水、使用器具の洗浄 用水など、水は必要不可欠である。

12.「ある種のジャンクフードにも大量に含まれ、パッケージしたものを飲用に販売している業者さえある。」

・水分の含まれるジャンクフードには明らかに含まれている。

・飲用水はペットボトルやパックに入れられて販売されている。

13.「農薬散布にも使われ、汚染は洗浄後も残る。」

・農薬散布の一般的な方法は、製剤(農薬の有効成分である原体を、散布しやすいように、また、効果がよりよく強く発現するように加工したもの)水で薄めて 噴霧する方法である(農薬工業会)。

14.「金属を腐食させ、自動車の電気系統の異常やブレーキ機能低下を来す。」

・腐食とは、金属が環境物質との間の化学反応または電気化学反応によって損傷することであり(“腐食”)、その例として鉄の錆が挙げられる。鉄の錆は、湿 気によって生成を促されるが(“鉄”)、湿気は物や空気中に含まれている成分を指すため、水は鉄の腐食を促進させるといえる。

15.「工業的に溶媒や冷却剤などとしてコンビナートや原子力施設で大量に使用され、そのほとんどは河川に投棄されている。」

・水は工業的に、溶媒や冷却剤に使われる。

これらの理由から、DHMOは水であると予想した。

 

・謎が打ち明けられた時に(謎の答えは下のURL)、あなたは何を感じ、何を考えましたか?

 予想通り、DHMOは水であった。つまりは、DHMOの正体を見抜くことが出来ていたわけで、もしネイソン・ゾナーに署名を求められていてもそれ に応じないという当初の判断は正しかったわけである。しかし、この課題を提示されたのが「自然の化学的基礎」を受講する前であったならば、今回のような冷 静な判断を下すことはできなかったであろうと思われる。なぜなら、「自然の化学的基礎」を受講するまでは、特に水の存在を気にとめたことはなかった上に、 水に対する知識も少なかったためである。おそらく、挙げられたDHMOの様々な危険性に対して批判的な目を向けることもなく、簡単にそれらを信じてしま い、多くの人々と同じように求められたままに署名をしてしまうだろう。更には、「なぜDHMOの使用を国が禁止していないのか理解が出来ない」などといっ た意見を持ってしまっていたことだろう。文章をよくよく読んでみれば、DHMOが水であるということは明らかであるのにも関わらず、感情に流されて物事を 判断してしまうとは、何とも恐ろしいことである。

 

 このネイソン・ゾナーの研究から学ばなくてはならないことは、人間が(理性を必要とする場であっても)判断を感情に委ねてしまっている場合が多い ということ、このようなケースは形を変えて日常に溢れているということ、そして、このネイソン・ゾナーの実験のようなプロパガンダ的情報の発信は誰にでも 可能であるということである。まず、人間の判断がいかに感情的になりやすいかという点で、現在叫ばれている種種の問題、環境問題、政治問題、国際問題等に 対する意見の中で、どの意見が理性的な、そしてまた逆に、どの意見が感情的な訴えであるかを見極める目の重要性が浮き彫りになる。ある人が「なんとなくい い気がする」と言い、一方で別の人は「なんとなくだめな気がする」と言い、互いに意見を主張し合うことは、非生産的な討議である場合が多い。特に、地球規 模で討論しなくてはならない大きな問題を扱う際は、元々バックグラウンドの異なる人々が集まって話し合うが故に、「なんとなく」の感情論を振りかざしても 話が決着に行き着くわけがない。そういった問題に触れるにあたって、人々は皆、それなりの理性を持ってその問題に向きあうべきであるし、一度意見を固めた 後でも、もう一度自らの意見が感情のみに走ったものではないかを確認する必要がある。しかし、例えば倫理問題を扱う場合は、多少の、良い意味での感情論は 不可避であるだろう。そのように、感情を切りはずしては扱うことのできない問題に関しては、理性と感情の適当なバランスを考えることが重要である。

 

 また、理性でなく感情に任せて物事を判断するという状況は日常に溢れている。もちろん、愛情や友情といったものに関わる日常の出来事には感情的な 判断がつきものであるが、ここで問題にしたいのはそのようなものではなく、誇大広告や悪徳商売、カルト教団への勧誘といったものに対しての判断である。誇 大広告、悪徳商売やカルト教団への勧誘といったものは、それらが宣伝しているもの(商品、事業、教団等)が「いかに素晴らしいか」を前面に押し出し、その 隠されたネガティブな部分をひた隠しにする。そのネガティブな部分を見抜けなかった者には、大抵不幸な結果が持っているわけである。このような理由から、 日常的な批判的思考(critical thinking)の大切さを改めて思い知らされる。

 

 最後に重要なのが、自分自身が、人々に理性を失わせ感情的な判断を促すようなプロパガンダの発信源になる可能性が十分にあるということだ。今回、 このDHMOの危険性に関する署名を人々に求め、実験を行ったのはネイソン・ゾナーという十四歳の少年である。彼がいくら頭良く言葉が巧みな少年であった としても、十四歳の少年が多くの署名を集めたという事実は他の人間が同じ実験に挑戦したとしても同じような結果を得られたであろうと予想させるものであ る。プロパガンダ的な偏った意見を発信し、人を信じさせるのは簡単であるのだ。また、それは故意であるか否かに関わらず、深刻な問題を引き起こしかねない 行為である。例えば、ある人に「○○という商品はとんでもない商品であるため、使用すべきではない」と聞かされ、その意見を鵜呑みにして、それをそのま ま、また別の人に伝えたとする。しかし、初めに○○という商品を悪く言ったのが、その商品を販売している会社のライバル会社に勤める人物であり、その人物 は故意にプロパガンダ的な意見を伝え聞かせたのだとしたら、そのプロパガンダ的な意見を信じ、別の人物に伝えてしまった人のしたことは、意識していなくと もプロパガンダの伝搬行為になる。「無意識的加害者」とでも言おうか、人は簡単にプロパガンダの発信源になれるのだ。

 

 以上述べてきたように、ネイソン・ゾナーの研究からは学ぶべきものが多くあり、その意味でこの研究は普遍的な価値を持つ研究であるといえよう。こ の価値ある研究によって指摘された、人間の判断は簡単に誘導され得るという事実を、我々は真摯に受け止めなくてはならない。

 

参考文献

 


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