中国の水危機と治水ビジネス
匿名希望

                  

1、番組「中国“水危機”を救え!〜海を渡る日本のエコ技術」の内容概説

 空前の経済成長を謳歌する中国だが、急激な工業化がもたらす負の側面が表面化してきた。それは水の汚染と不足による環境汚染だ。農村部では、3億余人が水不足に苦しみ、品質に問題のある水を飲んでいるという。しかし、環境対策は、経済発展の陰で後回しにされてきたため、中国各地で被害に苦しむ人々の不満が相次いでいる。

 カメラがとらえたのは、中国で最も汚染された河川だと言われている中国3番目の大河、淮河である。その支流沿いにある林王村の人々にとって、生活を支える川であるにもかかわらず、工場排水のせいで水が急激に汚染されてから、生活が苦しい状況に陥った。村人によると、「歯磨きするだけでも気持ちわるくなる」というぐらい水が汚かったそうだ。そこで、井戸の水を分析してみると、強い発がん性物質に変化する硝酸性窒素がなんと日本の基準値の14倍も含まれていることがわかった。

 そこで、中国政府も水危機に本腰を入れ始め、排水処理や水の再利用に関する高度な技術力が注目を浴びた。そんな中国の環境汚染に立ち向かったのが日本の最先端技術をもつ企業だ。まず紹介されたのは、“魔法の膜”を使って、化学物質などで汚染された下水を飲めるようになるまできれいにする化学繊維メーカーの「旭化成」であった。次に紹介されたのは、水中の汚れとなる有機物を分解する納豆菌をコンクリートの中に閉じ込める技術によって商品化された水質浄化ブロックだ。これまでにマレーシアの国家プロジェクトで採用された実績を持つ。また、北京大観園(テーマパーク)の水浄化にも効果が現れ、巨大な中国市場への確かな一歩を記した。

 

2、感想

 この番組で、中国に住んでいた頃に公園に行くと、池の水がほとんど透き通っていなかったことを改めて思い出した。また帰国する際に、高度経済成長のもとで工業化による河川汚染が起きていると、あちらこちらでその被害の状況を見かけたり聞いたりした。その実態を今回の番組の映像を通して、その度合いをより切実に感じられた。番組で紹介されたのは一部の川に限られているが、この一部が中国の河川全体の汚染を反映しているのではないかと私は思う。カメラがとらえたのは、被害が深刻な村であったが、都市部においても決して良い状況とは言えないだろう。その例として挙げられるのが、2005年11月、中国石油の吉林省化学工場が爆発事故によりベンゼン100トンを松花江に流出漏洩した事件だ。その結果、ハルビン市民300万人が一時飲料水に困った、と当時現地で学校に通っていた友人から直接話を聞いた。

 実際に調べたところ、2006年では中国全土の都市の約6割が水不足に陥り、河川や湖沼の7割が汚染されているという驚くべき情報を得た。その結果、都市部の生活用水が不足し、内陸部の急速な砂漠化なども目立っている。また、国家環境保護総局と国家統計局が発表した『中国緑色国民経済核算研究報告書』によれば、2004汚染による経済損失はGDPの3.05%で、そのうち水質汚染による損失が55.9%(2863億元)もあった。

 

(西安市郊外の川)

 かかわらず、どうしてこのような深刻な事態になるまでにはきちんとした対策をとらなかったのか、経済成長と自然保護は本当に両立するのか、自然を守りながら、経済を発展させることはできないだろうか、など一連の疑問が頭に浮かぶとともに、被害の状況に憤りを感じる。2006年北京で「第5回水大会」が開かれ、水の安全、水資源の持続的利用を大会のテーマとし、都市の水管理、飲料水処理、汚水処理・再生利用、水資源と流域総合管理、給排水システム管理、及び健康と環境など七分野にわたり学術討論会や交流が行われたそうだ。そして同時に、中国での治水ビジネスの可能性を世界に提示されるチャンスにもなったという。中国は2010年までに、都市汚水処理率を70%にし、全国に汚水処理場を総額4000億元で1000カ所余り建設することを予定している。そこで、日本企業を含む外資がこの巨大な治水事業に関わる市場に参入することになった。いまになって水浄化に力を入れるより、最初から政府が水汚染の防止策をとっていたら、このような高額なお金と手間も省けただろうと私は思う。

 しかし、一歩下がって見てみると、今回の事件は中国にとって良いことといえるのではないだろうか。なぜなら、このような深刻な被害と国家損害を戒めとして、今後政府から国民のひとりひとりにいたるまでが水に対する根本意識が変わり、環境保護への関心が高まるきっかけになると考えられるからだ。一方、治水関連施設の整備が進むにつれて、水価格の上昇がもたらされていると言われている。国家発展改革委員会によれば、水価格は毎年10%の幅で値上がりしているという。飲料水に苦しむ貧しい地域の人々にとっては水価格の上昇は彼らの生活の困難をいっそう増すことになるだろう。水浄化への投資だけでなく、水に困っている人々への考慮も含めて政府で対策を見直すべきだと思う。

 

 番組の最後では、日本企業の中国の水ビジネス市場でのありかたと今後のそれに対する期待が語られていた。このような日本企業の動きは、利潤を追求するとともに日本の国際貢献の評価も上がるという二つの目的の達成が期待できる。だが、ビジネスを重んじる一方、水を救うという強い使命も忘れてはならない。企業間の激しい闘いのもとで利潤追求による環境放棄にならないように心がけてもらいたい。かつて公害に苦しんだ経験をもつ日本がいまや環境保護の技術力で世界を守る。技術力の面以外にも、民間で行われた水汚染問題の講演や会議に、日本からの関係者は参加している。このように日本人は中国各地で日本の水俣病などの被害の広がりや多様さを伝えることによって、中国人の水汚染問題に対する関心を少しずつ呼びかけることができるという。

 防止策に出遅れた中国は自然や環境に対してすでに過ちを犯した。いったん失われたきれいな水がよみがえるのには時間がかかる。しかしこの事態を奪回しなければこの大きく深刻な過ちは許されないだろう。中国の水状況が一刻も早く改善されることを期待すると同時に、このような水危機のような環境被害が二度と起こらないように、中国にいる人々だけでなく日本にいる私たちも生活用水の汚染を常に想定し、行動するべきだ。そして、これを防ぐために、身近なところで生活用水の節約などを心がけていくことが必要である。

 

<参考文献>

 


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