『 絵本を片手に、水を語る 』
匿名希望

 

 普段、私たちは水をいつでもどこでも手にいれられますよね。

 蛇口をひねれば、いつだって水は勢いよく流れてきて、手を洗うこともできるし、水を飲むこともできるし、お風呂も入ることもできる。水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的にも特に注目すべき特徴もなく、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質かもしれません。でも本当にそうなのでしょうか。このように考えた高校生の皆さんはきっととても住み心地の良い環境の中にいるのではないのでしょうか。ちょっと立ち止まって、水についてじっくり考えてみましょう。

 

 

 皆さんは「スイミー」という絵本を知っていますか。小さな魚スイミーが、海という大自然の中で生きて抜いていく中でのお話ですが、きっと幼い頃に一度は読んだことがあるのではないかと思います。この物語、あるものがなくては絶対に成り立ちません。ずばり、水です。

 ここで一つ、水の特質を挙げたいと思います。水は固体になった途端に堆積を増す性質があります。水をいれたコップに氷を入れても、氷は浮いていますよね。ところが他の物質において、固体を同じ成分の液体の中にいれると、沈んでしまうのです。これには、水が氷になる過程で分子間に気泡が含まれることにあります。他の物質には見られない、この特質は注目すべきものではないでしょうか。仮に氷が他の物質と同じく、水に沈んでしまうのであれば、多くの魚は冬に死んでしまうことでしょう。なぜならば、水に浮いている氷が冬の極度な水温の低下をおさえることを可能にしていたからです。また仮に氷山や南極の氷が全て沈んでいたら、海面はずっと高く、陸上の生物の命にも影響を与えていたことでしょう。

 

 地球は、液体の水が存在する唯一の惑星で、表面の約70%が水に覆われています。また、全ての生命はこの海から育まれたと言われています。さかのぼること35億年前、惑星衝突から原始の海が誕生し、有機物質が生命体となっていったことが始まりです。これば、水が生命の源と呼ばれる理由です。今日も尚、プランクトンなど本当に小さな命も、スイミーに限らず多種に亘る魚も、全ての動植物は、水に養われていることになります。

 

 え?海は水の世界だけど、砂漠には水がないから、そこに住んでいる動植物は水なしに生きていってるんじゃないかって?

そんなことはないんです。ここにも水の特性が隠されています。自然界で固体、液体、気体のすべての形で見られるのは水だけで、これらの状態の変化を水の三態変化といいます。

 

 私もまず砂の世界にまず生命が存在していることすら知りませんでした。小学生になって、初めて「星の王子様」をぱらぱらと見たとき、とっさに砂漠に蛇もきつねもいるの、と疑問に思ったこともありました。

 

 確かに砂漠は乾燥していて、湖や海のように目に見える液体や固体の状態の水を見ることができないかもしれない。ですが、空気中に水が水蒸気という気体の状態で砂漠にも水が存在しているのです。実際、皮膚に溝をつくることで露を集めるとかげの仲間もいます。また一生飲み水すら飲まないといわれているカンガルーネズミでさえ、体内構造を進化させ、空気中から取り込んだ酸素と食べ物の炭水化物に含まれる水素を体内で結合させて水を生み出しています。砂漠で生きている動物も、水なしには生けていけないことがわかりますね。

 

 今度は植物、木の話にうつりましょう。季節が巡りゆく中で、木は多くの人々に憩いの場を提供し、心を魅了してきました。この絵本「おおきなきがほしい」も、リスや鳥などの動物が住む大きな木に登って、そこで生活したいという子どもたちの夢を描いています。1971年に初版がでてからロングセラーの絵本で私も幼少時代、繰り返し読んでいました。この絵本を読んだことのある人はきっと主人公と同じように、おおきな木がほしいと思ったに違いないでしょう。

 さて、この木の生命を支え、人々に癒しをも与える要素なのが、水です。まず、毛細管現象という水の上昇によって、例え重力がかかっていても、隅々まで水が行渡ることができます。これは、水分子同士の結び合う性質が非常に強いためです。導管という管の中で壁と結びついた水分子につられて他の分子も上に上にと引き上げられていき、その結果水そのものの力だけであがっていき、木を潤しているのです。現在世界で最も高い木はアメリカのカルフォルニア州にあるレッドウッドで、110m以上にも及ぶと言われています。校庭で100m競走したことがある人はきっとその木の高さがどれ位なものなのかが想像できると思いますが、あの長さを1mmにも満たない小さな水分子が大移動して、木の生命を養っているのですから、これは驚くべきことでしょう。

 

 夏になると日差しが強く、木陰に入ればひんやりと感じますよね。実は、ここにも水の特性が秘められています。蒸発熱が大きいという水ならではの性質です。小学校の理科の授業で習ったと思いますが、葉っぱの裏側にある気孔から水が蒸発します。その時に、水は空気中の熱を沢山吸収するんですね。つまり、所謂気化熱が奪われて、その分空気の温度が下がり、その水の作用によって涼しいと感じるのです。同じ日陰でも木陰の温度は1,2度程低いそうですよ。

 

 

 では、最後に人間と水の関係を見つめてみましょう。

 

 人間の血液の約90%、脳80%、網膜92%、赤ちゃんの体80%、おとなの体65%は水でしめています。高い数値から表されていることは、水が人間の体を構成しているということです。生後まもない頃に体内に占める水の割合が多いのは、成長期に盛んに動きまわる時のための蓄えであり、同時に水が多い分だけ抵抗力が低いことを意味しています。また、歳をとるということは水が失われていくことを意味し、これは新陳代謝が衰えることで、体内での脂肪や糖が燃えてできる水の量が減るためだと言われています。

 

 また、木のお話をした時にも挙げましたが、気化熱を奪う水の特質が人間を生かしています。例えば運動をした時や暑い時に汗をかくと体温が下がります。仮に水が蒸発する時に熱を奪わないとすると、人間は自らの体温を制御することができず暑さのあまり生き抜く事ができないでしょう。

 

 人間の体と水の関係から、今度は食料に注目してみましょう。人間と同じように、それぞれの固体のほとんどが液体、水でできています。例えば、人間が65%水に対し、トマトは90%、リンゴは85%、魚は75%が水。

 

 ある食物・食品を生産するために使われる水のことを仮想水(またの名を、ヴァーチャルウォーター・間接水)と言われますが、その水の量も測りしえないでしょう。例えば穀物1Lあたり1000Pの水を使用するのに対し、1Lの牛肉を産出するにはその22倍の量が使われるのです。また、この1Lの穀物を輸入することは、1000Pの仮想水を輸入することと等しいことが分かります。国際環境計画(UNEP)によれば、多量の重い水を輸出輸入するには、長距離の輸送に費用がかかるためほとんど行われないといわれていますが、人々が使う約15%の水が貿易による仮想水だといわれています。これは面白い事実だと思いませんか。

 

 多くの水を消費し、まるであたかも水は無限あり消費しても消費しきれない物質だと無意識に捉えがちです。確かに地球の表面の70%が水で覆われています、実は地球上の水のうち人類が使用できる量は、たったの0.0001%といわれています。言い換えると、私たちが飲める水は地球上の100分の1も満たない量で、とても限られているということです。更には、世界保健機関(WHO)によると、不衛生な水が原因で毎年17億人以上が命を落としており、その犠牲者の多くが幼い子どもたちだそうです。世界の10人に4人が飲むには十分なきれいな水を得ることができません。これに伴って国連は、2015年までに安全な水を確保できない人、基本的な下水設備が使えない人の数を半分に減らすという目標を掲げています。水は決して無限ではなくて、その量に限りがあること、わかっていただけたでしょうか。

 

 様々な事柄を挙げてきましたが、ここに挙げたものだけでも、水がとても貴重で、莫大な生命を支えている尊い存在ということを理解していただけたのではないでしょうか。身近に存在していると、感謝の気持ちが希薄になってしまうのでしょう。それはきっとあなたを支える友人や家族の方と同じくらい重要な関係だと私は思います。水には注目すべき特徴が幾つもあり、その様子はきっと私生活においても見られることも幾らでもあります。もっと水について知り、自分が、今何ができるかを考え、そしてその事を他の人にも共有してください。最後に、水は、地球上の全ての生命を包み込む、まさに奇跡の物質でしょう。

 

参考文献

 


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