水の減少問題について

 鍵山 美帆

 

要約

 今回、水に関する現在の問題として、世界の水が減少していることを取り上げ、地球上の水で人が飲める量、人間が使用している水の量、世界中で消費されている水量の過去の推移、日本での水の消費の現状などのデータを調べ、次に日本やアメリカで開発が進められている水浄化装置や、日本で考案された水のいらないトイレ、バイオマストイレを紹介し、更に、自分自身ができる節水方法として雨水利用と明細票チェックをとりあげてみる。

 はじめに2005年、NHKが放映した「ウォーター・クライシス」というドキュメンタリー番組を見た。この番組によると、世界では今、水不足が深刻化しているというのだ。全体の7割が水であるという地球。絶えず地球上で循環を繰り返し、その量を保つはずの水が失われつつあるというのは信じがたかった。今回は、水に関する現在の問題として、世界で起こっている水の減少を取り上げ、日本やアメリカで開発中の水浄化装置や、日本発の新しいトイレ、バイオマストイレについて説明する。しかし、これら水浄化装置や独特なトイレなどは個人の生活から離れた、新しい製品でしかなく、今、すぐに一般市民が利用することは困難だ。では、今、自分にとってできることといえば、どこでも言われがちだが心がけと節水であろう。中でも自分が思いついた2つの方法は雨水利用と、明細票チェックである。

 

水不足問題

 上記した番組、「ウォーター・クライシス」では、水を確保するため住民と水道局が争う様子や、発展途上国で農作物栽培のため、地下水を過剰に取りすぎて発生した被害などが克明に映し出されていた。また、2007年1月30日、読売新聞の朝刊ではオーストラリアのクイーンズランド州で干ばつが拡大し、2008年から下水を再利用して飲み水として使用することが決まったとの報告があった。当初は住民の投票から決定するつもりだったというが、もうその猶予はなく、投票は行われないまま決まったという。この干ばつは地球温暖化によって引き起こされた異常気象の1つだというが、オーストラリアでは、以前からこのような干ばつ被害が起こっていたらしい。このまま干ばつが続くとオーストラリアでは水源は2009年に枯れるという。更に近年、アマゾン川が干上がってきているという話もある。このような干ばつ被害は世界で報道されている。同様に、日本の水道局も、世界で水不足が深刻化していると記していた。

 次に、水の量のデータを調べてみた。地球調査隊とTOTOきっずのホームページによると、地球上にある水の大部分は海水や氷などが占め、人間が使用できる飲み水の量は0.003〜0.1%ほどしかないそうだ。東京都水道局によると、トイレやお風呂だけでも1日1人、2リットルペットボトル62本(124リットル)の水を消費することを考慮に入れると、人は1日で248リットル、2リットルペットボトルで124本分使用していることになるという。また、TOTOきっずのホームページは、大人2人、子供2人の4人家族が1年間で使用する水の量は大体学校のプール1杯分に相当すると述べていた。更に現在、セルティック株式会社の顧問である小林 映章氏は、過去1990年から地下水や河川から汲み上げられて使用された世界の水の量は2000年にかけて約9倍にも増えたが、1人当たりで計算すると増加は2倍弱であり、近年では減少しつつあるとデータで明らかにしている。しかし今後、人口が増えるスピードが速すぎて水の供給量が間に合わないのではないか、と指摘する専門家意見を、小林氏は紹介していた。地球調査隊のホームページでも、水の需要が人口増加に伴い、ますます増えることを懸念していた。また、同ホームページでは、水の保有量の格差があり、特に発展途上国では水が手に入りにくく、水売りから高い水を買わなければならない人がいると記してあった。その上、健康に影響がなく安心で、清潔な水を飲むことができるのは世界の4人に1人だけだそうだ。また、同ホームページはその原因を、安全な水が減少している原因を少雨、過度の地下水くみ上げ、工場などからの排水、貧困地域で水供給施設がないことだとしていた。

 また、地球調査隊ホームページ、国土交通省水資源局水資源部によると、人間の消費量もさることながら、作物や家畜を飼育するためにも大量の水が使用されているという。つまり、日本が輸入している穀物などにも水が使用されているということだ。例えば国土交通省水資源局水資源部の示すグラフからは、日本が輸入している肉類、主に牛肉ではある年で、1年で68.2億立方メートル、麦では1年で、275.9億立方メートルもの水が必要としたことが分かる。今度は日本に注目してみたい。国土交通省によると2003年、日本では、1年で839億立方メートルの水を消費しており、その約66%は農業用水、約19%が工業用水、約14%が生活用水として使われている。尚、生活用水には都市での飲食店、ホテル、オフィスなどで使用される都市活動用水と家庭で使われる家庭用水があり、家庭用水はトイレで約28%、風呂で約24%、炊事で約23%、洗濯で約17%という割合で消費されている。また、2003年までの生活用水の使用量の推移を示したグラフによると、その使用量は年々著しく増えてきているが、2000年をピークに微量ながら減少しつつある。一方、工業用水では1965年から2000年にかけて使用量が約3倍に増えたが、水の回収利用が進み、河川から摂取する水の量は1973年を境に減少している。最後に、農業用水に関してはそのほとんどが水田に利用されており、利用されている量にあまり大きな変化は見られない。だが、1996年から徐々に減少傾向を見せ始めている。

 

水不足に対する対策―水浄化装置ー 

 現在宇宙開発が急速に進んでおり、国際宇宙ステーション(ISS)の建設も着々と行われているようだ。それに伴い、2006年11月21日の朝日新聞によれば、東京都宇宙航空開発研究所(JAXA)では、水浄化装置の開発が急がれている。これは、主に、十分な水が確保できない宇宙で、宇宙飛行士達が利用するためである。この浄化装置の開発は、最終的に人尿も飲み水として再利用することを目標としている。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、アメリカの人は1日約10リットルの水を飲むというが、ISSでは浄化装置を使って1人当たり1日約1.62リットルの水で過ごしているのだそうだ。水浄化装置の開発はNASAでも行われており、その浄化装置をISSに2007年以降に打ち上げる予定だという。もちろん、NASAと日本のJAXAの装置には少々違いがある。更に、いずれの装置も、現時点で、宇宙での水のリサイクルを目的として開発されている。しかし、これが一般市場に普及すれば、地球が水を雲から雨を降らせ、蒸発させて、雲を作り、再度雨となって大循環させているのと同じように人も、再利用という方法で水を循環させ、日常生活における水の消費量を削減することが可能になるだろう。

 

水不足に対する対策―バイオマストイレー 

 土曜日の朝に放映されている「がっちりマンデー」という番組で、変わったトイレが紹介されていた。バイオマストイレといわれるものだ。このトイレは、特殊なおがくずが水の代わりに用いられており、用を達したあと、ペダルを押すとおがくずが混ざり、次の人が使えるようになる。このトイレの長点は、水を使用しない、臭わない、汲み取り式ではない、糞尿が資源として利用できる、発酵温度が50度以上に上がるため、雑菌が死滅する、比較的安く購入できる、設置が簡単にできる、生ごみ処理ができる、匂いの少ない仮説トイレの設置が可能になる、災害時に強い、介護用としても利用できる、寒い地域でも使用できる、利用費用が安く抑えられる、というものだ。このバイオマストイレは北海道の旭川動物園で使用されている。実は旭川動物園はかつて水洗トイレがなく、汲み取り式のトイレであったという。旭川動物園の人気が高まるにつれて入場者数も増えていったが、悪臭への批判が多かったためこのトイレを導入したのだそうだ。尚、このおがくずは1年に2〜3回取り替えるだけでよいのだそうだ。もしこのようなトイレが一般の家庭に広まるならば相当な量の水が節水できるはずである。しかし、このバイオマストイレを実際に使用した例としての旭川動物公園の報告書によれば、悪臭がする、トイレの数が足りない、などの批判もあったという。だが、それに対してバイオマストイレの開発をしている正和電工は、悪臭については使用する人の数が多すぎたために起きたことであり、おがくずを2〜3日に1回、10〜15日に1回など頻繁に取り替えることで解決したと述べていた。また、トイレの数も緊急に増やしたが、設置が簡単なため、今後ももっと増やしていくということだ。このバイオマストイレにはさまざまな種類があり、その場所に適応したものを追加すると記していた。更に、以前、旭川動物園は冬場、閉園していたそうだが、バイオマストイレは寒い地域でも使用できるという特徴を持つため、冬場の動物園開園が可能になったそうだ。このバイオマストイレは、北海道という寒冷の地にある動物園で威力を発揮した。その上、バイオマストイレの最大の特徴、水を使用しないことなどが関心を引き始め世界から見学者が来ているという。

 

 今、自分にできること今まで述べてきたことはまだ開発途中でもあり、個人レベルでは達成できにくいものである。それでは今、自分にできることは何かと考えてみるとありきたりな「節水」しか思い浮かばない。 具体的にどんな行動でどの位の水を消費しているのか、節水をするとどれほどの効果があるのか、TOTOきっずのホームページで調べてみた。このホームページによると、水を1分間流し続けると12リットルの水が消費されるという。またトイレに関しては、2回流すと6〜13リットルの水が無駄になるそうだ。大、小の切り替えがあるトイレで小を使用すると、2リットルの水が節約できる。更に、食器は、おけなどを使ってため洗いをすることで約70リットルの水を無駄にすることなく洗うことができ、食器洗い機を利用しても1回につき70リットルも節水できるそうだ。福岡市水道局、武蔵野市役所のホームページでは、シャワー20分間で約240リットルの水を使用しており、湯船の水を洗濯、洗車など活用することで約90〜100リットルの節水ができると記されていた。歯磨きの時にはコップで水をすすぐようにすると、1回で5リットルの節水が可能になる。洗車の際にはホースからだと240リットルの水が使われ、バケツを使うようにすると約30リットルの水だけで済み、210リットルの節水ができるという。だが、実際、節水生活をするとなると相当ストレスがかかるようである。

 国土交通省河川局は、68世帯の家庭に協力してもらい、1日1人約100リットル、つまり通常の約半分の水で生活が維持できるかどうかという節水実験を行った。尚、この68世帯は1世帯当たり、平均で4.1人である。具体的にはシャワーの利用を控え、湯水を利用してもらう、水をポリ容器にためて少しずつ使用する、トイレには食器洗いや洗濯のあとのすすぎ湯などを利用する、洗濯には必ずお風呂の残り湯を使う、という生活を1週間体験してもらうものだ。結果として、平均で、1人1日約94リットル、3人家族でも97リットルと、通常の57%の水で生活することができた。また、一番節水効果が現れたのは他の水を再利用しやすいトイレ、雑用水、洗濯であった。しかし、この節水生活の感想を聞くと、湯船の残り湯が様々な方法で活用できると分かったという人がいる一方、家事の時間が20〜50分多くかかるようになり、ほとんどの人がストレスを感じたと記していた。手や、食器、湯船を洗う時に汚れが残っている気がして不快だった、という人や、中には2週間は持たない、という意見もあった。このように、数字では節水の効果も明白だが、実際行動に移したときは負担がかかることも分かる。

 

 自分の行動を振り返ると、近頃、水を無駄に流すことが多いと気がついた。特に冬場は暖かいお湯に切り替わるまで水を流し続け、お風呂の中で水を余分に使っていることが多いようだ。実際、お風呂で身体を洗う時に湯船の水を使ったり、歯磨きの時にはコップを使用したり、更に手を洗う時にこまめに水道水を止めるなどを心がけてみたが、長年の癖もありなかなかすぐに直るものではない。そこで、どこでも言われている節水方法だけでなく、自分独特の案が出せないか考えてみた。

 具体的に2つ思い当たることがあった。雨水利用と、明細票チェックだ。

 雨水利用については、家で天気予報をよく見るため、雨が降ると思ったらバケツを出しておき、その水を利用して、花に水をやる、という方法だ。今まではホースなどで花に水をやっていたが、雨が降る時、花は雨から水分を補給しているとすれば、晴れている時にも同じことをしても構わないだろうと考えた。ただ問題なのは雨水を溜めておいて腐らないかどうかということと、夏場には水を溜めておくと蚊の幼虫、ボウフラがたくさん発生することだ。まだやったことがないのではっきりしたことは分からないが、もし雨水を溜めて浄化する装置があったら望ましいと思う。以前アメリカへ訪問した時、そういう装置を備えている家があった。やはり、地球が地中や海に雨を降らせて浸透させ、それを蒸発させて雲にするという大循環を行うように、人間も水を使い続けるだけでなく、どの位再利用し、循環させることができるか、そこに水不足問題を解く鍵があるのではないかと考える。

 2つ目の明細票チェックというのは直接的な節水というわけではなく、節水をした結果を見ることで、達成感を増し、節水を長く続けるように工夫するということである。成績表などと同じように多くの人は、結果が目に見えるものに左右されやすい。それがいい結果であった場合、次に持続させる力になる。もちろん、プレッシャーになることもあるが、まず明細票を見て、自分が普段慣れないことを続けた努力の結果を確認することも重要なポイントだといえる。また、水の節水は家計の負担の軽減にもつながるため、一石二鳥であろう。通常、水道量を示す明細票は2ヶ月に1回のペースで知らされる。今回も自分の家でどの位水を使用しているのか調べようとしたが、どうやらすでに廃棄してしまったらしく、次の明細票を待つことにしている。世界で問題になっている水不足。様々な技術発展による解決も望めるが、今、行動を起こさなければならない時期に来ている。人間による水の再利用の努力と、それをいかにして長く続けるか。まず、自分にできることをすること、それが世界中で問題になっている水不足の解消につながるだろう。

 

参考文献


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