水源林と私達の生活

吉村 友里子

 要約

 天から降ってくる雨を貯める水源林と私達の生活の関連性を、出身である横浜市のケースを進行中の成功例として取り上げた。水源林を取り巻く現状や課題、それらを解決するための取り組みに目を向けることでレポート全体の課題である「今私達に出来ることは何か」を考えていく。一個人で出来ることは少ないが、それでもまずは最低限目を向けて知ろうとする努力の重要性をこのレポートを通して改めて実感したことを書いている。

 

本文

 「水は資源です。」 先生が授業の最初におっしゃった言葉だ。大切な資源である水はそもそも天から雨などとして地上に降り注ぎ、大地に浸透し、川や海などに注ぎ込む。さらにそこから太陽熱などによって温められて水蒸気となり空中へ戻っていく。このサイクルの繰り返しが水の営みである。しかしこのようなサイクルの中において水という資源の重要な一時預かり所となるのが「森林」だ。このような森林は特に水源林と呼ばれ、「人間の暮らしに必要な水を安定的に貯留・供給する森林」として「緑のダム」と呼ばれることもある。首都圏においては、東京近郊の県内にある水源林に溜まる水が都心の水源となっているケースがほとんどで、水源林の減少あるいは消滅は人間の生活に直接大きな影響を及ぼすということが様々な研究や調査によって分かっている。しかしながら、水の利用者である都市の人間レベルになるとこういった問題に関する知識や認識不足は甚だしく、現在ではそういった人々への当事者意識の植え付けや、水源林自体の管理・運営などについて様々な課題が持ち上がっている。このレポートでは、日本における水源林利用を巡る問題について考えたい。

 現在日本の土地利用としては主に農耕地・都市・森林の3つに大別出来るが、そのうち全国土における森林の割合は6割以上で、この割合は世界でも4位という多さを誇っている。また、毎年梅雨や台風に見舞われることから考えても分かるように日本は降水量も豊富であるため、森林を利用した治水事業は各自治体にとって重要な課題となっているのが現状である。その中でも特に水源林については、樹木の根系が山崩れを防いでくれるという土砂災害防止機能や、落ち葉や下草に覆われた森林土壌中に雨水を浸透させゆっくり流出させることにより洪水を緩和し、水質を浄化して降雨後の川の流量を増やしてくれるという水源涵養機能が注目されていて、それらの利点を生かそうと日本各地で行政レベルからの水源林保護活動が始まっている。しかしながら、なかには林業の担い手の高齢化と人手不足から荒廃が進む水源林もあり、適切な造林・育林・管理のための十分な取り組みが求められている。

 つまり以上の内容から考えると、日本における水源林に関する主な問題としてはその当事者意識・水源林の管理手法・管理者という3点が挙げられることが分かる。では、その次の段階として「このような現状下に生きる私達が今いるところで出来ることは一体何であろうか?」という疑問が浮かんでくる。この設問に答えるために日本国内における水源林と私達人間の生活について調べていたところ、水源環境税の導入に向けて画策している横浜市についての新聞記事を発見した。横浜市では2000年に初めて水源環境保全税の導入に関する議論が起こったが、当時は水源林の重要性に関する市民の認識度が低く、議会においても増税の賛成を取り付けることが出来なかった。そこでその後の経緯を追うために関係する記事を集めてみたところ、横浜市の水源地に対する様々な取り組みが判明した。

 日本最大の市町村である神奈川県横浜市は人口350万人を超える政令指定都市で、歴史的に港町として栄えてきた。現在でもその人口と貿易商業都市としての発達ぶりを考えると、市内での1日当たりの水使用量は莫大な量にのぼると推測される。(ちなみに日本人の1日当たりの生活水使用量が322リットルと言われている。) そんな横浜市の主要水源の1つとなっているのが山梨県南都留郡道志村から始まる道志川である。道志村のホームページによると、横浜市が道志川より取水を開始したのは明治30年からということで両者の友好関係はそれ以来現在まで大変長く続いていることになる。その間、これまでに横浜市は水源地である道志村に対して様々な配慮を見せている。例えば最近の例として、2003年から始めた道志村沢水のペットボトル販売が挙げられる。横浜市の水道局が道志川の上流水を濾過・加熱殺菌したものをペットボトルに詰めて横浜市内で販売する事業であったが、発売当初の2003年から3年間で100万本が売れ、その利益の一部は道志村の森林保護費用として還元されているという。また、2004年6月には横浜市長である中田氏が道志村を訪問した際に両市村の友好と交流に関する協定書に調印し、現在道志村は「横浜市民ふるさと村」とも呼ばれている。もちろん以上のような森林保存・育成のための資金援助や名目上の友好アピール以外にも、民間レベルでの交流事業も進んでいる。もともと行政レベルで始まった友好交流事業であったが、平成17年度には「道志水源林ボランティアの会」という横浜市民を中心とした会が設立され、それ以降は横浜市水道局と協力して道志村の森林保護活動を進めるようになった。横浜市の水源林を守るという宣言の下、1300人を越える会員が月に2回程度実際に道志村まで出かけていき森林整備を行うなど大規模な民間交流事業へと成長してきている。道志村も村おこしの一環として全国から水源林に植林するオーナーを募るなど、森と清流の郷としてのアピール活動を積極的に行っている。こうした活動を通して水源林保護の動きに大きな手ごたえを感じた横浜市は、2004年になって再び水源環境保全税の導入を検討し始めた。しかしながらやはり増税という負担は市民にとっては容易に受け入れられるものではなく、再検討から3年経った現在でもその結論は出ていないのが現状である。しかしながら、結果的に横浜市のケースは行政と民間が一体となって水源林保護に取り組んでいるという点において評価出来る成功例であると思う。冒頭に挙げた3つの課題である当事者意識・水源林の管理手法・管理者に関して一定の成果を得ており、今後もその発展が期待される。

 では最後に、以上のような横浜市の例を踏まえて今私達がここで出来ることは何かという疑問の答えを考えたい。水源林の問題に関して言えば、まずその原点となるのはやはり「当事者意識」だと思う。当事者意識を持つためにはまず知る必要がある。自分が使っている水は果たしてどこから来ているのか?水源地の自然環境はどのような状態なのか?このような事柄に関心を持ち知ろうと努力することで、水を通して自分と水源林の間に関係性を見出し当事者意識を持つことが出来ると私は考える。その上で初めて何かしたいという思いが生まれ、友人と自分が知ったことについて話し合ったりボランティア団体に所属するなど行動を起こすことが出来るのではないだろうか。従って結論としては、私達がここで出来ることは、とてもちっぽけなことのようではあるが、まず「知ろうとすること」ではないだろうか。何事にも目をつぶってしまえばそのままやりすごされてしまう。私も今回のレポート課題を通して水源林に関する取り組みの成功例を知ることが出来た。私は横浜市出身で現在も祖母の家が横浜市にあるため、今度からは遊びに行った時スーパーではペットボトル入りの道志村沢水を買ってみようとも思えた。やはり何事も目を向けて考えることから始まると実感した良い経験であったと思う。

 

参考資料

 


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