2000年6月9日
中村 真理愛 ID.031292
水辺の開発
かつて人間は海や川の氾濫を防ごうと知恵を絞った。しかし今では治水にとどまらず人間は海を開発することによって利益を得ることを考え始めた。その結果が深刻な河川の枯渇や、海の汚濁である。朝日新聞によると世界の主要河川の半分以上で枯渇や汚染が進んでいて、大河川で健全なのは流量が大きく開発が進んでないアマゾン川とコンゴ川ぐらいだそうだ。近年、人間によって行われる開発はいったいどのように自然を破壊しているのであろうか。
水辺の開発による自然破壊の実例
諫早湾干拓事業
干拓による深刻な被害はすでに表れているものだけでも5つ挙げることが出来る。干潟の消滅により、そこに住んでいた1.貝類の壊滅2.海藻類の消滅。プランクトン及び微生物の死滅による浄化機能低下による3.水質汚濁と4.赤潮、5.底魚激減。
これらの莫大な被害と引き換えに県が干拓によって得ようとした利益は新しい「農地」と「経済効果」であった。公共事業に着手して経済を活性化させよう、干拓によって農地を得ようという県の思惑によって進められた事業は諫早湾干拓事業のほかにもいくつかある。そのうちの一つ中海干拓事業(本庄工区事業)について詳しく調べた。
中海干拓問題
1. 中海および本庄工区の位置__図参照。中海は島根、鳥取両県にまたがる湖で国内5番目の大きさを誇る。2. この事業の状態_1968年に干拓工事に着工し今は一時延期の状態にあり、この先完全に干拓(全面干拓)するかどうかについて議論が なされている。
3、この事業が環境に及ぼす影響
A. 水の流れが悪くなり、中海の水質汚濁がすすむ。_図参照。B. 汽水湖から淡水湖になる。
- 近接する宍道湖の水中生物(7珍_蜆、スズキ、ドジョウなど)への影響。
- C. 干拓完成に伴う水鳥の生息域の減少
干拓工事の途中で出来る浅水域の水面と干潟はプランクトン豊富な餌場であり、水がひいた湿地は湿生植物が生え水鳥にとっての繁殖地である。そのため、多くの水鳥がシベリアから飛来し中海の干拓地で越冬し始めた。(_図参照。)中海は毎年二万羽をこえる水鳥の飛来があり「水鳥の楽園」といわれておりラムサ_ル条約に登録されるための基準値を満たしているほどである。また、飛来する水鳥の中には環境庁のレッドリストに載っている猛禽類のミサゴもいる。しかし全面干拓によって浅水域、干潟、浅水域は失われてしまい、水鳥の居場所がなくなる。そのため先に述べたような貴重な種としての鳥の個体数が減ってしまうであろうことが予測される。また、水鳥たちは種類によって餌が違ったり、競合したりするため「ここが水域でなくなったら、他の水辺にいけばいい」というように簡単に済ますことが出来ない。
図_ 参考資料home page2より 干拓途中に水鳥が住み着いたため、全面干拓計画を中止し、水鳥公園を作った彦名干拓地
これまで、この干拓事業にかけた経費は508億円であり、そのうち島根県は240億円を負担し、あとの268億円は国が負担している。もし島根県が中止を決定したら国が負担していた268億円を島根県が国に返済しなければならないため。
この干拓工事を開始した当時(1968年)は農地が足りず干拓が必要なように思えた。しかしその二年後(1970年)に減反政策が始まり、この干拓事業はその政策に逆行する事になった。そして、今「農地」がほんとうに必要であるかどうかは疑わしい。農地が増えることに賛成し期待を抱く人も居るが、住民の大半は「これ以上農地が増えたとしても過疎化のため農業後継者がいないのに。」と干拓に反対している。
さて、こういった開発を前にして私たちはなにをすべきか、そして何ができるのだろうか。まず何をすべきかについて考える前に、すでになされていることについて調べる必要がある。近年になって「環境アセスメント」が法として施行され、長期間効果をあげていない公共事業の見直しをはかる「時のアセスメント」が導入された。
環境アセスメント_大規模な開発が自然環境に与える影響を事前評価する制度。環境アセスメント法が1999年に施行。この環境アセスメント法施行によりアセスメントの義務を開発事業者に負わせることとアセスメントの結果や方法に対して誰もが発言権を持つことが可能になった。
時のアセスメント_費用に対して投資効果が少ない事業は中止、休止とする。対象になる事業は_事業採択後5年経過時点で未着工_10年経過時点で継続中_事業採択前の準備,計画時点で5年経過(イミダス2000より)
上記の法、制度は環境保全に有効なように思われる。しかし今回、諫早湾の干拓問題を調査した時に「環境アセスメント」のもろさが目に付いた。諫早湾干拓においてアセスメントはかつて行われており、その結果は「周囲海域に及ぼす影響は許容範囲内」というものであり、諫早湾干拓事業が論議を呼ぶ中で、国側はその結果を盾に事業をさらに進めようとしていた。しかしながら国側の調査結果と現実における環境への被害は大きく異なっている。国の行った調査の公正さについては大きな疑問が残るところだ。
以前話題になった長良川における河口堰建設後の調査においても建設庁は疑問点の多い調査を行っている。その調査に対して朝日新聞で批判が為されている。建設庁は堰の建設後に「アユの遡上は順調である」と述べた。しかしながら、その元になったデータが調査時に大きく補正されている上に、川を泳いでいるアユの大半が放流したものであるということを朝日新聞は指摘した。
今見てきたように国は必ずしも正しい行いをするわけではない。いろいろな利害が絡んでいるだけに不正は行われやすい。そこで、私たちが国の不正を見抜き、それを批判して正しい方向にもっていく事が大切である。
特に私たち大学生はもっといろいろな問題に目を向けるべきだし、疑問や批判を外部に向かって発信するべきだと今回の調査を通して感じた。今回調査の参考にさせてもらったホームページの作り主の大半が学生ではなく大学教授や市民団体であったことには落胆させられた。
私たち学生は調べたい事があったらすぐにインターネットや図書館の本で調べることが出来る。また、ホームページを作って外部に訴え、Eメールで同じ意思を持った人とコンタクトを取る事も難しい事ではなくなってきている。こういったように自分の周りのさまざまなツールを上手に使ってさまざまな問題に取り組むことが大切なのではないか。
参考資料
朝日新聞1999年10月22日、11月16日2000年1月11日、3月2日、4月9日、4月12日、4月14日
イミダス2000 P,62、210、219、554
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