"水と環境ホルモン"
b:今、地球上で何が起こっているのか?
最近新聞などで環境問題の一つとしてとりあげられている"環境ホルモン"。よく耳にしますが、これは一体なんなのでしょうか。環境系HP「にゃにゃにゃのページ」(http://ha5.seikyou.ne.jp/home/akahori/)によると、
"環境ホルモン=内分泌撹乱物質"とは、「生体の成長、生殖や行動に関する様々なホルモン作用を阻害する性質を持っている化学物質」のことです。厳格な定義は今のところありませんが、97年1月に開催された"内分泌障害性化学物質に関するスミソニアン・ワークショップ"での申し合わせには、「生体の恒常性、生殖、発生、あるいは行動に関与する種々の生体内のホルモンの合成、貯蔵、分泌、体内輸送、結合、そしてそのホルモン作用そのもの、あるいはそのクリアランス、などの諸過程を阻害する性質を持つ外来性の物質(1)」とあります。環境ホルモンは、体内に入ると、あたかも本当のホルモンのように作用します。 言わば偽ホルモンです。ホルモンとは、生殖や体の正常な状態を維持するために、内分泌器官から ごく微量分泌され、主に血液中を運ばれて、目標の器官に作用を及ぼす「化学情報伝達物質」のことです。これは一種の情報なので、大切なのは量ではなく、質と、届くタイミングです。しかし、質に関しては、受け取る細胞はうまく判断する事ができません。そこに環境ホルモンの付け入るスキがあります。環境ホルモンは、本来のホルモン作用を撹乱し、生殖能力を低下させ、発達を阻害し免疫系の働きを弱めます。環境ホルモンの中で、最も多く見られる例がエストロジェンの類似物質です(エストロジェンとは、女性ホルモンの一種です) 。 哺乳類は、元々女性です。脳は胎生期には女性として存在しています。それを男にするために働くのが男性ホルモンです。肝心なときにサッと出ます。 そんなホルモンの変わりに、女性ホルモンと同じ作用をする環境ホルモンが作用すると問題なのです。オスは、オスになりきれず、精子の数は減少し、生殖器の異常が発生したりします。そうなるともう彼は子孫を残す事ができません。同じ種で余りにも多く同じ現象が起こった場合、最悪その種は絶滅します。
このように、我々が生物学的に男性として生まれるか、女性として生まれるかを決定する重要な性ホルモンに影響を及ぼすとされている「環境ホルモン」。具体的には生物のメス化やオスの精子数減少などが指摘され、この現象が同一種の中でたくさん起こると「最悪その種は絶滅」する、とまで言われています。では実際にはどのような物質が環境ホルモンとして考えられているのでしょうか。同じく「にゃにゃにゃのページ」によると、
<2.現在疑われている主な物質>
1997年に環境庁は、内分泌系撹乱物質と疑われる物質67種類をリストアップしました。
現在、地球上には1000万種以上の化学物質があります。実際に使われているだけでも約10万種以上。現在疑われている物質は67種類ですが、もちろん1000万種すべてを調べられたわけではないので、実際の数はどこまで上るのかは分かりません。今回はこの中から、有名どころであるダイオキシン類、PCBs、DDT、ビスフェノールAについて取り上げたいと思います。
ダイオキシン類
ダイオキシン類は、ごみ焼却時などに副生産物として発生する、いわば非意図的生成物です。この化学物質には210種類もの異性体が存在しますが、最も高い毒性を持つのが2,3,7,8-TCDD(2,3,7,8,-四塩化ジベンゾダイオキシン)です。ほとんどの毒性評価実験には、この2,3,7,8-TCDDが用いられています。ダイオキシンには様々な毒性があるといわれています。農薬製造工場の爆発などで急激に多量のダイオキシンを摂取した場合には、死に至ることもあります。また日常の生活の中でも慢性毒性の危惧があります。慢性毒性とは一生涯にわたって摂取することで現れてくる毒性を言いますが、ダイオキシン類の慢性毒性実験で報告されている生体影響は、発がん性に加え、体重減少、免疫抑制、造血機能低下、タンパク質合成や脂質代謝機能の低下、肝臓障害、生殖障害、ホルモン撹乱障害などがあります。
PCBs(ポリ塩化ビフェニール類)
PCBsは有機塩素化合物の一つで、耐熱、耐薬品性、絶縁性に優れており、コンデンサーなどの絶縁体、熱媒体,印刷インキの添加材などに使われていました。日本では1954年から1971年の間に57,300トンが生産されています。しかし1968年に西日本を中心に起こったカネミ油症事件の原因物質と分かり、人が摂取すると皮膚炎や肝機能障害を引き起こすことが分かったことから、72年に行政指導で製造中止、74年には使用中の変圧器を除く新たな使用が禁止されました。PCBsは厳重な保管が義務づけられていますが、最近になって国内の保管場所約13万ヵ所のうち、中小企業を中心に紛失が増えています。厚生省が92年に実施した調査では、変圧器・コンデンサーの7%が所在不明でした。そして97年度に環境庁が行なった調査では、調査地点すべての大気中から微量ながらPCBが検出されており、この紛失が汚染原因の一つと見られています。
DDT
DDTは強力な殺虫力を有する有機塩素系の農薬です。1874年に初めて合成された化学物質で、この物質の優れた殺虫性を発見した博士がノーベル賞を受賞したという歴史もあります。DDTの作用は神経への毒性で、農作物や畜産・酪農製品を通じて人体に移行します。母乳へのDDTの蓄積は1951年に見つかり、日本でも60年代に広範囲な母乳汚染が報告されました。この物質の農薬登録は1971年に失効しましたが、その後も木材のシロアリ防除剤として約10年使用され、また熱帯域の一部の国々ではマラリア対策(蚊の駆除)のために現在もなお利用されています。1947年から1971年までの累積生産量は156,265トン。日本では1981年にすべての使用が禁止されました。
ビスフェノールA
ビスフェノールAは、上の3つとは少し状況が異なっています。この物質は、ポリカーボネート(食器、CD-ROM、高速道路の防音壁など)、テトロン(ポリエステル繊維)、PET(ボトルやビデオテープの基材)、エポキシ樹脂(接着剤)などの原料として、現在も広く使用されています。環境ホルモンとして疑われている代表的な物質ではありますが、すぐさま生死に結びつくような毒物ではないために、製造禁止などの措置は取られていません。1994年の生産量は260,000トン(推定)。議論の対象になっているのは、給食用の食器および玩具への使用によって発生する子供たちへの影響です。最近の研究では、この物質にはホルモン撹乱作用と共に発がん性もあることが指摘されています。ビスフェノールAは、これでもまだ研究が進んでいる方です。環境ホルモンと疑われている物質の中には、はっきりと「クロ」とは言えない「未知の」物質が沢山あります。これらの物質を危険性が分かるまで放っておくのか、それとも何か手を打つべきなのか?あなたはどう思われますか?
環境ホルモンとして有名なダイオキシン、DDT,PCBs、ビスフェノールAについての簡単な説明を載せてみました。これによると、上記の化学物質は環境ホルモンとして疑われている物のうちのほんの一部で、地球上に存在する化学物質は1000万種、実際に使用されているだけでも100万種で、そのうちのどこまでが環境ホルモンとして働いているのか分からない、といいます。また、ここでは環境ホルモンが我々の日常生活にとってと身近に存在することが指摘されていますが、その身近さを感じさせる報告として、今年の1月27日付けの朝日新聞朝刊に次のような記事が掲載されていました。
■水道水から「環境ホルモン」 九州など9県で調査 【西部】
グリーンコープ連合(組合員約三十万人、本部福岡市)は二十六日、広島と九州・山口の九県で、水道水などに環境ホルモンが含まれているかどうか調べた結果を発表した。きわめて微量ながら、すべての水道水で検出した。安全性に問題はないという。水道水の環境ホルモン調査はまだ例が少なく、専門家も注目している。
調査は一九九八年秋から九九年夏にかけて、季節ごとに四回行った。九県十二地点の組合員宅の蛇口からくんだ水道水と、その地域で水道が取水している二十四河川の水の中に、代表的な環境ホルモンとされるノニルフェノールとビスフェノールAが含まれているかどうかを調べた。
民間の検査機関「環境監視研究所」(大阪市)で分析した結果、水道水と河川の水すべてで、ビスフェノールAが〇・〇一-〇・一ppb(ppbは十億分の一)検出された。ノニルフェノールは水道水五地点と河川二十一から〇・〇一-〇・一四ppb出た。
グリーンコープ連合は「一年を通して調査したことで、河川だけでなく、どこの水道水にも環境ホルモンが含まれている可能性があることが分かった」として、来月にも環境庁へ対策を要請する方針だ。
古賀実・熊本県立大学教授(環境分析化学)は「濃度はごくごく低いし、水からの摂取は食物に比べても少ないので、人体への影響がすぐに起こることはないが、複数の環境ホルモンの相乗作用も考えられる。長期的に調査に取り組んでほしい」と話している。
この記事の報告によると、微量ながらなんと水道水から環境ホルモンが検出された、というのです。我々の生活に必要不可欠かつ我々の体の80%を構成している「水」。そのうちでもおそらく一番我々に近くにある水道水でさえ環境ホルモンに汚染されているというのです。このような状況で、実際に人体から環境ホルモンが検出された、というのが以下の1999年6月18日付け朝日新聞夕刊の記事です。
■羊水に環境ホルモン、米・ロスの妊婦から検出
ロサンゼルス周辺の妊婦の羊水から、殺虫剤のDDTが分解してできるジクロロジフェニルジクロロエチレン(DDE)など、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)を検出した、と米シーダーズ・シナイ医学センターのクロード・ヒューズ博士らが米内分泌学会で発表した。DDTは米国など先進国では使用が禁止されているが、まだ影響が続いている
博士らは妊娠四-五カ月の女性五十三人の羊水を調べ、約三〇%の十六人からDDEを検出した。DDEは、生体内の男性ホルモン受容体に結合し、同ホルモンの作用を低下させることが分かっている。博士らは胎児の発育への影響を調べたいという。(共同)
この記事で妊婦の羊水から検出された環境ホルモンはDDTが分解してできたもので、先の水道水から検出されたノニフェノールやビスフェノールAとは異なりますが、同じ環境ホルモンであることに変わりはありません。このように、環境ホルモンは我々が生きていく上で必要不可欠な「水」に溶け込み、日々現実的に我々の体内に侵入、蓄積しているのです。
c:人間は何をすべきか?
近現代の光としての「科学万能主義」「工業化」。そしてその影としての「環境汚染」。その「環境汚染」を最近話題になっている「環境ホルモン」と「水」の観点から探ってみました。我々は「工業化」の影としての「環境汚染」などといっても、それを頭で、あるいは理屈で理解するのはわりあい早く、「ああ、工業廃水の垂れ流しはいけないんだな。」とか「水俣病やイタイイタイ病なんていうひどいことが起こっているんだな。」などと思うのですが、実際に自分に被害が及ばないとどこかでそれを「他人事」として捉えていしまう面があると思います。そうやって環境問題を指摘されながらも企業は「資本の論理」にのっとって、そして消費者は自らの利便性のために環境問題を「他人事」として、あるいは「見て見ぬ」ふりをして相変わらず「大量生産」、「大量消費」を続けてきたのです。しかし、多種多様な環境汚染の中で、この「環境ホルモン」が他の環境問題と少し事情が異なるのは、この「環境ホルモン」による汚染はもはや「他人事」でも「見て見ぬ」ふりをすることもできない、たった今、我々自身の体に影響を及ぼしている問題である、という点だと思います。我々の体の80%を構成している水、その水の一番の供給源である「水道水」に少量とはいえ環境ホルモンが含まれ、そして実際に妊婦の羊水からも環境ホルモンが検出されているのです。我々はすでに「進退極まった」状態であり、悠長にかまえている場合ではないのです。もはや手遅れである、といっても過言ではないかもしれません。しかし、この問題が解決できるか、できないかがたとえ分からなくとも、せめて解決しようと努力すること、それだけが今の我々がこれからの地球に対してできる精一杯の罪滅ぼしではないでしょうか。
d:我々は何ができるか
我々が消費者として日々の生活を送ることで環境ホルモンの一例に見られるような環境汚染に荷担し、そして我々自身が日常生活における飲食によって直接その被害を受けています。つまり環境汚染は我々自らが原因でありかつその結果も我々自身にかえってきている問題であると言えるでしょう。そこで我々がこの問題に対して何ができるか、を考えた場合、具体的に「買い物袋は持参する」とか「ゴミはきちんを分別する」とかそういった地道な努力は解決策につながるかもしれません。しかし、そういった表面的、末端処置的な努力だけではなく、「生活態度」を変える、あるいはもっといえば「人生観そのもの」を変える、といった根本的な変革がわれわれ一人一人に求められているのではないでしょううか。わかりやすく言えば、「物」の所有や消費による幸福追求、あるいはそれらを人生の目的にするような生き方そのものを変える必要があるのではないか、ということです。がむしゃらに目標を達成するだけではなく、その目標そのものにどれだけの価値があるのか、言い換えれば我々が今人生の目標としているものにどれだけの意味があるのか、我々が本当に求めるべきものは何なのか、をもう一度見直さなければこの問題は解決されないのではないでしょうか。我々は今こそ「外」に向っていた目を自らの「内」に向けるべきなのです。
参考資料
1.「文系人間のための環境ホルモン講座」朝日新聞 2000年1月27日 http://ha5.seikyou.ne.jp/home/akahori 「水道水から『環境ホルモン』」
2.1999年6月18日 「羊水から環境ホルモン、米・ロスの妊婦から検出」
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