「洗剤のいらない洗濯機」が与える環境と経済への影響

V2F1

 

 a. 情報の概略

@『世界初、「電解水パワー」で「洗剤ゼロコース」を実現した全自動洗濯機を発売』三洋電機、ニュースリリース:2001年6月22日

  http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0106news-j/0622-1.html

三洋電機は汚れの程度・質に応じて「洗剤使用コース」と「洗剤ゼロコース」の使い分けを可能とする全く新しい全自動洗濯機を発売した。水の電解技術を洗濯機に応用することに成功、電解水の持つ汚れ分解・除菌能力と、洗浄力に定評ある超音波技術の相乗効果で、世界で初めて「洗剤ゼロコース」と実現させた。

 

A『水質汚染について』

 http://www.edu.nagasaki-u.ac.jp/private/fukuda/report/inter98/350/suishitu.html

水質汚染は深刻な環境問題のひとつ。水質汚染の原因となる生活廃水からの汚れの発生割合は、炊事から40%、し尿から30%、風呂・洗濯から20%。特に問題となっているのが、生活廃水の中に含まれる洗剤。合成洗剤の中にはLAS(アルキルベンゼンスルホン塩酸)と呼ばれるものが入っており、これはドブや川のなかで細菌によって壊されにくく長く残る。このために川が泡立ったり川の中の生物に害が及んだりする。

 

B『洗い上がりは評価・・・洗濯時間長く、少ない容量〜日消協調査』

  毎日新聞、2001年11月16日東京朝刊から

日本消費者協会は、洗剤のいらない洗濯機の調査結果を公表。洗い上がりについては「泥だらけの運動着や油の付着した作業着以外のほとんどの洗濯物が洗える」と評価。ただし、従来品より一度に洗濯できる量が少ない、洗濯時間が長い、などの短所もあると発表した。

  

C『大論争:汚れが落ちる、落ちない?』

  http://www.1-eco.com/inpaku/ecology/trend-1.htm

一日着た程度の肌着であれば洗剤なしで汚れが落とせるとする洗濯機メーカー(三洋電機)に対し、洗剤とその原料メーカー25社で構成する「日本石鹸洗剤工業会」側は皮脂汚れを充分に落とすことができないため洗濯を繰り返すことになると主張。汚れ落ちに関する論争が繰り広げられている。

 

b. 情報が伝えている事は何か

 2001年夏、これまでの常識を覆すような画期的な家電製品が市場に登場し、世間の話題をさらった。SANYO(三洋電機)が、洗剤を使わずに衣類を洗えるという全自動洗濯機を発売したのだ。鉱物系の機械油、衣類にこびりついた皮脂、無機物(泥汚れ)の汚れについては従来どおり洗剤を使用するが、タオル、肌着、パジャマ、Tシャツなど、一度着たから洗う、といったふだんの衣類の汚れの洗浄には、洗剤を使わないでも充分に汚れが落とせる「洗剤ゼロコース」を搭載した洗濯機だ。SANYOは、近年、肌の弱い人、乳幼児のいる家庭は、洗濯する衣類に極力洗剤を使用したくないという考えを持っているという事実に注目し、そうしたユーザーに応えるために、また、洗濯が自然環境に与える負荷をより軽減させるために、洗剤を使わないでも汚れが落ちる洗濯機を開発したのだ。具体的には、洗濯槽の側面に電極を取り付け、水の電気分解によって生成される「活性酸素と電解次亜鉛素酸」の電解水のパワーが汗などの有機汚れを分解させ、超音波の力との相乗効果で洗浄能力を高めることで「洗剤ゼロコース」の実現を可能とした。

 

  なぜ、洗剤を使わないことが良いことなのだろうか。まず、合成洗剤は人間の皮膚に悪影響を及ぼす、ということがある。スーパーなどで売られている洗濯用洗剤はそのほとんどが合成洗剤である。合成洗剤というのは「合成界面活性剤」がふくまれている洗剤のことを言う。合成界面活性剤は、洗浄力を強めるために天然の原料だけでなく、様々な化学物質を配合されており、油汚れを取る力を強めるためにタンパク質の分解能力を高めているものが多く、そのせいで人間の皮膚のタンパク質まで分解されてしまい、肌荒れやアトピーの原因になっている。自然環境にも、合成洗剤はダメージを与える。深刻な環境問題である水質汚染は、生活廃水がその原因のひとつである。生活廃水からの汚れの発生割合は炊事から40%、し尿から30%、そして風呂・洗濯から20%であり、特に洗剤が大きな問題となっている。洗濯用洗剤には毒性の強いLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)が入っており、これはドブや川の中の細菌からも壊されにくく、長く残ってしまい、このため川が泡立ったり、川の中の生物に害を及ぼしたりするのだ。

 

 このように、色々と問題を抱える洗剤を使わずに衣類を洗える洗濯機が世界で初めて開発されたとして、SANYOのこの洗濯機は新聞やマスコミを大いににぎわせた。洗剤を使わずに洗濯することが出来るとなれば、それは環境にとっては素晴らしいことだが、洗剤業界にとってはたまったものではない。洗剤を商品としており、その売上が会社の業績を左右する洗剤各社と、ヒット商品を生み出したSANYOとの「汚れが落ちる・落ちない」に関する大論争が巻き起こった。一日着た程度の肌着であれば洗剤なしで充分に汚れが落とせるとするSANYOに対し、洗剤各社は皮脂汚れを充分に落とすことができないため洗濯を繰り返すと白さが次第に失われると主張、加えて、衣類の色あせや傷み、汚れの再付着、洗濯コストがかえって高くつく点などを指摘している。両者の「汚れ」に対する捉え方が違っていることからこうした論争が起こっているようなので、今後は両者が同条件下でテストとし、結果を示すことが必要だ。

 

c. 人間は何をすべきか

 今回集めた情報から浮かび上がってきた事実を整理してみると、実に様々なことが見えてくる。まず、SANYOのような大手家電メーカーが、環境に配慮した商品を研究開発し発売するようになったということは、企業にもだいぶ「いかに環境にかかる負荷を軽減させるか」という意識が根付いてきたということだ。これまで、企業、とくに製造業(メーカー)というのはモノを造る過程で工場から化学物質や染料などをおかまいなしに河川に垂れ流したりして、自然環境を破壊しているというイメージしかなかった。しかし、近年、自然環境への関心が高まるにつれ、メーカーも、環境に配慮しながら商品を開発し経営をしていかなければ、業績にネガティブな影響が出るような傾向になってきたのだ。

 

 消費者がEnvironmental-friendlyになればなるほど、彼らは企業が提供する様々な商品にもEnvironmental-friendlyな性質を求めるようになる。例えば、シャンプー・リンスを購入する際、詰め替え用パックがあるかないか、ということを選択の基準としている人も多いだろう。商品にたいした違いがない場合、企業のイメージが消費者の購買行動に影響を及ぼすこともある。消費者に、「SANYOは洗剤のいらない洗濯機を出していたくらいだから、きっと環境にとても配慮している会社なんだ」という意識があった場合、例えばエアコンを購入する際、性能に大差はなくとも他のメーカーのものではなくSANYOのエアコンをその企業イメージの良さから選ぶかもしれない。これはつまり、グリーンコンシューマーが割合として増えるほど、企業はもっとも売上が伸びる可能性を持つ消費者層をターゲットとするため、そうした環境志向の消費者を満足させるような商品開発や経営を行い、Environmental-friendlyな方向へ進んでいく、ということだ。

 

 しかし、環境にやさしい「環境経営」はコストが非常にかかるという問題がある。企業はいかにしてコストを減らして利益を上げるか、が勝負であるため、環境志向の企業になることが消費者の心を掴む術だと知ってはいても、なかなかコストの問題でそうなれない企業は多い。こうした企業をバックアップするために、人間、というよりも社会は何ができるのだろうか。一つの有効な策として、そうした企業に積極的に投資をする、ということが考えられる。日本にも、そうした投資信託が浸透しつつある。日興エコファンドはその一例だ。「優れた環境対策こそ、これからの企業の生き残りと新たな成長の条件である」という視点から、企業の経営姿勢と本質的価値を判断し、環境への配慮が優れていて、確かな経営ビジョンと競争力を持つ「エコ・エクセレントカンパニー」に投資するのが、この日興エコファンドだ。この投資信託のように、環境志向になろうとする企業を経済面からバックアップする体制がもっと整えば、より環境経営を志す企業は多くなるであろう。洗剤のいらない洗濯機の登場によってその存在を脅かされることとなった洗剤各社も、メーカーに対して論争をふっかけることで洗剤の必要性を強調するのではなく、環境に悪影響を与えないような新しいタイプの洗剤を研究開発することに力を注ぐべきであり、そうした動きをこのような投資信託は応援することができる。

 

d. 私たちは、今いるところで何ができるか

 私たちが投資家であれば、こうしたファンドを通じて「投資」というかたちで環境に対応する企業を応援することが可能なのだが、投資家ではない私たちは、別の方法で何ができるかを考えなければならない。合成洗剤が自然環境を破壊する成分を含んでいる限り、私たちはなるべく洗剤を使用する量を最小限に押さえる努力をするべきである。生活廃水の汚れの割合を見ると、炊事から40%、風呂・洗濯から20%ということなので、炊事に関しても大いに注意を払わなければならない。具体的に何を注意すればよいのかといえば簡単なことで、合成洗剤ではなく、本当のせっけんを使えばよいのだ。動植物の油脂と苛性ソーダを反応させてできた、添加物の含まれていない本当のせっけんを使えば環境にも体にも悪いことはない。せっけんか洗剤かは、商品名で判断が可能だ。本当のせっけんであれば、商品名のところに「台所用せっけん」と表示があり、「合成洗剤」と書いてあればそれは明らかに合成界面活性剤が使われているもの。従って、台所用洗剤を購入する際には、商品名や成分表示に注意をして、なるべく「台所用せっけん」を選ぶようにしたい。

 

 洗濯に関しては、私たちはなにができるだろうか。これもやはり「洗濯用合成洗剤」ではなく「洗濯用せっけん」を意識的に選んで使う、という方法もあるし、洗剤のいらない「洗剤ゼロコース」を搭載した洗濯機を購入し、「一度着たから洗う」程度の軽い汚れの衣類には洗剤を使わずに洗うようにする、というのも一つの手段である。SANYOが発売した洗剤のいらない洗濯機は、消費者の心をつかんでヒット商品となった。Environmental-friendlyな商品は売れる、ということを広く産業界に知らしめたことで、これからますます、こういった商品が開発され市場に出てくるのではないだろうか。私たちは、一消費者として、企業を環境志向に導くことが可能なのであり、その意味で、私たちの消費者としての責任は大きいと言えるのではないだろうか。

 

戻る