支配される水

V4FD1

 

 太古から、地球を循環し生物に命と豊かさをもたらしてきた美しい水。しかし爆発的な人口増加や工業化などから、人間は科学、文明の発展という名のもとに、身近にあるがなくてはならないかけがえのない水を汚し、そして大量に使ってきた。その結果が地球規模での水不足や渇水となり、今水資源の危機を生んでいる。これらの背景には、水を人間の意のままにコントロールしようとする姿勢が見られ、危機的状況にある現在もなお、より一層水への支配力を強めているように思われる。

 

今地球上に何が起こっているか/情報が伝えている事は?

 中国の黄河では灌漑、工業用水、人口の増加における生活用水の増加が原因で、6,7年前から水量の急激な減少が見られ、枯渇しはじめている。その結果現在黄河以北の住民における、一人あたりの水資源は全国平均の5分の1であるという深刻な水不足に苦しんでいる。その水不足を解消しようと、中国政府は「南水北調」と呼ばれる大水路を計画している。これは、年間水量9600億立方メートルの94%が海に流れている長江の豊富な水を、水不足の華北、西北地区に送る水路であり、下流の東ルート(江蘇、山東、河北、天津)、中流の中ルート(湖北、河南、河北、北京)、上流の西ルート(青海、四川)がある。完成後2030年までに、年間の給水量は東ルート200億立方メートル、中ルート130億立方メートル、西ルート40億立方メートルを目指し、3億人に水が供給できる計算である。しかしながら、水路が完成すればすべてうまくいくというわけではなく、水路が通る地帯の汚水処理問題や、水路だけではまだ水不足が十分には解消されないという避けられない現実もある。

 また、中国華北・西北地区のような大渇水といかないまでも、日本でも年々降雨量が減少する傾向にあり、夏冬通じて渇水がおこりやすい状況になっている。実際に、去年の夏には、水不足を懸念して利根川水系において10%の取水制限を行った。日本は昔から水資源が豊富で、人々の意識には渇水の危機感が希薄である。しかし日本においても、長期的な降雨の減少傾向や、川の勾配が急で長さが短く、降雨が海にながれやすいこと、ダム建設に不適な地形、都市部の水需要などから渇水になる可能性があることがわかっている。そして現在ではこの渇水対策としてダム周辺の貯水量の増加に役立てようと、いくつかの気象コントロール実験が行われている。例えば、2001年3月11日には、越後山脈上空で、小型飛行機による人工降雪実験が行われた。雲の中に細かく砕いたドライアイスを散布し、急速に冷やされた雲の中の水蒸気が氷の粒を形成し、それが成長して雪として降るという仕組みである。また同年の8月10日には、奥多摩湖の集水域の人工降雨装置を稼動させた。こちらでは、ヨウ化銀アセトン溶液を地上で燃やし、雲の中にヨウ化銀の粒を散らして雨粒の核を人工的に作ることによって雨を降らせた。

 一方で、水の商品価値を見越して、最近では海外の企業家が水貿易に着手しはじめている。その中の一つ、カナダの企業であるグローバルH2Oリソース社は、アラスカ州シトカ市にある豊富な湖水を中国に輸出しようと計画しており、アラスカ州政府から湖の水年量173億リットルを30年間取水する権利と輸出許可を得た。そして現在は中国で交渉を重ね、福建省の飲料会社と湖水の売買の仮取り決めを交わした。このほかにも、ノルウェーにおいてアメリカの企業がフィヨルド地帯の地下水99年後までの権利を収得するなどベンチャー企業の参入がみられ、また、別のアメリカの企業であるウォーターバンク社のような水利権を仲介するブローカーの会社もでてきている。気候変動や、水源の汚染などの影響により、よい淡水の需要が高まっていることは事実であるが、生物の命をつなぐ水が、水貿易という形で市場によりすべて決められてしまうことは危険をともなう可能性がある。見た目には余っている水も生態系の一部だからである。よって、カナダなど輸出を制限する国もあるが、輸出業者の中では、価値のある水を輸出して利益を得ようとする動きがこれからも大きくなっていくと思われる。

 中国の渇水、気象コントロール実験、水貿易を総合して今の水をとりまく諸問題を考えてみると、現在の世界ではやはり人間は水を支配されるべきものとして認識しているように感じられる。そして、生態系を無視し、国益、会社の利益のために、水資源を操作し、すべてが貨幣によって決められていく節があるように思われる。余っているから売り、ないから買う、その生態系を無視した利益追求の水貿易が地球環境にもたらすことの重大さをもっと考えるべきだろうと思う。

 

人間は/人類は何をすべきか?

 地球上に水不足、渇水で苦しむ人々が大勢いることは事実であり、その対策を考えて実行していく必要性があるだろう。当面の問題として、とにかく必要最低限の水の需要を満たす水源の確保が必要である。考えられる例としては、雨水の有効利用や海水の淡水化などがあげられる。また、ただ単に水不足や渇水という現状だけに注意を払うのではなく、それら個々の現象を引き起こした原因を究明し、根本からの解決法を模索することも重要であろう。例えば、降雨量の減少は、森林伐採により山に降った雨を山の土が保てずすぐに雨が蒸発して地下水が減少したことに起因することもあるし、水不足の原因が、灌漑距離の伸長により水が農地に届く前に消えてしまうことや、過剰な水の散布による地下水位の上昇の結果としての塩害が発生することに原因があることもあるのである。よって、地球規模で植林をすることや、無理な灌漑をおこなわないこと、ダムや干潟の干拓などをする場合には必要性を十分に検討した上で環境破壊に結びつかないもののみを計画していくことなどによって、水を育む環境を再生できるよう努力することも同じく重要である。

 しかしながら、たとえ上記の解決策を検討したとしても、時として国家間や一国家内の企業間における利害関係によって対策が進まないこともあり得る。水を人間にもたらす川や海は、隣接する国々にまたがって存在することが多いので外交問題や、利害関係によって生態系が無視されるということが少なくはない。特定の国や人々にとって一見よさそうに思われることも、地球全体の規模で考えた場合に生態系を壊していることさえある。そのような場合に、国家や政府という枠組みにとらわれず、純粋に生態系を守りはぐくんでいくことが非常に大切になるだろう。もちろん国家間で地球環境を守るための法や規範をつくっていくことは絶対的に必要であるが、互いに譲歩しあいながら人類が一丸となって、水問題、環境問題に正面から立ち向かい、地球規模で環境を守っていかなければならないだろう。

 

私たちは、今いるところで何ができるか?

 水不足・渇水対策、あるいは水を大切に使うためには、つきなみではあるが、小さなところからの節水が大変重要であろう。油ものを食べたあとの皿は一度紙でふいてから洗うことで、洗剤や水の使用量を減らす、洗顔や歯磨きの時は水道の蛇口をしめる、風呂の残り湯は再利用するなどである。たとえ小さな一歩でも、大勢が行えばとても大きな結果を生み出すといえる。また一方で、私たちは現在大規模な水不足に苦しむこともなく、豊富に見える水資源の中暮らしているので水不足に対する危機感が希薄であることも事実である。しかし視点を変えると、日本は穀物や野菜など大量の食品を海外からの輸入にたよりきっており、それらの食物を育てるときには大量の水が必要とされるのである。つまり、たとえ日本人が日本において渇水を経験していなくとも、日本の輸入において外国が水不足に苦しむこともありうるのである。地球の水不足は私達にとっても人ごとではないのである。よって私達日本人が食べ物を残さないようにすることや、必要最小限に輸入作物を抑えることも大きな意味では生態系の破壊を食い止めることにつながるだろう。私達は、日本人であると同時に地球にすむ生命体であることを忘れてはならないと思う。また節水に努めるだけでなく、地球環境を破壊する可能性のある行為を行う企業を見極め、その行為の中止を要望する意見や、それに代わる代替案を積極的に提示していこうとする積極的な姿勢も必要になってくるだろう。一人一人の行いは小さいとしても、大勢が実行すれば、企業、国家、地球規模を変えることにつながりうるだろう。

こういった節水への取り組み、情報を見極める目は非常に大切であり早急に実行しちく必要があると思う。けれどもそもそも水問題・環境問題に向かい合うためには、何よりもまず、「支配される水」の概念を取り除き、水を取り巻く環境、地球の生態系を蘇らせようとする私達個人レベルでの意識の改革が最も優先されるべきことであろう。

 

参考資料

asahi.com:
●灌漑幻想 環境の新しい風(5)
http://www.asahi.com/nature/gp/200105d/200105d1.html
http://www.asahi.com/nature/gp/200105d/200105d2.html
 
●朝日新聞 2002年1月17日 朝刊:
3億人を潤す中国「南水北調」 着工まつ「渇いた」村々
 
●国土交通省関東地区整備局:
渇水が起こる原因
http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/1_topics/6_kassui/kassui4.htm
 
●日本テレビ 特命リサーチ200X 2001年6月17日放送分:
日本大渇水の恐怖!
http://www.ntv.co.jp/FERC/research/20010617/f0380.html
 
●asahi.com ニュース 8月10日:
利根川水系、取水制限を開始 東京都は人工降雨実施
http://www.asahi.com/life/house/0810a.html
 
●朝日新聞 2001年11月19日 朝刊:
「青い黄金」に企業が着手 「水貿易」開拓へ野心(水・世界で)
 

戻る