世界の水危機

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[記事見出し]

深刻化する世界の水危機、国際貢献、日本に期待大―水資源開発や淡水化で実績。

「記事本文」

 原油高が世紀末の世界経済を揺さぶる中で、「21世紀には水戦争が起こる」(セラゲルディン元世界銀行副総裁)との見方が強まっている。人口急増や都市化、水質汚染により世界各地で水問題が一段と深刻化、水をめぐる国際紛争の激化が懸念されるからだ。水問題は食料輸入大国として水資源を大量消費する日本にも対岸の火事ではない。世界の水危機に対し、水資源管理や海水淡水化プロジェクトの技術協力など積極的な「水外交」を推進することが緊要だ。

 「石油の世紀」といわれた今世紀。急速な経済発展を背景に地球上の水需要はこの100年間で約6倍と、人口加速度の2倍近くになった。9月に日本を訪れた産油国イランのモハジェラニ-イスラム指導相は「原油価格が高騰したといっても、ミネラル水の半値」と述べたが、供給が需要の伸びに追いつかない状況の付けが世界各地で深刻な状況を生み出している。

  地域紛争の火種

 中国の黄河でここ10数年来、毎年のように乾季になると水が干上がって海に流れ着かない「断流現象」が生じたり、中央アジアのアラル海の湖水面積が渇水により、かつての半分になるなど、世界の主要河川の多くで枯渇や汚染が急速に進む。世界の食料供給源である米中西部の穀倉地帯でも地下水量の減少が問題になっている。

 世界的な水質汚染の広がりやアフリカのように水管理が悪いため、資源を十分に活用できないことも世界の水危機に拍車をかける。国連などの調べでは、世界の1人あたりの生活水使用量はこの50年間で3倍強に増加、安全な飲料水を十分に確保できない人の数が10億人を超えるという。

 古今東西、治水は為政者の要諦。水をめぐる問題は、常に民族間、地域間の紛争の火種となってきた。近年も人口急増、過度の都市化、灌漑農業による大量の水消費などが、事態を深刻化させている。中東和平問題の解決が難航する要因の1つもそこにある。

 もともと水資源が乏しく、「水の一滴は血の一滴」というこの地域ではヨルダン川やゴラン高原、西岸地区の地下水などごく限られた水資源をめぐって、イスラエルやパレスチナ、ヨルダン、シリアなどの確執が続いている。

 水危機にさらされているのはこの地域だけではない。ガンジス川流域のインドとバングラディッシュ、チグリス-ユーフラテス川流域のトルコ、シリア、イラク、ナイル川流域のエジプト、エチオピア、アラル海を巡る旧ソ連諸国やアフガニスタン、イランなど水問題をめぐる紛争の火種は各地に存在する。

  協力訴える米国

 各国も水危機に深刻な取り組みを始めている。砂漠化で食糧生産に深刻な影響が出ている中国は、揚子江の水を黄河流域に運ぶ「南水北調」という大規模水プロジェクトを2001年から始まる第10時5カ年計画に盛り込むという。

 米国でも、今年4月にオルブライト国務長官が「地球を救うため、水を賢く管理することに関し世界中で協力しよう」と提唱している。一方、水危機が深刻化する中東でも、死海の水位を安定させるために地中海や紅海から導水する長期計画が検討されている。水資源に恵まれているといわれる日本も決して例外ではない。今年夏も西日本を中心に渇水傾向が続くなど、毎年のように地域的な水不足が生じている。「日本では安全と水はタダ」ともいわれるが、歴史的に見ると水を巡る地域間の争いは少なくない。現代でも人口急増から水不足対策を強める消費県と水源県の微妙な関係や、水源地での森林伐採による涵養力の低下などの問題も内在している。

 しかも日本は世界有数の食糧、木材輸入国という事情がある。世界の農産地から年間輸入している大豆、小麦、大麦、とうもろこしの数量は約2900万トンにものぼる。「これらの輸入農産物を生産するためには、年間約52億立方メートルの水が必要。このように我が国と世界の水問題は食料などの貿易を通じてもつながっている」(浜口達男-国土庁水資源計画課長)

  技術外交の好機

 それだけに、「国際的な水不足が一段と深刻化すれば水を大量に使う世界の食糧生産に影響が出て、食料を買い付けている日本に厳しい批判が向けられる恐れもある」(村上雅弘-高知工科大学教授)との指摘もある。

 水資源に関する国際協力に必要性が叫ばれる中で、日本は2003年3月に地球規模の水不足や水質汚染などの対策を国際的に話し合う「第3回世界水フォーラム」の開催国となる。その国際的な貢献に対する注文や期待は次第に高まりつつある。

 これまで日本は、アジア、アフリカ各地の水資源開発調査や飲料水給水計画、中東諸国の淡水化プロジェクトなどに協力を進めてきた。

 しかし水問題が深刻化する中で、水質汚染対策強化による利用可能な水量の増強、河川からの取水管理、雨水などを有効に使う循環利用技術、砂漠緑化技術やノウハウを世界に積極的に提供することが求められている。

 中東、アフリカなど水問題に悩む地域で政治的な影響力を発揮しにくい日本。新世紀の重要課題である水問題での積極外交は大きな国際貢献になり、日本の存在感を高める好機になる。

 2000年10月17日 日本経済新聞 朝刊

 

「記事見出し」

水資源の不足は深刻な環境問題だ(社説)

「記事本文」

 地球環境問題といえば、温暖化やオゾン層の破壊を考える。しかし、現在の人類はもっと深刻な環境問題に直面している。「湯水のように使う」という表現の通り、季節的な問題はあるが、日本では水問題に対する関心が薄い。ところが世界に目を向けると、水不足こそ最も早急に手当てが必要な問題になっている。

 国連大学の冊子によると、1人辺りの水供給量は1970年ごろの3分の1まで減少したそうだ。このため、安全な飲み水を確保することが難しい人の数が10億人を超えているという。2025年になると、この数字が世界人口の3分の2にまで増えるとの予測がある。開発途上地域では、汚染された水が原因で毎年12億人が病気にかかり、400万人の子供が亡くなっている。中国第二の大河である黄河は、ここ10年ほど毎年のように、乾季になると干上がって水が流れない。ひどい年には年間の3分の2も干上がった状態が続いた。インドのガンジス川も、乾季に水が海まで流れないことがある。世界で有数の湖であるアラル海は、水不足のため面積が減少し、往時の半分以下になった。

 飲み水の不足は人口の増加や河川などの汚染が原因だ。河川や湖水の枯渇は感慨による過剰利用が原因と考えられる。ここにあげた例は一部に過ぎない。

 水がなければ生物は生きられない。人間も例外ではない。清潔な飲み水の確保は他の環境問題より緊急性が高い。世界の農業の20%近くは潅漑に依存しており、潅漑用水の不足は食糧生産の危機に直結する。国境を越えて流れる川の流域では昔ながらの水争いが国家間の紛争の種になっている。

 1997年の国連総会では開発途上国の水問題を最優先課題にすることが求められた。このままで行くと水問題が現実の国際紛争を起こしかねない。もちろん人権という視点からも見過ごすことはできない。水に恵まれた日本人にとって実感は薄いかもしれないが先進国としてこの問題に対しても誠意ある取り組みが必要である。

 下水処理技術、循環利用の技術、海水淡水化技術、砂漠の緑化技術など、日本の技術が水不足に悩む人々に役立つ可能性は大きい。これらの技術移転を含めて日本に何ができるかを十分考え、具体的行動に結び付けたい。

 2000年10月17日 日本経済新聞 朝刊

 

「記事見出し」

99年環境報告-水問題に初めての警鐘、ハイテク振興にも障害。

「記事本文」

 中国政府は5日発表した環境報告で国内の淡水資源問題をはじめて本格的に指摘した。北京市、河北省などでは数年来の少雨で干ばつ被害が広がる一方、地下水の枯渇や耕地の砂漠化への懸念が高まっている。急速な工業化、都市化に伴う水需要にも供給が追いついていない格好で半導体など大量の水を消費するハイテク産業の振興にも影響を与えかねない状況だ。

 報告は「北部地域の地下水資源は急速に減少しており、地盤沈下、海水浸透などの問題を引き起こしている」と指摘。さらに地下水の硝酸、硫酸化合物などの濃度が上昇、地表の水質汚染が地下水に広がっていることを警告した。

 北京市や河北省では昨年から今春にかけ降雨量が例年の30〜60%にとどまっており、干ばつ被害が広がっている。北京市では地下水で降雨不足を補ってきたが、年間1,5メートルのペースで地下水が低下、枯渇不安が現実のものとなってきている。報告によると、黄河が過剰取水によって下流域で干上がる「断流」減少こそ昨年は42日間と前年の137日間から大幅に減ったものの、内蒙古自治区や河北省では水不足と平行して砂漠化が進行、砂漠面積は昨年、国土の17,6%まで拡大している。

2000年6月6日 日本経済新聞 朝刊

 

 ここで取り上げた3つの記事が示すことは、水問題は深刻な環境問題の1つであるということである。世界中のいたるところで水問題は進行している。水問題は一言で言ってしまえば、水質汚染や干ばつなどに代表される水不足のことである。しかしその水不足は様々な影響を与える。水がなければ食料を得ることもできず、工業活動にも影響が出る。水が比較的豊富な日本に住んでいる我々にとっては理解しづらいことであるが、世界的に見れば水は石油と同等もしくは、それ以上に価値のあるものなのである。かつて日本が石油を求めて太平洋戦争を起こしたように、オイルショックで日本中が混乱に陥った様に、水問題は国際紛争の火種であり最大の懸案の1つなのである。世界的規模で進行する砂漠化、加速度的に増えつづける世界人口を考慮に入れると現在起こっている水問題よりも、より深刻な事態が待ち構えているのは間違いない。水問題は複合的な環境問題である。

 例えば、熱帯林を伐採しすぎた結果、乾季と雨季のたびに激しい干ばつと壊滅的な洪水を交互に受ける干ばつー洪水サイクル。森林は土壌中に水分を保持する役目を果たしている。降雨量の大部分は木の根が張り巡らされた地中にスポンジのように蓄えられ直接川に流れ込む量はわずかである。したがって、森林を伐採した土壌は水を保持できなくなる。その結果、雨が降ると短期間に大量の水が河に流れ込んで洪水を引き起こし乾季になると干ばつになる。熱帯林は1980年には19億3500ヘクタールあった。これは世界の森林総面積の44%にあたり、生きた植物の現存量の50%あまりを占めていた。現在、熱帯林は減少の一途をたどっている。熱帯材木のほとんどは数百年かけて成長した天然林からの収奪によっている。最近始まった植林の面積は森林減少面積の約8分の1に過ぎない。熱帯林現象の原因は主に建築などの用材の伐採、薪炭材の伐採、森林の焼き畑化の3つである。用材の伐採については熱帯木材製品の輸入量が世界で最も多い日本とのかかわりが深い。薪炭材の利用が深刻な問題を引き起こしている地帯は亜熱帯に多い。焼き畑農業は熱帯を中心として古くから行われてきた。この干ばつー洪水サイクルの原因を考えてみても様々な問題が複雑に絡んでいることが解かる。熱帯材の世界最大の輸入国である日本としては木材の消費量を減少させることが自ら実行できる熱帯林保護の第一歩である。熱帯材のほとんどが日本ではベニヤ板および建築や家具などの用材に使われているが、本来は耐久消費財であるはずが安易に使い捨てられている。我々はもう一度、そのことを認識することを求められている。

 1968年から1973年にかけてサハラ砂漠南部のサヘル地域は大干ばつに見舞われ砂漠と化した。サバンナの草木は枯れあがり、多くの家畜が死に、多数の人々が餓死した。砂漠化は水不足を最も直接的な形でもたらす。サバンナなど草原によって覆われていた年降水量が100から200ミリの半乾燥地域で砂漠的な景観が拡大していく現象が一般的な意味での砂漠化であるが、国連砂漠化防止会議は砂漠化を土地に備わった生物生産力の減退ないしは会であり、終局的には砂漠のような状態をもたらす現象と定義した。この定義は砂漠化が水不足によって食糧不足とつながっているとの認識が示されている。生態系の破壊につながる砂漠化の要因は人為的なものと自然的なものに分けられる。一般に降水量や温度などの自然条件が良い地域の砂漠化は人為的要因主導的役割を果たすのに対し、植生の貧弱な乾燥地では干ばつなど自然条件の果たす役割が相対的に大きくなる。第2次大戦後の爆発的な人口増加は砂漠化の危機にさらされている地域でも例外ではなく衣食住を満たすためにしばしば地域生態系の許容限界を超える乱開発が行われ砂漠化の大きな要因となっている。砂漠化は大変な脅威であり、日本は技術供与などによって少しでもその進行を食い止めなければならない。

 このように我々に突きつけられた課題は深刻であり、日本はその高度な技術力を持って世界の水問題、またそれに関わる環境問題に対していかなければならない。

 

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