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かねてから21世紀は「水の世紀」になると言われてきた。水資源の量を巡っての争いが各地で頻発するのではという懸念だ。水の惑星・地球には豊富な水があるように感じられるが、海水や汚染水を引くと、利用可能な水の量は想像以上に少ない。地球には14億立方キロメートルの水が存在するが、その97%は利用に適さない海水だ。残る3%のうちの7割は氷河や地下水で、人間の飲料用や農業用に利用可能な淡水はわずか0・3%しかない。現状でも中国、インド、中央アジア、中東など31カ国が水不足に悩んでいるが、今後、水不足はさらに進み、2025年には48カ国に増えると世界水会議(WWC)は予測している。
水が人間の生活に欠かせないものであることは自明として、どうして今世紀になって水が中心的問題に成るのか、その原因は水汚染、人口の増加及び都市化、地球温暖化という3つの理由が考えられる。
産業排水、消毒剤撒布などから引き起こされる水汚染の歴史は数百年に及ぶ長いものだが、目標とされていた1990年までの問題解決(「1990年までに全ての人に安全な水を」)はおろか、近年明るみになった水中に混入しているPCB(ダイオキシン)の問題により、いっそう利用可能量は少なくなった。現に、日本でも多くの消費者がペットボトル詰めの水を購入している。また、アフリカ等世界各国では、完備された給水施設を保持できない地域が多数存在する。開発途上国では下水は本の一部しか処理されず、健康への重大な脅威となっている。(例えばエジプトのカイロなどでは、下水の約半分が未処理のまま排水溝に捨てられ、灌漑用水及び家庭用水の第一の供給源であるナイル川に流出している。)灌漑用水と工業用水の需要増加と、水質汚染によって、有限な淡水(河川水と地下水)の利用可能量が減少してきているのだ。
水の使用可能量が減る一方、絶対利用量は増大する。これこそが、21世紀が水不足の時代になるとされた最大の理由だ。理由は人口増加と都市化である。世界の人口は20世紀初頭には約16億人だったが、今日では約61億人に達している。(WWCが設置した「21世紀のための水ビジョン委員会」メンバーの高橋一生・国際開発研究センター所長は「アフリカ諸国の都市人口の増加率は年5%で、90年に1億4000万人だったが2020年には5億人になると見積もられる」と話す。)水資源の需要は3倍に増え、深刻な水不足の兆候が現れ始めている。膨大な量の水を必要とする農業は、世界の河川や湖、地下の帯水層から汲み上げられる淡水の約三分の二を消費している。穀物1トンを生産するのに約1000トンの水が必要となる。
温暖化現象もまた、看過できぬ問題である。地球温暖化の影響を検討している「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第二作業部会は2001年2月17日、温暖化により世界各地で水不足に襲われる人が、現在の十七億人から、二〇二五年には約三倍の約五十億人に増加する__などとした報告書をまとめた。報告書では、特に中央アジアやアフリカ南部、地中海沿岸諸国で深刻な水不足が起きるとしていて、他にも熱波の頻発に伴う高齢者や病人などの死亡率上昇、海面上昇による洪水の増加やマングローブ林の減少、砂浜の浸食被害の拡大、低地に住む計数千万人が移住を迫られ、食糧生産も減ると予測している。
こうした状況のもと、水に関しての利害関係がある国同士、水源が複数国で共有されているようなところでは、国家関係の緊張が高まる。隣り合う地域や国家が水をめぐって争うようになり、社会的、政治的な安定も脅かされている。とくにヨルダン川やナイル川、チグリス・ユーフラテス川といった中東の主な河川流域や、ガンジス川、アラル海周辺などでは、水をめぐる緊張状態が続いている。(中央アジアのアラル海は上流地域で綿花栽培が始まったことで流入量が減り、面積が40%に縮んでしまった。)また、既に実際に紛争が起こっている地域もある。中東ゴラン高原の軍事衝突は水利を得る紛争でもあり、トルコで巨大ダムを建設したことに下流国は合意していない。複数国を流れる河川の数は世界中で214を越えるが、水の分配や利用を調整する強制力のある国際的法規はまだ存在しない。
【人類はどうすべきか】
では、人類は何をしたら良いのか考えてみたい。
以上の危機は今日昨日に始まったことではないから、国家あるいはNGOなどの団体によって地球単位での取り組みが行われてきた。1992年6月の地球サミット以降、21世紀の持続可能な開発には、「水資源管理」が必要不可欠な重要な課題であるという認識が国際社会の中で高まっている。このため、1996年には、地球規模で深刻化しつつある水資源問題の解決策を追求するために、世界的な水政策のシンクタンクとしてWorld Water Council(WWC:世界水会議)が設立された。
「世界水フォーラム」は、世界の重大な水問題を討議するために、WWCが主催する会議で、3年に一度、3月22日の「世界水の日」を含む時期に1週間程度開催されている。 このWWCでは、1998年8月に「21世紀における世界水ビジョン」を策定するべく、World Commission on Water in the 21st Century(21世紀にむけた世界水委員会)を発足させ、2000年3月17日〜22日に、オランダのハーグで開催された第2回世界水フォーラムで当該ビジョンを発表した。
2000年3月ハーグにて開かれた世界水フォーラム第2回において採択された「21世紀におけるメ水のセキュリティモに関するハーグ閣僚級会議での宣言」(ハーグ宣言)に以下の目標がうたわれている。ここに、水の危機に際して人類の果たさねばならぬことが集約されていると言えよう。
基本的なニーズへの対応:安全かつ十分な量の水と衛生設備の提供は健康と福利にとって不可欠な基本的な欲求であること、女性を中心とする人々の権利を水マネジメントへの参加を通じて拡大すること。食糧供給の確保:より効率的な流通と利用、そして食糧生産におけるより効率的な水資源の配分を通じて貧困層や弱者を中心とする食糧の安全保障を確保すること。
生態系の保護:持続可能な水マネジメントを通じて生態系の保全を確保すること。
水資源の共有:持続可能な河川流域の管理やその他の適切な手法を用いた、国内ならびに多国にまたがる河川の場合は領域横断的に、あらゆるレベルにおける平和裏の協力と可能な限りの相乗性を促進させること。
危機管理:洪水、渇水、水質汚染やその他の水関連災害に対する安全性を確保すること。
水の価値の確立:あらゆる用途における経済的・環境的・文化的な価値を反映した形で水をマネジメントすること、また、提供に要したコストを反映した水サービスにおける価格設定を促進すること。なお、このアプローチでは貧困層や弱者の基本的欲求と公平性が考慮されねばならない。
賢明な水の統治:水マネジメントに関する公衆の関与と、すべての関係者の利害を反映させた、しかるべき統治を実現すること。
【私達はなにができるか】
こうしたことは勿論日本にとっても対岸の火事ではない。日本の年平均降水量は1714mmであり、これは世界平均970mmの約2倍にあたり、決して少ないわけではない。がしかし、これを人口1人当たりの量に換算すると日本は世界平均の1/5程度の状況にある。また、農産物の生産には多大な水が必要となる。農産物を多く輸入に頼っている日本にとって、まさにこの状況は他人事ではないのだ。
オランダのハーグにある「コミュニティの水供給と衛生のための国際資料センター」の科学者たちは、すべての人に清浄な水資源を常時供給するという最終目標の達成には、コミュニティによる水資源管理が絶対大切であると言う。彼らがその十年間に多くの開発途上国で得た経験によれば、どんなに優れた水道局も、利用者の十分な協力と参加がなければ、広域的水道網を適切に整備、運用および維持することができない。世界の水を考えるには、まずひとりひとりが意識を高め、行動に移していくこと、ひいては属する地域単位で水を守っていくことが望ましい。
【参考】
・水に感謝!!水回りの万国博覧会 http://homepage1.nifty.com/shincoo/index.html
・「川と水」委員会 http://www.idi.or.jp/vision/indexj.htm
・ウィークリートピックス エコロジーシンフォニー2001年2/19 http://www.ecology.or.jp/w-topics/wtp31-0102.html