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ケニアの首都ナイロビから北西140kmに位置するナクル湖。海水の1.5倍の塩分を含むソーダ湖である。湖を含めた国立公園の中にはさまざまな野生動物が住んでいる。その中でもっとも有名なものは、多い時期には130万羽も集まるというフラミンゴである。湖面がピンク色に染まる光景を見るために多くの観光客が集まる。そのナクル湖でフラミンゴが大量に減少する事態が起こっている。原因としてはさまざまな説が挙げられている。たとえば、他の湖に住んでいた魚を放流した人がいて、その魚がフラミンゴのえさである藍藻のスピルリナを食べてしまうためにフラミンゴが飛来しなくなるという現象もその原因の一端を担っていると考えられる。しかし、最大の原因にして最大の問題は、湖水が汚染されているということである。それにはいくつかの要因が考えられている。
工場排水…現在ナクル市は都市開発が進み多くの工場が存在するが、排水浄化システムが完備されていないものが多い。浄化されない水はそのまま湖に流れ込んでいる。死んだフラミンゴの体内からは鉛などの重金属が検出されている。
森林伐採…木炭が燃料として多く利用されるケニアでは、人口増加に応じて森林が消えている。水を浄化する能力を持つ森林が消えたため、水質汚染に拍車がかかった。
ごみ問題…観光客が多く訪れるナクル市。ごみを投げ捨てていく心無いものも中に入る。土壌汚染はそのまま水質汚染へとつながる。
処理施設…下水処理施設などがないわけではないが、大雨になるとあふれ出すこともあり、充分に整っているとはいえない。
これらの理由から、フラミンゴの大量死という現象が起こり、生き残ったフラミンゴも近くのボゴリア湖へ移った。しかし、そこでも多くのフラミンゴが死んだ。湖水の汚染はナクル湖だけでなく、すでに多くの地域に広がっていると考えられる。
フラミンゴの大量死のニュースが流れると、世界自然保護基金とNGOがすばやく援助を開始。多くの工場に浄化施設を作るための援助が行われた。また、多くの企業が下水処理施設などを作った。そして、ケニア政府は排水や森林伐採に関する法律を制定。2001年11月に大津で開かれた国際水環境フォーラムでは、ナクル湖の現状が紹介され、援助のあり方について討論された。ナクル湖とナクル湖に棲む生き物を守る動きは始まっている。
このように、他国の企業や、NGOなどによる経済面・技術面での支援が湖沼の水環境を守る大きな助けになっている。しかし、各国・各団体の支援
がバラバラに行われている現在、都市開発と環境保護の活動を統合的に管理する必要がある。このことからも、水環境を守るための対応策を模索するにあたって、国際協力は非常に重要である。ナクル湖のみならず、あらゆる湖沼の為に統合的な協力のもと活動を進めることが求められている。
水質汚染の問題は、世界規模の問題である。もちろん日本でも深刻な水汚染が起こっている。今回紹介したケニアとは違って日本の浄水施設は整っているが、それでもフォローしきれないほどに私たちは日常的に水を汚している。そしてその汚れのほとんどは家庭排水によるものである。家庭から流れ出る排水が水源を汚し、私たちが使用している水道水にも影響を与えている。つまり、私たちが今できること、それは家庭排水に対する配慮である。家庭排水の40%が台所から出ていることを考えると、油汚れや生ごみを直接下水に流さないちょっとした気配りをするだけで、水への負担を減らすことができる。また、合成洗剤の有毒性も以前から水環境への影響が憂慮されているので、使用量を減らす努力をすると良い。そしてもうひとつの心構えとしては、ごみを所構わず捨てないということである。これは水問題のみならず、地球環境全体の問題であろう。
最近「水道水がまずい」と言ってミネラルウォーターを購入している人が多いと聞くが、水を汚し、水道水を今のような状態にしたのは他ならない私達であるというのに、その事実から目を背け、おいしい水を買えばいいという考え方はあまりに無責任ではないだろうか?本当に現在の海や湖、水道水の状況を嘆くのならば、自分達にできうる限りの水を汚さない努力をすべきであろう。
参考資料
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/special/sekai/sekai_index.html
参考図書