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今、地球上で起こっていること
九州地方の長崎、佐賀、福岡、熊本の4県にまたがる有明海は、潮の満ち引きで生まれる干潟によって大量の栄養分と日光のおかげで日本有数の豊かな海となり、漁獲量も多い「宝の海」と呼ばれていた。しかし近年、有明海での漁獲量は急減し、生産能力は大きく低下している。本来自浄能力をもつ海がこのような「異変」を起こしてしまったのはなぜであろうか?
ノリの色落ちと諫早干拓
有明海のノリの「色落ち」は、連日のメディアの報道で世間の注目を集めてきた。本来黒いノリが、海での養殖中に植物プランクトンの大量発生<赤潮>によって、リンや窒素といったノリの生育にとって欠かせない栄養塩が減少したり、酸素が不足したりするために黄色く変色してしまっていると考えられている。この色落ちはノリの商品価値をなくし、ノリ養殖業者を悩ませている。そしてその彼らが主張しているのが
「諫早干拓地(長崎県)の潮受け堤防の水門開放」である。諫早干拓地は、1997年に農地拡大のために諫早湾を堤防で閉め切られたもので、その後に漁獲量の減少や、赤潮の発生が頻発したため、有明海異変の原因であると疑われている。たしかに堤防閉め切りで、諫早湾内の干潟がなくなり、その干潟での海水の自浄機能が無くなったことは自然の生態系を乱すものであり、異変の一因であるだろう。しかしそれだけでいともたやすく有明海全体の生態系、自浄機能を崩すことができるのであろうか?
別の被害と原因
なにも有明海で不作なのはノリだけではない。ノリの色落ち異変の約一年前、アゲマキや二枚貝のタイラギが絶滅、急減し、海老も頭が黒く変色するなど異変はあった。これらの海産物に共通するのは、すべて「海底」に生息する生物であることだ。ノリなどが育つ海面は、水質悪化の影響を受けにくく、比較的安定している。一方の海底では、その海に普段から流れ込む有機物、有害物質による水質悪化の影響がすぐに現われ、長く残り、そのため貝や海老などの海底生物がまず被害を受けたのである。そしてこの有明海の水質悪化の原因として、諫早湾だけでなく、近郊の久留米市の筑後大堰、海底陥没、ノリ養殖で病害菌駆除のための薬品(酸)、空港、そして家庭などからの生活排水があげられている。ひとつの、小さく一見関係が薄そうな出来事・要因でも、歯車をとった時計のように全体に影響していしまうことは、自然の生態系にもあてはまることである。諫早干拓地だけひとつを悪者にしたところで、人間の自然に対する介入、干渉がなくなるわけではなく、第二、第三の諫早干拓地のような悪者が生まれ、問題の本質、原因がなかなか見えにくくなってしまうだけである。よって、感情に流されること無く、複合的な要因をひとつひとつ解明して取り除いてくことがひつようである。
人間の活動と海の能力
これまではいくら人間が活動しようとも、海にはそれらを受容、浄化処理するだけの能力をもっていた。しかし最近の海洋汚染による海の異変は、海洋の受容・浄化能力の限界を人間に突きつけ、われわれの行動に対する熟慮を求めているように見える。
有明海異変でも問題となった赤潮はその一例である。赤潮は前に述べたとおり、植物性プランクトンで、それが大量発生し、死んで分解されるときに多量の酸素が消費され、魚介類に影響を与えている。そしてその赤潮の原因としてケイ素の不足が原因とする「シリカ(海水にとけているケイ酸)欠損仮説」というものがある。これは、無害のケイ藻が育つのに必要である窒素、リン、ケイ素の三つのうち、生活排水や肥料によって窒素とリンだけが海中に多量に増え、あるだけのケイ素分しかケイ藻が発生しないので、窒素とリンが残り、そこで生育にケイ素を必要としない有害の過鞭毛類の非ケイ藻類が大量発生し、有害な赤潮が起こっているという説である。ここには明らかに、赤潮の原因として生活排水や肥料といった人的要因が現われている。しかもそれは何も特別な諫早干拓地のような出来事ではない、普段の生活から行われてきたことである。このような説を見てみると、今回の有明海異変では、とかく政治面や役所の体質、役所の仕事批判が際立っていたが、日頃から私たちができることとしては、もちろんなかなか調査に腰を上げない政府に対して声を出すことも必要であるが、そこで起こったことの責任を押し付けるのではなく、複合的な要因が考えられているので、生活排水など普段の生活のことや、これから生態系に影響を起こしそうな政策や一般の活動についても反省や注視を続けていくことが必要だと思われる。
参考文献
読売新聞 2001. 1.27 2.10 2.19 4.6 11.23 2002. 1.21
Internet 環境ナビゲーター
http://eco.goo.ne.jp/navi/files/011226_01.html http://eco.goo.ne.jp/navi/files/011226_02.html