『はじめの一歩』
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1.ヨーロッパの大洪水

    2002年8月、ヨーロッパは大規模な洪水に見舞われた。国土交通省の調べによると、ドイツで20人、チェコで17人、ロシアで60人以上の死者が出ており、また、数十万人が避難した。建物の被害も大きく、エルベ川流域のドレスデンでは、宮殿や歴史的建造物が浸水し、住民が中の美術品を避難させるなどし、プラハでは、旧市街地区は防水対策によって床上浸水は免れたものの、地下室、地下街は水浸しになり、ほかの地区は床上まで浸水し、経済的、文化的に大きなダメージを被ることになった。更に、支流のモルダウ川を含むエルベ川流域は化学工場が多くあり、プラハ近郊の化学工場からは有害物質(塩素)が流出し、その回復には10年以上かかるという。

    今回の洪水についてまず言えることは、歴史的に今までこのような大規模な洪水を経験したことが、欧州はなかったことである。言い換えれば、ヨーロッパの気候等からして、今回のような洪水が起こる可能性は極めて低く、そのため治水対策が洪水に対応できなかったのである。国土交通省やIF Netの調査からも分かる様に、ドイツ、チェコなどの8月1日から洪水被害が起こった日の前日、8月13日までの降水量は100@〜250@、平年同時期の5倍から8倍となっており、通常では考えられないような量の雨が降ったことがわかる。また、数字から、通常の降水量は半年で20mm〜30mm程度であり、堤防設備などの洪水に対する備えは日本などに比べると充実していない、というよりする必要が薄かったことも理解できる(洪水前の写真をみるとプラハ市内を流れるモルダウ川には日本の大きな河川にあるような堤防がない。今までそういった堤防が必要なかった証拠であろう)。調査報告によると、ドイツの堤防が対応できる洪水は100年〜200年に一度のレベルの規模であるのに対し、今回の洪水は、500年〜700年に一度起こるかどうかの非常に大規模なもの。洪水の経験がないために、川のすぐ近くに工場や住宅が作られていたことが、洪水で大きな被害を招いた原因の一つと言えると思う。

 

2.なぜ大雨が降ったのか

    ヨーロッパの治水対策が今回の洪水に対応できなかったことは上に書いたとおりであるが、本来降るはずのない大雨が降った原因は何だったのであろうか。有力な説は北極振動のようだ。朝日新聞によれば、北極の大気が中、高緯度に移動するため、欧州では中緯度地方で北と南の空気が衝突し、前線が停滞しやすくなる、つまり日本の梅雨と同じ現象が起こった訳である。アジアでもエルニーニョ現象のため、亜熱帯高気圧が強くなれず、ヨーロッパと同様の状態が起こり、韓国やネパール、インドで多数の犠牲者を出している一方で干ばつも起きている。一過性のものではないという指摘も多い。「気候変動に関する政府間パネル」の指摘は、地球温暖化によって降水量が地球全体で降水量が増加し、ヨーロッパの全域に渡り洪水の危険が増大する、としている。実際にここ数年、ヨーロッパでは河川の氾濫が頻繁に起こっている。今回の洪水が温暖化の影響の一つであるという見方は断定することはできないが否定はできない。

 

3.人類は何ができるか

    8月に起こったヨーロッパの洪水が一過性の異常気象によるものであっても、温暖化の影響であったとしても、少なくとも、人間はこれからこういった事態が起こりうることを想定して生活していかなければならなくなるだろう。被害にあった地域では、河川の堤防を高くする、工場や住宅などの建物は河川から遠ざけるなどの対応にせまられるだろう。河川の増水をできるだけ抑える工夫も必要になる。洪水の原因の一つに森林の保水量以上の雨が降ったこともあげられているし、また緑草地が少なくなったことが被害を大きくしたという指摘もされている。日本でも森林の伐採が土砂崩れや洪水を引き起こしている。森林の保護や緑地化も洪水を防ぐのに必要であろう。温暖化への対策も真剣に取り組まなければならない。温暖化が進めば、間違いなく今回のような洪水が頻繁に起こることになるからだ。温暖化の原因となるCO2の削減のために、石油に代わるエネルギーの開発、実用化、先進国の途上国への経済的、技術的援助は不可欠になる。勿論、代替エネルギーといっても原子力は危険が伴い、ほかのエネルギーは化石燃料のように安定した電力供給がしにくい。途上国への援助も、先進国側の足踏みがそろわない状態である。しかし、削減を行わなければ、将来洪水の被害だけでは済まない事態になるのは目に見えている。

     私たち1人1人には何ができるか。洪水の治水対策、温暖化の防止に私たちが直接関わることは難しい。ただ、今まで自動車に乗っていたのを自転車や歩きに換える、節電によって石油エネルギーによる電力需要を減らす、といったCO2削減の日常的な努力や、異常気象について知り、被害を受けた地域に対して何ができるか、もし自分の身の回りで同じことが起きたらどう対応するかを話し合うことも必要であるだろう。今回の洪水で建物は大きな被害が出たものの、人身の被害はチェコやドイツでは最小限に抑えられたことは早急な避難勧告に見習うべきものがある。ロシアではバカンスの観光客が多数洪水の犠牲になったが、観光シーズンに水の事故が後をたたない日本でもこういった事態は起こっている。異常気象を防ぐことはできないが、それによる災害はある程度防ぐことができる。はじめに書いたようにヨーロッパの洪水の大きな被害は洪水の経験がないことが原因のひとつであったといえる。過去の事実を知ったうえで何が起き得るかを想定し、対応を考えていくことで被害を最小限にとどめることができると思う。

 

参考文献

 

 

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