地球はその表面の3分の2が液状の水に覆われており、地表一気圧において、氷・水・水蒸気の三態変化(状態変化)をする。水は融点が0℃、沸点が100℃と非常に高いが、この三態変化を支えているのは平均15℃という地球の気温である。宇宙の平均気温が3kであることを考えると、大変温かいといえる。地球のように地表温度が水を液状で保てる範囲にある天体は大変珍しく、今のところ他に発見されていない。同じ太陽系内で発見され水がある天体として火星と木星の衛星エウロパが上げられるが、ともに低温により地表には氷としてのみ存在している。また、地球の生命の誕生と進化は水の存在に依拠している。そのため人間の体は60%以上が水であり、水なしでは生きてゆけない。それどころか、地球上のあらゆる生き物もまた、生存する上で大なり小なり水を必要としているのである。酸素を必要としない生物はいるが、水なしで生きてゆける生物はいない。このように水により地球上には多様な生態系が生まれており、人間は進化の過程でそれらを利用するすべを覚え、恩恵をこうむってきた。現在水不足問題が深刻化しているが、これも生命・文化活動に水が不可欠だからであろう。
一方で近代以降、西洋文化圏において多くの人間が何故か地球以外の天体にも生命体が存在することを望んできたことが、フィクションや著作から伺われる。好奇心だけでなく純粋に科学的な見地からも地球以外の天体に生命体の存在を探る動きも活発に行なわれており、メディアでも大きく取り上げられている。調査は地上の観測機や宇宙に飛ばした探査機から得られたデータをもとに行なわれているが、生命体の存在の有無と同時に、人類が地球外で生存できるかということも検証されることが多い。また、最近は生命の起源を地球から宇宙へと発展させて探る研究も行なわれている。それらの結果を報道する際、メディアが注目するのが調査対象における水の有無である。これら二つがどのように関連付けられているのかを見てみた。
火星に水あるかも NASAが発見、最近流れた地下水の跡 火星の地表近くに地下水源があるかもしれないとする、火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーからの画像の分析結果を米航空宇宙局(NASA)が二十二日発表した。比較的最近に地下水がしみ出したともみられる地形があった。地下水があれば、火星に生命が存在する可能性が出てくるほか、将来の有人基地建設も格段に楽になる。詳しくは三十日発行の米科学誌サイエンスに報告される。(朝日新聞2000年6月23日朝刊)
この記事では、明確に水と生命が結び付けられて考えられている。地下水があれば生命が存在するかもしれないのなら、地下水が無ければ存在しないことになる。地球上に酸素を必要としない生命体がいるのだから、広大な宇宙のどこかには水や水により精製される有機物を基にしない生命体もいるかもしれない。だが、現状では不明だし考えづらい。生命存在・生存と水は不可分であるという一般的な認識が浸透していることがこの記事からは伺える。
アモルファス、ハイドレート、雪花ノ 氷雪、七変化 私たち生命体を形づくる有機物は、最初は宇宙空間に浮かぶ氷の世界でできたのかも知れない。 近年、そんな説が有力になってきた。星のゆりかごといわれる暗黒星雲などに、結晶構造をもたないガラスのような氷「アモルファス(非晶質)氷」が大量に存在すると分かってきたからだ。 若い宇宙には、水素やヘリウムなど、ごく軽い元素しかなかった。それより重い酸素や窒素、鉄などの元素は、星々の核融合反応ででき、星の爆発などで宇宙にまき散らされたと考えられている。 しかし、まき散らされた原子同士が結合して水や有機物などの分子をつくるには、余分なエネルギーを放出するための「舞台」が必要となる。
○分子生成の舞台「不純物が入らない結晶質の氷と違い、どんな不純物でも取り込むアモルファス氷は、有機物生成の舞台としてうってつけ」と、北海道大低温科学研究所の香内(こううち)晃教授(惑星科学)らは考える。まき散らされた物質が冷えると、まず鉄など重い鉱物粒子が宇宙塵(じん)(宇宙のちり)の中心部をつくり、やがて酸素や水素がちり表面で水分子をつくる。 極低温の宇宙できちんとした結晶をつくる間もなく凍ったアモルファス氷に、星からの紫外線が当たる。すると、光化学反応で内部の不純物などからメタンやホルムアルデヒドなどの有機物ができる。宇宙塵はやがて「汚れた雪だるま」といわれる彗星(すいせい)や、隕石(いんせき)に育ち、できたての惑星表面に有機物を降らせた――というのだ。 香内さんは「地球上の水の多くも彗星が運んだもの」とみている。(2003年1月22日朝日新聞)
これは1996年、火星からの隕石に生命痕が合ったことから始まったアストロバイオロジーの最近の研究結果である。観測や惑星探査などから、宇宙や太陽系の起源についてのシナリオは確認されつつあるが、生命の起源はまだ確定されていない。生命の起源について確認できたのは2説で、一つは生命の由来を地上に求めるものである。地球の誕生から六億年ほどは、巨大いん石がたびたび衝突していた。衝突で生じる高いエネルギーによって生命の材料物質がつくられ、それが海中で生命になった。それを繰り返し、衝突が終わったときから生命の進化が始まったという見方だ。一方で上記の記事のように宇宙空間にアミノ酸や糖などの有機物の発生を求め、それが海中に落ちて進化したとする見方もある。いずれにせよ、天体研究のひとつの帰結として、現在多くの惑星化学者が探っているのが生命の誕生であり、どの記事でも水との関わりは自明のものとされていた。ここでも当然水が研究の重要な位置を占めており、人間が生命活動においていかに水を重視しているかが伺われる。
このように、他天体での水と生命の有無や、地球の生命の起源などの研究により水と宇宙と人間との根源的な関わりが探られているようである。一方でこれらの記事から気になる傾向が読み取れる。それは、宇宙の水は全て人間のものであると見なしていることである。特に最初にあげた火星の水の記事に顕著であるが、水がある天体でテラフォーミングを行ないやすいというのは、その水を人間が利用することに何の障害も無い場合である。現在地球では水不足が深刻に心配されているが、それも元はといえば人間が無計画に周囲の環境を開発し、酷使し続けてきたことによるものである。人口の急激な増加がそれに拍車をかけている。もしも他の天体へ人間が大型移住できたとしても、現在地球で起きている問題を解決できないままでは、無計画な水の浪費と奪い合いという同じ問題は必ずおきるだろう。水を持ち、生命活動に適した天体があったとしてもそのことが現状の解決を示すわけではないのだ。地球上では条件が揃えば少なくとも5000個の天体を肉眼で見ることが出来るが、そのどれ一つとして地球と同じものは無い。また生命の起源に対する研究の熱心さから、地球に生まれた人間は他にどれほど環境が整っている天体があっても自らのルーツとしての地球を欲すると予測される。
さらに、彗星などに見られるように、水は宇宙では決して珍しいものではない。地球で生命が生まれたのは水が液体で地表に存在できる環境が整っていたからである。宇宙の水はありふれたものだが、地球の水は貴重だ。また、ありふれているからといって浪費すれば自滅につながるのはすでにわかっている。これからも様々な研究が他天体の水や生命に対し行なわれ、メディアに通し発表されるだろうが、水を巡る問題は地球と同じように人の活動とともに発生しうるようである。
2002年02月13日朝日新聞 アミノ酸は宇宙起源
2001年12月20日朝日新聞 糖は宇宙起源
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/3669.html
ワイアードニュース エウロパの水、宇宙探査計画
水惑星、地球 http://www-press.hep.phen.mie-u.ac.jp/mievu/uchuu/nii/map.html
地球の水の三態変化