中東における水問題
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A.参考資料

「中東和平」イスラエル通信

    http://www.ijournal.org/IsraelTimes/mepeace.htm

「イスラエル情勢;シリアとの関係」イスラエル通信

    http://world-reader.ne.jp/renasci/now/asada-990821.html

「『水は命』を思い知る中東の水戦争」田中宇

    http://tanakanews.com/990802water.htm

「今月の在外事務所 シリア」JICA国際協力事業団

    http://www.jica.go.jp/jicapark/zaigai/0203.html

「アラル海塩湖化のメカニズム」同志社大学サンワみどり基金寄附講座

    http://www.doshisha.ac.jp/syougai/info/sanwa/95/l11/11t02.html

外務省(外務省ODAホームページ)

    http://www.mofa.go.jp/(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/

 

B.情報が伝えていること

 

東京都の約半分にあたる1150平方キロメートルの面積をもつゴラン高原。シリアの南西部に位置するこの地域は、平均標高がおよそ600メートルあり冬には雪が降り、その雪解け水による豊富な水資源は、乾燥の激しい中東においては非常に恵まれた環境で、周辺諸国にとってこの土地は戦略的に非常に重要な土地としてみなされてきた。

 

1967年の第3次中東戦争後、イスラエルはこのゴラン高原に入植地をその停戦ライン沿いに建設し、1981年の国会で承認されたゴラン高原併合法案を可決、自国の領土として主張する。(参照:図1)一方シリアは一貫してその返還及びイスラエル軍の1967年以前の国境線までの撤退を求め続けており、その要求はガリラヤ湖岸にまで及ぶ。

この中東において水問題とは極めて深刻な問題で、暗殺されたイスラエルのイッハク・ラビン元首相もかつて「もし中東の諸問題すべてが解決できたとしても、水問題で納得できる解決を得なければ、我々の土地は大衝突を避けられない。」と発言した。(Jerusalem Post: 2000年3月13日より)ゴラン高原を当面自国の領土としているイスラエル国内においても現状は特にパレスチナ系住民の間では非常に危機的であり、具体的な数値の例として、世界銀行の発表によると、アメリカ人の一日の使用可能推量3トンに対し、ガザ地区におけるパレスチナ人のそれは、たったの56.3リットルとある。この約53分の1という開きは、決して無視できるものではない。一部では、史上初めて飲み水の不足する危機がすぐ目の前まで迫ってきている、といわれており至急の対応が求められている。またシリアにしても水を手に入れたいのは同様で、2.7%(1990〜1998)の高い人口増加率や市内の水道網の老朽化も手伝って、水の安定的な確保が困難になっている。

 

現在までの日本国政府の対応としては、平成八年度のゴラン高原への自衛隊派遣や具体的な例としてダマスカス市内の水道管を取り替えるための無償資金協力などの政府ODAによる水資源開発等の経済・社会インフラ整備支援が行われている。

 

C.人間は/人類は何をすべきか

複雑に絡み合った中東諸国の政治的、経済的衝突を緩和させていくことが必須であると考えられる。なぜなら、一つの水源をめぐり、自国本位で無計画な水戦争が周辺国の間で加速すれば、その水源は枯渇し、塩湖と変わり果て、後戻りは到底不可能となるからである。カザフスタンのアラル湖の例を取れば明らかなように、河川からの流入と、湖面からの蒸発という、インプットとアウトプットの微妙な自然のバランスを崩せば、ごく短期間の間に塩分濃度が急激に上昇し、生態系が崩れるのである。さらに、この崩壊は単なる一水源の話にとどまらず、周辺の環境にも広く影響を及ぼす。温度の吸収と発散により気候の温和化する働きをもっている湖は、一旦その機能を失うと、それまでは温和だった地域もその周りの乾燥地帯に飲み込まれ砂漠化、そして更なる水不足へと、事態を一層深刻にしてしまう可能性がある。平和へのプロセスはそう容易なものではないが、まず水に関する利害関係を、他の石油利権などの問題と区別し明確にし、共存を図っていかないことには、中東地域全体がそう遠くない未来に共倒れしてしまうのではないだろうか。

 

さらにそのプロセスには第三者の中立的な立場からの調節が不可欠であるのだが、実際には石油利権から離れて、政治的・経済的な調節を担当できる国家というのは、今日の世界の石油に大幅に依存しているエネルギーの実態から考えて、存在し得ないだろう。そこで、国家間の利害から比較的自由な、市民NGO・NPOなどの積極的な役割が期待されるものと思われる。

 

近い将来にその開戦が予測されるアメリカのイラク攻撃などは、アメリカやそれを支援する先進国の利害に大きく傾いているため、一度起きてしまえば、既にほどき目がなかなか見つからない中東諸国間における利害関係の縺れた糸を、さらに複雑に縺れさせてしまうようなことになるのではないかと危惧される。また中東における水戦争の当事国の一国であるイスラエルも、長年続いてきたイスラエルVSアラブという構図を見改め、違う視点で何が真に自国、にとっての利益となるか、ということを考え直すべきである。

 

D.私たちは今いるところで何ができるか

中東という地理的に日本からはるか遠く離れた場所の、涸れかけている水と、日本の豊富にあるとされる水を直接結びつけることはあまり現実的な考えではないだろう。例えば、日本の水を中東に送ることは実際的に得るものが少ないであろうし、また日本にいながら個人が水を節約したところで、それは中東の水不足の解決には直接貢献することはないであろう。唯一マクロ的な視点にたった時、この日本に豊富な水資源があっても不用意にその環境を崩すようなことがあれば、あるいは異常気象などの問題につながり、中東の水問題に関連する部分もでてくるのであろうが、その因果関係は現時点ではまだはっきりとは示されていない。

しかし、この中東の水不足が日本にどのような影響を及ぼすかという逆の視点で考えると、そこに私たちをこの問題に対して積極的に関わらざるおえなくするような点が見つけられる。日本が中東諸国にその供給を大きく頼っている、石油がある。代替エネルギーの研究も進んでいるが、以前メインのエネルギーは石油である。この当面かかせない石油の輸入を日本はその90%を中東諸国に頼っている。過去、中東戦争中に経験したオイルショックのような出来事が明日起こらない保障はない。よって、この地域の水問題を含めた安定は日本の安定に直接つながるといっても過言ではない。

 

つまり、これが私たち市民も政府に任せるだけではなく、積極的に、かつ一刻も早く行動すべき理由なのである。加えて、前述Cの.人間は/人類はなにをすべきか、の項目で記したように、この問題には国家間の思惑に干渉されにくいNGO・NPOの比較的客観的な立場が必要であり、わたしたちが果たせる役割は大きい。日本では実際に水の危機に遭遇する機会が少ないため、なかなか水に対する危機感は育ちにくいと思われるので、やはりこのAct locallyの段階に移るには、世界における水をとりまく現状認識の必要性が認められるべきだろう。 

(図1)ゴラン高原

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