温暖化による洪水と渇水
W5M3

 

 ■Source1. 

「BSフォーラム 気候変動と水 ―アジアモンスーン地域の洪水・渇水―」
  NHK衛星第一 2003年1月18日 17:00〜17:49放送
○パネリスト
小尻利治(京都大学防災研究所水資源研究センター教授)
上田 博(名古屋大学地球水循環研究センター教授)
山根一眞(ノンフィクション作家)
星野知子(女優)
尾田栄章(第3回世界水フォーラム事務局長)
○コーディネーター
藤吉洋一郎 (大妻女子大学教授・NHK解説委員・日本災害情報学会理事)

<概要>

アジアを中心とした地域で、現在どのような水害が現れてきているか、またその原因は何なのか。治水対策のあり方などを含めて議論が行われた。現在世界中でおきている洪水や渇水は、温暖化を原因としていることが指摘された。

 

 ■Source2.  朝日新聞 2003年1月5日朝刊 4ページ

欧州で暴風雨、計7人が死亡 ドイツなど

【ベルリン=古山順一】ドイツなど欧州各地は2日から3日にかけて暴風雨となり、ロイター通信によると4日までに7人が死亡。独西部を流れるライン川は通常よりも水位が約6メートル上昇し、浸水被害が広がっている。

 ドイツ南部フェルトベルクで最大瞬間風速53・9メートルを観測。同国内で倒れた木の下敷きになるなど3人が死亡した。また洪水によりルーマニアで3人、フランスで1人が死亡した。ライン川と支流のモーゼル川の水上交通は3日から止まり、川沿いの道路も冠水のため通行止めになった。

 

 ■Source3. 朝日新聞 2003年1月8日朝刊 26ページ

難しい黄砂の予測 鵜野伊津志さん(Laboラボ探偵団) /福岡

 九州大応用力学研究所教授(47歳) 3日先の予報に成功

 5年前の春、鵜野伊津志さん(47)は門司から博多に向かってハンドルを握りしめていた。国道沿いに広がる福岡の風景は見渡す限り白っぽく、南に連なる山々の尾根はまったく見えなかった。

 「黄砂がここまで激しいとは......」。長年勤めた国立環境研究所(茨城県つくば市)から九州大応用力学研究所(春日市)に転任する途上での、思わぬ体験だった。

 中国では砂漠化が猛烈な勢いで進んでいるらしい。市場経済化に伴う大規模開発、森林伐採で緑地が減り、残った緑も、過度の放牧で家畜が根こそぎ食べ尽くす。

 「黄砂の発生源はゴビやタクラマカンなどの砂漠が有名ですが、いまは東側の都市部も相当な供給源」と鵜野さんは言う。衛星画像によると、押し寄せる砂は人口12億人を超えるこの国の首都をものみ込む勢いだ。

 砂漠化の遠因には地球温暖化もある。人類の活動がかかわり、平均気温は百年後、最大6度上がると試算されている。

 気象庁によると、日本での黄砂は67年の集計開始以来、数年周期で観測日数の増減を繰り返してきた。ところが97年以来、増加傾向は止まる気配が消えた。昨年は福岡空港のダイヤが乱れる実害も出始めた。

 越境するのは砂ばかりではない。石油が燃えると出る二酸化硫黄は空気中で酸化され、うすいオレンジ果汁並みにすっぱい酸性雨を日本に降らせる。石炭から出るすすは地球温暖化の原因になり、車や工場が出す二酸化窒素はオゾンの生成を促し、光化学スモッグを引き起こす。

 大気汚染物質がいつ、どこにどれだけ降下するかを独自の気象モデルを使って計算し、予測する鵜野さんの研究は「化学天気予報」と呼ばれる。

 野球のボールなら放物線を描いて落下するが、砂のように軽くて気流に運ばれる物体の運動は、周囲の気圧配置に応じて刻一刻変わる。さらに、化学物質なら浮遊中に化学変化して性質が変わるし、降下は雨に大きく影響される。様々な要因を考えたモデルづくりが腕の見せどころだ。

 すでに3日先の黄砂予測に成功。黄砂が北米大陸にまで飛来したことも昨年、突き止めた。とはいえ課題も多い。どんなに良いモデルでも、コンピューターの性能が精度の上限を決めてしまう。入力する実測データも出そろっていない。舞い上がる砂の量や分布は、中国国内での調査が始まったばかりだ。

 黄砂は今年も激しいのでしょうか――。「よく質問されるのですが、長期予報はいまの計算機のレベルではなかなか難しい」。研究者にとって地球は、まだ十分に大きく、なぞに満ちている。

 

 ■ソース以外の参考資料

   ●Silent Spring [Rachel Carson]

   ●気象庁地球温暖化予測情報

      http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/GWP/index.html

 

B. 今、地球上に何が起こっているか・情報が伝えていることは何か

急増する洪水

上記のテレビ番組や新聞記事などに見られるように、我々は洪水のニュースを耳にすることが増えている。昨年の中央ヨーロッパを襲った大洪水は特に強い印象を我々に刻み込んだ。私自身、去年の夏休みの前半をチェコですごしたため、帰国してまもなく、プラハの美しい旧市街が泥水に浸かった姿をテレビで見て大きなショックと悲しみを体験したのを覚えている。アジアのモンスーン地帯でも、雨季の降水量が増加し、河川が氾濫する被害が多発している。

 

洪水の裏で起こる渇水

さて<Source2>から、現在地球では洪水に悩まされる地域が増えるのと同時発生的に、渇水や砂漠化も増えていることがわかる。この不可解な現象を見事に象徴しているのが中国である。国土の南を流れる長江の流域では、近年川の氾濫による洪水が後を絶たない。一方もうひとつの巨大河川黄河の流域では、川の水が不足し、所々で「断流」という現象が起きている。文字通り、川の流れが途絶えてしまうのだ。中国政府は問題を緩和すべく、「南水北調」政策と呼ばれる一連のプロジェクトを開始している。長江と黄河を数箇所で運河によって結び、長江の水の余剰を北に分け与えるというのがこの政策の基本概念である。

 

温暖化が共通原因の一つ

世界の一部では洪水が増え、また一部では渇水が起こる。この二つの問題には因果関係があると考えるのが自然である。洪水や渇水を引き起こす主原因を特定するのは難しいが、近年多くの科学者が口をそろえて唱えるキーワードがある。それは「地球温暖化(Global Warming)」である。

ここでは主題から脱線しないために、温暖化がなぜおきているのか、本当におきているのかという議論には深入りしない。しかし、日本の気象庁などさまざまな機関が行った調査の結果、19世紀以降の長期変化傾向として、100年あたりおよそ0.7℃の割合で地球の気温が上昇していることがデータとして出てきた。それでは具体的に、温暖化と洪水・渇水はどのように依存関係にあるのか。

割に想像しやすい因果関係として、まずは温暖化と降雪を考える。日本の河川は山の雪解け水を源流とすることが多い。冬の間山に雪が積もり、春になると少しずつ解けながら、安定した水が河川に供給される。いわば自然界が作り上げたダムの役割を、積雪が担っている。しかし近年地球の平均気温が上昇したことをうけ、山間部の積雪量が減り始めている。雨として振りそそぐ水は雪に比べより早く川に注ぎ、下流へと一気に流れる。世界的に見ても急勾配な河川を保有する日本では、こうした気象の変化の引き起こす結果を田植え期の前倒しなどといったことに容易に観察することができる。水かさが増えた河川に大雨などが重なれば、洪水を引き起こす確立は格段に上昇する。

積雪量の減少は温暖化のもたらす弊害の氷山の一角である。気象予測はしばしばカオス理論を説明するために例に出されることがある。熱帯雨林に住む蝶が一回羽を羽ばたかせると、それが大気の流れを微妙に狂わせ地球の裏側で台風が発生するというものだ。これは作り話かもしれないが、温暖化によって引き起こされる気候変動の予知の難しさを考えるのに適している。温暖化のもたらす結果はいかなるスーパーコンピューターも導き出してくれないが、我々は常識を前提に以下のように理論を組み立てることはできる。

地球温暖化は地表と海水面の温度を上げ、水の蒸発が活発になり、総じて水蒸気の量が増える。これによって地球全体としては降水量が増えるが、雨季の降水を乗数効果的に増やすため、集中豪雨が増え、洪水が多発する。しかし地球上の全水量は一定なので、豪雨に見舞われる場所の裏では雨量が大幅に減少する地域が発生し、そうした地域では渇水・砂漠化が進んでしまう。

 

C. 温暖化に歯止めをかけるため、人間は何をすべきか

洪水や渇水を引き起こす地球温暖化は、人類が物質的な豊かさを一元的に求めてきたひとつの結果である。我々は今まで「利益」、「利潤」を最大化することを経済に求めてきた。しかし皮肉にもその結果、洪水や干ばつによって大きな経済的損失をこうむることになったのだ。

いまこそ、この計算ミスを是正しなくてはいけない。それは私たちが環境から、普段は無意識に欲張りに得ている利益を、経済にしっかりした形で位置付けることである。そのためには長期かつグローバルな視点が必要である。もしも地球上の人間が仮に一年という限られた時間において自らの利益を最大にしようとするならば、森林をすべて伐採し、大量の石油を使い、できるかぎりの贅沢をするであろう。しかし現実には人間の寿命は長く、加えて子孫をもつことで彼らの人生の分まで心配することも当然である。我々が80歳になったときにどのような環境に住みたいか、我々の子供・孫がどのような環境で育ってもらいたいかというごくあたりまえの考えを頭に浮かべるだけで、私たちが進むべき新たな方向が見えてくるのではないか。人間はだれしもが欲を持っている。今日の生活の質よりすこしでも高いものを明日に求め、我々は生きている。自然を破壊する事はこれを達成させないことが最近になってようやく認知されるようになった。すると、この人間の根本的な性質である「欲」を最大限に発揮したとき、我々は自然と共生することを選ぶ以外選択肢はないのではないだろうか。

これを温暖化問題に当てはめてみる。このまま地球表面温度が上がりつづけると、現状をはるかに上回る損害が予測される。これを回避するのもしないのも、すべては人間の今後の進路選択にゆだねられているのだ。対策の中心となるべきは温暖化の源となっている温室効果ガス(GHG)排出量の地球規模での削減である。これにはいくつかの方法があるが、ここでは三つほどの観点から見ていくことにする。

ひとつはエネルギーに関する改革である。エネルギーを生成手段として、私たちの社会では主に化石燃料を使うため、GHGの排出が必ず伴う。同じ仕事をするのにかかるエネルギー量を減らすことができれば、温室効果ガス削減が実現する。こうした取り組みはすでに「省エネ」製品の出回りなどに観測することができる。さらに大規模に見ていったとき、産業の転換が必ずおきなければいけないのは自明である。北欧諸国や一部ヨーロッパの国を参考に、重工業から福祉・医療・サービス業などのソフト面での産業への転換、林業・漁業・農業など第一次産業の重要性の見直し、環境保護を専ら担う新たな産業の創造などがのぞましいのではないだろうか。さらに、GHGをあまり発生させないエネルギー源を活用していく手もある。太陽光発電、風力発電、燃料電池、原子力などはGHGをほとんど発生させない。(原子力発電はGHGを発生させないが放射性廃棄物の問題があるので私自身はとても懐疑的である)今後、このような新しい技術がそのコストに見合うだけの価値があることが必ず証明されるであろう。

次に、温室効果ガスの最たる存在であるCO2を吸収してくれる植物に関してである。日本にある森林が吸収する二酸化炭素の量は1、4200万トンであると政府は発表している。国内の総排出量が4、750万トンであるので、その三倍もの吸収能力をもつことになる。森林伐採はさまざまな観点で環境に悪影響を及ぼすが、その最たるものが温暖化であることは間違いない。若い木はとりわけ吸収能力が大きい。今後、失われた森林を地球規模で復旧させ、二酸化炭素の固定化を進めることが望まれる。

最後にして最重要なのが、我々の「豊かさ」に対する概念そのものの転換である。現在国富のスケールとしてGDPなどが使われることが一般的である。しかしはたして日本の半分のGDPしかない国のひとの生活水準は、日本の半分なのだろうか?私の経験上、むしろこの逆がいえることもあるほどである。GDPをいかにあげるかを考える時代は終焉をむかえ、今後は食、住、精神面での平和などの人間の根本的なニーズを充実させることができる経済構造が必要ではないだろうか。人間が動物の一種である限り、最終的に当たりくるのが環境である。人間の根本的なニーズに答えていく過程では環境保護が必然的にリンクしてくるのだ。こうした意識転換を通してはじめて、温暖化の真のコストを理解することができ、それにブレーキをかけるような市民の意識構造や教育制度ができてくるのではないだろうか。

一つ特記しておかなければならないのが、こうした変化が世界同時的に起こらなければいけないということである。仮に日本がGHGの一つであるCO2の一人あたりのエミッションを半減させることに成功したとしても、たとえば中国のそれがわずかに増えただけでその努力は相殺されてしまう。そうした意味でも、新しい形での開発の方法を考えなくてはいけない。

 

D. 私たちは、今いるところで何ができるか

温暖化に歯止めをかけるべく三つの可能性について上記したが、それぞれを私たちが生活の中でどのように具体化していけばいいのだろうか。

まずエネルギー効率のアップについてだが、実行しうる具体策の真っ先にくるのが交通手段の選択の見直しである。日本では公共交通網が世界的に見てもすばらしく発達している。自家用車での出勤・通学をできるだけ控え、電車やバスを利用することで同じ距離を移動するときにでる一人当たりのGHGエミッションをカットすることができる。現在オランダやドイツでは、自転車という古くからある交通手段がみなおされている。10キロ以内の移動では、自転車はむしろ自動車をしのぐ利便性を発揮すると私は考える。次に、省エネルギーを実行するための生活環境を整備することが大切である。日本で軽視されがちなのが住宅の断熱材の重要性である。二重窓とともに、断熱材を充当することで相当なエネルギー効率化が行える。消費者としての我々も、さまざまな注意をするべきである。例えば車を購入する場合、長期的に使用することを考えると燃費が悪いものを選択することは環境に対する配慮がかけているだけでなく、自らの家計を圧迫することにもなる。

次に植物による二酸化炭素の固定だが、我々が突然庭先に木を大量に植えることは現実的ではない。しかし、紙の消費量をできるだけ抑え、リサイクルを促進することで、地球上のどこかで伐採される運命であった木を救うことができる。

最後に、豊かさの基準を見直すことについてだが、大量消費をしなくても満足のいくライフスタイルを作り上げることが求められている。テレビを一時間見るのをやめ家族との団欒のために使う、車からは見逃してしまう風景を自転車にのりながら楽しむなど、それぞれの生活を楽しむことが、長い目でみれば温暖化防止につながるのではないか。

 

このように、私たちはさまざまなことを実行し、温暖化に歯止めをかけられる立場にありながら、実行せずにいる。しかも、するべきことのほとんどは我々の生活水準を下げなければ達成されないものではない。長期においての利益を考えることで、私たち自身の生活も豊かになり、そして地球で起きている温暖化、そしてそれがおこす洪水・渇水を緩和することに貢献できるのだ。

 

戻る