放射能汚染と水 
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放射能の広がりと水

私は高校時代、親の転勤でウクライナに住んでいた。原発事故や放射能に対して漠然とした知識しか持たない私の家族でも当初はウクライナでの食べ物にはかなり気をつけていた。肉や魚、ミルクなどは必ず輸入品を買っていたし、水も輸入品(かなりアヤシかったが)を飲んでいた。しかし、歯を磨くときや風呂に入るときなどは水道の水を使う。水が汚染されるとある程度の被曝からは逃れられないようだ。

現在残っている放射性物質には水を媒体にして広がったものも多い。初期の段階での皮膚がんなどの病気は放射性物質の直接の付着によるものだが、現在問題になっている内部被曝というのは水や土壌に入り込んだ放射性物質が植物から魚や獣、そして人間へと濃縮されて取り込まれることから起こるのだ。事故で大気中に放出された放射能の量は広島の原爆1100発分であるというから内部被曝も相当なものだろう。被害は付近だけにとどまらず、より微細な放射性物質は風に乗って雲を汚染しヨーロッパ全土に汚染された雨を降らせた。地球が水に覆われているだけにそれが汚染されたときの広がり方は驚異的だ。

放射能による汚染が特に恐ろしいのは被害の強さや範囲の広さだけでなく、その被害の期間にもある。他の汚染がバクテリアなどによって時間と共に自然に浄化されていくのに対し、放射能が減少するにはその半減期を待つしかない。したがって、96年に行われた調査でも汚染された水は10年以上たっても汚染されたままでチェルノブイリ付近には人が住むことは許されていない。

 

原発と海洋汚染

チェルノブイリのような状況は偶然の事故による被害だ。だが、だからといってもう起こりえないとはいえない。さらに、もし仮に事故が起こらないにしても原発が存在する限り放射性廃棄物がうまれ、それを海や地中に捨てることになる。海が汚れるというのは地球規模の環境問題を増やすことにほかならない。地球の表面は水でつながっていてマグロなどの魚は地球を周回する。すでにダイオキシンなどで調査はされているが食物連鎖によって濃縮された汚染物質が人間に返ってくるはずである。クリーンエネルギーといわれていた原発を作るということで実は人間自身も汚染の危機に晒されているのだ。

これからの人類にとって原発は事故がなければよいというのではなく、もう作らない努力、そしてできることなら減らす努力も必要だろう。人口が増え続けみんなが先進国のような暮らしを望めば地球は原発だらけになりかねない。そうなれば地球全体が放射性廃棄物で汚染されるだろう。それを避けるためにリスクの大きい原発はやめ、自然の浄化作用を知った上で人間が今ある安全な技術でどこまで満足できるかが地球環境の維持、改善にとって鍵となるはずである。

アレクセイと泉

チェルノブイリ事故で被害を受けたベラルーシの村、ブジシチュには政府の避難勧告を無視して55人の老人とアレクセイという1人の青年が暮らしている。全てが放射能で汚染されたこの村で唯一汚染されていないのは泉から湧き出る水だった。大昔の地下水のため汚染を免れたのだ。

この話はフィクションではない。そしてまた私たちの未来を暗示しているようにもおもえる。産業革命以来、人類は石油資源に大いに頼ってきた。それは太古に蓄えられたエネルギーであり使ったら失われてしまう。水もこのままだといずれは石油と同じように貴重なものになるのではないだろうか。放射性廃棄物や原発事故による環境汚染によって海が汚染され雨が汚染され川が汚染されることで世界中がきれいな水を求めて地下を掘ることになるかもしれない。しかもそうなった場合当然人間だけではなく、ほぼ全ての生き物が汚染にさらされているため洗浄しなくては何も食べられなくなる可能性だってある。

そのような未来をつくらないために私たちが今できることはとても限られている。電力がこれ以上必要にならないようにすること、具体的には省エネだろう。だが、ただ省エネするだけでは電化製品が増えた場合結果的に電力消費は減らないどころか増える可能性だってある。本当に必要なのは電化製品を増やさないことだ。携帯電話も珍しいときは必要とは感じなかったが、いまは手放せなくなっている。必要は発明の母ではなく発明が必要性を作り上げていることを意識すべきだ。いまの日本人のような暮らしがスタンダードになるような世界だと環境破壊は避けられない。恵まれた環境にいる私たちはこの生活に満足して本当は何が幸せなのかを確認しなくてはならない。

 

参考

http://www.debug.co.jp/ukraine/rensai/rensai/16.htm

・ http://www.ne.jp/asahi/to/holy/hitorigoto/report/genpatsu5.htm

http://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Grod-J.html

http://www.ne.jp/asahi/polepole/times/sosna/alec/summary.html

 

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