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現在、地球は多くの環境問題を抱えている。その環境問題の原因となっているのは人間である。人間の生活における向上の代償として、様々な問題が起こり、その傾向は解決の方向に向いているとは言い難い。環境問題の一つとして水問題があり、水質汚染の問題性が今日しばしば挙げられている。
水質悪化の影響〜今地球上で起こっていること〜
河川・湖沼の水質悪化は、そこに生息する生物に悪影響をもたらすだけでなく、全体の生態系にも影響を与える。残念なことに、河川の水質汚染の原因は生活排水と産業排水が全体の要因の90%を占めているというのが現状である。
福島県の猪苗代湖北岸でコカナダモという水生植物の群落が発見された。これは水質汚染が進行すると大量に繁殖する帰化水生植物で、ほかの水生生物を駆逐してしまう恐れのある藻の一種だ。猪苗代湖では1969年以来調査開始してから、2002年に初めて発見された。湖中の水素イオン濃度pHは約30年間で約2上昇し、湖水の富栄養化(有機汚濁)の進行を示している。福島県自然保護協会会長星一彰会長は、生活排水や農薬、近隣のスキー場凝固剤の硫化アンモニウムなどが河川を通して湖に流れ込んでいるのが原因と見ている。また、この湖は有機汚濁だけでなく、酸性濃度の濃さにより、魚が住むことができない無機汚濁の水質も続いていることが分かっている。つまり、湖の生物が人間の生活の向上・娯楽の犠牲となっていて、さらに悪化が進行しているということが分かる。
一方、水に関する環境問題は河川や湖沼の汚染だけでなく、日常生活でも起こっている。読売新聞は2002年7月に「水」に関する全国世論調査を行なった。その調査によると、日本人は水道水を敬遠する傾向を抱いていることが分かった。また、水道水に対する抵抗感は都市部に近づくにつれて強くなっている。町村部では40.1%なのに対し、大都市部では65.6%の人が水道水をそのまま飲むことに抵抗感を感じている。さらに、驚くべき事に、大都市部では水道水をそのまま飲んでいる人が33%に対し、浄水器などを通した水道水を利用している人は47%、ミネラルウォーターを使用している人が39%と、そのままの水道水を利用する人よりも水道水をさらに浄化した水を利用している人がはるかに上回っているということが分かった。また「水の問題」と聞いて真っ先に何を思い出すか、という問いに対しては「飲料水の質」が58%と最多で、「河川や海の汚濁・汚染」が次ぎ、43.9%となっている。つまり、約半数の人が水質面について、問題に思っているということである。この記事で分かる事は、世界でも数少ない「安全な水」の国であるといわれてきた日本でさえ、人々が日常生活において不可欠な水道水にまで水質汚染は侵食してきたのである。
それでは、この水質汚染の原因は何だろうか。三重県伊勢湾の汚濁の原因は54%が生活排水、34%が産業排水、12%がその他となっている。また伊勢市の勢田川に関しては、生活排水が78%を占め、20%が産業排水、その他の原因が2%となっている。以前は産業排水が生活排水を上回っていたが、工場に排水処置施設が導入されてからは家庭雑排水が深刻な問題となっている。またそれぞれの場から発生した排水は、別々の水質汚濁問題を起こしている。家庭雑排水は窒素、リン、カリウムなどの栄養源となるものが川に流出し、それによるプランクトンの大量発生がさらに赤潮やアオコの発生を促し、一般細菌の増加も起こしている。また家庭で使われている合成洗剤も川の汚染の原因である。工場排水は、最近はドライクリーニングやハイテク産業などで洗浄に用いられるトリクロロエチレンが地下水の汚染を引き起こしている。家畜糞尿水・農業排水については、田畑やゴルフ場などで使われる農薬が川に流れ込み汚染しているのだ。つまり、全ての人が水質汚染に関係していて、さらに、家庭・仕事(学校)・地域社会それぞれの場で異なった水質汚濁を常に引き起こしているのだ。そこで、私達は水質汚染の改善を他人に依存することはできなく、一人一人の生活の見直しが必要とされている、という事がこの資料で分かった。
市民の積極的参加の重要性〜人間は何をすべきか〜
このように、日本で様々な水質汚濁が起こっているが、このような問題は日本だけではなく世界中で今日問題となっているのである。そこで、地球環境について話し合うために各国の首脳が10年前に初めて集まったのが「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」である。1992年にブラジルのリオデジャネイロで「持続可能な開発」をキーワードに地球環境問題と開発問題を取り上げた史上最大の国際会議であった。その会議の中で1996年に誕生した水に関する国際組織が世界水会議(WWC)と世界水パートナーシップ(GWP)である。このような情勢の中、21世紀に世界全体で水問題を考え解決しようとWWCの呼びかけで開催されたのが世界水フォーラムである。そして2003年3月に日本で第3回世界水フォーラムが行われようとしているのだ。このように近年は国際社会において環境問題を1つの国の問題としてでなく全世界の問題として解決策を探る傾向となってきている。しかし、このような会議を学会関係者のみの活動としても問題解決は容易でない。実際に解決方法を実行するのは地球上の全ての人々なのであるから、国際的会議への市民の積極的参加が重要になってくるのだ。例えば、第3回世界水フォーラムでは関係者と参加者との交流、参加者の知識の向上とその発信、意識化を目的としたびわ湖水フェアが計画されていたり、フォーラムの一般市民のボランティア募集を行ったりしている。また、このような市民の国際的活動の参加は大人だけでなく、未来を担う子供達にも必要なことである。2002年11月には「こども国連環境会議(JUNEC)」という環境保全に関心のある青少年が国・人種を超えて地球環境を話し合う会議が行われた。このように今、各国で起こっている水問題をその区域の問題としてだけでなく世界全体の問題として捉え、各国の代表が集まり解決策を練ると共に、その情報の発信方法・実行方法として市民の積極的参加が重要になってくるのである。
個人の意識化と積極的活動の必要性〜私達が今できること〜
読売新聞の世論調査で、人々が日々の生活で水が今危機的状況であると感じていることが分かった。しかし、その状況を感じている間にも水質汚染などの水問題は進行し、留まる気配がない。そこで必要なのは人々が「知る、実行する」ということである。社会が発展していくにつれ、日々の生活の中で「水」に触れる機会は、ごく限られたものとなってきている。特に都心部に近づくのに比例して、河川や湖沼などの自然環境の中で水に触れることが減り、水道水でしか「水」の現状に接することはない、という人も少なくない。また、人間は自分の周辺の問題が解決すれば問題がないと考える事もある。つまり人々の水問題に対する意識を薄れさせてしまう可能性があるのだ。その例として挙げられるのは、浄水器やミネラルウォーターの利用である。いくら浄水器の水・ミネラルウォーターを利用しても、それは自分の生活範囲内での水がきれいになっただけで、それが自然における水問題の解決に繋がることはない。そこで、まず人々は自然環境における水問題の実態を認識する必要があるのだ。問題の意識化は子供から成人まで幅広い範囲に求められる。子供に対するアピールは小中高での環境の教育により実行されている。全学年の家庭科の教科書に共通している点は、個人のライフスタイルの見直しと家庭・学校・地域での積極的活動の参加の強調である。一方、地方自治なども水資源についての知識を広げる活動を行っている。例えば、神奈川県県民部広報県民課の発行している「県のたより」の平成15年1月号には11月16〜17日に横浜市内で開催された「水源環境シンポジウム」についての報告が書かれている。そこでは、ライフスタイルの見直し、住民の協力、住民自身の環境学習、新たな水資源に対する取り組みの必要性を述べている。つまり、小学生から大人向けまで全ての年代に対するアピールはほぼ内容を同じくして既に行われているのだ。しかし、水源環境の悪化とそれに伴う生態系への悪影響は進行している。つまり、人々のこのような情報への意識と真剣な取り組みがまだ普遍化していないのではないか、と考えられる。例えば、水道水の水質が悪いという問題を個人の問題として水の浄化で解決しているため、生活排水の抑制など社会全体の問題解決には直結していない状態が続いているのだ。そこで、人々は様々な水源問題を個人の問題から社会全体の問題へと移行して捉え、与えられた情報を正確に取り入れ、一番身近な家庭における積極的活動が第一に必要とされている。家庭の課題は生活排水量を抑制するということである。例えば、米のとぎ汁を植木に流し有効活用し、汁物は極力残さない程度の量を調理し、揚げ油は固めて捨てたり肥料にし、排水口のごみは栄養分となるのでネットの使用により流出を最小限に抑え、合成洗剤の使用を控える、などがある。家庭からさらに仕事場(学校)・地域社会の活動で生活排水の大幅な減少を図ることが可能である。つまり、私たちが今、問題解決できることは決して難しいことでなく、身近なところでできる。まず、この水問題、その原因、解決策など与えられた情報を正しく判断し、個人の問題としてでなく、社会全体の問題として捉え、一人一人の生活習慣の見直し、社会での協力により、水質汚染の改善を実行することが私達の責務である。