氷河が消える〜地球温暖化による影響〜
W6F11

 

地球温暖化について

 1990年代に入り、地球温暖化が深刻な問題をもたらすことが指摘され始めた。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、温暖化は紛れもなく人類の活動に起因するものだと結論づけている。地球温暖化の原因が二酸化炭素やメタンなどの温暖効果ガスであることはほとんどの人が知っていることであるが、今一度簡単に説明すると次のようになる。太陽から地球に降り注ぐ光が、地球の大気を素通りして地面を暖め、その地表から放射される熱を温暖効果ガスが吸収し大気を暖めている。現在、地球の平均気温は15℃前後とされているが、もし大気中に水蒸気、二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスがなければ、マイナス18℃前後になってしまうというのだから、これらのガスの温室効果は意外なほどに強力である。近年、産業活動の活発化によって、二酸化炭素、メタン、フロン類などの温室効果ガスが大量に排出されて大気中の濃度が高まり熱の吸収が増えた結果、気温が上昇し始めている。これが地球温暖化である。

 

海面の上昇

 地球温暖化による影響は様々なうえ予想がつかない。私たちにとっては平均気温が少し上昇したくらいでは実感しにくいかもしれないが、地球の生命の源である海では、温暖化は目に見える形で深刻な影響を及ぼしている。

 海面の上昇により数多くの島々が水没の危険に直面しているのである。この20世紀の間、海面は10〜20センチメートル上昇し、21世紀の間にはさらに速いペースでの海面上昇が予測されている。海面が1メートル上昇した場合、東京東部の江東区、墨田区、葛飾区のほぼ全域が水没する、と言えば事態の深刻さが分かるだろう。

 太平洋に浮かぶ珊瑚礁の国、ツバル諸島の例を挙げてみる。人工約1万1千人、9つの島からなるツバル諸島の面積は計26平方キメ−トルで、最も高いところでも水面からの海抜が4メートルである。高潮になると海水が島の内部まで達し、家の並ぶ海岸部の浸食や、地下水の塩水化が問題となっている。ツバル政府の危機感は強く、大量移民を本気で考えているという。

ツバル諸島の他にも、マーシャル諸島、フィジー諸島、モルディブ諸島などが水没の不安にさらされている。

 

氷河の消失

海面上昇をもたらしている主な原因は氷河の融解である。

 2002年3月12日、米環境シンクタンク地球政策研究所は、地球温暖化によって北極や南極などの氷が従来の予想を超えるスピードで溶けつつある、と発表した。同研究所の最新研究によると、北極海を覆う氷は、過去35年で平均の厚さが3.1メートルから1.8メートルに薄くなり、面積も78年以来で6%も減ったという。氷の量は半分になった計算で、今世紀半ばには、夏に氷が消えてしまいかねないという。南極では、海に突き出た「氷棚」の消失速度が速まっている。南極の大きな半島の両岸の氷棚で50年代から97年までに失われたのは7000平方キロだったが、その後1年間で3000平方キロが消えたとされる。また、米大学の研究では、米アラスカ西海岸と北部カナダの氷河の溶け方は、以前の推定の2倍のペースになるという。各国の科学者でつくるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は昨年1月、氷が溶けて2100年までに海面が9〜88センチ上昇するとの予測を公表した。同研究所は「最新の研究成果を総合すると、予測を高めに修正する必要がありそうだ」と指摘している。(朝日新聞 2002 3/13付)

 以上の引用から分かるように、現実に、北極圏、南極圏共に人々の予想を超える速さでどんどん氷河が溶けてなくなっているのである。氷河の後退と、それによる海面上昇は、温暖化が現実であることを目に見える確かな証拠として示している。

 

それでは今、どのようにして氷河が失われていっているのだろうか。

そもそも氷河とは、陸地を緩やかに滑降する、大きな氷塊のことである。氷河は、ある特定の地理的、気象条件の下でなければ存在しない。ほとんどの氷河は冬季の積雪量が覆う、夏季の気候が寒冷な場所に存在する。この条件を満たすのは、極地圏、つまり北極・南極と、山岳地帯である。このような条件の下で成長した氷河は、地球の引力、すなわち自身の重さによって押し出され、緩やかに流れ下る。

通常、氷河が後退した後に残った土壌は、氷河の侵食によって堆積物が削られてしまって、モレーン(氷河によって運ばれた堆石が積み上げられて出来た堤防状の地形)と氷河擦痕(氷河底部の岩くずが基盤の岩石に刻んだ直線的な擦り傷跡)以外ほとんど何も残っていない。ここで大事なことは、気温の上昇による溶解、蒸発、風化(氷河の消耗、削摩あるいはアブレーションという)は、氷河の自然な季節サイクルの一部であるということだ。積雪と消耗がバランスを保っている限り、氷河の総量は維持されるのである。しかし、氷雪の消耗が積雪を上回ると、氷河は面積、体積共に減少し、後退をはじめる。

 このようにして、温暖化によって氷河の後退が進んでいることが、海面上昇とそれに伴う諸問題の原因になっていることは先に述べたが、氷河の後退は、他の問題も引き起こしている。

 世界の多くの地域では、氷河(この場合山岳地帯の氷河)の融解水は表層水と地下水の重要な供給源のひとつになっている。 多くの温帯気候地帯といくつかの熱帯気候地帯では、氷河の融解水は生態系を支え、水力発電を維持し、工業用水、灌漑用水、飲料水としての役割を担っている。氷河の氷は通常比較的ゆっくりと融けるために、安定的な水の供給源となるのである。ところが、過去60年から100年の間、世界中の氷河は継続的な後退現象をみせている。特に、極地の氷河よりも比較的規模も小さく、不安定で変動しやすい山岳氷河は後退が顕著である。山岳氷河の世界的な消滅現象は、すでに氷河を取り巻く自然環境と人間環境への影響をみせはじめている。幾つかの乾燥地帯はすでに長期的な渇水状態に突入した可能性もある。

今までに述べてきた氷河消滅の原因の大部分は人為的な作用によるものである。しかしその影響を受けているのは人間だけでなく、地球上の生物界、自然界全体なのである。現在の傾向がこのまま続くか、あるいは悪化することになれば、その責任は人類だけでは背負いきれないものとなるだろう。

 

グローバルな対策

 これらの問題に直面して、人類は今どのような対策をしているのだろうか。このような地球規模の問題に対しては、まず現状を調査し、国レベルの方針を決め、それを実行していくという段階立てが必要である。現状の調査についての例を以下に述べる。

 NASAが誇る世界最大の地球環境観測衛星基地であるゴダード宇宙飛行センターで海洋や大気中の水分など水に関わる観測を続けている海洋科学者クレア・パーキンソンさんは、地球観測衛星によって地球全体の環境を捕らえ、その変化の実態をつかむことが出来るので、海、大気や雲、空中のチリなど全てが関連しあって地球が成り立っていると言うことがよく分かると話した。パーキンソンさんは「これまでで一番ショックを受けた衛星画像」として、巨大な氷壁の崩落を挙げている。南極のルーズベルト島近くの氷山の壁が2000年3月中旬、崩れ落ちた際の画像である。米衛星「テラ」がとらえた。過去最大の崩落で、その規模は長さ約300キロ、幅40キロにも達した。面積にして、福岡、佐賀、長崎の九州北部三県と同じ広さが滑り落ちた計算だ。地球温暖化による氷壁の崩壊、海洋の氷の融解は、北極圏でも起きている。夏の平均気温は、この10年で1.2度上昇。NASAは2002年末、「この温暖化傾向が続くと、今世紀末には北極圏の氷はなくなる可能性がある」と警告した。(西日本新聞2003.1.14 付)

以上のように、今日の科学の発展によって、地球環境の調査は進められている。

 次の国レベルの方針はどうであろうか。1997年12月、地球規模の問題解決には全ての国々が協力しなければならないという観点から、地球温暖化防止京都会議で京都議定書が採択された。先進国に対して温室効果ガスの排出量削減の具体的な目標をたてて(2008年から2012年にかけて、EUは8%、米国は7%、日本は6%、)、先進国全体で温室効果ガスを約5%削減しようとしたものである。しかし、これに対してブッシュ大統領が離脱を宣言、一方日本はこの10年での温室効果ガスの排出量を逆に増やすなど、実質的な成果に繋がってはいないようである。地球温暖化における先進国としての日本の責任は重いが、何よりも私たち一人一人の責任は重い。問題解決の最終段階である「実行」をするのは結局一人一人の人間だからである。

 

一人一人が出来ること

 問題解決のために個人ができること、というよりも個人こそが実行すべきことは、たくさんある。例えば、家庭での電気の消費量を減らすことである。小さな事だが、個人の考慮による節約なくしては発電所から排出される二酸化炭素が減少することは消してあり得ない。テレビを見る時間を1日1時間減らし、寝る前に元電を切ることで、年間4.8キロもの二酸化炭素を削減できるのである。また、食器を洗う水温を40℃から30℃にすれば、年間19.8キロの二酸化炭素を減らすことが出来る。1日につき3分間、水を出しっぱなしにするのをやめると3.2キロの削減になる。

 本当に些細なことだが、最終的にはこのような積み重ねが実行されなければ、最新技術による調査も、国レベルでの対策も無駄なのである。

 私たち一人一人の心がけ次第で、地球の温暖化、それによる氷河消失、そしてそれによる海面上昇、島々の水没、それらの問題を食い止めるか、あるいはますます悪化させてしまうのかが決まるのである。生命を育んでくれる大切な地中の海、そして他の生物たちに対して人間はあまりに自分勝手だと言うことを、この問題を通して自覚するべきであることに気付かされた。

 

参考資料: 朝日新聞社Web asahi.com【科学・自然ニュース】2002.3.13付

      西日本新聞Web The Nishinippon WEB 【地球紀行】2003.1.14 付 朝刊

      全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)  http://www.jccca.org/

      グリーンピースジャパンWebサイト http://www.greenpeace.or.jp/

 

戻る