トイレ再考 
ー身近な視点から水を考える -
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はじめに

思い返せば、中学生のときからだった。学校のトイレで周りが気になるようになった。誰かに自分の排泄音を聞かれるかもしれない・・・それが気になって、ごまかす為にレバーを下げるようになった。どうやら周りも1度個室に入ったら2度水を流しているようだった。それから、まるでエチケットかのように、暗黙の了解として、女子トイレの常識として、私はその儀式を続けていた。しかし、高校の保健の授業で私のトイレ観の転機が訪れた。水資源についての授業で先生がこの「常識」を問い直したのだ。クラスのほとんどの女子はトイレで2回水を流すという事実。それがどれほどの水の無駄遣いか、そこまで考えてこなかったことに逆に恥ずかしさを覚えた。

 トイレという場所は、毎日大量に水を使いながら、意外と身近にありすぎて気付かない水の無駄遣い場だ。今回、このレポートを通じてこの身近な「トイレ」と環境について見直してみたい。

 

トイレに関する意識〜音消しの実態〜

 まずTOTOのホームページなどから日本の女性のトイレに関する意識調査を見てみよう。100人中40人が「排泄音が気になる」と答え、また90%近い人が一回のトイレで2回水を流すという調査結果が出ている。そして「どうして2回以上水を流すか」という質問には95%の人が「音消しのため」と回答していた。一回水を流すのに10~15Pの水を使用していることを考えると、これは異常な量の水がトイレの音けしの為に流れているといえる。

 そこで登場するのが「音姫」に代表されるトイレ用凝音装置である。これは実際の水の代わりに流水の音のみをセンサーにより一定時間発生させる装置で、これによって排泄音をごまかし、節水効果をねらって日本中の公共施設、ホテル、ショッピングビルなどの女性トイレに設置してある。

 しかし、本当にこの「音消し装置」は節水に効果を発揮しているのだろうか?

 TOTOの調査によると、20代女性100人中音姫があったら、「必ず使用する」人が48%、「時々使用する」人が39%というアンケート結果がある。かなり多くの人が用を足す音を恥らう反面、水を無駄に流すことに多少の罪悪感をもっているようである。凝音装置は、女性特有の恥じらいも、また水の無駄遣いも同時に解決している点で、個人的に高く評価できる商品だと思う。なぜなら、ただ「節水」と書かれた紙がトイレに貼ってあるより音を消すことも考慮に入れた凝音装置の方が、恥じらいという大きなハードルを取り除いてくれている点で節水に協力しやすいからである。

 それでは実際どれほどの節水効果があるのだろう?広島バスセンターでのモニターテストでは、1回のトイレ使用で6.4Lの節水を確認。音姫が無かったとき、年間水道料金が約1480万円だったのに対し、音姫を使用した場合約1073万円と、年間406万円の節約が試算されてる。またある東京の女子大でも、年間1876万円の節水ができるというデータもある。これらのデータから、音消し装置には相当量の節水効果、同時に経済効果があるといえ、これはビルなどの経営者にとってもおいしい話なのである。

 

これからのトイレ

 最近トイレに関する話題でもっとも新聞や情報誌に載るのは「バイオトイレ」という存在である。バイオトイレとは何だろう?バイオトイレは水を使わず、オガクズの中に繁殖させた微生物の力でし尿や生ゴミを分解し、無臭の有機質肥料を作るエコトイレのことで、最近では特に登山口や山小屋、公園等で利用されている。

 バイオトイレにはいくつかの特徴がある。まず、水がいらない。そして自己完結型で水域を汚さない。し尿も生ゴミも資源(たい肥)として再利用できる。できたたい肥は下段や家庭菜園へリサイクルが可能。またトイレ室内は無臭で快適。維持管理は2~3回のおがくず交換だけ、と環境に優しいトイレとして注目されている。

 し尿処理問題や水の確保の問題があった各地の山などで、バイオトイレの推進運動が起こっている。まず、日本一の富士山では昨年夏、常設バイオトイレは初めて設置された。これまで富士山の公衆トイレは、静岡、山梨両県と山頂の計五か所にあったが、ほとんどが汚物をそのまま垂れ流したり、地下に浸透させたりする方式で、悪臭や汚れなどが目立っていた。また汚物や紙が外部に流れ出し、山肌が白く変色することがあったという。バイオトイレの導入により環境の改善が図られるわけだが、利用者からの評判も上々でより快適なトイレが山上でも提供されることになりそうだ。

 またバイオトイレは山でも利用以外でも、介護用や工事現場、キャンプ場や公園でも既に利用されているという。住宅用とするには小型化が課題だが、既に利用している家庭では生ゴミも処理でき好評ということだ。

 水洗トイレは流すだけで大量の水を使う。また処理後も無機分が川や海に流れ込む。いくら下水道が普及しているとはいえ、このまま水洗方式のままでよいのだろうか?

 下水道があまり普及していない発展途上国の大都市でこそバイオトイレの長所が生かされるという見方もある。東京工業大学の石川教授のグループはフィリピン・マニラ首都圏の有機物循環社会構想をまとめた。汚染が深刻な都市河川を改善する為、主要汚染物のし尿をバイオトイレで肥料に変え、農業にも役立てていくという一石二鳥的な発想である。世界人口の95%に当たる57億人が排泄物を河川などに流しているという現状から、日本のこうした次世代トイレへの期待も高まっているという。

 世界的にもこうしてバイオトイレに対する注目が高まっているように、このような取り組みはエコロジカル・サニテーション運動と呼ばれている。環境負担の少ないトイレの普及を目指すもので、水問題の専門家らが「次世代トイレ研究会」を結成し、スウェーデンの研究者らと共同研究や、中国でエコロジカル・サニテーション国際会議が開かれている。

 

わたしたちができること

 このように、身近な「トイレ」という観点からたくさんの水に関する情報が集まった。そして世界的にもトイレから水問題を見つめなおす動きがあることが分かった。それではわたしたちには実際何ができるであろうか。

 身近にある存在だからこそ気付かないこともあるが、一旦気付けばわたしたちにできることは大きいと思う。まず、最初に指摘したように、恥じらいから無駄に水を流すのをやめること。この意識を広めること。また、凝音装置の設置を推奨していくことも大事だと思う。例えば、我らがICU校内のトイレはどうだろう?残念ながら、最近できたばかりの新D館さえ「音姫」らしいものは設置されていない。音姫設置による経済的効果や節水効果を学校側にIMSなどの組織を通して訴えていくことが必要かもしれない。

 バイオトイレに関してはどうだろう?今私は一人暮らしをしているが、賃貸のマンションの水洗トイレを勝手にバイオトイレに工事するのは、いくらなんでも無理がある。また、まだ低価格化が実現できるほど、研究は進んでいないようなので、どうやらバイオトイレの家庭利用の浸透まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、富士山でのバイオトイレの設置は自然団体の運動から話が生まれたようである。こう考えると、市民からの声で行政にバイオトイレの積極的利用を訴えることもできそうだ。

 世界には濁った河の水を飲む人たちがいる反面、私達日本人のように飲める水で皿を洗ったり、トイレを流す為に、または音を隠す為に水を使う人々がいる。これは今一度、深く考えなくてはいけないことだ。水に関してだけではない。食べること、着るもの、学ぶ場所があること・・・生活における全ての享受のありがたさを、今回のトイレと水の調査を通じて改めて実感し、見つめなおすことができた。

 

参考資料

「トイレ用凝音装置の紹介とトイレに関する意識調査」

http://www.mydome.or.jp/oidc/ie/product/otohime.htm

女性の排泄音に対する羞恥心から「音消し」のためトイレを2回以上流す実態と、TOTOの商品「音姫」の使用実態をアンケート調査から考察。

 

「女性トイレのヒミツの箱」

http://www.toto.co.jp/tips/2000/04/05.htm

TOTOの公式ホームページで音姫の効果を検証している。調査によると約90%もの女性がトイレで音消しのため2回水を流しているという。そして一回水を流すたびに10~15Pの水を使う。つまり音姫の利用によって相当の節水ができるのである。

 

「トイレ用凝音装置の環境配慮事項」

http://www.com-et.com/eco_sheet/otohime.htm

「音姫」による環境効果をチャートで表示。また音姫導入によってあるオフィスビルでは413万Pの節水に成功したという例が挙げられている。

 

「バイオトイレで山頂さわやか 巻町の角田山、町が設置 来月にも使用開始」

(2003年1月20日 読売新聞)

登山客のし尿処理が問題になっている中、新潟県角田山に微生物の働きを利用してし尿を処理する「バイオトイレ」がお目見えした。これまでの垂れ流し方式のトイレで指摘されていた悪臭や衛生上の問題の解消が期待されており、設置した同町は、「山頂のさわやかさを思い切り味わってほしい」と話している。

 

「富士山頂におがくず利用の「無公害型バイオトイレ」設置」

(2002年8月3日 読売新聞)

富士山の静岡県側の須走口本八合目と、山頂の二か所に、常設の「無公害型バイオトイレ」が初めて設置される。おがくずを入れた発酵槽を設け、し尿を細菌で分解して水に変える仕組みで、悪臭はなく、くみ取りも不要。登山客のし尿処理が問題となっている富士山の環境保全への効果が期待される。

 

「バイオトイレ幅広い用途 水不要、おがくずでし尿を肥料化」

(2001年8月22日 読売新聞)

水を使わず、臭わず、その上汲み取りも不要地うバイオトイレが注目を浴びている。登山客のし尿処理の問題がある山以外にも、イベント会場や災害時の緊急用、介護用など用途は広く、一般的な水洗トイレが流す為だけに大量の水を使い、処理後の無機物は川や海に流れることを考えると、水を使わず、し尿を資源化するバイオトイレは循環型社会を目指す21世紀には主流になるかもしれない。

 

「水を使わず、臭わない、くみとりも不要 環境を守るバイオトイレ」

http://www.ecs1.co.jp/bio/index.html

バイオトイレの特徴、原理、仕組みを解説。

 

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