島が消える? 

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 現在の私たちの生活の中に、電気やガス、石油などのエネルギーは欠かせない。これらが無ければ、明かりを灯すこともできないし、部屋を暖かくすることができなければ、こうしてパソコンを使って文書を作ることもできない。また、車は現代人にとって、もはや必要不可欠のものになっている。しかし、こういった便利な生活の裏には、地球を壊しているという事実がある。地球温暖化はその一つである。地球の温度が上昇することによって起こる被害は様々あり、特に海面上昇によって、私たち人間は甚大な影響を受けるのである。

 そもそも海面上昇は温暖化などが引き起こし、海水が膨張したり、氷河が溶解したりすることによって、海面の水位が上がることである。歴史的に見ても、地球は古来から氷期、間氷期などに気候変動を繰り返して、海水面も大きく変動してきた。日本においては、約6500から5000年前は、現在より2,3メートル高い位置に海面があったということが明らかになっている。その後、海が後退した。しかし、18世紀の産業革命以降の産業の発達により、大気中の二酸化炭素濃度が上がり、急速な平均気温の上昇に直面している。

 事実、20世紀には、世界平均で地上気温が0.6±0.2℃上がり、気温の上昇が過去1000年間において最も大きかった可能性が高いと言われている。また、気温上昇に対応して、海面は世界平均で0.1から0.2メートル上昇している。では、実際に海面上昇によってどのような影響が引き起こされるのだろうか。第一に、南極や北極の氷が解けていることがある。南極の氷は昔より薄くなっており、そこに暮らすイヌイットの人々は居住地がなくなることや、動物たちがいなくなり生活ができなくなることを懸念している。アラスカ州のベーリング氷河は先端が溶け、湖になってしまった。グリーンランド西部の氷河はこの40年間で著しく減少している。また、2002年3月18日、米国立氷センターは、南極海で長さ、幅約85キロメートルの巨大な氷山ができ、漂流し始めたと発表した。こうして漂流することによって、氷山は少しずつ溶けている。このようなことによって、氷山に住む野生動物にも影響が起こる。第二に、海抜の低いところにある島々やデルタ地帯などが沈む。例えば、南太平洋に浮かぶサンゴ礁の国、ツバル諸島がある。ツバル諸島は人口約一万一千人、9つの島からなり、面積は計26平方キロメートル。最も高いところでも、海抜わずか4メートルで、高潮になると、海水が島の内部まで入り込み、家の並ぶ海岸部が浸食され、地下水の塩水化が生活と農業に打撃を与えている。ツバル政府は大量移民を真剣に考えていて、ニュージーランドやオーストラリアに申し出ている。また、南太平洋のキリバスやマーシャル諸島では高潮の発生で家を失う人々も出てきていて、島全体が居住不能になる可能性がある。さらに、比較的標高の高いフィジーやサモアでも居住性や海岸資源へのアクセスのよさから、低平な海岸地域人口が集まっている。ほかにも、国土の4分の1を海抜下の土地で占めるオランダや、四方を海に囲まれたイギリスなども海面上昇による影響を受けるであろうと予測される。

 それでは、日本は他人事でいられるのだろうか。まず、海面上昇により、自然海岸の侵食が激化する。特に砂浜への影響は大きく、30cm、65cm、1mの海面上昇によって、現存する砂浜の56.6%、81.7%、90.3%が消失すると言われている。現在でも侵食が進んでいる日本の海岸は、海面上昇の影響により将来はさらに深刻な状況を迎えることになる。砂浜は、日本の海岸の約24%しかない。しかもその約43%が近年侵食されつつある。過去70年間に、すでに約120平方kmの国土が侵食により失われたが、30cmの海面上昇により、これとほぼ同面積の砂浜が侵食されることになる。現在の美しい砂浜の景勝地や海水浴場は、海面上昇により失われてしまう。また、日本では、満潮位の海面より低い土地に、多くの人が住み、農地や建築物などのさまざまな資産がある。1mの海面上昇が生じると、このような土地の面積は現在に比べて2.7倍に拡大し、その地域の人口や資産も約2倍に拡大する。また、台風等による高潮が発生した場合には、さらに多くの人や資産が影響を受けると予想される。地球温暖化により海面が上昇すると、たとえ30cmの上昇でも満潮位以下の低い土地は4割増え、そこに住む人口は5割も増える。1m上昇すれば、さらに多大な面積、人口、資産が危険にさらされるのだ。

この他に、海面上昇によって生じる影響は、洪水が頻発し、高潮や津波の被害が深刻になることや、沿岸域で田畑や井戸が塩水化することなどがある。

 では、私たちは、ひとつの地球に住む生物として、一体どんなことができるのだろうか。海面上昇の原因である、地球温暖化から考えることが大切だ。われわれは、生活の利便化と経済の発展にのみに焦点を当て、環境というものには配慮をしてこなかった。エネルギーを自由に使い、また無駄にしてきた。そのため、二酸化炭素濃度の増加や、オゾン層破壊などを引き起こし、温暖化というものを増長させてしまった。ならば、これ以上の増加を防ぐには、それぞれの国が二酸化炭素排出量をきちんと設定し、すべての国が、基準を守っていけばいいのだ。しかし、今までの生活を急に一変させるのは難しい。明日から、電気も石油も使うなといわれても、そうそうできるものではない。そのために、低エネルギーで動く機械を発明すること、また二酸化炭素を発生しない代替エネルギーを作り出すことが必要である。最近では、低排出エコカーなどがよく売り出されている。電機メーカーは省エネというのをキャッチフレーズのようにして、電化製品を広告している。また、水素を使った代替エネルギーなども考案されている。しかし、いまだにこれらのものが各家庭に普及されているとは思えない。確かに、環境のために急に車や電化製品をすべて買い換える、ということは無理であろう。特に、発展途上国では、古い設備などを使っているために、そこから出る二酸化炭素の量が問題となっている。これでは、家庭に省エネを普及するには、気が遠くなるような思いである。また、アメリカは二酸化炭素排出制限の議定書には、サインをしようとしていない。途上国にはODAなどで、まず、低排出エネルギーの設備を建て、国レベルからの普及を目指し、世界で協力し合って二酸化炭素濃度の軽減を目指していくべきである。また、海面上昇により土地が居住不可能になってしまう前に、他国への移住をサポートする体制をきちんと制定することも大切だ。そして、移住した先での住居や仕事、生活面においても、しっかりしたサポートが必要になるであろう。

 では、各地域ではどんな対策ができるだろうか。海面上昇の被害を、少しでも小さく抑えられるようにすることが大事である。海岸、河川堤防などを新しく建てたり、高くしたりすることで、海水の侵入を防ぐ。そして、建築様式の変更や土地利用の制限をすることで、海水が浸入しても被害を小さく抑えることができる。そして、ハザードマップや防災訓練を行うことにより、思わぬ事故を防ぐことができる。また、自治体により、環境保護に重点を置くことで、住民ひとりひとりが自分にも責任があるのだということを認識しなければならない。例えば、横浜市では、ごみ焼却場でごみを燃やすため、分別というものがなされていない。リサイクルのために、発泡スチロールトレイや牛乳パックを集める箱が、スーパーなどに置いてはあるが、実際に回収に協力している人は少ない。また、ビンや缶、ペットボトルなどは分別することになっているが、徹底されてはいない。環境に対する考えが希薄なために、このようなことが起こるだろう。つまり、環境教育を施し、ひとりひとりが問題に取り組んでいくことが大切だ。

 100年後には、海水面が平均で50センチ、最大で1メートルも上昇すると言われている。仮に水位が1m上昇すると、マーシャル諸島の一部では80パーセントが、バングラディシュでは国土の18パーセントが海に沈むといわれている。また日本では、東京の下町にあたる低地地域は海水面より低くなる。また、満潮時に海面下に住む人は410万人、人口の3パーセントに上がる。もしこのまま行けば、私たちの今の生活が安定したものでありうる、という保証は無い。確かに、私たちがどんなに努力しても、完全に海面上昇を食い止めるということは無理だろう。しかし、着実に地球は破壊への一途をたどっている。それを防ぐためには、地球に生きるひとりひとりの人々が、真剣にこれらの問題を考え、対策を講じてそれに向かって努力していかなければならない。普段は無くてはならないもののはずの水が、時には、こうして人々の生活を脅かす恐ろしいものとなるのである。しかし、それを引き起こしているのも、人間である。私たちは、地球に対して、もっと責任を持って生きていかなければならない。

 

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