現在、世界では様々な水をめぐる問題が起こっています。「20世紀は領土紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になるだろう」というのは、水問題の深刻さを物語っているセラゲルディン前世銀副総裁の言葉です。水に恵まれた日本に住む私たちには実感するのは困難ですが、水資源をめぐる国家対立は過去何度も起きているし、安全な水を得ることができない人は世界の5分の1に達するといわれています。水問題は人類のさらなる紛争の火種となりかねないのです。しかもこの水問題、降水量が少なく、明らかに水に接触の少ない地域にばかり起こるのではありません。視点を変えてみると、水が豊富であるように感じられる地域、例えば日本や南国シンガポールなどでも水に関する問題は起こり得るのです。
バーチャルウオーター(仮想水、間接水)
水問題というと、飲み水を求める人々や、水に関連した病気で命を失っている人々が真っ先に連想されますが、このような問題は、実は水問題の一面にすぎません。飲み水は、人が利用する水資源の量としてはごくわずか。年間で一人1立方メートルもあればすみます。しかし、生活用水として使われる水は飲み水の100倍、食べ物をつくるために必要な水は飲み水の1000倍にもなります。米や小麦をつくるために必要なだけでなく、牛を育てるにはトウモロコシなどの穀物がいる。牛の可食部を1kg増やすためには13倍の穀物が必要です。そしてそれを育てるには水がいる。それをカウントすると、先進国では1人あたり年間1000立方メートルもの水を使っていることになります。
今、その水が足りません。特に、今後発展途上国を中心に人口が増加していくと、その食料需要をまかなうだけの農業用水がない。そしてそれを補うだけの経済力もない。そんな状況に陥ってしまいます。つまり、地表から水がなくなるわけではなく、途上国の人々が安く入手できる水が少ないこと、または食料が買えないこと、これが今起こっている水危機なのです。水危機とは喉が渇いて死ぬのではなく、おなかがすいて死ぬことなのです。
この食料生産に必要な水、バーチャルウオーターと呼ばれることもあります。バーチャルウオーターとはロンドン大学のアンソニー・アラン教授が、国際的な水資源問題を論ずるために持ち出した概念です。この考え方を用いると、国際的な食物の輸出入は、バーチャルウオーターを輸出入していることだとすることができます。水が豊富といわれる日本ですが、食料の形で輸入している水を計算に入れると、実は水の「輸入国」です。日本は、年間1035億トン、国内で使われる農業用水の2倍近い量の水を食物の形で輸入しているのです。輸入先は米国とオーストラリアが突出しています。これは「水の塊」である牛肉の輸入が多いためで、中国やタイからの鶏肉、デンマークからの豚肉も総輸入量を押し上げる一因になっています。
バーチャルウォーターを計算する前は、日本が途上国の淡水資源を圧迫している可能性を心配する声もあったが、主要輸入先をみて、その懸念はなくなりました。しかし、だからかまわないという事にはなりません。アメリカの農業が持続的かという疑問もある上、毎年琵琶湖の貯水量の3.7倍もの水を海外に依存している日本は、クルマや家電メーカーが外貨を稼いでくれないと維持できない状況です。
日ごろ何げなく口にしている食べ物ですが、その裏で気の遠くなるような水資源が投じられています。「21世紀は水紛争の時代になる」という言葉が、実感をもって伝わってきます。日本人はもっと水問題、特に「水赤字」の現状に関心を持つべきでしょう。
Think Globally 人類は何をすべきか
日本がすべき事:現在世界各国で人口は爆発的に増加中。例外的に少子化が進む先進国がいくら人口を減らしても、世界全体の人口が増えていけば、必然的に日本にも付けが回ってきます。日本が自給率を高めるか、もしくは、常に高い経済力を保っていくか、どちらかを保っていけなくなれば日本国民も飢えるしかなくなってしまうでしょう。今は途上国の問題である「水問題」、このまま人口が急速に増えていけば、日本の問題になる日も近いかもしれません。経済力が落ち目にある今、日本は国内自給率を高める事が一番大切だと思います。他の国を見ても、この状況下で(人口増加、資源危機) 先進国で食料を大量に輸入しているのは日本くらいなようです。
今水が簡単に手に入る地域がすべき事:このバーチャルウオーターの考え方を人々の水問題に対する意識を高めるのに使うことも有効だと思います。例えば、牛丼1杯あたり9立方メートルの水資源が利用されているとか、パソコン1台につき、製造から解体・リサイクルまでどれくらいの水資源が必要かとか、そのような情報を広告にしてメディアに流すなどの方法です。そうすれば、人々も各自の水の間接消費の実態を知ることが出来、日常生活でもっと水を意識するようになると同時に、省水資源的な生活をするように心がける事が出来るようになるでしょう。
先進国を中心とした世界がすべき事:世界で見ると、やはり現在バーチャルウオーターを得られないのは途上国です。水にあふれる日本と違い、水がないところでは自給率を高める事は非常に困難です。そのような地域の人々にも十分にバーチャルウオーターが行き届くよう、世界が助け合っていくべきです。
Act Locally 私たちは今ここで何ができるか
まず節水。そして、残飯の少ない食生活。最大量の水利用は、食べ物をつくるための水であるということを忘れてはいけません。
又、沖大幹さんによると、「過去の遺産を食いつぶしていると罪悪感にとらわれるのではなく、これから100年、1000年後にも使われるものを、未来に向かって生み出して行くんだという前向きな力が、今こそ必要」なようです。
シンガポール 「ニューウオーター」
雨に恵まれ、周囲を海で囲まれた島国シンガポールは、町中でも噴水が多数見られるなど水にあふれた印象を与えています。そんなシンガポールでは、現在一日約11億リットルの水が消費されていますが、実はその水の約半分を隣国マレーシアからの輸入に頼っています。自然の水供給の源である山がなく、また水を国内だけで完全自給できるだけの十分な貯水池がないからです。
これまで、マレーシアとの間の水料金問題は、事あるごとに政治的駆け引きの道具としても使われてきました。また、シンガポールでは、2010年までに、水需要の30%以上もの増加が見込まれています。そのことからも、シンガポールにとって常に問題となってきた「自国での安定的な水資源確保」は、近年さらに大きな課題となっています。そこで、現在新たな水資源確保に向けた取り組みが始まっています。
その内容は貯水池の拡充や淡水化プラントの建設も含みますが、今一番注目されているのは「ニューウオータープラント(雑用水処理施設)」と呼ばれるものです。このニューウオーター、家庭排水を再利用したもので、今のところ半導体工場などの工業用水として使う予定だが、WTOや米国の飲み水を上回る安全基準を満たしており、現在供給されている飲料水よりも不純物が少なく飲用に適しているとの国際専門家パネルの評価を受けたことから、政府もこれを飲料水として利用する方向に方針転換しています。
このニューウオーター、画期的でシンガポールに自由を与えるという事で、明るい未来図を切り開く反面、やはり家庭排水の再利用とであることが多数の国民の不信感を招いています。飲み水として普及するようになるのはいつのまだ少し先の話かもしれませんが、工業用水として使用するだけでも大きな差があるでしょう。
Think Globally 人類は何をすべきか
シンガポール政府がすべき事:このニューウオーターの普及を進めるためには、シンガポール政府はまず国民の心理面での回復に取り組むことが先決だと思います。つまり家庭排水の再利用である事実を乗り越え、安全である事を納得させる必要があるのです。具体的には、メディアを通じてニューウオーターの再生方法を説明することや、技術水準の高さを証明することなどが効果的だと思います。
さらに必要なのは、シンガポールの人々の水に対する考え方を変えることです。シンガポールでは、国民も、あまり水に対する危機感は持ち合わせていないように思います。ニューウオーターを使う使わないに関わらず、節水に心がけるようにすれば、必然的に国が輸入しなければならない水の量も減ります。
最後に、世界の人々の関心を高める事も大切でしょう。この再利用水を使ったシステムを見習って、再利用によって生活廃水をなくす事をめざした研究が世界中で進めば、環境保護に大きな貢献になることになります。シンガポールの国民も世界に見習われる優越感をかんじることができ、ニューウオーターに対する信頼感も高まるかもしれません。
Act Locally 私たちは今ここで何ができるか
やはり関心を持つことが大切であると思います。海に囲まれたシンガポールでも水に困っている事態、そして水が輸出入されている事、このようなことを学ぶ事は水の大切さを実感するうえでも重要な役割を果たすでしょう。
情報源
Takagi, Sachiko. WAVEこの人に会いたい“水のLCAが必要と呼びかける沖大幹さん”.
2003/1/12. <http://eco.goo.ne.jp/wave/files/wave16.html>
秋山敏幸.「ニューウオーター」水の自立化への切り札. 神奈川県海外駐在員事務所.
2002/11/28.2003/1/12.<http://www.ktpc.or.jp/report/singapore/ktpc/ktpc-sq-0221.html>.
菊川和宏. シンガポールの水事情. 海外事務所だより. 2003/1/12.
<http://www.clair.nippon-net.ne.jp/HTML_J/FORUM/JIMUSYO/156SING/INDEX.HTM>.
その他新聞記事(添付物)