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水質汚染 ―環境ホルモンとダイオキシン―

 

近年、メディアを賑せている「環境ホルモン」や「ダイオキシン」は、決して私達と無関係ではない。むしろ、危機感を持ってアクションを起こすべき時が来ているとも言えるほど、各研究機関からの調査報告は明確に私達を取り巻く環境の変化を物語っている。

 

環境ホルモン:

アジア9カ国の研究者達が参加した「マッセルウォッチ」と呼ばれる共同調査によると、フィリピンの一部を除くほぼ全調査地点で環境ホルモンの有機スズ化合物が検出された。このスズ化合物は、「巻き貝のイボニシの雌を雄化するなど、強い内分泌かく乱化合物質の作用をもつ」(朝日新聞9月22日)ものである。また、イギリスで行われた研究結果から雄のローチが雌化するという逆の結果も発表されている。このように、環境ホルモンは野性の貝や魚の性撹乱を起こすものである。

では、環境ホルモンの原因は何なのか。前出のアジアの海で起きている汚染の主な出所は船底や養殖場といった塗料の使用によるものである。ブチルスズがもつ貝などの付着生物への毒性を利用して来た訳だが、「その後、極めて低濃度の汚染でもイボニシなどの「巻き貝の雌にペニスを形成する環境ホルモンが指摘され…クジラなど海の哺乳類や海鳥でも体内への蓄積が確認され、悪影響が心配されている物質」(同上)である。それにもかかわらず、規制があるのは日本とニュージーランドだけである。今回の「マッセルウォッチ」の結果も示すように、日本でのスズ化合物の汚染数値がその使用の規制にもかかわらず高いのは、外国船による持ち込みが一因であると考えられる。

問題なのは、各国でその規制の度合いや、基準そのものが統一されていないことである。海には国境などなく、一つにつながっているのだから今すぐにでも国際的に規制するべきである。まずは、日本・韓国・中国という「世界人口の四分の一に近い約十四億人が共に暮らす」(朝日新聞9月28日)地域から環境対策に協力して取り組む必要がある。中国では「内陸から海岸に、ほとんど処理されないままの生活廃水、工場排水などが持続的に流れ込んでいる。・・・処理率は10%未満だとされる」(同上)という現状だ。朴は、日本に「重要な役割を期待したい」(同上)としている。まさに、日本のかつての公害問題の克服実績や、環境対策の科学技術、政府の途上国援助(ODA)などのノウハウ・技術(者)・資金をもって、日中韓の環境対策協議体で日本がリーダーシップを取り、世界的環境問題解決に貢献することが出来るのだ。

また、後者のイギリス河川の野性魚ローチに関しても(http://www.kcn.ne.jp/~gauss/info/roach.html)、下水処理水が流入しているところとそうでないところで雌化の比率が全く異なることから、原因は下水処理場からの放流水と関係があると考えられる。あらゆる物質を溶解する性質を持つ水は、愚かにも私達が作り出した生物に有害な化学物質までも溶かしこんでいる。例えば、北米五大湖のカワウソやミンクは餌魚中のPCBと見られる物質によってその繁殖が激変している。また米国フロリダ州では、エストロジェン様作用をもつ農薬がフロリダヒョウの雄の精子数減少や、潜在精巣症などの内分泌撹乱作用を起こしているのではないかという事例も挙げられている(http://www.kenkyoken.koto.tokyo.jp/hormon/SEIBUTU2.html)。私達が使用している化学物質の含まれた餌や農薬の生物に与える影響を明らかにすると同時に、まずは現在分かっている原因物質の使用をやめる規制を作ることが必要不可欠なのではないだろうか。

 

ダイオキシン:

環境庁が行ったダイオキシン汚染調査では、調べた魚の三割が「人が100グラム食べ続けても健康に悪影響のない耐用一日摂取量(TDI)」(朝日新聞9月25日)を超えていたことが分かった。また、東京都神田川のコイからは過去最高の1グラムあたり30ピコグラムのダイオキシンが検出されたことからも、河川・海のダイオキシン汚染が進んでいるといえる。

ダイオキシンは主にゴミ焼却施設と関連していることから、私達は日々の生活の中からダイオキシンを出すプラスチックを使用しないように心がけると共に、分別をしてダイオキシンを発生させないように努力をしなくては行けない。行政は、ゴミ焼却施設の現状を検査すると同時に抜き打ち検査をするなどして定期的にチェックをしていくのが良いのではないか。

近年のバイオテクノロジーの発展が環境問題の解決策になり得る希望もある。米国の化学企業モンサルトが遺伝子組換の技術を使って、土の中の微生物で分解される「生分解性プラスチック」をナタネなどの植物につくらせることに成功した(朝日新聞9月29日)。これは、光合成する植物で栽培するため、従来の栄養を与えなければいけない細菌性の方法よりも、コストを低く抑えることが可能になるという利点がある。

 

環境ホルモンやダイオキシンは、私達が「工業化」という恩恵を受けてきた反面としての汚染問題である。国際的な協力や、政府による規制はもちろん必要である。また、テクノロジーの発展によって企業や国家が環境を考慮した研究を進めていることも評価できる。しかし、今私達ができることは毎日の水の大切さを身にしみて感謝すると共に、出来る小さなこと――たとえば、ゴミの分別によってダイオキシンを出さない努力――から始めることが重要だ。一人、一人が協力することで地域の、更には国の、そして世界の人々の意識が変わっていくことが可能になると期待したい。

 

参考資料

朝日新聞1999年9月22日 「アジアの海に広がる汚染」

朝日新聞1999年9月25日 「魚の3割、耐容量超す」

朝日新聞1999年9月28日 「日中韓で環境対策協議会を」

朝日新聞1999年9月29日 「畑でプラスチック収穫?!」

「野性魚の性撹乱について」 http://www.kcn.ne.jp/~gauss/info/roach.html

「野生生物への影響事例」

http://www.kankyoken.koto.tokyo.jp/hormon/SEIBUTU2.html

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